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2015年12月23日 (水)

NHK「新・映像の世紀」第3集「時代は独裁者を求めた」が圧巻

今日は天皇誕生日だという。
今朝の新聞によると「天皇陛下は、会見の半分ほどの時間を使って戦争や平和への思いを語った。民間人の犠牲が大きかったことに触れ、「平和であったならば、社会の様々な分野で有意義な人生を送ったであろう人々が命を失ったわけであり、このことを考えると非常に心が痛みます」と述べた。」とある。
前に何度か書いているが、天皇の平和への想いがひしひしと伝わって来る。

昨夜録画で見た、NHK「新・映像の世紀」第3集「時代は独裁者を求めた」(2015/12/20放送)が圧巻で、脳裏に焼き付いている。

NHKのサイトにはこう解説がある。
「ミュンヘン近郊の山荘で、くつろぐ柔和な表情のヒトラー。その傍らには、23歳年下の愛人エヴァ・ブラウンの姿がある。物語は、地下壕でヒトラーと心中したエヴァの遺品の中から発見されたプライベートフィルムから始まる。
5000万を越える人々が犠牲となった第二次世界大戦。しかし、あの惨劇は一人の独裁者の狂気だけが生み出したものではない。世界恐慌で資本主義に幻滅した人々はファシズムを支持し、世界中の企業がナチスへの支援を行った。自動車王ヘンリー・フォードはナチスに資金援助したと言われ、空の英雄リンドバーグは、ヒトラーと手を組むことが世界を平和に導くと信じた。アウシュビッツ収容所の大量の囚人管理を可能にしたのは、アメリカ企業の開発したパンチカードシステムだった。
なぜ世界は独裁者を迎え入れたのか、なぜ止められなかったのか。未公開映像から浮かび上がる、独裁者に未来を託し、世界を地獄に追い込んでしまった人々の物語である。」(
より)

*この番組は、(ここ)で全編見ることが出来る。

気になったシーンをメモしてみると・・・
・第一次世界大戦の敗戦国ドイツは、多額の賠償金を払えず、経済がどん底。国民は天文学的な物価上昇に苦しんでいた。
・クーデター失敗の獄中のヒトラーを支援したのが、ワーグナー家一族。
・反ユダヤ主義者の自動車王ヘンリー・フォードはナチスに資金援助。
・フォードが経営する新聞は、反ユダヤ主義を掲げた。
・1929年10月、米フォール街で株価が大暴落。世界恐慌の始まり。最も深刻なダメージを受けたのが、敗戦から立ち上がりかけていたドイツ。失業率30%以上。
・ヒトラーが、「強力な独裁政治、ファシズムこそがドイツを救う」と選挙活動を開始。
・ヒトラーは、内閣があらゆる法律を国会の採決無しに制定できる「全権委任法」を、野党を取り込むことで、合法的に成立させた。
・ヒトラーが失業者対策で、世界初の高速道路網アウトバーンを建設。
・ヒトラーが描いたとされる国民車のデザイン画は、VWの建設を経て、「ビートル」という国民車として世に出た。
・ヒトラーは、国民生活の向上のため、週休2日制、週40時間労働を企業に求め、大企業には社員食堂の設置を求めた。
・ドイツの工業総生産は、政権発足後5年で倍増、税収は3倍に伸びた。公共投資で景気回復を図るという先進的な経済政策は大きな効果をあげ、ドイツはいち早く恐慌から抜け出していく。
・1934年の国民投票で、ヒトラーは89.9%という支持率を得る。
・・・・・
そしてユダヤ人弾圧の「ニュルンベルク法」が成立。
・100社を超えるアメリカ企業がドイツに子会社を構え、ドイツと協力関係を築いている。デュポン社は兵器ビジネスに、スタンダード石油はドイツが戦争に備えるために合成ガソリンを生産。GMとフォードも・・・
・ドイツのフォードの子会社は、ドイツ軍の軍用トラックの1/4を生産。ヘンリー・フォードはナチスから勲章まで授与されている。
・レニングラードはドイツ軍によって900日間にわたって封鎖され、飢えと寒さで、100万人以上が犠牲になり、そのうち8割が餓死者。

1944年7月20日、ヒトラー暗殺計画。首謀者はドイツ軍の将校たち。その裁判。
裁判官「総統への忠誠を裏切るとは、いったいどういうことなんだ」
被告「忠誠心はもうありません」
「忠誠心はないだと?」
「総統が世界の歴史に果たした役割は凶悪な犯罪者であると確信し・・・」
「黙れ!」
この人物は直ちに絞首刑。その家族や親類など、600人以上が逮捕され処刑が行われた。

1942年9月2日、第二次世界大戦終結。
151223eizounoseiki ブーヘンヴァルト強制収容所。5万人以上がここで犠牲となった。連合軍はこの場所を、ドイツ人にも見せなければならないと考えた。そして見学させられるドイツ人。
女性は気を失い、男性は顔を背け、“知らなかったんだ”という声が、人びとから上がった。すると、開放された収容者たちは、怒りをあらわにこう叫んだ。いいや、あなたたちは知っていた。

最後のシーン。骨と皮だけになった収容者たちが裸で歩く後ろ姿。
それがこの悲劇の全てを物語ってる・・・

ヒトラーは、ユダヤ人虐殺の狂気の独裁者、とだけ描かれることが多い。しかし、独裁者に合法的になれたのには、ドイツの復興による国民の支持を得たという背景がある。
それをこの番組は丁寧に描いてくれた。
そして、そんなドイツを、単なる儲けの手段として利用したアメリカの大企業。

屍体は、映像でボカされることが多い、この手のドキュメンタリーで、この番組では、これでもか、これでもか・・・と、何度も出てくる。
そう、屍体はこの悲劇を描くのには、目を背けられない現実。

このドイツを他人事として見ることが出来るか?
実は、日本も同じなのだ。
日独同盟を持ち出すまでもなく、日本が南太平洋で行ったことは、まさに侵略国ドイツをマネしただけ。
そう思うと、この番組は、単なる遠いヨーロッパの出来事とは思えなくなる。

今日の天皇の言葉と同時に、我々は改めて「戦争」を深く考えたいし、こんな作品を作ることが出来るNHKを応援したい。

★我が家の愛犬・メイ子も、病気がちながら、本日めでたく13歳の誕生日を迎えました。
151223meiko

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コメント

「クローズアップ現代」「ニュース報道」の「畏縮・自粛・迎合」のひどさが目に余るNHKですがこの番組は素晴らしかったです。NHK内でがんばる人たちにエールを送ります。
 私は 国家間の軍事同盟が「戦争を誘発」すると考えています。よく「日米同盟」が戦争への抑止力になるなどといわれますが100%嘘でしょう。戦争に巻き込まれる・・・・などということではなく・・・・戦争がやりやすくなる・・・・戦争のハードルが低くなるということです。かって日本は「日英同盟」をバックにして[日露戦争に突入していきました。また第1次世界大戦にも参戦し「戦争によるうまみ」を味わい 戦争国家への道を走ることになりました。繰り返します。軍事同盟は抑止力ではなく戦争への誘惑の道なのです。
 自民党が「歴史を学び未来を考える本部」を設け歴史修正を本格化させようとしています。よく注意・注目していく必要がありそうです。

【エムズの片割れより】
自分も、NHKにはまだ、会長に迎合しない良識派が残っているんだ・・・と、気持ちが明るくなりました。

投稿: todo | 2015年12月24日 (木) 22:04

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