東芝問題~ウェスチングハウスを破産させるとどうなる?
少し前の記事だが、現在の東芝問題について、冷静に事態を分析していた記事があった。
「(論壇時評)東芝と原発 時代が止まってはいないか 歴史社会学者・小熊英二
世間には、若かった頃の「常識」で頭が止まっている人がいる。例えばドナルド・トランプの以下の発言だ〈1〉。
「日本が攻撃されれば米国は軍事力を全面的に行使しなければならないが、我々が攻撃を受けても日本の連中は家でくつろぎ、ソニーのテレビを見ている」
ソニーのテレビが全盛だったのは昔の話だ。赤字続きだった同社のテレビ部門は、2014年に分社化された。経団連の榊原定征会長は、トランプ氏は「1980年代の日米貿易摩擦の頃の認識」で発言していると苦言を呈した〈2〉。
一連の発言からわかるのは、トランプの周囲に、時代錯誤を指摘してくれる人がいないということだ。あるいは注意をしても、耳を貸さないのだろう。こういう人は、過去に一定の地位を築き、周囲に甘やかされている中高年に多い。
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このような、社会の変化についていけない人が責任ある地位にいると、様々な問題が出る。不正会計で信用を失ったうえ、時代遅れになった産業に固執して債務超過になった東芝は一例だ。東芝の原発部門OBはこう述べる〈3〉。
「世界の原発建設を担うと決めてしまい、引くに引けなかったのだろう。まっとうな経営センスを持っていたら、福島の事故以降はやめる」
63年に発電が始まった日本の原発は、高度成長の象徴だった。製造業が主産業だった時代には、電力消費量と経済成長率が連関していた。石油ショック後は国策で補助金が投入され、90年代半ばまで原発は順調に増えた。この時代の「常識」で、頭が止まったままの人も多い。
だが90年代末から、日本の原発建設は停滞。「夢よもう一度」とばかりに、2005年ごろに原子力再興の動きがあったが、実態が伴わなかった。
それでも東芝は06年、米国の原発メーカー、ウェスチングハウス(WH)社を破格の高額で買収した。これが今回の債務超過につながったのだが、なぜそんな買収をしたのか。
その理由は二つある。一つは、旧来路線への固執だ。社内には買収に異論もあったが、当時の社長は「(国内で)そのままやっていくと撤退のシナリオ。ということは他社を買収するしかない」と考えたという〈3〉。原発事業の行き詰まりがわかっていたのに、撤退時期を見誤り、追加投資を注ぎ込んだのだ。
もう一つは、社内民主主義の不足だ。原発部門から昇進した別の社長は「人の言うことを聞かない」ことで知られ、当人も「(社員が渡してくる)1回目の書類は見ずに突き返したほうが次によくなる」と放言していた〈4〉。
そこに加わったのが、最後は国が助けてくれるだろうという「日の丸原発」意識だった。東芝OBによれば、社内の原発部門は「国や東京電力だけを見ているような特殊な世界」であり、社会の側を見ていなかったという〈4〉。
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福島原発事故は、すでに停滞していた原発事業への「止(とど)めの一撃」となった。日本の電力需要は11年度以降5年連続して減少。産業界と一般家庭の双方に、節電意識と省エネ技術が広まり、鉱工業生産指数が伸びた時期でも電力消費量は減少した。2年にわたって全原発が停止しても電力供給に問題はなく、今に至るも数基の原発しか動いていない。原発なしでも問題ないことが明らかになり、世論調査では再稼働に反対が6割近い。
また再生可能エネルギーが、急速に普及している。国際エネルギー機関(IEA)の調査結果によれば、15年の世界の再生可能エネルギーに対する投資は約36兆円に達し、発電設備全体への投資のうち約7割を占めた〈5〉。日本でも、16年初夏には太陽光がピーク時で全電力需要の30%を供給した〈6〉。
それに対し原発のコストは上昇している。15年3月期には、日本の電力会社の原発維持費は総計約1兆4千億円に上った〈7〉。再稼働を審査する新規制基準を通過するには、原子炉1基に数千億円の追加投資が必要で、電力11社は総額で約3兆3千億円を見込んでいる〈8〉。福島事故の処理費用は21兆円を超え、さらに増えるのが確実だ。
原発のコストは、ほとんどが安全に運転するための費用である。人々の安全意識が上がればコストも上昇する。世界中で安全意識が傾向的に高まり、とくに福島事故後は原発建設のコストが上昇して、採算がとれなくなった。金子勝は12年に「原発は不良債権である」と述べたが、それが現実になりつつある〈9〉。
このたび東芝が債務超過になった直接の原因は、原発建設費の上昇負担をめぐる訴訟相手の米企業から、原発建設部門を買収したことだった。買収動機は、訴訟を続ければ東芝とWH社の収益悪化が露呈してしまうので、買収と訴訟和解でそれを隠蔽(いんぺい)することだったと細野祐二らは指摘している。相手会社は、簿外債務付きという条件で、0ドルで原発建設部門を売っている〈10〉。
