海外で普及しない洗浄便座の理由
前にテレビで、日本に来ている外人が、自分の実家に温水便座をプレゼントしようと、苦労している番組をやっていたが、なぜ外国では温水便座が普及しないのか、先日の日経で欧州の例を報告していた。
「欧州で普及しない洗浄便器 立ちはだかる群雄の壁
フランクフルト支局 加藤貴行
欧州はイースター(復活祭)休暇が過ぎ、ようやく春らしくなってきた。欧州の長い冬を越えるとほっと一安心することがある。寒いトイレで我慢を強いられる環境から解放されることだ。日本ではかなり普及してきた暖房付きの温水洗浄便座だが、欧州ではまず見かけない。背景を探ると、欧州独特の住環境や商慣習が見えてくる。
「ここから温水が出て洗浄します」。3月中旬、フランクフルトで開かれた世界最大級の衛生設備・冷暖房などの見本市「ISH」で、TOTOのブースを訪れると人だかりができていた。
■いまだ珍しさ
どうも同社の説明員が「ウォシュレット」を作動させる光景が珍しいようだ。衛生陶器などの代理店の男性は「これは便利で、衛生的だ」と感心していた。
日本で便利さを実感してきた身としては、なぜ浸透しないのかが不思議でならない。欧州の駐在員同士でも話題になる。「世界で最も進んだトイレ文化を持つ」といわれる日本の企業は努力している。
TOTOは2008年に独デュッセルドルフに現地法人を構え欧州市場に本格的に進出した。TOTOヨーロッパの蔵元克之社長は「1990年代に米国、中国に進出し、最後に行くべき市場が欧州だった。当社が引き金になり欧州でもウォシュレットの関心は高まっている」と語る。
同社の欧州の売上高は40億円規模まで増えてきたが、域内最大のドイツ市場での便器のシェアは2%程度とみられる。ロンドンなどの高級ホテルを通じてブランドを広げていく戦略をとる。宿泊した富裕層らにウォシュレットの良さを実感してもらい、粘り強く認知度も高めていく考えだ。だが、今も営業赤字が続く。
いくつか見えない壁があるようだ。一つは域内の競合の多さ。各地を訪れて感じるが、便器ブランドが群雄割拠している。 ドイツではデュラビットや高級陶磁器ブランドでも知られるビレロイ&ボッホが強く、北欧ではサニテック(フィンランド)をよく見かける。南欧に行けば業界最大手であるロカ(スペイン)が圧倒的で、東欧はポーランドの雄セルサニットの陣地と言っていい。
欧州の建物は長く使われ、100年を超えた建物も住居やオフィスとして現役だ。各地にメーカー系列の代理店網が張り巡らされている。30年程度で住宅を建て替える日本に比べ、新規参入組には非常に食い込みにくい市場だ。
もう一つ大きいのが、トイレの特徴。欧州は水タンクがビルドインになっていて、姿が見えない。デザインはすっきりしてよいのだが、水の流れが悪くなっても自分で直すわけにもいかず、専門業者を呼ぶことになる。
■「トイレ業界のインテル」
「トイレのインテル」であるゲベリットのトイレ用水タンク。壁に埋め込まれている(ミュンヘンの美術館)
この水タンクで圧倒的なシェアを持つ会社がスイスのゲベリットだ。便器ほど交換は容易ではなく、一度納入してしまえば修理などのサービスで安定した収益が見込める。工事会社の数は3万~4万に及ぶといわれ、衛生陶器メーカーもゲベリットを向こうに回して営業はできない。ゲベリットは「トイレ業界のインテル」と呼んでもよいだろう。
欧州の住宅設備メーカーはトイレや台所と専門分野に特化した企業が多く、TOTOやLIXILグループのようにトイレのタンクから便座、台所や水栓金具など幅広く手がける「総合型」は少ない。
「トイレ特化型」は自らの城を守るのに必死で、代理店もオセロをひっくり返すように安易に「浮気」してくれない。そこでTOTOは13年からビレロイにウォシュレットのOEM(相手先ブランドによる生産)供給を始めている。LIXILは14年、水栓金具に強く衛生陶器も手がける独グローエを共同買収した。販路開拓の時間を買う効果もある。
