2016年の「乳がん」の発症は9万5千人/大野真司・がん研有明病院 乳腺センター長の話
今朝(2019/01/17)の朝日新聞にがんの記事があった。
「がん診断、4割が75歳以上 16年は延べ99万人超 初の全数調査
厚生労働省は17日付で、2016年に全国で新たにがんと診断された患者は延べ約99万5千人と発表した。全国の医療機関に情報提供を義務づける全国がん登録に基づく、初の全数調査。「詳細な分析ができるようになる。がん対策に生かしたい」と厚労省の担当者は言う。
これまでの都道府県レベルのがん登録は、病院の参加や患者の届け出が任意だったため、データの精度には地域差があった。2013年に成立したがん登録推進法で、全国約1万3千施設の情報を国が一元管理することになり、16年1月から登録が始まった。
違う部位でがんがみつかれば複数の患者と数える。16年の延べ数は男性56万6575人、女性42万8499人、性別不詳58人の計99万5132人。15年調査の89万1445人(男性50万1926人、女性38万519人)より、10万3687人増えた。国立がん研究センターの若尾文彦・がん対策情報センター長は増加について「法律で義務づけられたことが大きい。分析も早くできるようになる」と話した。 部位別にみると、男性は胃、前立腺、大腸、肺、肝臓の順。上位五つの部位で67.8%を占めた。14年時に4位だった前立腺は15、16年は2位に。女性は乳房、大腸、胃、肺、子宮の順で64.2%。男女合計では大腸、胃、肺、乳房、前立腺の順だった。
年齢別では全体の42.5%を75歳以上が占め、65~74歳は31.3%。45歳未満4.7%と高齢者に多い。ただ、女性の乳がんは30代から増え始める。乳がん患者が増えている背景には、飲酒や運動不足の影響が指摘されているという。男性の前立腺がんは50代から増え始め、70代でピークを迎えた。 人口10万人当たりの患者数(発症率)は、402人。都道府県別で見ると、最多の長崎県(454.9人)と最少の沖縄県(356.3人)で約100人の差があった。理由については分析中という。佐々木昌弘・がん疾病対策課長は「都道府県とも話し合い、原因など詳細な検証をして、対策を立てていきたい」と話した。
厚労省のがん対策推進協議会長で静岡がんセンターの山口建総長は「前立腺がんが男性で2位になるなど最新のデータが把握でき、大腸や胃など5大がんに加えて対策が必要なものが見えやすくなった。体制整備に生かしていく必要がある」と話す。(黒田壮吉、月舘彩子)」(2019/01/17付「朝日新聞」p3より)
厚労省のデータは(ここ)にあるが、上のグラフでも一目瞭然のように、男女差が大きい。
上の記事で「人口10万人当たりの患者数(発症率)は、402人」とあるが、男女に分けると、男性は469.8人であり、女性は354.1人である。つまり男性は女性の1.33倍、3割もガンになる可能性が大きいらしい。
そして、同じ“年齢調整罹患率(日本モデル人口により調整、人口 10 万対)”という指標で最も発症率が高いのが女性の乳がんで、102.3人。女性2位の大腸がん47.3人や、男性1位の大腸がん73.9人に比べると、圧倒的に多い。
この乳がんについて、先日NHKラジオ第2で放送された「がんの話(乳がん)」が面白かった。
カミさんに話したら、次の女子会での話題にするというので、聞きながらメモを取ってみた。
「カルチャーラジオ 日曜カルチャー「がんの話」(1)(2019/01/06放送、ここ)
がん研有明病院副院長、乳腺センター長…大野真司
・メスの猫や犬が罹る悪い病気で一番多いのはリンパ腫、2番目が乳がん。哺乳類は何でも乳がんになる可能性がある。
・男性も乳腺を持っており、毎年600人程度が乳がんになっている。女性は9~10万人位なので200人に1人くらいは男性。
・女性で一番多いのが乳がん。2番目が大腸がん、3番目が胃がん、4番目が肺がん、5番目が子宮がん。
・胃がんはピロリ菌の除菌で、激減している。
・がんの死亡数は、男性では肺がん、女性では大腸がん。乳がんは5番目。大腸がん、肺がん、膵臓がん、胃がん、乳がんの順。乳がんはなり易いが、亡くなる人の数はそれほど多くない。つまり治る病気。ただなかなか治ったと言えない病気。5年経っても10年経っても再発する。再発している人の4割は5年以上経ってから。
・50歳未満の人は3割位。つまり70%の人は50歳以上。
・日本は40年前に比べて9~10倍増えた。増えているのは60代、70代、80代の人。一方、20代30代の人はそれほど増えていない。
・乳がんの原因はすべて遺伝子の異常によって起こる。二つのタイプがあり、5~10%程度が生まれつき持っている遺伝子の異常。90~95%は、生活している中で遺伝子にキズが付いていく異常。
・遺伝子にキズが付くのは、例えばタバコだったら20年間20本以上。これは掛け算で400以上が肺がんになりやすくなる目安。10本だったら40年間。数か月や1年程度ならそれほどならない。
・胃がんならピロリ菌が胃を刺激していくと胃がんになる。日光に当たっていると紫外線の刺激で皮膚がんになるのと同じ。小さな刺激がずっと続くとがんを起こす。
