「少年法の適用年齢引き下げ(20歳→18歳)」を考える
今日は、少年法の適用年齢引き下げ(20歳→18歳)について“勉強”である。
少年法の適用年齢の引き下げの検討がされていることは知っていても、その現実についてあまり知らなかった。今朝の朝日新聞を読んで、少し勉強した。
「(インタビュー)少年法「18歳未満」だと 元浪速少年院長・菱田律子さん
民法の成人年齢が18歳になるのに伴い、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げる議論が法制審議会で進んでいる。民法にそろえた方がいいとの意見がある一方、日本弁護士連合会や130人を超す刑法学者が反対声明を出している。適用年齢の引き下げは何をもたらすのか。元浪速少年院長の菱田律子さんに聞いた。
――彼らはどんな理由で少年院に入っているのでしょう。
「犯罪白書によると、2016年には2563人が少年院に入りました。そのほぼ半数が18~19歳です。過去10年分の統計を調べたら、18~19歳の男子の非行内容は、窃盗35%、傷害16%、詐欺7%、罪を犯すおそれがある『虞犯(ぐはん)』1%でした。18~19歳の女子は、覚醒剤39%、窃盗19%、傷害10%、虞犯4%です。性被害を受けていた女子や、おにぎり1個、放置自転車の窃盗など極めて軽微な事件で少年院に来る例も少なくありません。重大事件を起こした例は極めてまれです」
――少年法の適用年齢が引き下げられると、何が起こりますか。
「20歳未満の非行事件は『健全育成』という少年法の理念のもと、すべて家庭裁判所に送られています。16年に家庭裁判所が処理したのは約7万人です。うち約8千人が少年鑑別所に入り、その3割が少年院に送られました」
「鑑別所では審判の重要な資料として生活や発達の程度、非行の状況、家庭環境などを調べ、鑑別と健全な育成に配慮した処遇をしています。本人には立ち直りの機会になります。18~19歳が成人となれば鑑別所ではなく拘置所に入ることになります。拘置所には鑑別所のような機能はありません。共同室であれば、暴力団と関係のある『半グレ集団』に誘われる恐れもあります」
――更生のチャンスが減るということでしょうか。
「18~19歳の非行事実の多くは成人でいえば『起訴猶予』レベル。適用年齢が引き下げられれば何の教育もなく社会に戻され、再犯の可能性が高くなるでしょう」
「虞犯も切り捨てることになります。親子関係が絶望的で放っておけないから少年院に送致された彼らを成人扱いにするのは『もっと悪くなって犯罪者になれ』というようなものです。適用年齢の引き下げには、断固反対です」
――親子関係が厳しい子が多いのですね。
「おにぎり1個の窃盗で少年院収容になった例では、『この程度の事件で1年間の身柄拘束とは厳しい』と思いました。しかし、家庭環境に問題があり、家庭裁判所としても究極の選択であったと感じました。全般的に問題を抱えている家庭が多く、保護者にも支援が必要です」
――例えば?
「19歳の男子は、両親が離婚し、母とは交流がなく、父は借金を残して所在不明、高校中退後に不良仲間の家を転々とし、少額の食料品を万引きして少年院に来ました。少年院で溶接の資格を取得、以前のアルバイト先の雇用主が引受人となり仮退院しました」
「18歳の女子は、実母と死別後、実父に強姦(ごうかん)されて14歳で家出しました。夜の街を漂流し、風俗店で働いているときに虞犯で補導されました。彼女は実父を拒否し、少年院で勉強できることを喜び、自立援助ホームに仮退院しました。20歳で単独戸籍を作り、新たな歩みを始めました」
――少年院が、「生き直しの場」となっているのですね。
「彼らのような例が起訴猶予となり、そのまま社会に放置されたらどうなるのか。軽微な事件だからこそ教育が必要なのです。児童福祉法の対象外である18歳以上の彼らにとって、少年法はセーフティーネットといえます」
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――18~19歳が成人扱いになると、罰金刑も多くなりそうです。
「その通りです。罰金刑が増えることも悪影響があると思います。少年院に来た性非行の男子の例ですが、裕福な家庭で慰謝料を払い謝罪していました。成人なら『罰金』か『執行猶予』だったと思いますが、それが本人や親にとって『心からの反省』につながるかは疑問です。逆に、困窮していれば、罰金を払うために借金するなどして余計に追い詰められることもあります」
――年齢引き下げは、収容者の家族にも影響をもたらすと。
「殺人未遂の18歳の女子は、両親が長年別居状態で、母親が不安定で過干渉のため家出しました。その後、暴力を振るう同居男性をナイフで刺し、少年院に来ました。母親が毎月面会に来て彼女の話に耳を傾け、母親自身も気持ちを整理した。離婚、転居、被害者への謝罪など母親が受け入れ態勢を整える中、彼女も母親に謝罪しやり直す決意をしました。少年院は『子が変わり親が変わる、親が変わり子が変わる』ところです。彼女が成人なら『執行猶予』か実刑で刑務所です。いずれも母親への働きかけは難しいでしょう」
――他にも影響が?
