北朝鮮ミサイルの過剰報道
8月29日早朝の北朝鮮によるミサイル。そのバカみたい大騒ぎぶりには辟易。午前中のテレビも、消したままだった。さて、少し落ち着いた?今朝に朝日新聞に、そのことについての記事があった。
「(Media Times)ミサイル報道、過剰? 番組中断、各局「Jアラート」画面に
北朝鮮が弾道ミサイルを発射した8月29日早朝、テレビ各局は放送していた番組を一斉に中断し、総務省消防庁の全国瞬時警報システム(Jアラート)の画面に切り替えた。その後も午前中はほぼミサイル報道一色となり、「過剰」との批判も出ている。「正しく恐れる」ためにはどうあるべきなのか。
■対応は自主判断
フジテレビの情報番組「めざましテレビ」が、米南部を直撃したハリケーンについて報じていた8月29日午前6時2分。アナウンサーの背後に見える報道フロアで機械音が鳴り、男性スタッフが立ち上がった。
すぐに「国民保護に関する情報」などと書かれた黒地の画面に切り替わる。アナウンサーは「Jアラートが発令されました。北朝鮮からミサイルが発射された模様です」と緊迫した声で伝え始めた。
NHKや他の民放も、ほぼ同時刻にJアラートを知らせる画面に切り替わり、アナウンサーが「頑丈な建物や地下に避難して下さい」などと繰り返した。NHKはEテレ、BS、ラジオでも総合と同じ放送を流した。黒地の画面は、総務省から配信された画像を映したものだ。TBSだけは、Jアラートの情報を取り込んで制作した独自の画面だったという。
5分ほどすると、各局とも北海道や東北地方の屋外を映す固定カメラの映像などを交え始めた。政府が「ミサイルが太平洋上に落下したと推定」と発表した6時40分前後に、どのチャンネルからもJアラートの画面が消えた。
NHKは通常の番組を中止し、午前10時20分までミサイル報道を続行。民放も午前中はミサイル一色になった。
緊急地震速報の場合、NHKには災害対策基本法に基づいて報じる責務がある。一方、ミサイル関係の情報は各局の自主的な判断に任されている。
当日の放送について、NHKは取材に「Jアラートでミサイル発射に関する情報が発信された場合、テレビとラジオで臨時ニュースの放送を開始する」と説明。日本テレビは「国民の生命と財産に危険が及ぶ可能性のある事案と考え、速やかに放送することとしている」と回答した。民放の情報番組に関わる局員は「1次情報を伝えるすべはJアラートしかない。危険がある以上、流さないという判断はない」と話す。(滝沢文那、湊彬子、小峰健二)
■識者「独自の分析提示を」
警報の画面について、広瀬弘忠・東京女子大名誉教授(災害リスク学)は「文面が具体性に乏しいうえ、避難するにしても津波警報のような時間的余裕がない。Jアラートや報道によって、市民がどこまで身を守るための予防的な行動をとれたか。結果として恐怖心のみが残ってしまったのではないか」と話す。
その後、北朝鮮の発射実験の映像など似たような情報が繰り返されたことも疑問視する。「感覚的な映像や、騒ぎすぎともいえる過剰な放送で世論の雰囲気が醸成され、北朝鮮が描くシナリオに乗せられてしまう面もある。専門性の高い記者がもっと独自の分析や見方を提示するべきではないか」
奥村信幸・武蔵大教授(ジャーナリズム)は、各局が生中継した政府の記者会見に注目する。「情報を政府が独占しているだけに、高官の発言の根拠や意味を丁寧に問いただすべきだった」
安倍晋三首相や菅義偉官房長官の「これまでにない深刻かつ重大な脅威」という発言について「『これまでにない』の根拠を記者がただちに聞き返さない。結果的に政府が言いっ放しの放送になってしまった」と振り返る。「後からの検証はもちろん大事だが、警報が出て注目を浴びているその時に、政府に具体的な説明を求められるかどうかも重要だ」と報道機関の姿勢に注文をつけた。
近現代史研究家の辻田真佐憲さんは、警報や放送を受け止める側の意識について指摘する。「『危機』を政府が都合よく利用した例は戦前にいくつかある。身を守るための情報は必要だが、それがいつのまにか『身を捧げるための情報』にすり替えられていく危険性がある。政府が国民に何を求めているのか、どんな意図なのか、日頃から考えておく必要がある」と話す。(田玉恵美)」(2017/09/02付「朝日新聞」P29より)
この記事を読んで、改めてタイムシフトビデオで、29日の6時からの在京各局の番組をチェックしてみた。上の記事の通り、6:02に各局とも、画面は「Jアラート」に切り替わって、40分過ぎまで続いていた。
しかし、文面が怖ろしい。最初の6:02の文面は、
「国民保護に関する情報
ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難して下さい。」
そして6:14の続報。
「国民保護に関する情報
ミサイル発射。ミサイル発射。先程、この地域の上空をミサイルが通過した模様です。不審な物を発見した場合には、決して近寄らず、直ちに警察や消防に連絡して下さい。」
そして実際は、第2報が出る前の6:12に、既に落下していた。
「北朝鮮は、日本時間の昨日29日午前5時58分に、首都平壌の近くから弾道ミサイル1発を北東方向に発射しました。北海道襟裳岬上空を通過して、約2700キロ飛行し、6時12分に襟裳岬の東約1180キロの太平洋上に落下しました。」
改めて、この第一報は、まさに“空襲警報”。日本はいつから戦争を始めたのだ!?
