NHK BS1「憎しみとゆるし~マニラ市街戦 その後~」を見て
毎年楽しみにしているNHK BSプレミアム「ザ・ベストテレビ2015」(ここ)。今日と明日の放送である。
外出から帰って、さっそく1日目の録画を見た。これはその一つ。BS1スペシャル「憎しみとゆるし~マニラ市街戦 その後~」である。
NHKのエデュケーショナルのHPに、こう紹介がある。
「(ドキュメンタリー部門 最優秀賞)
BS1スペシャル「憎しみとゆるし~マニラ市街戦 その後~」
NHKエデュケーショナル/椿プロ/日本放送協会
昭和20年、廃虚と化したマニラの街で、2歳の娘の遺体を抱きしめ立ち尽くす男がいた。のちにフィリピン大統領となるキリノ。日米両軍が戦ったマニラ市街戦で妻と3人の子を失い、日本軍を激しく憎んでいた。しかし8年後、キリノは大きな決断をする。憎しみからゆるしへ。そして反対を押し切って、日本人BC級戦犯全員に恩赦を与える。なぜキリノは決断したのか。遺族やマニラ市街戦の生存者の貴重な証言で、その真相を描く。」(2014年8月29日放送。ここより)
★この番組の動画は(ここ)で見ることが出来る。
マニラ市街戦については、当サイトでも2007年に取り上げた(ここ)。
日本が占領していたフィリピンに攻めてきたアメリカ軍との戦闘で、マニラ市民を10万人殺したという事実。この番組は、キリノ大統領が、その戦犯を恩赦で救うまでの葛藤を描く。
ガンに冒されての、病牀での大統領権限の「特赦」。
終身・有期刑戦犯の全員釈放。死刑囚は終身刑に減刑のうえ、日本に送還。日本の刑務所で服役。
唯一生き残った次女は父のキリノ大統領に問う。「どうしてゆるせるの? お母さんもほかの家族もみんな殺されたのに、どうしてなの?」
「もしゆるすことができなければ、穏やかな人生が訪れることはないんだ。我々はゆるすことを学ばなければならない」
そして手術の2日前、1953年7月6日、フィリピンと日本の国民に向けて放送で声明を発表。「私は日本人戦犯に対し特赦を与えた。妻と3人のこども、さらに5人の親族を殺された者として、自分の子孫や国民たちに我々の友となり、わが国に長く恩恵をもたらすであろう日本人に対し、憎悪の念を残さないために。結局のところ日本をキリノ大統領は隣国となる運命なのだ。」
フィリピン国民の反発は強く、1953年11月10日の大統領選で大敗。そして大統領任期切れの2日前、服役中の元戦犯死刑囚全員に恩赦令を出し、全員釈放。そして2年後に死去。
ナレータは番組の最後に言う。「日本とアメリカの戦争によって、街を破壊され、愛しい者を奪われたフィリピンの人びと。憎しみの連鎖を断ち切りたい。許すことが出来なければ、前には進めない。マニラ市街戦から69年が経ちました・・・・」
市民は言う。「私たちは憎むのではなく、ゆるすことを選んだのです。しかし忘れない。“現実に起きたこと”は忘れてはならないのです。」
番組のあとのゲストたちの討議で、こんな言葉が印象に残った。
森達也「彼らが許すかどうかを煩悶して悩んでいる時期に、対象は僕たち日本なんです。日本の人たちはそれについて知っていたかというと、記憶すらしていない。どう考えてもバランスがおかしい」
梯久美子「謝罪という言葉ばかりが近年問題となるが、それ以前に、知ることと、忘れないことをやっているかどうかがまず問われるべき」
三宅キャスター「新たな証言から、市民の証言から、マニラ市街戦の実態と私たちが考えなければならないことを浮き彫りにしてくれた番組だと思います」
「戦争は、勝っても負けても、絶対にしてはいけない」ということと、そして「ゆるす」ということを考えさせられた番組であった。
繰り返すが、この番組は(ここ)で見ることが出来ます。なお明日(2015/09/28)、第2部が放送されます。
(関連記事)
太平洋戦争を考える(2)~マニラ市街戦での殺戮
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★今年の「ザ・ベストテレビ2015」は非常にレベルが高かった。もしお見逃しされた方は、ブルーレイディスクをお貸しする事が出来ます。emuzu-2●fc5.so-net.ne.jp(●は@に書き換え)にご連絡下さい。(2015/10/05追)
(付録~当サイト推薦番組)
NHK BSプレミアム「ザ・ベストテレビ2015」(ここ)
<第1部」9月27日(日)午後0時~3時40分>
▽午後0:05ごろ~民放連賞テレビ教養番組「SBCスペシャル 刻印~不都合な史実を語り継ぐ」(信越放送)▽午後0:58ごろ~ATP賞「BS1スペシャル 憎しみとゆるし マニラ市街戦 その後」(NHKエデュケーショナル、椿プロ/NHK)▽午後1:57ごろ~放送文化基金賞「ETV特集 薬禍の歳月~サリドマイド事件50年」(NHK)
<「第2部」9月28日(月)午後0時~4時15分>
▽午後0:05ごろ~日本放送文化大賞「NNNドキュメント マザーズ~特別養子縁組と真実告知」(中京テレビ放送)▽午後1:00ごろ~文化庁芸術祭賞「君が僕の息子について教えてくれたこと」(NHK)▽午後2:12ごろ~ギャラクシー賞「QABドキュメンタリー 裂かれる海~辺野古 動き出した基地建設」(琉球朝日放送)▽午後3:09ごろ~“地方の時代”映像祭賞「NHKスペシャル 里海 瀬戸内海」
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コメント
