今の日本の歴史的転換点を、100年後の歴史の教科書はどう書く??
先日、こんな記事を読んだ。
「池上彰の大岡山通信 若者たちへ(64)
21世紀の民族大移動 常に歴史の分岐点に立つ
いま起きている現象を世界史の中で位置づけてみる。このところ、私はこれを心がけるようにしています。ジャーナリズムは、日々のニュースを記録する仕事ですが、日々のニュースは、蓄積されると、やがて歴史になるからです。
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その観点から世界を見渡すと、ヨーロッパに押し寄せる難民の奔流が大問題になっています。これを私は「21世紀の民族大移動」と捉えています。
民族大移動。高校の世界史で、「ゲルマン民族の大移動」を習ったはずです。さて、どのような記載だったのか。
「375年、北東アジアから黒海の北に入り込んでいたフン人が東ゴート人の国を征服すると、西ゴート人はドナウ川を越えてローマ帝国領内に移動し、バルカン、イタリア、南フランスをへてイベリア半島に落ち着いた。その影響を受けて、他の多くのゲルマン部族も移動を開始し、(中略)この大きな動きのなかで、西ローマ帝国が滅び、西ヨーロッパはゲルマン的要素を強く帯びることになったのである」(『もういちど読む山川世界史用語事典』)
民族の大移動によって、ヨーロッパは形成されました。いまのヨーロッパ情勢を、1000年後の世界史教科書は、どのように記述するのでしょうか。たとえば、以下のようなものでしょうか。
「2015年の半ばになると、中東シリアの内戦を逃れた人たちが、難民となってヨーロッパに入るようになる。この動きに乗じて多数の北アフリカ・中東のアラブ人が続き、その数は百万人単位に達した。これを『21世紀のアラブ民族大移動』と呼ぶ。
大勢の難民が押し寄せたヨーロッパは、人道的な見地から受け入れるべきだと主張する政治勢力と、難民排斥派とに分裂。混乱を極めることになり、多くの国で移民排斥派が政権を奪取。政権交代が相次いだ。
それまでのヨーロッパは、キリスト教文化圏だったが、イスラム教徒のアラブ人が急増することで、これ以降、ヨーロッパは急激なイスラム化が進んだ。
過去にヨーロッパへの進出を試みては撃退されてきたイスラム勢力は、遂(つい)に平和裏にヨーロッパを席巻したのである」
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こんな項目が書かれるのでしょうか。それとも後半の文章は、次のようなものになるのか。
「大勢の難民が押し寄せたヨーロッパは、難民受け入れの是非をめぐって一時混乱したが、やがて難民受け入れのコンセンサスが得られ、難民たちの多くは定住。高齢化で労働力不足に悩まされていた西ヨーロッパ諸国に労働力を提供することになった。
キリスト教社会に、これまでとは異質な集団が多数入ってきたことで、ヨーロッパは多様化が進み、キリスト教文化とイスラム教文化の融合によって、新たな文化を創り出した」
さて、どちらの歴史を選択するのでしょうか。私たちは、常に歴史の分岐点に立っているのです。
東京工業大学の次回の講義では、こんな観点を学生たちに提示してみることにします。」(2015/10/26付「日経新聞」p19より)
こんな記事を読みながら、安倍政権の秘密保護法、集団的自衛権行使、などの歴史的転換点について、100年後の歴史の教科書は、どう書くのかな・・・と思った。
おっと、こんな記事もあった。
「公文書管理法見直し 政策過程未記録検証を
中央省庁や独立行政法人に行政文書など公文書の作成から廃棄・移管までを統一ルールで扱うよう定めた公文書管理法が来春で施行5年を迎える。国会付帯決議に基づき、内閣府の公文書管理委員会(委員長・宇賀克也東京大教授)は見直しの検討を始めた。この4年半で、重要な政策決定に至る過程の文書が作成・保存されていない事例がたびたび明らかになった。その検証が議論の出発点となる。 公文書管理法は「公文書は共有の知的資源として国民が主体的に利用できる」(第1条)と明記。行政が効率的に運営されるようにするとともに、情報公開や後世の歴史検証を可能にすることを目的とした。