政府が長野以北の地域住民に「頑丈な建物や地下に避難して下さい。」と命令した事実と、昨日の朝日新聞の「声」の投稿にあるような一般人の認識との差・・・。
「(声)政府は過剰に不安あおらないで
主婦(長野県 60)
8月29日朝、目覚まし時計が鳴るよりも前に、携帯電話からのただならぬ音に起こされた。Jアラート(全国瞬時警報システム)なのだろうか、市の防災無線も、不安をあおる警報音と共に、北朝鮮からのミサイル発射を知らせ、頑丈な建物や地下に避難するようアナウンスしていた。
テレビもこのニュース一色。番組を変更して放送し、一部新幹線はしばらく運行を見合わせ、休校にした学校もあったと聞く。
しかし、ミサイルは十数分で落下し、国内に直接の被害はなかった。胸をなでおろす一方、おかしいと思うことがある。
ミサイルの最高高度は約550キロで、日本のはるか上空を通過。安倍晋三首相は「ミサイル発射直後からミサイルの動きを完全に把握している」と述べた。それなら「国民の安全、安心の確保に万全を期す」との言葉通り、危機感をあおるのではなく、私たちが冷静に行動できるように、的確な情報提供や指示を行ってほしい。
政府の姿勢は過剰な不安をかきたてる一方だ。政府が防衛強化に取り組みやすい状況を、作り上げているのではないかと勘ぐりたくなってしまった。」(2017/09/01付「朝日新聞」p14より)
NHKニュースで、茨城県の日大系の二つの高校が臨時休校したと、言っていた。それは空襲警報が出れば休校も考える。しかし、政府の命令を、ほとんどの国民は“無視”して避難しなかった・・・。
そもそもミサイルは上空550キロの宇宙を飛ぶ。飛行機の高度が10キロ、有人宇宙ステーションが400キロなので、本当に国民に危険があるかどうかは、政府は先刻ご承知。
しかし、民進党が指摘していた通り、ルーズベルト大統領が真珠湾攻撃を事前に察知していたが、米国民の戦意高揚のために国民に知らせなかったのと同様、首相はちゃっかりと、前夜は近くの公邸にお泊まりだったとか・・・(ここ)
さて、この騒ぎ、政権に批判的な「日刊ゲンダイ」ではどう書いてあるのか、ググって読んでみた。すると、やはり過激に書いてあった。
「常軌を逸した北朝鮮ミサイル騒動の裏に何があるのか<上>
まるで空襲警報だったJアラートは恐怖を煽るだけが目的なのか
朝早くに鳴り響いた「ウォーン」という警報音に、多くが異様な気配を感じたはずだ。
29日午前6時2分、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのを受け、政府は北海道など12道県のJアラート(全国瞬時警報システム)を作動。自治体の防災無線の他、携帯電話に緊急速報メールが流された。テレビ各局の画面も一斉に切り替わり、アナウンサーが屋内への避難を呼びかけるコメントを繰り返す。6時10分すぎにNHKが流した速報は、「北朝鮮からミサイルが東北地方の方向に発射されたもよう」。その後、ミサイルが日本上空を通過したことが伝えられたが、まるで日本列島を直撃する「空襲警報」かというような緊迫感だった。
だから住民がパニックになったのも無理はない。北海道警には「どこへ逃げればいいんだ」という110番が90件以上あった。新幹線や在来線は一時運転を見合わせ。自治体は大わらわで、休校にする学校も相次いだ。
だが、Jアラートからミサイル上空通過までわずか5分、襟裳岬東約1180キロの太平洋上に落下するまで10分。そんな短時間に避難などできるわけがない。「地下に行けと言われたって、この辺りは地下がない」「頑丈な建物へ逃げようと山形県庁に行ったが、入れてもらえなかった」という冗談みたいな光景が各地で展開された。政府は全国でミサイル避難訓練を行ってきたが、これが現実なのである。
北朝鮮のミサイル強行発射はとんでもない。しかし、ミサイルは日本列島上空を通過しただけであり、人的物的被害は一切出ていないのに、テレビも交通機関も自治体も大騒ぎしすぎじゃないのか。
「日本国内が過剰に反応すればするほど、北朝鮮の思うツボですよ。騒ぎを起こして、世界に見せつけようというのが北の狙いなのですから。それに、国民が不安を感じざるを得なくなってしまったのは外交・安保政策の失敗にあるのに、安倍政権は不安を煽って対外緊張を支持率回復につなげようとしている。ひどい話です」(政治学者の五十嵐仁氏)