権威主義、民主主義の不足、変化への不適合。結果としての債務と不正。残る手段は「親方日の丸」だろうか。ある政府関係者は「大事なのは原発であって東芝ではない」と述べ、原発事業を国が救済する考えを漏らしたという〈11〉。
しかし、今やババ抜きの「ババ」となった原発を引き受けて国が破綻(はたん)しても、それを助けてくれる「親方」はいない。もはや社会の変化を直視し、原発からの「勇気ある撤退」を決意する時である。
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〈1〉本紙記事(1月22日)
〈2〉同(2月1日)
〈3〉「原発ビジネスから撤退」(週刊東洋経済2月4日号)
〈4〉「東芝OBが語る『問題の本質』」(同)
〈5〉今西章「世界の電力投資の7割が再生エネ」(エコノミスト1月31日号)
〈6〉本紙記事「再生エネ割合、ピーク時46%」(2月13日)
〈7〉岡田広行「値上げ頼みの電力決算」(週刊東洋経済15年11月21日号)
〈8〉本紙記事「原発安全対策、3.3兆円に増」(16年7月31日)
〈9〉金子勝『原発は不良債権である』(岩波ブックレット、12年)
〈10〉細野祐二「債務超過の悪夢」(世界3月号)/児玉博「経産省は東芝を見放した」(文芸春秋3月号)
〈11〉「原発危機で『東芝』消滅も」(週刊ダイヤモンド2月11日号)
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おぐま・えいじ 1962年生まれ。慶応大学教授。著書『首相官邸の前で』が近く刊行される。監督を務めた同名の記録映画のDVD付き。脱原発運動の分析論文や作家・高橋源一郎氏との対談なども。」(2017/02/23付「朝日新聞」p17より)
東芝はWHがらみの損失を、7125億円と発表しているが、どっこい甘いのでは?
「米原発の工期延長要請 東芝、損失拡大恐れも
米原子力事業で巨額損失を出した東芝が、受注した原発の運営主体である米電力会社2社に、数カ月の工期延長を要請した。延長による費用増は公表した損失額に反映済みだが、さらに工事が遅れれば損失が拡大する恐れがある。東芝は海外での原子力事業を縮小する方針だが、子会社への巨額の債務保証などが壁になっている。
東芝の米原発子会社ウェスチングハウス(WH)が建設を担うボーグル原発3、4号機を巡り、運営主体の米サザン電力は22日、WHから3~6カ月の工期延長の要請を受けたことを明らかにした。ファニング最高経営責任者は電話での記者会見で、東芝の経営危機について「慎重に見ているところだ」と語った。
同原発の工期延長は2008年の受注時から3回目で、当初の予定より約3年遅れている。WHはサマー原発2、3号機についても14日、運営主体の米スキャナ電力に4~8カ月の工期延長を要請した。
東芝の7千億円を超える損失計上は、これら原発4基の建設工事での費用増が原因。今回の延長による人件費などの増加は損失に反映済みで、延長後の新たな予定では、20年12月までにすべて完成すると見込む。
ただ、東芝によると、工事はまだ全体の約3割しか進んでいない。将来の工事費用は多めに見積もったとするが、「リスクがないと言えばウソになる」(畠沢守常務)のが実情だ。両電力とは固定価格での契約を結んでおり、費用増の大半は東芝側が負担する。
米国には、東芝本体が受注したサウス・テキサス・プロジェクト原発3、4号機もあるが、計画は凍結状態。東芝は撤退費用など720億円の損失を15年3月期までに計上した。
WHは中国でも4基を建設中で、最も進んでいる三門1号機は今年前半に運転を始める予定だ。WHの最新炉「AP1000」の世界最初の運転となる見込みで、トラブルへの不安がつきまとう。米カリフォルニア州のサンオノフレ原発では、12年に三菱重工業製の機器に事故が発生して廃炉になり、同社は電力会社から約7千億円の損害賠償を請求されている。
■のしかかる債務保証
原子力事業を巡るリスクがくすぶり続けるなか、WH株の87%を持つ東芝は、持ち分を減らすことを目指している。だが、共同出資するIHIが今月、「自社の損失を防ぐ」として株式の買い取り請求権を行使。東芝の持ち分は逆に90%に高まる見通しだ。
東芝社内では「WHを残せば、また損失が積み重なる可能性がある。やめる覚悟も必要だ」(幹部)と、WHの清算など、抜本的な対策の必要性を訴える声も出始めている。
ネックになるのが、東芝によるWHへの債務保証だ。WHは米国の原発4基の工事を完了できないなど、契約に違反した場合、電力会社などに違約金を支払う必要がある。WHの清算などで工事ができなくなれば、東芝は違約金の肩代わりを迫られる。債務保証の総額は約8千億円。東芝は半導体事業の分社化と過半の株式売却で1兆円超の資金調達を目指す方針だが、違約金の肩代わりを迫られる事態になれば、せっかく得た資金も大部分が吹き飛ぶことになりかねない。(畑中徹=ニューヨーク、川田俊男)」(2017/02/24付「朝日新聞」p3より)
