全員が遺産放棄~誰が精算?
だいぶん前だが、日経にこんな記事があった。
「家裁の活用法 多額の借金抱え父が死亡 相続放棄、申請が必要
Aさんの父は、営んでいた家業で借金を抱えたまま80代で亡くなった。Aさんとその妹が帳簿などで調べたところ借金は予想以上に多額で、父が残した預金や不動産などを換金してもとても返済できる金額ではない。何かいい方法はないだろうか。
相続においては、預金や不動産などの資産だけではなく、借入金などの負債もあわせて受け継ぐのが原則です。Aさんの例で母はすでに他界しており、このままだと、法定相続人であるAさんと妹の2人で借金返済の義務を負わされます。
父の残した資産を手放すことで負債を全額返済できるならまだしも、そうでないならAさんらには大きな重荷です。こうした場合を想定して民法では「相続放棄」が認められています。資産も負債も一切、受け継がず、親の遺産と無関係になることです。
事例のように「明らかに債務の規模が資産を上回るのであれば、相続放棄が遺族にとって有効な手立てになる」と弁護士の横堀真美さんは指摘します。相続放棄は遺族間で「合意すれば成り立つと勘違いする人も多い」そうですが、実際には家庭裁判所に手続きをして初めて認められます。
注意が必要なのは、相続放棄には期限があることです。相続発生を知ってから3カ月以内に手続きをしないと自動的に、資産も負債もすべて相続(単純承認)したとみなされます。どうしても判断がつかない場合は、期間の延長を家裁に申請することが可能です。
家裁では必要な書類が何かを確認してください。手続きには相続人の戸籍謄本や、亡くなった人の除籍謄本などを添えて、申述書を提出します。申述書は原則、相続人それぞれが家裁に提出する必要があります。
誰かが相続放棄をすれば代わりの誰かが借金などを相続する必要が生じます。その順番は法律で定められています。仮にAさんと妹が相続放棄をし、他に親族が亡父の弟しかいなかったとすると、その弟が借金を背負う立場になります。相続人になる可能性がある親族に知らせ、相続放棄の手続きをしてもらうのが大切です。
遺族が全員、相続放棄をしたら、亡父に融資をしていた金融機関はどうしたらいいのでしょうか。債権者は、家裁に相続財産管理人の選任を申し立てることが可能です。管理人は弁護士などから選ばれます。資産や負債を精査したうえで遺族に代わって債権者への返済手続きをする役割です。
最後に「限定承認」という相続の方法にも触れておきましょう。負債があっても、残された資産の範囲内で返済すればよいという仕組みです。Aさんの例とは異なり、資産のほうが負債より大きい可能性がある場合、容易には相続放棄を決断できないでしょう。そんなときに限定承認を選べば、過剰な借金を背負うリスクも排除できます。」(2015/11/04付「日経新聞」p17より)
相続放棄は、よく聞く話だが、その後片付け(放棄された後の借金の処置)、つまり全員が遺産放棄した後は、誰が精算するのだろう?
Netで探っていくと、こんな記事が見つかった。
「相続放棄をして、相続人がいなくなるとどうなるの?
相続放棄をすると、放棄した人は初めから相続人ではなかったことになります。そうすると、亡くなった方にご両親やご兄弟が居る場合、その方々に相続権が移ったりします。
もっとも、マイナスの財産を相続しないようにするために相続放棄する場合がほとんどでしょうから、それらの方々が負担を負わなくてもよいように、事前に調査してそれらの方々の相続放棄手続も行う場合がほとんどです。
さて、そうやって相続人が誰一人いなくなってしまった場合、亡くなった方が持っていた少しの財産とたくさんの借金はどうなるのでしょうか?
