帚木蓬生の短編「顔」
先日、NHKラジオ深夜便のラジオ文芸館で、帚木蓬生(ははぎきほうせい)の短編「顔」の朗読(2025/01/13放送)を聞いた。
その残酷な話にショック!
<帚木蓬生の「顔」>
この物語に出てくる病気は「致死性正中肉芽腫」というもの。
その病変をこの小説ではこう表現している。
「そして実際にそのとおりの光景が、彼女の顔のまん中に現出していた。 炎症性の病変はまず鼻腔から始まり、その周辺の組織を次々と壊死させていったのだろう。耳鼻咽喉科、そして眼科でも、その病変の進行を止められず、組織の腐った部分を後手後手にデブリードマン(切除)していくしかなかったのだ。その過程で鼻が失われ、ついで両眼球までが剔出(てきしゅつ)されたのに違いない。
サングラスを掛ける耳、物を咀嚼する口、そして額だけは残されているものの、顔の中央が根こそぎえぐりとられていた。
ぽっかりあいた穴を見つめながら、解剖学的にどういう状況かを頭のなかで冷静に考え、また一方で、ここまで顔がなくなっても命には別条ないのだと妙な感慨にとらわれた。」(「風花病棟」「顔」p176より)
まだ52歳の女性の顔が腐って無くなっていく・・・
鼻も、頬も、そして眼球も除去された顔。
もはや頭蓋骨だけとなった顔は、怖ろしくもある。その患部のケアを一人でしている夫。
そして、その看病している夫は言う。「でも家内は、自分の顔が見えなくて、幸運といえば幸運でした」
この「致死性正中肉芽腫」という病気をNetで検索してみると、こんな記述がある。
「致死性正中肉芽腫症は、鼻腔や咽頭領域に発生する悪性リンパ腫の一種で、進行性鼻壊疽とも呼ばれていました。壊死を伴い浸潤性の発育を特徴とし、治療抵抗性の疾患とされてきました。
致死性正中肉芽腫症は、現在は鼻性NK/T細胞リンパ腫という名称で呼ばれています。
<病因>
ヘルペスウイルスの一種であるEBウイルス(Epstein-Barr Virus)の持続的な感染により発症する
<症状>
顔面正中部に沿って進行する破壊性、壊死性病変を主体とする
<治療>
放射線治療と細胞障害性抗がん薬を用いた薬物療法を同時に行うことや、複数の細胞障害性抗がん薬を用いて行う多剤併用療法が行われる
造血幹細胞移植が選択肢になることもある」
極めてまれな症例だと思うが、ある文献によると、鹿児島大学耳鼻科では6年間で14例を経験した、とある(ここ)。
この話を聞いて、昔の「愛と死をみつめて」(ここ)を思い出した。この話も実話として顔が無くなっていく病気で、21歳で亡くなった女子大生の話だった。
wikiによると、この時の病気は「軟骨肉腫」だという。
それにしても、このようなリアルな短編を書けるのは、著者が現役の医師であればこそ、ではないか。
話は飛ぶが「帚木蓬生」という名が読めない。
wikiによると「ペンネームの帚木蓬生は『源氏物語』の第2帖「帚木(ははきぎ)」と第15帖「蓬生(よもぎう)」から取ったものである」とある。
よくもまあ、こんな難しい名にしたもの・・・
「顔」のあまりのショックに、この短編が載っている「風花病棟」など数冊の「帚木蓬生」の本を買ってしまった。
さっき「風花病棟」を読み終わったが、収録されている10編のどの短編も、医師を主人公にした淡々とした小説。
ヘンにひねらず、いわゆる良医の素直な話が何とも好ましい。
初めて読んだ帚木蓬生だが、手に入れたあと数冊を一気に読んでみようと思う。
それにしても、人間は、いや生物は必ず死ぬ。
何が原因で死ぬかは分からない。自分で選ぶことも出来ない。
自分が死に直面した時、上のような残酷な死に方でないことをラッキーと思うことは、難病の人に失礼か!?
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