奈良岡朋子さんの生前残していたコメントと、映画「東京物語」
先日、NHKラジオ第2の「声でつづる昭和人物史 〜奈良岡朋子」2(2023年12月11日放送)を聞いた。
「ラジオ深夜便 女優が語る 私の人生」(平成22年9月4日放送)の話を振り返る。
番組の解説にはこうある。
「俳優・奈良岡朋子は、昭和25年に現在の「劇団民芸」がスタートした時の第1回公演・チェーホフの「かもめ」でニーナという役に抜擢され、その後「イルクーツク物語」などで演出家・宇野重吉の厳しい指導を受けました。平成22年9月にラジオ第1で放送された「ラジオ深夜便 女優が語る 私の人生」では、先輩の宇野重吉の演出のことや、別の劇団の所属ながら細かい演技指導を受けた杉村春子のことなどについて話しています。」(ここより)
<「声でつづる昭和人物史 〜奈良岡朋子」2>
この放送で、奈良岡朋子さんの生前残していたコメントを紹介していたが、それがなぜか心に残った。
このコメントを探したら、こんな記事が見付かった。奈良岡さんの訃報の記事である。
「俳優 奈良岡朋子さん死去 肺炎のため 93歳
2023年3月29日 20時28分
舞台や映画で活躍し、連続テレビ小説「おしん」などテレビドラマのナレーションでも親しまれた俳優の奈良岡朋子さんが今月23日、肺炎のため、東京都内の病院で亡くなりました。93歳でした。
奈良岡さんは東京の出身で、洋画家の父、奈良岡正夫の影響で今の女子美術大学で絵画を学びながら1948年に現在の劇団民藝に入り、舞台での活動を始めます。
その後は、同期生だった大滝秀治さんらとともに劇団の代表的な存在となり、「かもめ」や「奇蹟の人」など数々の舞台で高い評価を得てきました。
テレビドラマや映画でも名脇役を演じたほか、NHKの大河ドラマ「春日局」や「篤姫」、それに連続テレビ小説「おしん」など、多くのナレーションでは落ち着いた語り口で親しまれました。
1992年には紫綬褒章、2000年には勲四等旭日小綬章を受章しています。
また、2013年からは原爆の悲惨さを描いた「黒い雨」のひとり語りの舞台がライフワークとなり、全国各地で上演するなど、平和を訴える活動を続けていました。
劇団民藝によりますと、奈良岡さんは去年も舞台に立つなど最近まで活動を続けていましたが、体調を崩し今月23日夜、肺炎のため亡くなりました。
奈良岡さんが生前残したコメント
劇団民藝は、奈良岡朋子さんが生前残していたコメントを発表しました。
親交のあった宇野重吉さんや、杉村春子さんなどとともに、また天国で舞台を演じることを楽しみにする思いなどがつづられています。
以下、全文です。
「新たな旅が始まりました。旅好きの私のことです、未知の世界への旅立ちは何やら心が弾みます。向こうへ着いたらすぐに宇野(重吉)さんを訪ねます。もう一度あの厳しい演出を受けたいと長い間願ってきました。でもね、宇野さん、私はあなたよりずっと長く生きて経験を積んできましたからね、昔のデコ(奈良岡さんの愛称)じゃないですよ。『デコ、お前ちっとましになったな』と言われたくてこれまで頑張ってきたんですから。腕が鳴ります。杉村(春子)先生ともう一度同じ舞台を踏みたかった。どんな役でもいいからご一緒したい。ワクワクします。両親に挨拶するのは二、三本舞台をやって少し落ち着いてからにします。それからは裕ちゃん(石原裕次郎)や和枝さん(美空ひばり)と思いっきり遊びます。これが別れではないですよ。いつかはまたお会いできますからね。それでは一足お先に失礼します。皆さまはどうぞごゆっくり・・・」。・・・(ここより)
何ともウィットに富んだコメントではある。
話は変わるが、先日NHKBSで放送された(2023/12/12放送)、小津安二郎の「東京物語」を見た。もちろん以前にも見ていたが、ついまた全編を見てしまった。
そして、やはり不朽の名画だと思った。
wikiには「上京した年老いた両親とその家族たちの姿を通して、家族の絆、親と子、老いと死、人間の一生、それらを冷徹な視線で描いた作品である」
「年老いた夫婦が成長した子供たちに会うために上京する旅を通して、小津の神秘的かつ細やかな叙述法により家族の繋がりと、その喪失という主題を見る者の心に訴えかける作品」
「家族という共同体が年を経るとともにバラバラになっていく現実を、独特の落ち着いた雰囲気でつづっている」
という評が載っている。
特に、先の奈良岡朋子の話に出てくる杉村春子が演じる長女役。これがイヤミたっぷりのはまり役。
上の放送で、奈良岡朋子が杉村春子を「先生」と呼んでいるが、確かに23歳も年上。大先輩だったわけだ。
自分の映画のリストを見ると、小津作品は「晩春」「秋麦」「秋日和」「小早川家の秋」「東京暮色」を見ている。
「東京物語」は載っていなかった。つまりは相当昔に見た映画。しかしストーリーはしっかり覚えていた。
確かに小津作品は古い。しかし扱うテーマは世代に関係が無い。
東京から帰った夫婦の会話。
「でも、子供も大きゅうなると変わるもんじゃのう」
「なかなか親の思うようにはいかんもんじゃ。ハハハ」
「欲を言やキリはにゃあがまあええ方じゃよ」
「ええ方ですとも。よっぽどええ方でした。私ら幸せでさ」
「そうじゃのう・・・まあ幸せな方じゃのう」
「そうでさ 幸せな方でさあ」
映画で亡くなる老母の歳は68歳・・・
奈良岡朋子のウィットに富んだコメントと、久しぶりに見た映画「東京物語」。
何とも映画の世界と自分の人生を比べてしまった年末の一日ではあった。
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