私も見ました。渡辺はま子の「モンテンルパの夜は更けて」の歌と、フイリピン大統領の恩赦により、多くの日本人戦犯死刑囚が許され帰国できた話は知っていました。しかしキリノ大統領自身の家族の悲劇や市民の苦悩までは知りませんでした。日本人は、この歴史的事実を将来にわたり永久に忘れてはならないと思います。 第1日目、満州移民とは何だったのか、マニラ市街戦のその後、サリドマイド児の50年後と3本共に私の背筋を正させる番組でした。出演者の最後の感想「ドイツは何故ユダヤ人虐殺が起きたのか、加害を考えてきたのに対し、日本は終戦記念日、被害を強く記憶している。この違いは大きい。」が印象に残りました。
【エムズの片割れより】
確かに、終戦記念日や原爆の日も、被害者の視点ですね。アジア侵略の反省の日は無い・・・
ドイツのナチス反省の歴史教育と、日本の教育の違いは、どこから来るのでしょう。
首相が「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。」と言いましたが、ドイツと全く逆。
恥ずかしいですね。
投稿: かうかう | 2015年9月28日 (月) 00:02
今回の作品を含め毎年8月15日を前後して多くのドキュメンタリーを見てきましたが いつも薄いけど強そうな「膜」に包まれていて「中」がよく見えない もどかしさを感じることがあります。「被害者性」を語ることが多いが「加害者性」については?安倍の70年談話では「孫、子の代には語らなくなりそうです。
しかし「もどかしさ」「薄い膜」の正体はアジア太平洋戦争におけるの最大の責任者の戦争責任を問うことを タブー視しあいまいにしてきたことにあるのではないかと 最近考えています。
一億総ざんげ などではなく 戦争に巻き込まれて行ったとき政治家は、軍部は、新聞は、国民一人一人は どう考え(考えずに)突き進んでいったのか?ということはもちろん大事ですが 最大の責任者が責任を語らずそれを問題にされずに来たことが「もどかしさ」原因なのではないのか?タブーを破る議論こそ聴きたい。知りたいと強く望みます。
【エムズの片割れより】
五輪エンブレムもそうですが、誰も責任を取らない総無責任体制は、企業も同じです。
これは日本の国民性なのでしょうか?
投稿: todo | 2015年9月28日 (月) 03:18
タブーを破る議論をこそ聴きたい といいながら 私自身の言葉にあいまいさがあることにきずきました。
「本土の人間は知らないが 沖縄の人はみんな知っていること」で天皇 裕仁が沖縄には25年、50年米軍の基地を置いて日本の(自分の)防衛のために使って下さいとアメリカに沖縄を差し出したということ。私たちは、私は本当にはわかっていなっかった。
「歌集 小さな抵抗」で知りました。 中国人捕虜の殺戮をギリギリ拒んだ稀有な日本兵が詠んだ歌で
天皇裕仁の命として
かの戦争中に 「あたりまえのこと」として
行われた暴虐の数々。
このことの責任を天皇は取らず また政治も国民も 新聞も ただあいまいに あいまいにしてきた。70年たって安倍のように忘れよう 忘れさせようとするのではなく 今の無責任体制の元凶を抉り出す覚悟で かの戦争責任を今こそ 厳しく問うことが何より大事だという思いが 一層強くなった夏でした。
投稿: todo | 2015年9月29日 (火) 20:37
todoさんの言われること、私も中学生のころから考えていました。周りに天皇は神だと思っている人が少なからずいたからです。まして軍部の中枢にいた戦犯が性懲りもなく兄弟で総理大臣になるとは、反省も恥もない。それに疑問を感じない国民。今『日本はなぜ基地と原発を止められないのか』をやっと4分の1ほど読みました。本当かなと思いながら読んでいます。信じられないような内容ですね。
自分の考えをはっきり言うとすぐ「変わり者」と言われる日本人の体質をなくさない限り政治も変わりそうもない様な気がしています。田舎の自治会体質が国会まで続いています。
【エムズの片割れより】
マスコミでは報道されないことが分かりますね。
今、「獄中メモは問う~作文教育が罪にされた時代」を読んでいます。治安維持法の時代。
これが過去の話ではないことが情けないです。
投稿: 白萩 | 2015年10月 1日 (木) 21:26
とても大切な資料を、ありがとうございます。こう言う事を知らないから、基地が必要だとか、武力で攻めて来たら、武力で対抗しようと言う輩が出て来るんですよね。安倍は、祖父の愚行を妄信しています。岸がやった事は、下手すると戦前に戻りかねない安保闘争だった事を、今の国民は知らない。満州でも幹部だった岸は、アメリカに取り付いて、A級戦犯を逃れた。平和ボケしている極右的な考えの国民は、こう言う情報を知らせなければいけないです。沖縄戦やサイパン、ニューギニア、グアム、硫黄島、中国戦線等々どんなことが行われていたか、史実として勉強させるべきです。この時代の人達が、安倍政権は「戦前の雰囲気に似ている」と仰るのは分かります。とにかくあの男は早く、権力の座から引きずりおろさないと、大変な危険分子です。協力して見守りましょう。これからも、どんどん収集してください。
【エムズの片割れより】
伊勢志摩サミットの首相の顔を見ると、だいぶんお疲れの様子。
体力がどこまで持つか・・・!?
投稿: 尾中潔 | 2016年5月25日 (水) 09:41