「収容者数が半数になるので、全国に51カ所ある少年院が統廃合されるでしょう。困窮する保護者は面会が難しくなり、親子関係の改善に悪影響を与えます。集団生活を通じたケアの質が落ち、17歳以下の教育にも影響し、少年院の機能は減退します」
――そもそも年齢引き下げ論議はどこから始まったのでしょう。
「15年に中学1年の男子が殺害された川崎事件でリーダー格とされた加害者が18歳だったことを受けて、自民党政調会長だった稲田朋美さんが発言したのがきっかけです。しかし重大事件は現行でも16歳以上は原則、検察官に逆送され、成人と同じ刑事裁判を受けることになっており、的外れです」
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――法制審では「新たな処分」が検討されているようですが。
「18~19歳は多くが起訴猶予になる可能性があるため、検察が起訴しない事件を家裁に送り、施設収容や保護観察などの『新たな処分』を科すことを検討しています。刑法学者も指摘していますが、不起訴となる比較的軽い事件で身柄拘束もありうるというのはバランスが悪い上、実効性にも疑問があります」
――現在の少年法はおおむね機能しているという評価で一致している一方、民法の成人年齢にそろえるべきだという意見も法制審では少なくありません。
「民法が専門の学習院大学の山下純司教授は『民法と少年法の成人年齢を合わせる必要はない』とおっしゃっていました。民法での成人年齢引き下げは、婚姻や取引など自らの判断で社会生活を送ることができる年齢を下げるもので、権利や自由を拡大することに主眼があるとのことでした。性的虐待など不当な親の支配から脱するという意味でも、民法での引き下げには意味があります。でも少年法では適用年齢を引き下げてもいいことは何もないと思います」
――被害者遺族の中には、少年法の適用年齢の引き下げを強く主張する人もいます。
「被害者の方々の立場に立てば主張されるお気持ちは理解できます。謙虚に耳を傾けつつ、適用年齢の引き下げは虞犯や軽微な事件の18~19歳を切り捨てることになると伝えていければと思います。主張の背景には被害者への支援が不十分なことがあると思います」
「たとえば被害者が民事訴訟で賠償を勝ち取っても、加害者が居場所を変えたり財力がなかったりして、判決文はただの紙切れのことがほとんどだと聞いています。ワンストップで継続的な支援も含めて必要な支援をする、被害弁償は国が被害者に代わって税金と同様に加害者から取り立てるシステムを構築するなど、被害者支援を充実させることが必要でしょう」
――加害者の「その後」についてもブラックボックスです。
「重大事件については、処遇やその後の変化などを検証し、可能な範囲と方法で情報開示すべきだと思います。現状では、被害者にも世の中にも理解は得られないと思います。少年法は20歳未満の人間は可塑(かそ)性があり、更生のための教育的配慮が有効だという考え方をしています。少年院は社会にもっと開き、そのことを示す必要があると思います」
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ひしだりつこ 1952年生まれ。37年間ほぼ少年院などの現場一筋。愛光女子学園長、浪速少年院長などを歴任。2013年から龍谷大学の矯正・保護課程講師。
■収容2年間、自分が変われた 少年院経験のあるアイドル・戦慄かなのさん
私は16歳から2年間、女子少年院に入っていました。
小1のときに両親が離婚し、母と暮らしました。母は殴る蹴るの暴力を振るったほか、家に帰ってこず、食事ができないことが多かった。中2のころから万引きをし、その後、JKビジネスで働く子に100円ショップで買った下着をはいてもらい、8千円で売りました。多いときは月300万円稼ぎました。それがばれて、罪を犯すおそれがある「虞犯」として少年院送致となりました。 怖いイメージがあった少年院は、実際には気持ち悪いほど温かい雰囲気でした。法務教官の先生たちは怒鳴ることもなく、わかりやすく丁寧に話すのです。私は母に反抗したことがないのに、少年院では反抗しました。作文を書く課題も嫌でビリビリに破ってトイレに流して詰まらせたり、コップを投げつけたり……。ふつうは10カ月の収容期間が、私は2年にもなりました。今考えると、どこまで本気で向き合ってくれるのかと試していたのだと思います。
少年院では、内省という自分と向き合う時間がすごく多く、それを文章にします。何度も突き返されて書き直し、少しずつ自分や家族のことを掘り下げて考えるようになりました。集団生活でも学ぶことが多かった。情報に飢えていたので新聞は隅から隅まで読んだし、本も2年で約2千冊読みました。少年院で自分のすべてが変わったと言ってもいいほどです。
