伝家の宝刀の「解散」はいつから“総理の専権事項”に?
今朝(2017/09/20)のTV朝日の「モーニングショー」(ここ)では、勉強させて貰った。
総理の解散の権限は、憲法には規定が無く、吉田首相時代に始まって、最高裁を経て定着したのだという。しかし日本の見本のイギリスでは、勝手な解散は許されなくなり、世界的にも、残っているのは4カ国だけだという。学習院大学教授の野中尚人氏による解説である。
番組に従って、メモしてみた。
(動画は(ここ)にある。 8:26~9:06)
伝家の宝刀 解散はいつから“総理の専権事項”に?
・閣僚15人中12人が「解散は総理の専権事項」と発言。特に林文科大臣は「総理の大権」
・どういう時に衆議院が解散になるの?
憲法第69条 内閣は「衆議院で不信任の決議案を可決」、または「信任の決議案を否決」された時は、10日以内に衆議院を解散、または内閣総辞職。
⇒日本では少ないが「世界標準」(しかし解散そのものが少ない)
憲法第7条 天皇は内閣の助言と承認により国民のために国事に関する行為を行う。①憲法改正、法律、制令及び条約を公布すること。②国会を召集すること。③衆議院を解散すること。
⇒実際には総理の“好きな時に解散”(憲法には書いていない)
これらはイギリスの議院内閣制をモデルにしている。
・解散が“総理の専権事項”になったきっかけは?
初めて“好きな時解散”を行ったのは、吉田茂総理大臣が1952年8月の「抜き打ち解散」で、側近のみと相談し解散。しかも国会を開会せず。これは自由党の党内抗争で、鳩山一郎の勢力を減らす為に行った。これに対して、当時のマスコミの評価は、当時の朝日新聞の社説によると「イギリスの議院内閣制をとる以上は当然のこと」と評価。
(その前の1948年にも解散しようとしたが、GHQに止められた。GHQは69条解散が原則だから7条解散はダメと)
これに対し失職した前議員が提訴した。当時改進党の苫米地義三氏が、好きな時に解散できる「“7条解散”は違憲だ」。
それに対して最高裁は、1960年「解散のように政治性の高い行為は裁判所の審査権の外にある」と判断せず。違憲とされなかったことで、好きな時に解散できる“7条解散”を認める憲法解釈が主流になり「総理の専権事項」となった。
「日本国憲法」が施行されてから23回の解散の内、好きな時にできる“7条解散”は19回。
・日本のモデル、イギリス議会は“好きな時解散”を廃止。やめたワケは?
かつてイギリスでも、解散権は“国王の大権”
実質は首相が助言し好きな時に解散。
以前からイギリスでは根強い批判。「与党に有利で不公平だ」。そこで6年前の2011年に解散を制限する法律を制定。これは「議会任期固定法」で、任期を5年に固定。解散できるのは、内閣不信任案の可決、または下院の2/3以上の賛成。
日本のモデルのイギリスをはじめ、いまや主要先進国は解散権を制約し、ほぼ使えないようにしている。好きな時に解散できる“7条解散”は21世紀の民主主義に合っていない。
世界的に見ると、OECD35カ国では、「解散権がない・一般的ではない」国は、18カ国。「制限が強い」国が13カ国。「好きな時に解散」は日本、カナダ、デンマーク、ギリシャの4カ国。
(野中尚人氏の指摘)
・根本的な話としては、今回のような不意打ちの解散は、国民に対して充分な情報や選択肢の提供がない。例えば、与党はこんな実績がある、野党はこんな提案をしたい。という情報を国民に周知せしめていく。新党が立ち上がれば、その意見も聞いて、堂々と我々を選んでくれ。つまり国民が充分に主権者として選択権を行使できるようにする、それが一番大切な選挙の役割。任期を固定することによって安定的に行う。政権の側は、4年の任期の中で約束した仕事をできだけきちんとやる。これが今の民主主義の考え方。
・日本の場合は、平均で2年9か月位の任期なので、2年位経つと皆ソワソワする。すると仕事をしない。国民の為の仕事そっちのけで、選挙区回りばかりやる。これが日本の政治のクオリティを上げることにどれだけマイナスになっているか良く考えるべき。
・イギリスは突如変えた訳ではない。ヨーロッパでは主要な国はこういう方向に動いていて、イギリスは素地として、反対党の準備を待ってから解散するというのはルールになっている。そんな根本的なことも踏まえないで、いまだに100年前のやり方をやっているという感じがする。
・国民が民主主義を動かすと考えると、自由な解散はほとんどメリットが無くてデメリットの方が大きい。戦後直ぐの時にはそれなりに理屈があったし、状況があったが、今や日本では合わないものになっている。
自分も、当たり前と思ってきた首相の解散権について、目から鱗・・・
この話を聞くと、日本はまだまだ子供の国だと思う。大所高所からの反省によって、政治の世界を改善するという姿勢になっていない。従来の慣習に這いつくばって、ただただ自己保身を図る目線しかない。
今回も、まさに堂々たる「アベノタメノ解散」だ。
話は変わるが、このような情報番組、いわゆるワイドショーだが、現役時代は朝と午後のこんな番組は見たことがなかった。それが引退してからは、なぜかTV朝日のこの番組を見るようになった。
そもそもこんな番組は、キャスターの好き嫌いで見ることが多い。自分は、羽鳥慎一キャスターもクセが無く感じるし、玉川さんの指摘の目線も好き。それに青木さんのコメントも好き。それに引き替え、石原、長嶋くんは、レベルが低いのでほとんど聞かない。
前は、つまらないゴシップばかりでバカにしていたが、今日の解散についての解説は国民の啓蒙にも通じる内容で、「羽鳥慎一モーニングショー」という番組を見直した。
今後も、こんな視点での解説を期待したい。
(2017/09/21追)
今朝の朝日新聞に、上の議論と同様の河野元衆議院議長のコメントが載っていた。
「冒頭解散、身内から異議あり
■権力側の都合、理解できぬ 河野元衆院議長
河野洋平元衆院議長は20日、日本記者クラブで講演し、安倍晋三首相が28日召集の臨時国会冒頭に衆院を解散する構えを見せていることについて「安倍さんは『できるだけ丁寧に国民に説明する』と言っていた。その説明もせずに、冒頭解散するというのは私には理解できない」と批判した。
河野氏は、森友学園や加計学園をめぐる問題を念頭に、「国民の懸念に説明をすべきだと野党が要求してきた臨時国会をずっと開かずに引っ張ってきて、問題への説明も懸念払拭(ふっしょく)の努力もしないで(解散)しちゃうというのは、野党が何だと思うのは当然だ」と指摘。さらに、「権力の側が自分の都合の良いときに自分の都合で解散するというのは果たしていいのかどうか、議論しなければならない」と訴えた。
河野氏は英国首相の下院解散権が2011年に封印されたことに触れて「党と党の話し合いで解散権に制約を加えるのは非常に賢明な対処法で、あのやり方ができればいいと思う」との見方も示した。 (倉重奈苗)」(2017/09/21付「朝日新聞」p4より)
<付録>「まんがイラスト ぼうごなつこのページ」(ここ)より
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