精神科病院のない国は今 イタリア・バザーリア法
先日、朝日新聞にこんな記事があった。イタリアでは精神病院が無いのだという。
「(世界発2018)精神科病院のない国は今 イタリア・バザーリア法
イタリアには精神科病院がない。40年前に全廃する法律が施行されたからだ。一人の精神科医が、強制入院から地域で支える仕組みに変えようと奔走した。その理念と実践は世界に先駆けた取り組みとして注目されている。(トリエステ=河原田慎一)
■法の施行から40年―― 地域での生活支援
1978年に施行された法律は「バザーリア法」と呼ばれる。閉鎖病棟での強制入院が当たり前だった精神医療現場を改革したフランコ・バザーリア(1924~80)にちなむ。 バザーリアは「危険な存在」として隔離されてきた患者と対等に向き合わない限り病気は治らないと考えた。病院を開放し、患者の自由意思による医療を導入。精神科病院長として赴任した北部トリエステで病院の廃止を宣言した。
同法ではバザーリアの改革をもとに、患者が病院外で治療や必要なサービスを受ける仕組みが定められた。
トリエステには患者の一時宿泊用施設が4カ所ある。その一つ、海岸に近い高級ホテルに隣接する施設は一軒家を改装したつくりで、個室が6部屋。施錠されておらず、外出時は看護師らスタッフが付き添う。
患者の多くは花壇のある庭で過ごす。地面に寝そべり医師に「起こして」とせがむ女性。第2次大戦中の日本人将校について話す男性。状態は様々だ。
平均2週間ほど滞在する。患者が地域に戻るための試行期間の位置づけだ。精神科医とソーシャルワーカーらが各患者にプログラムをつくり、地域で生活するための支援を検討する。各地域にある社会協同組合が、就労支援などにかかわる。
■暴れたときの対応は―― 短期入院、拘束は制限
薬物の影響で症状が重かったり、暴れたりする緊急時はどう対応するのか。同法は、一般病院に割り当てた精神科病棟への入院を認める。だがベッド数は15床までに制限されている。
ボローニャにある総合病院の精神科病棟では、入院は平均1週間ほど。同病院の精神科医マウリツィオ・ムスコリさんは「集中的に治療して緊急状態を過ぎれば、すぐ公立の療養施設などに移れる」と話す。
暴れる患者の体を拘束することはあるが、患者が起きている間は1時間に1回、血圧などをチェックし、拘束を12時間以内とすることが州法で定められている。ムスコリさんは「暴れる患者のほとんどは薬の影響。適切な治療で拘束の必要はなくなる」という。
ボローニャの北西約50キロにあるカルピの総合病院では2年前から拘束をやめた。患者が暴れて看護師がけがをしたことはあるが、精神科医のグラツィア・トンデッリさんは「拘束では状態が良くならず、つらい記憶だけが残る。むしろ、ほかの患者との交流で症状が改善することが分かってきた」。昨年までに全国の総合病院の約5%で拘束をやめた。
■実質的長期入院なお―― 取り組みに地域差も
精神科病院の全廃が進み、政府が「根絶」を宣言して約20年がたったが、取り組みには地域差がある。
トリエステ地域を管轄する公立精神保健局のロベルト・メッツィーナ局長によると、バザーリアの理念を実践する精神科医は「全体から見るとまだ少数」。まず入院が必要、と考える医師は南部を中心に多い。民間の療養型施設には、実質的に患者を長期入院させるところもある。6月に政権についた右派「同盟」党首のサルビーニ副首相は、病院から地域サービスへの転換を「患者の家族を置き去りにする偽の改革だ」と批判している。
一方、地域で精神医療を支える取り組みは他国の関心を呼び、研修や視察で専門家を派遣してきた国は米国、イラン、パレスチナなど40カ国・地域に上る。
メッツィーナ氏自身、バザーリアから「抑圧された患者の権利を守らないと医療はできない」と学んだ。「隔離されることで患者は財産や市民権を失い、差別の対象になった。人としての権利を失わず、住んでいる場所で治療を受けられることが第一。バザーリアはそれを50年前から実践してきた」と話す。
■日本からも視察 入院減らす取り組みも
日本でも入院患者を早期に退院させ地域につなぐ取り組みが始まっているが、厚生労働省の2016年の調査によると精神科病床の平均在院日数は270日に上る。