では、洗浄便座が当たり前に普及するのはいつか。ゲベリットが昨年、サニテックの買収を決め「川下」にあたる衛生陶器の領域の拡大に乗り出した。ゲベリットも自前の洗浄便座を販売しており、この分野を強化しそうだ。
近年はホームセンターやネット通販でも売られ、売れ筋で2500ユーロ(約32万円)という。だが、筆者のような海外赴任で賃貸アパートに住む身で取り付けるわけにはいかない。ホテルや美術館など公共施設での早期普及を願うだけだ。
TOTOヨーロッパの蔵元社長は「欧州でつくったブランドがグローバル展開で鍵になる」と語る。欧州は域外には伝統に裏付けされた華やかさを見せているのは事実。一方で、保守的な商慣習が残る難しい市場だ。トイレはその典型例。「岩盤商慣習」が打破されない限り、多くの日本人が毎年つらい冬を経験することになる。」(2015/04/23付「日経新聞」より)
うーん。上の記事ではいまひとつ分からない・・
Netで見ると、なぜ普及しないのか、疑問に思っている人が色々と報告をしている(ここなど)。
それによると・・・
「イタリーの水道水は、カルシウムの含有量がすごく、シャワーもカルシウムの結晶ですぐに目詰まりする。 ヨーロッパは水質が悪い。(水には、カルシウム、ナトリウム、カリウムなどさまざまなミネラル成分が溶け込んでおり、ミネラル分が多い。1リットル中のミネラル分が100mg以下が軟水、200mg以上が硬水とされ、日本の水の場合、殆んどが軟水です。)」
「“温洗便座”を初めて開発したのは、アメリカの企業です。日本でいち早く輸入したのはINAX、自主開発したのがTOTO。日本人は痔が多かったのでヒットした。アメリカでは当初医療用に開発されたんですが、うまくいかなかったみたいです。」
「中国には中国製の“温洗便”がある。値段は日本製よりも安いが、時々熱湯が飛び出し、又故障も多い。」
「かつてTOTOがウォシュレットを広めるため英国進出したものの、まったく受けず撤退したとのこと。
まあこれには配管の問題(イギリスのトイレ用の水は、一般の水道水に比べ浄化度が低い専用水のため、そのままウォシュレットを引くと衛生的にマズいらしい)などがからんでいて複雑なのだが、イギリスを本拠地とするマドンナが前回の日本公演の際に「日本の温かい便座が大好き」などと公言したそうだ。」
「ウォッシュレットって電気で動きますよね。
で、バスとトイレが一緒にあるトコだと、完全防水されたコンセントなどの配電設備が必要になるためなんです。
日本だと基本はトイレと浴室は別ですからね。単純なことらしいです。」
「ウォシュレットは元々はアメリカのアメリカンビデと言う会社が痔の医療用商品として開発したもので、病院や一部患者向けで一般には広まりませんでした。
それを日本のTOTOが特許を買取し改良しウォシュレットとして一般向け商品にしました。」(ここより)
まあ、言われてみると、確かに国によって事情は色々。
日本の事情を前提に、「なぜ普及しない?」と思っても仕方がない話・・・
しかし、日本人は全員が便利に使っていると思っていた温水便座を、かたくなに拒否しているという人がいるという。
先日、カミさんがランチしたという昔からの友人。「昔からあるものは使うが、新しいものは使わない」と言っていたとか。よって、温水便座も、あるが使わない・・・そうだ。
この奥さま、ご主人から「ヒトラー」と言われているとか・・・。
まあ分かるな・・・。それで、「我が家も同じではないのか?」と言ったら、カミさんが「ウチは“プーチン”」とのたまう・・・
どのウチも、カミさん天下の実態はそう変わらないか・・・
おっと、話がそれた・・・