少年院を楽な刑務所と言う人がいますが、全然違います。ある意味、少年院の方がつらいと思う。自分の行動や自分と嫌でも向き合わなくてはならないから。刑務所は満期になれば出られるけど、少年院は内省できないと無理です。
私は非行に走りましたが、法律は抑止力にはなりませんでした。法なんて気にしたこともなかった。少年法を改正する前に少年にかかわる人や現場にこそ焦点をあてるべきだと思います。
私が虞犯で捕まらず、あのままだったら、ダメ人間になって犯罪につながったと思います。適用年齢の引き下げは、18~19歳が更生する機会を奪います。それに今なら矯正教育を受ける18~19歳が、執行猶予や罰金刑を受けてそのまま社会に戻ることになる。それって、被害者にとっても社会にとっても、まずくないですか。(聞き手 いずれも編集委員・大久保真紀)
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せんりつかなの 1998年生まれ。大学に通いながら、少年院出院者であることを明かしてアイドルとして活動中。」(2019/01/23付「朝日新聞」p17より)
この戦慄かなのさんの体験記?がすさまじいい。何よりも“戦慄”という芸名からしておどろおどろしい。これは意識的に行動している証(あかし)。
もちろん自分はこの人を知らないが、Netでググってみると、どうやら今は大学(早大?)の法学部1年生で、アイドル活動と学生生活を両立させているらしい。
上の記事を読むと、このように、少年院を経て更生できていた少年が、今後は野放しになりそうだ、とのこと。
毎日新聞によると、少年法の適用年齢を「18歳未満にする」という意見に8割の国民が賛成しているというが、日弁連は反対の立場。
日弁連のHPにはこうある。
「少年法の適用年齢引き下げ(20歳→18歳)には反対です!
<議論の経過>
2015年6月、選挙権年齢を18歳に引き下げる公職選挙法が改正されましたが、同法の附則11条は、「民法、少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」としています。
また、自由民主党政務調査会は、2015年9月、少年法の適用年齢を18歳未満へと引き下げることなどを内容とする「成年年齢に関する提言」 を取りまとめました。
その後、法務省は、2015年11月からの「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」 を経て、2017年2月、法務大臣は諮問機関である法制審議会に対し、「少年法の年齢を18歳未満とすることの是非と非行少年を含む犯罪者に対する処遇の充実」について諮問(第103号)を行い、現在、同審議会の少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会で検討がなされています。
<日弁連とすべての弁護士会・弁護士会連合会が少年法の適用年齢引き下げに反対しています>
日弁連は、
①現行少年法法制の手続や処遇は有効に機能しており、再犯防止に役立っていること、
②年齢は、立法趣旨や目的に照らして、法律ごとに個別具体的に検討すべきであること、
などを踏まえ、2015年2月20日「少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」 を取りまとめ、少年法の適用年齢の引き下げに反対しています。
また、全国52の弁護士会と8つの弁護士会連合会も同様に、少年法の適用年齢引き下げには反対の意見を公表しています。」(日弁連のここより)
一方、少年による凶悪事件の発生により、「少年法は甘過ぎる」「もっと厳罰化すべき」「被害者の立場からすると、加害者である少年が少年法によって守られ過ぎている」との声もあるという。
少年犯罪では1999年に発生した「光市母子殺害事件」(ここ)を思い出す。
感情的には、確かに「少年に甘い」という感情が先立つ。しかし・・・・
少年犯罪には、必ず家庭内の問題が出てくる。上の記事の例でも、両親の離婚や親のDVなど、子どもにとっては被害者の立場が発端になる事が多い。
すべては両親と家庭がどうだったのか?
この少年法の問題を考えるに、今一度周囲の“家庭”を振り返ってみたい。家庭が安穏なら、その家庭の子どもは、少年法と縁の無い生活を送ることが出来るのだ。
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