萎縮するテレビ報道の現場
今朝の朝日新聞の記事を、うなずきながら読んだ。
「(インタビュー)テレビ報道の現場 「報道特集」キャスター・金平茂紀さん
NHK、TBS、テレビ朝日の看板キャスターがこの春、相次いで交代する。そんななか、高市早苗総務相による放送法違反を理由とした「停波」発言も飛び出した。テレビ局の報道現場でいま、何が起きているのか。TBS「報道特集」キャスターの金平茂紀さんに話を聞いた。
――テレビの報道ニュース番組が偏向している、という声が出ています。安保法制の報道を巡り、昨年11月読売新聞と産経新聞に掲載された「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」の意見広告では、TBSの番組「NEWS23」が名指しで批判されました。 「だれが偏向だと判断するんですか。お上ですか、政治家ですか。日々の報道が公正中立かどうかを彼らが判断できるとは思わないし、正解もない。歴史という時間軸も考慮しながら、社会全体で考えていくしかないでしょう。議論があまりにも粗雑過ぎます」
――偏向を指摘された番組アンカーの岸井成格さんが「NEWS23」から降板しました。
「NHKの国谷裕子さん、テレビ朝日の古舘伊知郎さんもこの春、降板します。僕も記者ですから取材しました。3人とも事情は違うし、納得の度合いも違う。一緒くたに論じるのは乱暴すぎます。安倍政権の圧力に屈したという単純な構図ではない。しかし、報道番組の顔が同時にこれほど代わるというのは単なる偶然では片づけられません」
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――本当に圧力とは関係ないのですか。
「会社は『関係ない』と説明しています。岸井さんも『圧力はなかった』と記者会見で発言しました。しかし、もし、視聴者のみなさんが納得していないとすれば、反省しなければなりません」
――金平さん自身、3月31日付で執行役員を退任されます。何かあったのでしょうか。
「会社の人事ですから、その質問をする相手は、僕ではなく、会社でしょう。事実として残るのは、TBSで最も長く記者をしてきた人間の肩書が変わったということです。いずれにせよ僕は、どのような肩書であろうが、なかろうが、くたばるまで現場で取材を続けるだけですが」
――政治、とりわけ自民党による放送番組に対する圧力は歴史的に繰り返されてきました。
「1967年7月、TBSの報道番組『ニュースコープ』のキャスターだった田英夫さん(故人)が、北ベトナムに日本のテレビとして初めて入りました。ベトナム戦争で、米国に爆撃されている側からリポートするためです」
「その取材をもとに特別番組を放送したのですが、放送行政に影響力を持つ、いわゆる『電波族』の橋本登美三郎・自民党総務会長が、当時のTBS社長に『なぜ、田君にあんな放送をさせたのか』とクレームをつけた。さまざまな経緯の末、田さんは実質的に解任され、社を去りました。田さんの報道は、当時は反米・偏向だと政権ににらまれたのかもしれません。が、ベトナム戦争がたどった経過を考えれば、事実を伝えたとして評価されこそすれ、偏向だと批判されるいわれはありません」
――当時、TBS社内は、田さん降ろしに抵抗したと聞いています。岸井さんの件でいま、社内はどうなのでしょうか。
「おおっぴらに議論するという空気がなくなってしまったと正直思いますね。痛感するのは、組織の中の過剰な同調圧力です。萎縮したり、忖度(そんたく)したり、自主規制したり、面倒なことを起こしたくないという、事なかれ主義が広がっている。若い人たちはそういう空気の変化に敏感です」
――同調圧力ですか?
「記者一人ひとりが『内面の自由』を持っているのに、記事を書く前から社論に逆らってはいけないという意識が働いている。それが広く企業ジャーナリズムの中に蔓延(まんえん)している。権力を監視する番犬『ウォッチドッグ』であることがジャーナリズムの最大の役割です。しかし現実には記者のほうから政治家や役人にクンクンすり寄り、おいしい餌、俗に言う特ダネをあさっている。こんな愛玩犬が記者の多数を占めれば、それはジャーナリズムではない。かまない犬、ほえない犬に、なぜだといっても『僕らはほえないようにしつけられてきた。かみつくと損になるでしょ。そう教えられてきた』。そんな反応が現場の記者から返ってくるわけです」
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――報道の現場は深刻ですね。
「ジャーナリズム精神の継承に失敗した責任を痛感しています。僕自身も含め、過去を学び、やり直さないといけない。安保法制、沖縄の基地問題、歴史認識や福島第一原発事故など、僕らの国のテレビは独立・自立した存在として、報じるべきことを報じているのか。自責、自戒の念がわきあがってきます」
