ショスタコーヴィチの「森の歌」
先日、何処でだったか「森の歌」という言葉を聞いた。その言葉で浮かんだのが、ショスタコーヴィチのオラトリオ「森の歌」。 これも学生の時に聞いた。例によって、クラシック好きのK君からLPレコードを借りて、秋葉原で買った放送局放出の中古オープンテープで録った。
納戸を見たら、まだ捨てていなかった。 「世界唯一のステレオ録音盤遂に登場!」と銘打って発売されたらしい。当時取っていた「レコード芸術」の切り抜きが一緒にあった。オープンテープの表紙も、その広告から切り抜いて貼ったものだろう。
イワン・ペトロフ(バス)、ウラジミール・イワノフスキー(テノール)、アレクサンドル・ユーロフ指揮:モスクワ・フィルハーモニーである。
このテープを懐かしく聞くにも、既にオープンデッキは無い。仕方なく中古品のCDを探すと、アシュケナージ指揮:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団が見つかって聞いてみた。その幾つかを紹介する。
<<ショスタコーヴィチの「森の歌」>>
<第1曲:戦いの終った時>
<第2曲:祖国を森で覆おう>
<第4曲:ピオニールは植林する>
<第5曲:スターリングラード市民は前進する>
<第7曲:讃歌>
言うまでも無く、この曲は、ソ連時代のプロパガンダの音楽。CDの解説にはこうある。
「●オラトリオ「森の歌」Op.81
1948年に共産党中央委員会は、ソヴィエト音楽の現状について批判し作家たちに再考を促す、いわゆる「ジダーノフ批判」を採択する。これは簡単にいうなら、「専門的な判りにくい音楽を書かずに、もっと大衆に判りやすい音楽を書け」という作家たちへの要求なのだが、ショスタコーヴィチも名指しでこの「批判」を受けている(これはスターリン生誕七十周年の1949年を目前にして、讃歌を書くべき作家たちへ釘をさしたのかも知れない)。
ショスタコーヴィチはこの時期、ユダヤ主義への接近を匂わせる《ユダヤの民族詩から》や、いくぶん晦渋な作風のヴァイオリン協奏曲を作曲しているのだが、この「批判」を受けて後者の発表を取りやめてしまう。そして翌1949年、モスクワからレニングラードへ移動する旅の途中で詩人のエフゲニー・ドルマトフスキーと一緒になったのをきっかけに、自然改造計画を讃えるオラトリオの作曲を構想する。
その夏にテキストを受け取ったショスタコーヴィチは、レニングラード郊外のコマローヴァで異常な早さで作曲を完成、11月15日にはレニングラードでムラヴィンスキーの指揮により初演している。
この初演のわずか1ヵ月後がスターリン70歳の誕生日で、それこそソヴィエト中世界中から贈り物が殺到し、作曲家たちはこぞって彼の讃歌を(大衆的で判りやすい書式で)書いたのだが、事実上のスターリン讃歌にも等しいこの《森の歌》は、幸か不幸かそんな渦の中で大成功を博し、翌1950年のスターリン賞第1席を受賞する。ショスタコーヴィチは前記の「批判」をたった一年そこそこで覆してしまうのである。
表向きは大衆的で平明な書式を持った森を讃える「自然讃歌」でありながら、スターリンと共産主義国家ソヴィエトとを讃える政治色の濃い讃歌でもあり、さらに「植林計画についてだけは聡明だった(あるいは、植林計画くらいしか聡明なところがなかった)スタ一リン」への壮大なる皮肉にも聞こえるというこの作品の二重性について、ここで細かく分析し解題を述べる余裕はないが、ムソルグスキーの歌劇《ポリス・ゴドノフ》の中の「クロームイの森」のシーンに模して、虚偽の皇帝を打倒するために行進してゆく虚偽の王子ディミトリーに自分を重ね合わせたもの、という推理も成り立つところが面白い。
一筋縄ではいかないショスタコーヴィチという作家の二重構造性を代表する、まさに面目躍如たる奇妙な名作である。
第1曲:戦いの終った時
第2曲:祖国を森で覆おう
第3曲:過去の思い出
第4曲:ピオニールは植林する
第5曲:スターリングラード市民は前進する
第6曲:未来への逍遙
第7曲:讃歌 」
2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻からもう5ヶ月が経った。しかし戦況は収まっていない。
そんな中、こんな曲を挙げるのは少々問題だが、歌謡曲でも歌詞が頭に入らない自分なので、この音楽も歌詞よりも音楽だけ聞きたい。
まさに学生時代以来、50年ぶりに聞いた「森の歌」。
懐かしいと共に、昔聞いた旋律を今でも頭が覚えていることにオドロキ!?
しかし、オルフの「カルミナ・ブラーナ」と頭の中で旋律がごちゃごちゃになる危険性も・・・?
昔聞いた音楽の「復習」は、とうに終わっていたと思っていたが、ひょんな事で改めて聞いた「森の歌」ではあった。
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コメント
ショスタコーヴィチのオラトリオ「森の歌」ですが、恥ずかしながら私は聞いたことがないです。
ショスタコーヴィチは苦手で、Sym.No5「革命」以外はほとんど避けていました。
ところで、テープに録音してあったという演奏と同じものだと思いますが、アレクサンドル・ユーロフ指揮:モスクワ・フィルハーモニーの演奏はYouTubeで公開されています。
調べてみたらこの曲のCDはほとんどが廃盤で入手出来ないのですね。
【エムズの片割れより】
そもそもこの曲は、内容的に物議を醸すため?「死に曲」になってしまっているようです。
自分も、Symは5番しか聞きません。
でも、ここでも挙げていますが、「ワルツ第2番」のような軽い音楽もあるんですね。
投稿: classical.s | 2022年8月 4日 (木) 18:02