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2019年1月14日 (月)

「著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか」

だいぶん前の記事だが、著作権についてこんな記事があった。

TPP発行で著作権保護が70年に 作品の死蔵を防ごうと署名活動が始まった
アメリカを除く環太平洋経済連携協定(TPP11)が12月30日、発行した。巨大な自由貿易圏が誕生しただけでなく、著作権をめぐっても大きな変化があった。著作権保護期間の死後50年から70年への延長だ。【BuzzFeed Japan/ 古田大輔】

創作者の権利がより長く守られ、その恩恵を子孫が受けとる。一方で、70年も保護されてしまうと、その分再利用が難しくなり、権利者が誰かわからなくなったり、死蔵されたりしてしまう作品も増える。

「著作権保護期間の延長を考えるフォーラム(thinkC)」では保護期間の延長派・慎重派それぞれの論点をまとめ、議論を尽くしてきた。その中では、延長はメリットよりもデメリットが大きいという意見が大勢を占めていた。

TPP11発行に伴う著作権保護期間の延長を受けて、ネットでは「著作権保護期間の延長を乗り越えて、作品を死蔵から救うためのしくみを進めよう!」と署名活動も始まった。

「流通促進が、次の世代や世界への責任」
署名活動の発案者の一人で、著作権に詳しい福井健策弁護士はBuzzFeed Newsの取材に「保護期間が伸びたことは残念。筋が通らないが、非難や責任の話をしても変わらない。作品の死蔵を防ぎ、流通を促進することが、次の世代や世界に対する責任だ」と話す。

「作品を忘却や散逸から守り、次世代と世界に伝えるため」に、この署名活動では以下の4点などを求めている。

・絶版など市場で流通していない作品の保存と活用策
・権利者不明作品への対策
・権利者が自ら作品のオープンな利用ルールを宣言する仕組みの普及
・日本だけが一方的に保護期間の加算を義務づけられている「戦時加算」の解消努力

この四つのポイントで、具体的にどういった方策を取りうるのか。福井弁護士に解説をしてもらった。

1. 絶版など市場で流通していない作品の保存と活用策
「アメリカでは1990年代に保護期間を20年伸ばした際、最後の20年については絶版などで市場に流通していない作品ならば、権利者の許可なしでも非営利の電子図書館などにアーカイブできる法改正をしました」
「流通していない作品であれば、子孫ら権利者にとっても金銭的なダメージはほとんどありません。この手法だと、日本の場合は青空文庫などの活動にプラスになります。フランスはさらに進んで、20世紀の出版物については、絶版であれば広くデジタル利用を可能にした立法例もあります」
「国会図書館は絶版の資料については、権利者の許可なく全国の図書館等へ配信できます。権利者や出版社に利益配分しつつ、この対象を更に広げようという意見もあります」

2. 権利者不明作品への対策
「保護期間を伸ばすと、そもそも誰が権利を持っているのかわからない作品が増えます。これが権利者不明作品で、許可が取れないため、活用されずに死蔵されることになります。保護期間延長に関する代表的な懸念の一つであり、1の絶版問題とも重なります」
「権利者不明の作品に関しては、文化庁が代わりに許可を出す『長官裁定』という日本独自の制度もあり、徐々に利用が広がっています。ただ大きな障害が、後から権利者が出てきたときのための補償金の供託です」
「後から権利者が出てくる可能性はわずか1%とも言われます。なのに、その万が一のために使用料を算出して文化庁を説得し、供託する。大きな負担ですし、お金は預けたままになります。著作権法の改正で、国や自治体、独立行政法人などはこれが不要になりました。研究機関や他の多くのアーカイブ、ビジネス利用などでも供託金を廃止すれば、制度の活用が進みます」

3. 権利者が自ら作品のオープンな利用ルールを宣言する仕組みの普及
「権利者には著作権保護で金銭を得るよりも、むしろ作品を自由に活用してもらった方が嬉しい方も多くいます。そういう人たちが意思表示できる仕組みを普及させることが、作品の死蔵を防ぐ良いカウンターになります」
「例えば、(作品の再利用を許可する仕組みの)クリエイティブ・コモンズなど、著作権者やその子孫が利用条件をオープンにしていく仕組みが更に普及すれば、権利者不明作品も減ります。死後は著作権保護はいらないという人は、遺言で全作品にクリエイティブ・コモンズでの利用を宣言すればいいし、子孫も例えば作者の死後50年の段階で宣言する手もあります」

4.日本だけが一方的に保護期間の加算を義務づけられている「戦時加算」の解消努力
「そもそも日本は終戦時のサンフランシスコ講和条約で、旧連合国の作品について、最大で10年強の保護期間の加算を義務付けられています。つまり、今回の延長で、日本は死後80年という世界で類例を見ない長期保護国になったと言えます」
「TPPでの保護期間延長を後押しする意見には、20年延長する代わりにバーターでこの『戦時加算』を廃止できるというものもありました。しかし、延長はされたけれど、戦時加算の廃止はされていない。この解消は政府に課せられた宿題と言えます」

署名活動はchange.orgで呼びかけている。」(2018/12/30「BuzzFeed Japan」ここより)

著作権保護期間の延長については、自分は反対。しかし、法律が出来てしまった現在は、まさに上の記事にあるように、“今後の対策”を考えるしか無い。
反対の趣旨が、文化の活用=「死蔵の防止」にあるとすると、「権利者の意志の尊重による保護期間の短縮」の普及など、まだまだやれることはあるようだ。

この記事で「クリエイティブ・コモンズ」という言葉を知り、Netでググってみた。wikiによると、下記。
「クリエイティブ・コモンズ(英: Creative Commons、略称: CC)とは、著作物の適正な再利用の促進を目的として、著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示を手軽に行えるようにするための様々なレベルのライセンスを策定し普及を図る国際的プロジェクト及びその運営主体である国際的非営利団体の名称である。
クリエイティブ・コモンズが策定した一連のライセンスはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスと呼ばれる。」