「WHに米破産法も選択肢、東芝 半導体事業の分社化決定
経営再建中の東芝が、米原発子会社ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)について、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請を選択肢の一つとして検討することが24日、分かった。最大の経営課題である米原発事業で幅広い改革案を協議し、再生を模索する。
東芝は24日、半導体事業の分社化を正式に決定した。3月30日に臨時の株主総会を開いて承認を受けた上で、過半の株式を売却して財務を改善。原発事業の見直しを本格化させる方針だ。半導体の売却益を充ててWHの経営を続ける案もあるが、破産法の適用で一気に改革する意見も出ているという。(共同)」(2017年2月24日)
上の記事で「WHの最新炉「AP1000」の世界最初の運転となる見込みで、トラブルへの不安がつきまとう。」という文字が厳しい。
「新しもの」にはトラブルがつきもので、必ず予想外の時間と費用が発生する。三菱航空機の国産旅客機MRJの開発が、当初2013年の納入だったのが、現在は2020年納入と大幅に遅れていることなどが良い例。
前にも書いたが、今回の事件は「社員からすると、やってられねえ!」。
何で、アメリカの買収企業の尻ぬぐいを、ここまでやらなければいけないのか?
素人的には、「即刻WHは破産。解散。社員は全員即刻解雇。進行中の工事は即刻中止。放棄。」したらどうなるのだろう?と想像してしまう。
たぶん、誰かがどこかで考えていて、無理な理由があるのだろう。
上に記事で、そんな視点の言葉を紡いでみると・・・
「東芝社内では「WHを残せば、また損失が積み重なる可能性がある。やめる覚悟も必要だ」(幹部)と、WHの清算など、抜本的な対策の必要性を訴える声も出始めている。
ネックになるのが、東芝によるWHへの債務保証だ。WHは米国の原発4基の工事を完了できないなど、契約に違反した場合、電力会社などに違約金を支払う必要がある。WHの清算などで工事ができなくなれば、東芝は違約金の肩代わりを迫られる。債務保証の総額は約8千億円。」
「経営再建中の東芝が、米原発子会社ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)について、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請を選択肢の一つとして検討することが24日、分かった。」
つまり、「WHの精算」で「8千億円の債務保証が発生する」ということか・・・
この話は「米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請」と同義??
どうも素人なので分からない・・・・
振り返ってみると、2006年にWHを買収した西田社長時代の東芝は、「原子力発電と半導体」が2本柱だった。そこに2011年の福島の事故。その後、2013年には田中社長が「ヘルスケア」を入れて3本柱とした。
既にボロボロの原子力のために、医療はキャノンに売り、半導体も風前の灯・・・
これで会社が成り立つ訳がない。
2011年当時、原発事故をきっかけに、ドイツは、原発を止めた。当然、東芝も原発事業の縮小の方向転換が行われると皆が予想した。
しかし出て来た会社の方針は「社内で原発の話を話題にしないように」という命令。
つまり、福島で緊急事態が続き、マスコミが連日報道する中で、そのメーカーの社内では「その話はするな」という。そして社員は寡黙に・・・。そして彼の事件・・・
債務保証に1兆円かかろうが、一気に精算した方が良いと思う。つまり、米国における原発事業を続けていれば、雪だるま式にロスは増えていくだろう。それを避けるには、「止める」しかない。
そもそも、WHの関係者からすると、当初のロスの金額はなるべく少なく見せたい。そして、ほとぼりが冷めた頃に、「実は・・・」と小出しにする。つまり、後に引けない状況まで“頑張って”、何とか仕事を終えたい。自分たちがクビにならないように・・・。遠い東洋の国の会社がどうなろうが・・・
電力会社では原発を再稼働するために、「地震の時の安全に有用」という対策には、お金に糸目は付けないという。予算が直ぐに付くという。つまり原発の安全には、お金の天井はない。つまり、そんな増大する安全を「固定金額」で完成させるなど、どだい無理。
既に「ババ」を弾いてしまった東芝。外部から社長を連れて来て、抜本的な粗治療をするしかない。その適任者は誰か?
ゴーンさんなど無理だろうから、大統領職を放り出したトランプなどどうだろう?
もっとも、トランプが大統領を放り出すまで、東芝が持てば・・・の話だが・・・
もっとも、商売人は手を出さないか?すると誰か居ないか??
東芝も人材不足からこうなったが、日本という国も人材不足だな・・・
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