「私は嫌だ」いえる社会を
このタイトルが心をえぐる・・・。つまり、そう簡単な事ではないのである・・。
先日の朝日新聞にこんな一文があった。
「(政治断簡)「私は嫌だ」いえる社会を 編集委員・松下秀雄
戦争について学ぶために読んだ資料の中に、次の一文がある。日中戦争に赴いた軍医が記した患者の声だ。
「早く一線へ行って戦ひたい《中略》(内地に)帰される位(くらい)なら死にたいのです。私が若(も)し内地へ帰されたら新聞にすぐ出されます。国賊を出したといふので両親も兄弟も土地に居(い)られません。結局皆生きて居られなくなります。一家全滅です」
国賊! 一家全滅!
その言葉にギョッとした。
軍医の見立てによれば、病のもとは体が弱く、行軍についていけないのを戦友にやゆされたことだった。その言葉が頭から離れず心を病み、マラリアにもかかる。このため内地に帰されるのだが、前線に行きたいと泣いて訴える。
なんと、軍に「帰れ」といわれても、家族が地域で暮らせなくなる(村八分のようなもの?)から戦いたい、死にたいと言っているのか……。
人々を戦争に駆り立てた仕組みの一端が、のぞいているような気がした。
*
嫌なことは嫌という。違うと思うことは違うという。
自分の思いを自由に表現できることがどれほど大切か、改めて思う。だが私たちは、手にしているはずのこの大切な権利を、どこまで行使できているだろうか。
さすがに村八分が怖いという声は聞かなくなった。けれど、余計なことを言ったら仕事に差し支える、世間から指弾されるなどと思って言葉をのみこみ、がまんしている人は結構多いのではないか。
安保法制に反対するSEALDs(シールズ)の若者たちにも、そんな類いの圧力がかかった。
脅しなのか助言のつもりなのか、就職できなくなるぞという書き込みがネット上に現れた。さらに、戦争に行きたくないというのは利己的だという国会議員。その果てに、メンバーとその家族に対する殺害予告だ。
それでも彼ら彼女らは声をあげる。なぜか。メンバーの一人、元山仁士郎さん(23)に尋ねたら、こんな答えが返ってきた。
「いい企業に就職したら安定した生活を送れて人生ハッピーというのは、もうあまりないんじゃないでしょうか。『就職できなくなるから言えない』といっていたら、次は『昇進できなくなるから言えない』となって、ずっと発言できない。どこかで腹をくくって自分を通さないと、なぜ勉強してきたのかわからなくなる」
この時代、会社に忠誠を誓ったところで一生を保障してくれるとは限らない、ということか。とはいえ、勇気がいるだろうなあ。長い人生がかかっているのだから。
*
私は、SEALDsの若者たちに敬意を抱いている。
「戦争法反対」と唱えているからではない。主張の中身はさまざまでいい。
自分の頭で考え、言葉にする。「私は嫌だ」といえる、空気に流されにくい社会をつくる。それをめざし、圧力に負けずに取り組んでいるからだ。それこそ、この国の民主主義にとって大切だからだ。」(2015/10/25付「朝日新聞」p4より)
先日の東芝事件でも「上司の指示に逆らえない企業風土」と報道されている。これはまさにその通り。しかしこれはどんな組織でも多かれ少なかれ存在する。軍隊ほどでは無いにせよ、上司の指示を守らない組織は成り立たないし、組織として生き残れない可能性も・・・
先日、WOWOWドラマ「連続ドラマW しんがり~山一證券 最後の聖戦~」(ここ)を見た。 1997年に起きた山一證券の自主廃業を題材に、「社内調査報告書」で、事件の全容を解明するまでの、物語である・
山一における様々な出来事は、全て実日時。なるほど・・・。山一証券は法人として既に死亡しているので、個人情報の保護の対象にはならいのだろう。
しかし登場人物の動きがリアル・・・
案の定、物語通り、「社内調査報告書~いわゆる簿外債務を中心にして~」は公開されていた(ここ)。
最後の方を読んでみると、まさにドラマ通り・・・
原作者の言葉も(ここ)にあるが、ドラマでは変えてあるが、ほとんど事実に基づいたドラマだったようだ。
ここでも、企業における「上司に逆らえない」風土が描かれている。一握りのトップのスタンス(方針)が、100年の伝統ある、何千人もの会社を、いとも簡単に消し去ってしまう恐ろしさ・・・。
「こんな数字、みっともなくて出せない」と言ったという東芝における、トップの保身も同じだ。
“「私は嫌だ」いえる社会を”と言うことは簡単。でも実際に実行することは、組織内の人間は非常に難しい。
何も言われない立場、何の命令もされない立場。それは何とストレスが無い世界か・・・
そかしそれは、自己責任の自由業だけに与えられる特権。
自分もこれからは、社命ではなく、カミさんの命令・・・。
イヤイヤやらされる仕事に比べれば、こんなことはどうって言うことはない??
いや、仕事の重圧が無くなってみれば、それなりに重たい命令???
人間、死ぬまで耐えねば・・・!?
| 0
コメント
中島みゆきに「二艘の舟」という歌があります。
この歌を心の支えにして、退職後の人生は、いやなものはいやと行って、生きていこうと思ってます。
言ってみなきゃ始まりません。
【エムズの片割れより】
Youtubeで「二艘の舟」を聞きました。旋律が難しいですね。なかなか奥が深い歌詞で・・・
この歌をYoutubeで検索していたら、同じ「うらみ・ます」のカバーを発見しました。うまい!
投稿: Tamakist | 2015年11月10日 (火) 23:14
「私は嫌だ」と言えないところへ行くのが嫌になって学校へも会社へも行きたくなるのでしょうね。結婚して世の中で一番強いのは主婦だと思った事があります。普通に暮らしていれば近所にも、家族にも買い物に行く店でも、嫌な事は嫌だと言えるからです。しかし、私の失敗は結婚したくない相手に「嫌だ」と言えなかったことです。エムズ様 家に居なければならなくなったら主夫になることです。全部嫌な事は嫌だと言えますよ。楽しいですよ。しかし家事を毎日根気よくすることは嫌だというよりも『嫌』かもしれません。苦の娑婆とはよく言ったものです。
【エムズの片割れより】
まさに学校でのイジメが「私は嫌だ」と言えない状況ですよね。
しかし白萩さんの“失敗”はリアルで、怖い・・・
主夫ですか・・。まあ覚悟はしているのですが、食後の台所の片付けだけは、カミさんの主婦を尊敬しています。
あれほどキライなものはありません。それが自分の主夫にはだかる壁ですかね・・・。
投稿: 白萩 | 2015年11月11日 (水) 21:31