そう言えば、我が家の2階のPana製便座の調子が悪い。昼間ほとんど使わないため、瞬間式にしたのだが、直ぐに座ると冷たいし、誤動作が多い。洗浄のボタンを押しても途中で止まるので、ストップしてやり直し、という機会が多くなってきた。それに引き替え、安価な1階の貯湯式(ここ)は故障知らず。やはり単純な型が無難なようで・・・
まあ、「あっても使わない」という人がごく少数居られるとしても、温水便座は、一度使ったら手放せない文明の利器。色々な事情があるにせよ、世界でもっともっと普及して良い商品だと思うのだが・・・。
(2015/05/25追)
先日のNHKラジオ深夜便で、パリで30年在住の浅野素女さんが、フランスで暖房便座が普及しない理由について、感想をレポートしていた。(2015/05/15放送)
・フランスでは、暖房便座はめったにお目にかかれない。数年前から売られてはいる。
・フランス人は、人任せ、機械任せが好きではない。自動ドアは非常に少ないし、タクシーのドアも自分で開ける。オートマ車も極端に少ない。トイレも機械任せは気に入らない。
・文化的にも、王政時代、ベルサイユ宮殿にはトイレはなく、下々に人は、庭や階段で用を足していた。
・パリも中世は道そのものがゴミ箱で、何でもそのまま捨てていた。
・便座にカバーを付けたり、暖めるという発想がない。
・スイスの暖房便座のCMに、「スイス、ドイツ、日本で広まっている」とあった。キレイ付きはこれらの国。
・技術的な問題として、水が硬水なので、水道管が石灰分で詰まりやすい。水回りは問題で、特にパリは中世の建物を受け継いでいるので、水漏れが多く、修理の水道屋の費用も高いし、何かあっても直ぐには直して貰えない。だから、あえて、余計な機械を付けたくない。
・普及には相当な時間が要りそう・・・
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コメント
私も、最近までウォシュレットの使用を「頑なに拒否している」一人だったのですが、痔の検査で病院に行ったら、医師からウォシュレットは使っていないのですかと言われて、使うようになったのです。エムズさんが引用されている記事によると、もともと痔の治療のためアメリカで開発されていたものをTotoが特許を買い上げ、改良した由、知りませんでした。日本をよく知るアメリカ人は、この「日本人の発明」をすばらしいと賞賛する人が多いのですが、ウォッシュレットがアメリカで普及しないのは、アメリカ人は自分たちの発明でないものは受け入れしようとしないからだなどと言っています(↓)。
http://noahpinionblog.blogspot.jp/2014/04/japanese-toilets-are-something-you.html
ウォシュレットの原型の発明がアメリカにあると知ったらびっくりすのではないでしょうか?考えてみると、家庭用ビデオにしろ、カーナビのように基本的発明はアメリカにあったものを日本の企業が改良し、普及していったんですね!
【エムズの片割れより】
ウォシュレットを拒否している人は、結構いるのかも・・・
アメリカ人も、ウォシュレットは日本の発明と思っているんですね。
普及は、国民性が大きいのでしょうか?
投稿: KeiichiKoda | 2015年5月 2日 (土) 10:50
2004年にトルコに行きました。そのときアンカラからイスタンブールまで乗った寝台特急のトイレ、イスタンブールで泊まったホテルのトイレ、いずれも温水洗浄便座ではありませんでしたが、便座に洗浄用のノズルが後付のようですが取り付けてあったので、助かりました。
またアジアではお尻を水で洗う習慣の国もあるのでいずれ商売にはならないとは限らないと思うのですが。
【エムズの片割れより】
確か、ベトナムだったか、トイレにホースが付いていますよね。それで尻を洗うのだそうですが、とても使いこなせませんでした。
投稿: かえるのうた | 2015年5月 2日 (土) 17:20