・同様に、乳腺は女性ホルモンが働く場所。女性ホルモンがずっと刺激をしていると乳がんになる。女性ホルモンの量は、初潮の時から40歳を超えると減っていき、50歳前後で閉経期を迎える。この女性ホルモンにずっとさらされているのが乳がんの原因。
・長い間さらされると乳がんになりやすいと考えると、初潮の早い人、閉経が遅い人。閉経まで30年の人と40年の人では、長い人の方がなりやすい。
・生理は妊娠をすると一回止まる。女性ホルモンのバランスが変わる。従って妊娠を早くした人、たくさん子どもを産んだ人は乳がんになりにくい。一方で子どもを産んだことが無い人は乳がんになりやすい。
・なぜ50歳以降に増えるかというと、生理がある間は女性ホルモンは卵巣でできる。閉経後は、脂肪組織=脂で男性ホルモンが女性ホルモンに変わる。従って女性ホルモンは太っている人ほど多い。欧米の50歳以上の太っている人に乳がんが多いのは、日本人に比べて脂肪の付き方が違うから。
・日本の乳がんのピークは45歳前後と50~60歳。一方欧米のピークは65歳位。これは肥満が大きな原因。
・こう考えると、乳がんの危険因子は、40歳以上であるということ、初産が30歳以上や出産経験が無い人、授乳経験が無い人。授乳をしていると生理が止まるので、同じ小さな刺激が続くのがいけないので、生理が止まるのは乳がんを引き起こさなくなる。あと閉経が55歳以上。家族が乳がんになった人がいる。片方の乳房ががんになった10人に1人くらいは、もう一方の乳房もがんができるというデータがある。
・もう一つは生まれ持った遺伝子の異常。家族性腫瘍は、血のつながった人に同じような病気の人がいる。アンジェリーナ・ジョリーさんは、遺伝性腫瘍で要注意。どんな人が遺伝性乳がんになるのかというと、若くして(30代とか)乳がんに罹った方、右左の両方別個に乳がんに罹った方(両側乳がん)、2世代以上(祖母と母親)に乳がんの人が居る人、血のつながった近くの人に卵巣がんの人が居る方、乳がんと卵巣がんの両方になった人が居る方、男性に乳がんになった人が居る方。このような人は採血してアンジェリーナ・ジョリーさと同じような遺伝子の異常がないかどうかチェックする。しかしこれは保険が効かないので20数万円の費用がかかる。
・日本乳がん学会が、患者さん用の「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」というのを出している。
・アメリカでは90年代に比べ乳がんの死亡率が30%位減った。早期発見と薬による再発防止。欧米は8~9割がマンモグラフィーを受けているが、日本はまだ4割ほどで低い。
・手術で取る物が変わってきた。35年前は大胸筋や小胸筋、乳房、脇のリンパ節も取っていた。25年前は乳房と脇のリンパ節は取るが、大胸筋や小胸筋は残すようになった。15年前は乳房も残す。2003年の頃には、初めて乳房切除よりも乳房温存が多くなり逆転した。5年前からは、腋のリンパ節は、もし入口にリンパ節転移が無ければそれより奥は取らない、と変わってきた。これがデ・エスカレーション。
・これからは、もっと取らない。腋に1個2個の転移があっても取らない。放射線や薬で対処。乳がんが出来ても乳房にキズを付けない。薬でがんが消えたら手術はしない。もしくは、0期の早期の乳がんが発見できたら、それで様子を見ていく。5年先10年先にはそうなるだろう。
・最近は、乳房切除が増えている。それは形成外科が一緒になって手術をして、乳房再建が出来るようになったから。これは5年前に保険適用になったので、かつては100万円位かかっていたのが、今は保険で出来るようになった。当病院のデータでは、2007年から年間1000例の手術をしてきたが、2007年頃は6~7割の方が乳房温存術を受けていた。それが今は4割から3割。1年で300人ほどが乳房再建術を受けるようになってきた。
・再建を同時にすると、患者さんの乳房喪失感が違う。40歳以下の方は多くの人が再建をする。70代の人も10%位が再建する。
・今は、がんのタイプの違いが分かるようになってきた。再発した方は薬にも抵抗性なので完全に治すのが難しい。しかし薬の発達で、アメリカのデータでは、かつては再発した乳がんの5年生存率は10%だったのが、その20年後には半分の人が5年以上生きるようになってきた。
・日本でも薬は増えて来て、20年前は7つしか無かったが、今は30種類以上ある。がんのタイプによって薬を選ぶ。2000年までは乳がんの種類は2つだった。2001年からは4通り。2011年からは20通り以上に分けられるようになった。
・これからはリキッドバイオプシー(血液などの体液サンプルを使って診断や治療効果予測を行う技術)が増えて行くだろう。」
この放送の音声(youtube)は(ここ)。
このお話でも分かるように、日進月歩で医療が進んでいる。他のがん治療も同じだろう。
よって、仕方が無くガンになるとしても、少しでも遅れて発症するように、自分のがん細胞に言い含めておきたいものだ。
(2019/01/23追)
「遺伝性乳がん、待望の新薬 再発後向けの「オラパリブ」、昨年承認」 (2019/01/23付「朝日新聞」p25の記事のPDFはここ)
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