日本の精神科医らが5月、ボローニャの精神科病棟を視察した。「必ず短期間で病院から出さないといけないのか」との質問に担当医は「退院後も療養施設や社会協同組合と情報を共有する。医療機関にいると患者が仕事に復帰しにくい。地域での生活を取り戻すのが重要だ」と答えた。
視察に参加した精神科医の青木勉さんが院長補佐を務める総合病院「国保旭中央病院」(千葉県)では、05年に237床あった精神科の入院ベッド数が、現在は救急病棟のみの42床に。青木さんは「入院が収入の多くを占める病院が多いが、入院に頼らない精神医療サービスを進めたことが経営改善にもつながった」という。
一方、医療スタッフの不足から、拘束せざるを得ないことがある。青木さんは「認知症の高齢者など、拘束をしないと安全が守れない場合もある」と話す。
◆キーワード
<イタリア・バザーリア法> 憲法で保障された市民権に基づき、精神科の患者は自分の意思で医療を選ぶ権利があると規定。精神科病院の新設を禁止し、「治安維持」のための強制入院から、地域サービスによる医療に移行した。2000年に政府は、精神科病院の完全閉鎖を宣言。罪を犯した精神障害者らを収容する司法省の施設も15年に廃止、各地域の精神保健局が所管する一時居住施設に移行した。」(2018/08/02付「朝日新聞」p8より)
精神病院はどの国にも当たり前に存在すると思っていたが、全廃お目指した国もあったのだ。
一方、今朝の朝日新聞の投稿欄にこんな声があった。
「(声)高次脳機能障害、多様な支援を
看護師 (新潟県 55)
運命は残酷です。
同い年の夫が2月、くも膜下出血になりクリッピング手術を受けました。その後2回急変しましたが、まひはほとんど改善し、歩行可能で普通に話せます。しかし、高次脳機能障害が後遺症として残りました。外見は普通にみえますが、見当識障害や記憶障害、易怒性などの障害が残っています。
サラリーマンとして会社に貢献し頑張ってきました。今も本人は会社に出社して仕事をしているつもりでいます。出張のつもりで病院を離れたりしました。本人は自分の病気が理解できず、休職していることもわかっていません。
高次脳機能障害を調べれば調べるほど、受け入れてくれる専門の病院の有無に地域格差があることを知り、今後どう生活していけばよいのか迷うばかりです。
本人も苦しい思いをしていますが、支える家族もかなり苦しい思いをしています。高次脳機能障害は個人差がありますが、多様性のある支援を考えてほしいし、夫のようにまだ若い年齢層のことや家族の事情をふまえた柔軟な支援をお願いしたいと思います。」(2018/08/21付「朝日新聞」p12より)
精神病院は、我々にとって決して他人事の存在では無い。ストレスによる出社拒否や、登校拒否も精神の病気。脳溢血による脳障害や、何よりも高齢者の認知症も症状によっては精神病院のお世話になる。
健常者の「心の風邪」とも言われるうつ病も、立派な精神科の病気。
しかし、身体の拘束の話を聞くとゾッとする。確かに、看護師に暴力を振るう場合などは、必要になるのかも知れない。それでも、自分が手足を拘束されて動けない状態を想像すると、ゾッとする。いや怖ろしい。
カミさんには、「何があっても拘束するな」と言ってはあるが・・・・
今の自分の精神状態も、年齢と共に“永遠では無い”と思うと、何か他人事では無いイタリアの話である。
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コメント
精神科病院についてアップしていただき有り難うございます。
ボランティア活動の中で感じていますが、精神科病棟の患者さんを市民生活の中に戻そうという運動が少しづつですが出てきています。しかし、未だ地域包括支援センターのような受け皿が無いのが実情です。ご家族も家庭でフォローするには限界があり、世間の眼も未だ偏見があります。
先日、勉強会の主催でイタリア映画「歓びのトスカーナ」を見て考えさせられました。幸せというのは、高望みしなければ自分の身の回りにたくさんあるが、いくつ気が付いて見つけることができるかだなと。
【エムズの片割れより】
コメントを読みながら、昔書いた「知足石(ちそくせき)」のことを思い出しました。
「吾唯知足(吾唯(われただ)足るを知る)」・・・
投稿: 井上英樹 | 2018年9月 6日 (木) 10:50