「戦争の翼賛体制下でメディアは何をしてきたのか。放送も新聞も権力の言いなりとなり、国策と一体化した報道をやった『前歴』がある。戦後、その反省に立ち、放送局は政治権力から独立し、国家が番組内容に介入してはならぬ、という精神で放送法が生まれた。電波は国民のものであり、自主・自律・独立でやっていく。放送の原点です。ところが、政権側には、電波はお上のものであり、放送局を法律で取り締まるという逆立ちした感覚しかありません」
――高市早苗総務相が放送法の規定をもとに、放送の内容によっては「電波停止もあり得る」と発言しています。当事者であるテレビ局の報道に迫力を感じません。
「僕はニュース価値があると思って担当の番組で発言しました。ところが、発言があったこと自体に触れないテレビ局もあった。自分たちの生命線にかかわる話なのに、ニュースとして取り上げない。えっ、どうしてなんだろうと思いましたね。テレビ朝日の『報道ステーション』やTBSの『NEWS23』『サンデーモーニング』はこの発言の持つ意味も含めて報道していました」
「先日、田原総一朗さんや岸井さんらと記者会見しました。他局のキャスター仲間何人かに声をかけたのですが、参加者はあれだけというのが現実です。それでも、誰ひとり声を上げずにいて、政治権力から『やっぱり黙っている連中なんだ』なんて思われたくはないのです。こういう社外からの取材をリスクをおかしながら受けているのもそのためです」
「一昨年の総選挙の前に、自民党が選挙報道の『公平中立』を求める文書をテレビ各局に送りつける、という『事件』もありました。そのこと自体が僕の感覚ではニュースです。でも社内の会議で話題にはなってもニュースとしては扱わない。危機管理ばかりが組織で優先され、やっかいごとはやりたくないということになる。僕はそれが耐えられなかったから、担当の番組でコピーを示し、こういう文書が送りつけられたと伝えた。中には『あんなことをやりやがって』と思っている人もいるかもしれませんが」
――危機管理優先がジャーナリズムの勢いをそいでいます。
「朝日新聞がそうですね。とりあえず違う意見も載せておこうと、多様な意見を紹介するとのお題目で両論併記主義が広がっていませんか。積極的に論争を提起するのではなく、最初から先回りし、文句を言われた時のために、『バランスをとっています』と言い訳ができるようにする。防御的な発想ではないですか」
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――「NEWS23」の初代キャスターだった筑紫哲也さん(故人)とは長い間、一緒に仕事をされたそうですね。
「2008年3月、筑紫さん最後の出演で語った言葉が忘れられません。『大きな権力を持っている者に対して監視の役を果たす』『少数派であることを恐れない』『多様な意見を提示し、社会に自由の気風を保つ』。筑紫さんは、この3点を『NEWS23のDNAだ』と遺言のように語って、逝きました。それがいま、メディアに携わる人たちに共有されているのかどうか。責任を感じています」
――記者の原点を忘れ、組織の論理に流されてしまっている自分自身に気づくことがあります。
「記者の仕事は孤独な作業です。最後は個ですから。過剰に組織の論理に流れ、全体の空気を読んで個を殺していくのは、記者本来の姿ではありません。それでも一人ひとりの記者たちが、会社の壁を越え、つながっていくこともできる。声を上げるには覚悟がいるけども、それを見ている次の世代が、やがて引き継いでくれるかもしれない。萎縮せず、理不尽な物事にきちんとものを言う若い仲間たちが実際に育ってきているのをつい最近も目撃しました」
「『報道なんてこんなもの』とか、『視聴者や読者はそんなもん求めてねえよ』と、シニシズム(冷笑主義)に逃げ込んではいけません。僕らの仕事は、市民の知る権利に応えるためにあるのです。報道に対する市民の目が厳しい今だからこそ、一番の根本のところを考えてほしいと思います」 (聞き手=編集委員・豊秀一)
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かねひらしげのり 53年生まれ。77年TBS入社。モスクワ、ワシントン両支局長、報道局長などをへて、執行役員。04年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。」(2016/03/30付「朝日新聞」p19より)
上の電波停止の高石発言を「発言があったこと自体に触れないテレビ局もあった。」のはNHK。
ここまで露骨な政権側の報道姿勢だと、まともにNHKニュースを見ることは出来ない。一般視聴者にとって、NHKニュースが信用出来ないと言うことは、大変な事。
ではどの局のニュースを見る??
