柳田邦男の話と、著書「犠牲 わが息子・脳死の11日」
先日、NHKのラジオ深夜便で、人生のみちしるべ「人は“物語”を生きている 前編」ノンフィクション作家…柳田邦男」(2020/09/11放送)を聞いた。
話の後半で出てくる、次男の自死の話を聞いて、改めて著書「犠牲 わが息子・脳死の11日」を読んで見る気になった。
先ずは、放送から・・・(番組のテキスト化されたものはここ)
<ラジオ深夜便「人は“物語”を生きている(前編)」ノンフィクション作家…柳田邦男>(2020/09/11放送)
<ラジオ深夜便「人は“物語”を生きている(後編)」ノンフィクション作家…柳田邦男>(2020/10/09放送)
第43回菊池寛賞受賞の著書「犠牲 わが息子・脳死の11日」について、文庫の裏表紙の解説にはこうある。 「冷たい夏の日の夕方、25歳の青年が自死を図った。意識が戻らないまま彼は脳死状態に。生前、心を病みながらも自己犠牲に思いを馳せていた彼のため、父親は悩んだ末に臓器提供を決意する。医療や脳死問題にも造詣の深い著者が最愛の息子を喪って動揺し、苦しみ、生と死について考え抜いた11日間の感動の手記。」
次男が自死を図った1993年夏、氏は当時57歳。この本を書くにあたって、「あとがき」でこう書いている。
「まだ一年もたってないのですが、このところ急に追悼記を書いてやりたいという思いがこみ上げてきましてね。書くことしかできない作家の業(ごう)というのかなあ。でも、息子はぼくに向って、『親父は作家だろ、作家なら他人のことばかりカッコよく書いてないで、自分のこと書けよ、この家のなかの地獄を』と、何度もいってましてね。べつに地獄を書くのが目的じゃないんだけれど、息子はいつも、見栄や世間体を取り払った真実を求めていた。・・・」(「犠牲」p260より)
この手記は、文藝春秋1994年4月号と5月号に掲載され、その後加筆されて1999年6月に発行されている。もう20年も前だ。
柳田邦男氏の本は、若い頃に「マッハの恐怖」シリーズや「ガン回廊の朝」を読んだことがある。そして息子さんの自死のことも知っていたが、当時ショックを受けたことを覚えている。立派な父親なのに、なぜ?と・・・
本が出たことも知っていたが、読まなかった。しかし、今回氏の話を聞いて、改めて読む気になって本を買ってきた。
読んでみて、改めて知ったのは、柳田氏の家族はなかなか大変なご家族であったということ。
妻は、35歳のとき、当時4つだった次男が車にはねられ、まる1日意識が戻らなかった事件をきっかけに、激しい不安と抑うつの神経症に陥り、それ以来20年以上も神経症に苦しんでいたという。
写真家である3歳年上の長男は、大学1年の夏、ウィルス性脳炎に罹り、昏睡状態に陥ったが、新薬のお陰で九死に一生を得たが、てんかんの後遺症が残ったという。
そして自死した次男は、中学の時に友人が投げたチョークが右目に当たり怪我(眼房内出血)をしたことをきっかけに、心の病に。そして自死。
脳死後、本人が骨髄移植の登録をしていたことを思い出し、骨髄移植は無理だが、その意を汲んで腎移植で2人を救った経緯が詳しく書かれている。
さすがに、ノンフィクション作家らしく、プライベートなことを、淡々と書いている。そして、脳死と臓器移植の問題についても考えさせられる。
前にも何度か書いているが、自分は、人間の死には二つある、という考え方が好き。つまり、人間の死の一つ目が肉体の死、そして二つ目が、皆の記憶から忘れ去られたときの死。
全ての人の記憶から失われたとき、人間は本当の死を迎えるという。
そんな観点から言うと、この「追悼記を書いてやりたい」という氏の思いは、次男の存在を永遠に永らえることになるのかも。
自死されてしまった父親は、追悼文を書くこと位しか、もう残されていないのかも・・・
最後に気になったのが、心を病む妻との離婚と、この本の絵をきっかけに知り合った女性との再婚。先妻は、亡くなったのだろうか?それともどこかの施設?
心を病む妻との離婚という事実に対して、自分の氏に対する(尊敬の)心が、少し揺れている・・・。
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コメント
銀座での豪遊とか、女性関係とかをうわさできいたことがありました。花形記者でしたから。
投稿: kmetko | 2020年9月29日 (火) 09:58
無作法なコメント欄記入で大変失礼しました。
どこをみても離婚後の妻の事に一切触れていません。一連の作品の評価はおいておくとして、この作家には失望しました。妻に着いた三つの大ウソ、離婚前にかいたエッセイですが、でてくるのは名無しの「妻」だけでした。
【エムズの片割れより】
妻が先に亡くなるのは、自分の経験的に、夫が非常に強い場合が多いようです。
夫が強ければ強いほど、そんな夫に合わせる妻が精神的に疲弊し、病魔が襲う・・・(氏の場合も?)
息子の自死も、父親があまりに強い存在だったのが原因のひとつかも知れませんね。
投稿: kmetko | 2020年10月 4日 (日) 14:06
後編も聞き逃しサービスで聴きました。
いろいろ知ってしまった今、何事もなかったようにしか聞こえなくて残念でした。
城山三郎氏、彼も配偶者に先立たれた作家。自著によるとまだ売れない頃、彼女に(チョットウロオボエ)複数回堕胎させているとか。確かひとりでいかせているのです、しかも。ショックでした。
投稿: kmetko | 2020年10月10日 (土) 11:20