「死にかけの三権分立 行政独裁への道、粛々と」
先日、こんな一文を読んだ。
「(終わりと始まり)死にかけの三権分立 行政独裁への道、粛々と 池澤夏樹
新国立競技場の建設費用を巡って国と都がぶつかっている。オリンピックを招致したのは都なんだからもっと負担を増やせと国は言い、都は根拠のない金は出せないと言う。
そもそもは、きちんと予算を詰めないままあんなプランを採用したのが間違い。あの自転車乗りのヘルメットのような建物、大きすぎるところはまるで陸(おか)に上がった戦艦大和だ。その運命も戦艦大和と一緒で、やがて建造費と維持費の海にごぼごぼと沈む。
ここで国が法律を作って都に出費を強いるという案が出て来たが、その前に憲法95条が立ちはだかる――
「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。」
*
懐かしい文言だ。
ぼくがこれを論じたのは1997年4月、駐留軍用地特措法が改正され、国は地主の意思を無視して民有地を米軍用地として永久に借りていられるとなった時だ。これは憲法95条に違反するのではないかとぼくは考えた。
たしかに改正案に「これを沖縄にのみ適用する」とは書いてない。しかし、事実上、適用される場所は沖縄しかない。本土の軍用地はどこももとは公用地なのだ。民有地強奪は沖縄のみ。
更にこの問題の始まりには1972年の沖縄返還に際して時限立法で制定された「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」という法があった。名前からして明らかに憲法違反だが「住民の投票」は行われなかった。
同じことが辺野古を巡っても起きようとしている。翁長知事がどうしても協力しない場合、知事の権限の頭越しに基地建設を可能とする特措法が作られるという展開は充分に考えられる。これまた95条違反のはずだが。
憲法とは本来このように国民を国の圧政から守るためのものである。一地方を犠牲にして他が利を得てはいけない。個人の権利を守ると同じように地方の権利も守る。
それが機能しないのは日本国の司法府が憲法判断を逃げているからだ。
95条違反と提訴してもまともな判決は返ってこない。最高裁は砂川判決で、日米安保のような高度に政治的な問題は「その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」という判例を作ってしまった。その根底には日本国憲法と日米安保条約の間の矛盾がある。辺野古はそれが露骨に現れる場である。70年に亘(わた)って変わらぬ米軍支配。
現代の世界で三権分立は民主主義国家があるべき姿として奨励されている。欧米諸国はどこもその体裁を整えているし、途上国はそれを目指している。経済発展だけでなく国の体制でも彼らは「途上」にあると言える。
*
しかし日本では国の根幹に関わる問題で司法府が憲法判断を放棄してしまった。1997年の段階で95条は死んだ。今は9条が死にそう。
最近になって立法府も死にかけてきた。民意を反映しない選挙制度が一強多弱の体制を生み出し、それにうんざりした国民の無関心が投票率を下げ、全国民の24パーセントの票を集めたにすぎない自民党と公明党が絶対多数になった。しかも議員の多くは党の方針に逆らえない若手の陣笠くんたち。かくして国会はヤジと手続きの機関に堕した。
今の日本は行政府の独裁という状態である。
集団的自衛権についての審議が始まるはるか以前、この4月30日に安倍首相がアメリカで、この法案の成立を約束し「日米同盟はより一層堅固になる。この夏までに成就させる」と宣言した。それでも国会は立法府を侮蔑するあの発言を問題視しなかった。本来ならばあれだけで内閣不信任の動議が出され、場合によっては解散、総選挙だったはずだが、そよとも風は吹かなかった。国会は行政追認の大政翼賛会と化した。
既に司法なく、今また立法なし。日本は三権分立で運営される民主主義国家から行政独裁へと、途上ならぬ途下の道を粛々と歩んでいる。三脚のはずが一脚では立てない、主権在民という地面に穴を穿(うが)たないかぎり。
というところまで来て、さすがに理性が働きはじめたか、憲法学者三名揃(そろ)っての違憲論が政権の暴走にブレーキを掛けた。世論調査によれば、安倍首相の説明が不充分だと思っている国民が過半数。実際、あの説明は論旨の骨もないぶよぶよの代物で、公明党も困惑している。
学者の意見や国民の声で強行採決が阻めるか。それはそれでこの国の成熟を示すものだろうが、三権の方はどう修理すればいいのだろう。」(2015/07/07付「朝日新聞」夕刊p3より)
「違憲立法審査権」という言葉を中学校の頃だったか学校で習ったっけ・・・。
広辞苑にはこうある。
「いけん‐りっぽう‐しんさけん【違憲立法審査権】
一切の法律・命令・規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する裁判所の権限。最高裁判所はその終審裁判所である。法令審査権。司法審査。」
この機能が停止しているらしい。「日本国の司法府が憲法判断を逃げている」「日本では国 の根幹に関わる問題で司法府が憲法判断を放棄してしまった」という。
改めて、教科書の三権分立の図を見ると新鮮である。
三権分立の司法に期待出来ないとすると、この図から現政権の暴走にブレーキをかけるのは「世論」しかないらしい。世論が行政を縛るしかない??
先日の毎日新聞の世論調査では、内閣の支持率が逆転したという。
「毎日新聞は4、5両日、全国世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は5月の前回調査 から3ポイント減の42%、不支持率は同7ポイント増の43%で、2012年12月の第2次安倍内閣発足後初めて、支持と不支持が逆転した。政府・与党が衆院通過を急ぐ安全保障関連法案については、国民への説明が「不十分だ」との回答が81%に上った。会期延長した今国会で安保法案を成立させる方針にも61%が「反対」と答え、「賛成」は28%にとどまった。」(ここより)
しかし、世論に耳を傾けない政権では、何をやってもムダか??