常軌を逸した反応は、そんないかがわしい安倍政権を後押しすることになるだけなのである。
米朝の戦争に首を突っ込んで、ついに脅しの標的にされるアホらしさ
ミサイル発射後、官邸でぶら下がり会見を行った安倍首相は「わが国を飛び越えるミサイル発射という暴挙は、これまでにない深刻かつ重大な脅威である」とイキリ立った。過去にも北朝鮮のミサイルが事前通告なく日本上空を通過したことはあるのだが、今回の脅威はレベルが違うと言わんばかりだ。
「そもそも、北朝鮮が見ているのは米国の反応だけです。もし、本当に日本に対してミサイル攻撃を仕掛けてきたとしたら、北朝鮮にそんな行動を許した日本外交の大失敗ですよ。なぜ米国や韓国ではなく、日本が真っ先に標的にされなければならないのか。それだけで内閣総辞職ものの責任問題です」(元外交官の天木直人氏)
北朝鮮が米国を敵視するのは分かる。1953年、米国を主体とする国連軍と北朝鮮・中国軍との間で休戦協定が結ばれて60年以上が経つが、まだ朝鮮戦争は終わっていない。停戦状態にあるだけだからだ。
米朝が交戦状態になれば、在日米軍基地が攻撃対象になる可能性はあるが、本来は日本が軍事攻撃の標的にされる理由はない。米朝の戦争に首を突っ込んで、脅しの標的にされるなんてアホみたいな話なのである。
ところが2年前、安倍は「米国の戦争に巻き込まれることは絶対にありえない」と言って、集団的自衛権の行使を可能にする安保法を強行成立させた。同盟強化の名のもとに米軍との一体化が進めば、日本がミサイル攻撃の標的になるリスクは高まる。自分で危機を招き入れておいて、ミサイルが上空を通過するとJアラートを鳴らして大騒ぎ。この裏にはどんな狙いがあるのか、気づく必要がある。
北朝鮮がこのタイミングで様々な強硬手段に出ている理由
北朝鮮は今年になって13回も弾道ミサイルを発射しているが、特に最近、その攻勢を強めていた。
7月にはICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星14号」を2度発射し、今月9日には、米領グアム沖への「火星12号」の発射計画を発表。21日から米韓合同軍事演習が始まると、「火遊びする愚か者の行動を黙って見ているだけではない」と警告。26日には日本海に向けて新型多連装ロケット砲弾3発を発射した。そしてわずか3日後に弾道ミサイル「火星12号」の発射を強行したのである。
なぜ、北はこのタイミングで立て続けに強硬手段に打って出るのか。
元韓国国防省分析官で拓殖大学国際開発研究所の高永テツ客員研究員はこうみる。
「金正恩朝鮮労働党委員長の暴走のように見えますが、優秀なコンサルタントがいて、北は“一石三鳥”とも言えるシタタカな戦略を持っています。米韓合同軍事演習への牽制、先軍節など記念日に合わせた国威発揚、確実に進化している技術力の誇示です。先月28日深夜の火星14号はロフテッド軌道で、米本土までの射程を示した。今回は通常軌道では難易度が上がる大気圏再突入にも成功したのです。北には焦りがある。国内には韓国などからの情報が流入していて、金正恩体制に疑問を抱く国民が現在3割近くに上ります。北はオバマと違ってトランプなら挑発に乗ってくると踏んでいます。米国からの攻撃をギリギリ避けながら挑発を繰り返し、この機に米朝交渉まで持っていこうという算段です」
北は着々と歩を進めているというわけである。」(2017/08/30付「日刊ゲンダイ」ここより)
携帯電話のアラームと言えば、6年前の東日本大震災を思い出す。会社で、隣の席の人が「今、1F(福島第一原発)にいる社員と電話で話していたら、“地震だ。直ぐに避難しろという放送が流れている。切るよ!”」と言う。
その直後、携帯電話の警報音が一斉に鳴りだし、ウソだろう・・という揺れ・・・。
その時の、警報音が、現在はいとも簡単に流されている。そして、国民は段々それに慣らされていく。そして潜在的に、戦争が近いと擦り込まれていく。
だから、防衛費は増やすべき、憲法は改定すべき・・・と???
「継続は力なり」という言葉がある。
前に「“ミサイル避難CM広告”安倍政権の思惑」(ここ)という記事を書いたが、政府のこの右傾化への“継続努力”に、今を生きている大人として、子や孫世代への責任を感じざるを得ない。
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