ところが、同法の目的を骨抜きにするような問題が相次ぎ判明した。
政府が集団的自衛権行使について憲法解釈を変更した昨年夏の閣議決定をめぐり、内閣法制局は内閣官房の国家安全保障局から閣議決定案文への意見を求められ、「意見なし」と回答した。法制局は集団的自衛権の行使を40年以上も違憲と判断してきたが、過去の見解との整合性を議論した記録を示す行政文書はないという。残っているのは案文に「意見なし」とした決裁文書だけだ。
同法は「経緯も含めた意思決定に至る過程、事務・事業の実績を検証できるような行政文書の作成の義務」(第4条)を行政機関の職員に課している。市民団体の情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は「政治レベルの判断で憲法解釈が変えられたとしても、法制局は意思決定にかかわった以上、文書を残しておく義務がある」と指摘する。
東日本大震災の対策を協議するため政府が設置した各種会議で、議事録が残されていなかったことも12年に判明。その後「歴史的緊急事態」に対応する会議は議事録を必ず作成、保存すると改めて確認した。
重要政策の決定過程の文書が作られないことがあるのは、「何を作成するかが各省庁の裁量に任され、組織や職員の意識に依存していることに一因がある」(三木理事長)。法文上、事案が「軽微」であれば作成は不要。行政文書の定義が「職務上作成・取得され、組織で共有される文書」に限定されるため、職員の私的メモと判断されれば保存の対象外となる。
公文書管理員会委員の保坂裕興学習院大教授は「現行法は先行する欧米を参考にルールを定めたが、実施するために最も重要な組織体制と人材養成の手立てを欠いている」と指摘する。
例えば、行政文書に歴史的価値があれば保存期間満了後、公文書館に移管する。保坂教授は「歴史的価値の判断は簡単でない。欧米では『アーキビスト』などと呼ばれる専門職が支援する」と話す。施行後、移管される行政文書が減少しつつあり、移管の判断を先送りした保存延長が増えているとみられる。
電子文書のルールも行政実務の実態に追いついていない。メール類が、歴史的価値がなく官庁の判断で破棄できる保存期間1年未満の文書として扱われている可能性を指摘する関係者もいる。
今後の検討項目は、作成すべき行政文書の範囲や人材育成を含めた体制強化に加え、裁判所や国会、自治体など国の行政機関以外での適正管理、データの集中管理とバックアップなど多岐に及ぶ。いずれも立法時から残された宿題で、施行後に判明した問題は予想された事態ともいえる。「公文書は健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」という法の趣旨を、政権がどう受けとめるかが問われる。(編集委員 田原和政)」(2015/10/26付「日経新聞」p38より)
一方、安倍首相は9月14日の平和安全特別委員会で、「法案が成立し、時間が経てば国民の法案に対する理解が深まっていく」という答弁をしたという。
首相が「歴史の判断は我にあり」と答弁しているのに、これら後年に残すべき資料の“軽さ”は、どう理解したら良いのか・・・
極めつきは、下記の議事録問題。
「安保法「聴取不能」の議事録 与党判断で「可決」追記
安全保障関連法を採決した九月十七日の参院特別委員会の議事録が、十一日に参院ホームページ(HP)で公開された。採決は委員長の宣告後に行われるのが規則。採決を宣 告したと主張する委員長発言を「聴取不能」と認めておきながら、安保法を「可決すべきものと決定した」と付け加えた。採決に続き、議事録の内容まで与党側が決めたと、野党は反発している。
野党議員によると、参院事務局は、追加部分は「委員長が認定した」と説明しているが、野党側は事前の打診に同意していない。