(今朝の朝日新聞によると、当八王子市も日野市も、安保法制に賛成の意見書を可決したという。市民として、何とも言葉が無い・・・)
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コメント
小林 多喜二が殺され 反戦川柳の 鶴 彬が治安維持法によりつかまり 同じく虐殺されたのが昭和12年でした。日本中が「シナを懲らしめろ!」と沸き立ち日中戦争へはいっていったあの1937年です。
此の時「戦争は罪悪である」と語り陸軍刑法違反で裁かれた 僧侶がいたそうです。先日その僧侶「竹中 彰元さん」のお寺へ行ってきました。78年たって再び「国益」「売国奴」などという言葉が飛び交う中で 「彰元さん」がたった一人で あの時代に「戦争は罪悪である」と立ち向かったその強さ、逡巡をしたであろうその心を考えました。
1パーセントの利益を99パーセントの国益であると信じ込ませるためにかっては「満蒙は日本の生命線」「大東亜共栄圏」が語られ
今は「ホルムズ海峡の安全航行」と「日米安保--運命共同体」論が前提であるかのように話されています。・・・・さて本当か?
4月アメリカ議会での宣言とオバマとの約束にもとずいて どうしても強行採決しかないとする政権に対して黙っていては「彰元さん」に対して顔向けできません。・・・・
主権者の権利を行使するのは選挙での投票だけではないはず。自民、公明への抗議。国会への意思表示をしなくては。13日中央公聴会、14日委員会採決、15日衆院本会議強行採決。こんな「熱狂なきファシズム」の進行を食止めなければと心から思います。
【エムズの片割れより】
皇室まで心配して、玉音放送の原盤を公開するとか・・・。
そんな手段しか無くても、国の将来を考えると、何かしなくては・・・と天皇も思っているのでしょうね。
投稿: todo | 2015年7月10日 (金) 01:55
TVで髙村自民党副総裁と反論する元法制局長官の討論を聞きました。髙村氏は、憲法改正の機は熟していないが、近隣諸国の状況が変わったので、憲法9条の解釈を変更し、限定的な集団安全保障の行使を認めるようにする法案提出だ、これを決めるのは内閣と国会であると言う。元法制局長官は、これだけ国民的な議論を呼んだ大問題である、正々堂々と憲法改正をするなり、解散して衆議院議員選挙をして下さいという考えと聞いた。私も国民主権の原点に返って、選挙をしてから採決をして欲しいと考える。何故なら現在の衆議院議員は、選挙でこの問題を主たる論点にして国民に選ばれていない。長年の集団安全保障の行使は出来ないと言ってきた自民党を支持したのではないか。これだけ憲法学者の違憲判断、世論調査の過半数が反対、慎重にとの意見を尊重すべきは当然である。次に、民主党、維新の党に望みたい。対案についての、与党の大幅な譲歩が得られないと分かったら、他の野党にも連携を呼びかけ、直ちに審議拒否して、与党だけの単独出席のよる採決で衆議院を通過させたという現実、歴史を残して欲しい。
【エムズの片割れより】
その通りですね。
なぜ安倍首相は強行しようとしているのか・・・
それは歴史に名を残したいから・・と、誰かが言っていました。
このままでは、米国には良い顔が出来ても、日本では最悪の名を残すことになるのに・・・
やっと、世論調査で、不支持率が支持率を上回りました。もっと支持率が下がらなければ・・・。
投稿: かうかう | 2015年7月10日 (金) 23:04
かうかうさんの御意見に賛成です。
「何故なら現在の衆議院議員は、選挙でこの問題を主たる論点にして国民に選ばれていない。長年の集団安全保障の行使は出来ないと言ってきた自民党を支持したのではないか」
そして、
「他の野党にも連携を呼びかけ、直ちに審議拒否して、与党だけの単独出席のよる採決で衆議院を通過させたという現実、歴史を残して欲しい。」
これが最後の手段ですね。安倍の汚名を歴史に残す・・・。
それにしても、廃案にしたい!!!
【エムズの片割れより】
今日(2015/07/13)、宮崎駿監督がジブリで記者会見をしていました。
「私と逆の考えだ。軍事力で中国の膨張を止めることは不可能で、もっと別の方法を考えるために、日本は平和憲法を持ったのだと思う」「憲法解釈を変えた偉大な男として歴史に名前を残したいのだと思うが、愚劣なことだ」と批判しましたが、その通りです。
こんな首相をいただく日本は、不幸な時代です。
投稿: Tamakist | 2015年7月11日 (土) 09:48
今の政府は完全におかしい。総理がたとえに出した不良3人の話、喧嘩の強い麻生君が助けに来る?子供じゃあるまいし、国家間の話ではないですよね。この頭脳に日本が引きずられてしまうのでしょうか。自民、公明の議員全員が同じ頭脳なのでしょうか。笑い話をしている場合ではないでしょうに。全く情けない。子供なみの頭脳に国民が引きずり回されるなんて信じられません。そのうち焚書も言い出しかねませんね。独裁国家を夢見る人、何とかなりませんかねぇ。
【エムズの片割れより】
最近、テレビに映る首相の顔が、北朝鮮の独裁者と同じに見えてきました。
投稿: 白萩 | 2015年7月11日 (土) 16:38