上の記事で田英夫が出て来た。Wikiによると「1962年10月から放送を開始した『JNNニュースコープ』の初代のメインキャスターとなり、1968年3月まで務めた。日本独特の文化であるニュースキャスターの先駆けであるとされている。」とある。
1962年というと、昭和37年、そして辞めた1968年というと昭和43年である。
まさに自分が高校時代から大学生の頃である。特に大学1年の頃は、「朝日ジャーナル」を愛読していた時期。時代はベトナム戦争のころ。
当時、テレビを見る環境には無かったが、田英夫は良く覚えている。応援もしていた。そして解任されたことも覚えている。だから、その後、国会議員として選挙に出た時には、真っ先に投票した。
結局、辛口は抹殺される。
上の現場の声を聞くと、テレビ報道の現場は、まさに萎縮してしまっているという。
我々一般国民は、辛口キャスターが全員解任されるなかで、今世界で起こっていることをどこで知ったらよいのか・・・
「軽減税率」で買収されてしまった新聞、そして高石発言などで萎縮しているテレビ。
何事も、長い目で見れば良い方向に向かうのが世の常。しかし、今の日本は、時間と共に、転落し続けるようで怖い。
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コメント
エムズ様、こんばんは。
私は、「ジャーナリズムとは必ず偏向する物だ」との認識で日々のニュースを見ています。
自分の目で直接みたり、感じたとしても、それが100%真実とは断言出来ないのではないかと思います。
NHKと民放を足して2で割り、そこから2割引くくらいでちょうどいいのかなぁと。
特に震災以降『報道ステーション』のセンセーショナルな題名での特集報道は3〜4割引きします。(笑)
いっそニュースキャスターなどは、今話題の人工知能に担当させれば、本音と建前を捨てた「人類には不都合な真実」がみえるのではないか、、、とも。
それはそれで怖いですが。(笑)
【エムズの片割れより】
先日、兄貴の所に行ったら、朝日と読売を読んでおり、両方読むと、両面が載っていてバランスが良いと言っていました。
裁判ではありませんが、両極端の話を聞いて、自分で判断する・・・のですかね・・・。
投稿: 白木蓮 | 2016年3月30日 (水) 22:23
『大きな権力を持っている者に対して監視の役を果たす』『少数派であることを恐れない』『多様な意見を提示し、社会に自由の気風を保つ』 こんな当たり前のことが出来ないジャーナリズムでは、その存在理由が無いに等しいと思うのです。
現代のジャーナリズムはそうなりつつあるようで、危機感でいっぱいです。
【エムズの片割れより】
前に半藤一利さんが、「自分が言いたいことを言えるので、まだマシ」と言っていましたが、どうしてどうして、憲法の自民党案を読むと、言いたいことを言えなくなる時代が来るような気がします。
投稿: 通行人 | 2016年3月31日 (木) 10:04
NHKのニュースがひどいのは皆さんご存知ですが なかでもNHK名古屋のそれは 特段ひどいと思います。「今日のサミット」枠があってひたすら政権の広報を毎日流しています。
【エムズの片割れより】
そうですか・・・。まさに籾井会長の「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」が生きていますね。
そのNHKに自分はお金を払っている訳で・・・。
日本も後進国に成り下がったものですね。
投稿: todo | 2016年3月31日 (木) 23:09
先日下記の記事など読み久しぶりに溜飲が下がりました。
山尾志桜里議員という人、正論派で期待できそうです。応援したいと思います。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/177466
下記ビデオを見始めたらやめられなくなりました。
ホント理論派で(検事仕込みということでしょうか)、頭の切れもたいしたものと思えます。
https://www.youtube.com/watch?v=El3Ds8aaWug
https://www.youtube.com/watch?v=O6y1IShdb5o
【エムズの片割れより】
自分もこのYoutubeを見だしたら、止まらなくなりました。
自分も山尾志桜里議員のファンになりそう・・
そして、日刊ゲンダイはいつも面白いですね。
(朝日を止めて、日刊ゲンダイを取りたいくらい・・・!?)
そして、改めてNHKの国会中継というのは、発言者のマイクだけがONなのを知りました。
つまり、延々と高石大臣のマイクだけがONで、注意する委員長も、反論する山尾議員の声も拾っていない。
そもそも議会の中継は、議場の全てを伝えるべきで、NHKが中継する発言を結果として“決めて”いるのは、感心しません。
投稿: 常念坊 | 2016年4月 1日 (金) 16:22
エムズ様、お返事ありがとうございます。
はい、私もエムズ様のお兄様と同じようなスタンスでいます。
(朝日と読売2誌を読む)
判断など大それた事は出来ませんが、なるべく左右にひっぱられず、少しは中庸で居られるのかなぁとは思います。(笑)
今夜は近所の夜桜見物をして来ました。
世田谷区はまだ五分咲きですが、日頃のトゲトゲしたニュースを暫し忘れて、心のリハビリになりました。(^-^)
投稿: 白木蓮 | 2016年4月 1日 (金) 22:05
最近40年近く読んで来た日経の購読を止めようかなと思っていますよ。安倍政権寄りのバカバカしい記事が目につくことがあるからです。読める記事は匿名のコラムが多いのが最近の日経の印象です。本来、経済本位の日経が政治記事などで権力にかなり毒されているように思えるのです。
一層、日刊ゲンダイにしようかなと・・思っています。
【エムズの片割れより】
先日、ある友人がこんな事を言っていました。「朝日は見方が偏っている。読売も渡恒の息のかかった偏った見方で、日経が一番バランスが良い様に思います。」
自分も、十数年読んできた日経を、3月末で止めました。理由は単純で、通勤途上で読んでいた日経の(通勤が無くなったので)居場所が無くなったから。
そもそも日経の立ち位置は、経済界の代表。
自分も本当は、意識的に朝日と読売を読みたいのですが、経済的と時間的な理由で出来ていません。
朝日に毒されない(手なずけられない?客観的な)読み方を模索中です。
「日刊ゲンダイ」はいいですね~
投稿: 常念坊 | 2016年4月16日 (土) 18:43