ググっていたら、上の記事の“その後”として、こんな活動の紹介記事があった。
著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか?
      慶應義塾大学 教授 中村伊知哉
シンポジウム「著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか」が青山にて開催されました。
190114nakamura TPP11が6ヶ国目の批准を得て2018年12月30日に発効しました。著作権保護期間が著作者の死後50年から70年に延長されました。
2006年、米国や権利者団体の要求で保護期間の延長論議が本格化して以来、さまざまな議論が重ねられました。国益を損なうとしての反対意見も強く、文科省での議論でも見送られてきました。
しかし今回、TPP11発効に伴い延長となったものです。

だからといって、その事実を非難するよりも、過去の作品の保存と継承や新たな創造・ビジネス・教育・研究開発のために、「延長後の世界」でできることを、建設的に考えようという集まりです。

中山信弘・東京大学名誉教授の基調スピーチに次いで、福井健策弁護士から期間延長問題の経緯が説明されました。
・90年代に欧米が70年に延長し、他国に求めた。日本は2006年に延長論議となった。
・thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)が発足した。
・文化審議会でも議論となり、延長は見送られた。
・2011年、TPP協議で議論再燃となるものの、トランプ政権となり米国がTPPを離脱。
・だが政府は期間延長を内容とする法律を準備した。
・そしてTPP11の成立に伴い、延長が発効した。藤田嗣治、村岡花子などの作品が延長の対象となる。

延長に対する懸念は3点ほど共有されてきました。
1.遺族の収入増はわずかでメリットが少ない。
2.権利処理が困難となり、ビジネスや二次創作が停滞する。
3.コンテンツ輸入国たる日本は民間の負担増となる。

ぼくもこれら指摘に同意し、延長には慎重な立場を保ってきました。逆に、この懸念を覆すほど延長することを納得させる理屈もデータも12年間目にしませんでした。その中での制度化はどういう決定メカニズムだったのか疑問です。

(アメリカにTPPに帰ってもらいたいために日本は動いたということでしょう。ぼくはTPPには賛成ですが、著作権が人身御供になるのは失策と考えます。それは国内で知財政策の優先度が低いこと、知財戦略が弱いことの現れであり、悔しさを噛み締めます。)

生貝直人東洋大学准教授は、デジタル・アーカイブの取組が期間延長によって甚大なダメージを受けると主張。保護期間の最終20年に入った絶版資料を非営利のアーカイブ機関がネット公開することを認める制度を提案しました。

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン渡辺智暁理事長は「使ってOK」と意思表示し、著作物を利用しやすくするクリエイティブ・コモンズの仕組みを推奨。絶版マンガを無料配信している漫画家の赤松健さんは、国会図書館から配信し、出版社・作者にもメリットのある分配システムを提案しました。

「法に失望した」と言う永井幸輔弁護士はブロックチェーンによる著作権管理の可能性を強調。弁護士が法よりテクノロジーでの改善策を説くのは色っぽい。ぼくもそのアプローチに強く期待します。その後も多くのスピーカーがブロックチェーンに言及しました。制度は後退しても時代は前進しています。

三菱UFJリサーチ太下義之さんによれば、90年代に公立文化施設が多数整備されたのは日米構造協議の内需拡大圧力で箱物作れとなったから。今般の延長も、外部からの働きかけによるメタ政策。逆に日本は世界に対し期間短縮を主張してよいと説きます。そうですよ。日本は自らの知財戦略を立てましょう。

慶應義塾大学田中辰雄教授が「著作権厨をなんとかしたい!」と主張。著作権論議は世間で共有されていない。権利にやかましいだけの人が多い。孤児作品の流通を高める上での弊害が「著作権厨」であると。名付けて広めて、恥ずかしめることで、影響力が下がる。うははは。さすがです。

司会の津田大介さん「議論の発端となった12年前からどう変わったのか?」
写真家の瀬尾太一さんは、著作権が唯一絶対のものではなく、もっと普遍的なものになった。法に限界があり、権利者・利用者が一体となるスキームが重要になった。権利者を呼んでスキーム論議をしよう、と提案しました。

津田さんが「お通夜みたいなシンポになるかと思ったが」とおっしゃったとおり、みなさん前を向き、明るく建設的。ぼくもthinkCの発起から携わりましたが、この12年の運動はムダではなく、みんなが学び、賢くなり、前進したと考えます。これを後世にどう生かしていくか。

12年前ぼくは司会で、孫ひ孫に資産を残したいと主張する松本零士先生に「そば屋も資産を残したがっているがそば屋法はない。なぜクリエイターだけ法律が要るのか」と素で聞いたところ「そば屋と一緒にするな!」と先生大激怒。おいしいリアクションをいただいた思い出があります。

これでthinkCの活動は一区切り。ですが瀬尾さんご提案のとおり、次の場はスグに必要です。本件に限らず(あまり言いたかぁないが海賊版含め)著作権を巡る問題はますます多層的に発生してきます。改めてアクションを起こしましょう。」(2019/01/12付ここより)

この記事、タイトルが良い。「著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか」。シンポジウムのタイトルと同じだが気に入った。
安倍政権下で、さまざまな理不尽な立法がまかり通っている。しかし、冷めやすい日本人は、すぐにそれらを忘れてしまう。
この著作権のように、「我われは何をすべきか」という行動に結び付き、権力者の言いなりにならない草の根運動が重要だと思った。
“「お通夜みたいなシンポになるかと思ったが」、みなさん前を向き、明るく建設的。”という姿勢が大切だと気付かされた。

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