最終的に財産が残るのであれば、その残った財産は国のものになります。もっともその前に、財産を分け与えるべき人がいないかを調べたり、残された財産の中から借金を平等に返済する必要が生じます。ではこういった事務(清算事務といいます。)を誰が行うのでしょうか。
相続人全員が相続放棄すると相続人がいないことになりますが、相続人がいない場合は、亡くなった方の財産は「相続財産法人」という一つのまとまりになって、管理され清算されていくことになります。
そしてその管理や清算を誰がするのかというと、相続に利害関係を持っている人か検察官が家庭裁判所に申し立てて選んでもらう「相続財産管理人」が行うこととされています。
ここにいう利害関係人とは通常、亡くなった方にお金を貸していた人などその財産に利害関係を持つ人のことをいい、そういう方々は選任請求ができます。そして請求する際は、誰々に管理人をお願いしたい、と推薦をすることもできますが、家庭裁判所はそれを無視して適任者を選ぶこともあります。
最後に相続放棄した人はこの相続財産管理人に財産管理を引き渡すまで、その財産がむやみに失われたりしないよう管理する義務を負うことになるので注意して下さい。相続放棄をしたからといってその瞬間から全て解放されるとも限らないということです。
なお、相続財産管理人の選任を請求する際は、「予納金」というお金を裁判所に納める必要がある場合がある点に注意して下さい。これは管理業務の経費や相続財産管理人の報酬を支払う為の資金になるものであり、亡くなった方のプラスの財産ではそれらを賄えないような場合に備えて納めるものです。
予納金の金額は数十万円から100万円前後の間で、家庭裁判所が事案の難しさに応じて決定します。つまり亡くなった方のプラス財産がそれ以上ある場合は納めなくて良い場合もありますし、予納金が余れば後で返還されます。
予納金はまとまった金額になりますし、必ず返ってくるものでもないので、その負担割合については相続放棄する方々の間で決めておいた方がよいでしょう。
さて相続財産管理人が選任されてしまえば、後はその管理人が法律に従って財産を整理していくことになるので、この問題は相続放棄した方々の手を離れることになります。最終的に処理が終わるまではだいたい1年前後かかる例が多いです。」(ここより)
なるほど、そんな法律があるのか・・・
「民法第940条
第1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産と同一の注意を以って、その財産の管理を継続しなければならない。」
それに関して、こんな記事もあった・・・。
「また、相続放棄をすると最初から相続人ではなかったことになりますから、相続財産(たとえば家や土地)が残っていたとしても、その後でどうなろうが関係ないということになりそうですが、そうではありません。
相続放棄をした者が、管理下にあった相続財産の管理までも即座に放棄してしまうようなことになると、他の相続人や債権者にとって不都合がありますから、民法は相続放棄をした者の管理継続義務を規定しています(民法第940条1項)。相続放棄によって相続人が1人もいなくなる場合であれば、最後に放棄をした者がこの義務を負うことになりますから、しかるべき手続をとらなければ相続放棄した後も思わぬ責任を追及されてしまうおそれがあるのです。
こういった問題に対処するのが“相続財産管理人”です。相続財産管理人とは、家庭裁判所の審判によって選任され、相続財産の管理と調査・換価などを行う者で、通常は地域の弁護士が就任します。相続人がいるかどうか明らかでない財産は法人化(財団化)するので、相続財産管理人はこの財団を管理する立場となります。
最後に相続放棄をした者の財産管理義務は、この相続財産管理人が相続財産の管理を始められるようになれば終了します。・・・」(ここより)
結局、遺産放棄のババ抜きで、最後にババを持った人(最後に相続放棄した人)が、管理をしなければいけない、ということらしい。
実際には、「後のことは知りません」と、次の相続人に内緒で遺産放棄をすることは少ないだろうから、まあ一緒に相談するのかな・・・
でも請求は結局、債権を持つ銀行などが、行うのだろう。納める予納金以上の返済を期待して・・・
TVドラマ「遺産争族」(ここ)のような話は、今の世の中ではほとんど無い。
長い介護の間に、少額の蓄財など、簡単に消えてしまう。
これからの世の中、“タナボタの遺産の分配”よりも、“親のマイナス遺産からの逃げ”、または、“せめてマイナス遺産だけは子どもに残さない”という話が、世の中の話題になっていく気がしてならない・・・。
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