九月十七日の特別委では、委員長不信任動議が否決されて鴻池祥肇(こうのいけよしただ)氏が委員長席に着席。民主党理事の福山哲郎氏が話しかけたところ、自民党議員らが委員長の周囲を取り囲んだ。野党議員も駆け付け混乱状態の中、委員長による質疑終局と採決の宣告は全く聞こえず、自民党理事の合図で与党議員らが起立を繰り返した。野党議員は何を採決しているのか分からない状況だった。
九月十八日に正式な議事録の前に未定稿が各議員に示された。鴻池氏の発言は「……(発言する者多く、議場騒然、聴取不能)」となっていた。
議事録は「聴取不能」までは未定稿と同じ内容。しかし「委員長復席の後の議事経過は、次のとおりである」との説明を追加。審議再開を意味する「速記を開始」して安保法制を議題とし、「質疑を終局した後、いずれも可決すべきものと決定した。なお、(安保法制について)付帯決議を行った」と明記した。
福山氏によると、今月八日に参院事務局担当者が、この議事録を福山氏に示した。福山氏は「委員長が追加部分を議事録に掲載するよう判断したとしても、理事会を開いて与野党で協議する話だ」と了承しなかった。
福山氏は議事録公開について「与党議員らが先に委員長席を取り囲んで『聴取不能』にし、後から速記を開始して可決したと追加する。これでは議事録の信頼性が揺らぐ」と指摘した。
議事録には、安保法の委員会可決だけでなく、付帯決議を行ったことも書き加えられた。この付帯決議は、自衛隊の海外派遣の際の国会関与強化を盛り込む内容で、次世代の党など野党三党と与党が合意した。法律に付帯決議を入れる場合は、委員会で読み上げられるが、野党側は全く聞き取れなかったと主張する。
特別委委員だった福島瑞穂議員(社民)は「可決ばかりか付帯決議もしたと書くのは許されない」と批判する。
委員会採決の翌日、委員会可決について「法的に存在したとは評価できない」との声明を出した弁護士有志メンバーの山中真人氏は、議事録の追加部分について「議員や速記者が委員長の声が聞こえていない以上、採決は存在しない」と強調した。(篠ケ瀬祐司)」(2015年10月12日付「東京新聞」(ここ)より)
実際にあった事実も、後年に残す資料は、自分たちに都合の良いように改ざんする政権・・・。
先の「法案が成立し、時間が経てば国民の法案に対する理解が深まっていく」という答弁が空々しい。
これらの事実を、政権の思惑通りに風化させてはいけない、と思い、転載した。
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コメント
いつも良いお話を勉強させていただいています。この夏私も国会前デモなど、何回か参加しました。今の政権をどうしても許せないからです。自分の考えをなかなかうまく言えませんし、エムズの片割れさまのように ブログなどで発信することもできません。でも本のことや、放送のこと、お考えなど共感することが多く 自分のつたないデモ参加の励みにしております。今の新聞やテレビからは真実はわからない、NHKが本当の意味の公共放送ではないことも 呑気ですがこの一連の安保法制の闘いを通して感じました。憲法、原発、沖縄、ТPP、考えることが多くて気分が重い毎日です。
ただただ、孫たちの世代に圧し掛かる暗い時代を阻止したい思いで勉強、デモに参加しています。それでなければ私たちの前の世代にも申し訳ありません。(多分エムズの片割れさんと同じ位の年代だと思いますので)平和な時代に生きた戦争を知らないこどもたちである私たちが無関心でいいのでしょうか。
獄中メモの話もショックでコメントをしたかったのですが、躊躇していました。しかし、今日の話でも続けてショックでしたので思い切ってコメント(とも言えない、ファンレターのようなものですが)を差し上げました。
【エムズの片割れより】
暖かい応援をありがとうございます。
デモに行かれましたか・・・。ウチは、カミさんが行こうと言っていましたが、どうも腰が重くて・・・
しかし孫世代のために、今我々が、何ができるかを考えたいと思います。
投稿: エムエス | 2015年11月 1日 (日) 15:03