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2015年3月 1日 (日)

「残業代ゼロ」制度は必要か?

「残業代ゼロ」法案が2016年4月の実施を目標に、進められている。自分は頭から否定していたが、ちょっと冷静になって、下記の新聞記事を元に、双方の言い分を確認しておきたい。
「(争論)「残業代ゼロ」制度は必要か 棗一郎さん、大内伸哉さん
労働者1人あたりの平均年間総実労働時間/働き方はどう変わる?
   労働時間の規制が適用されず、残業代もつかない新しい働き方、ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)が導入されそうだ。これは労働者の命と健康を脅かす危険な制度なのか、それとも日本の将来にとって必要な自由な働き方なのか。
 ・割増賃金は残業を促すか
 ・WEで柔軟な働き方が可能か
 ・労働時間規制に例外は必要か

【×】労働者支配、命と健康脅かす 弁護士・棗一郎さん
 労働基準法は法定労働時間(1日8時間、週40時間)を定め、使用者は原則として法定労働時間を超えて労働させてはならないとしています。例外的に、労使協定を結んで法定労働時間を超える労働をさせた場合には、その補償として残業時間に応じた割増賃金を支払う義務を使用者に課しています。法定労働時間制は世界標準のルールです。「岩盤規制」などではありません。
 新制度は、その規制の適用除外となります。政府は2007年に管理職手前の人を対象にしたホワイトカラー・エグゼンプション(WE)を提案しましたが、世論の猛反発を受けて国会上程を断念しました。今回は高度プロフェッショナル制度と呼んでいますが、ごまかしです。労働時間規制の原則を適用除外するという制度であることに変わりありません。
 適用除外には、今でも経営者に立場が近い管理職に適用される「管理監督者」がありますが、深夜労働の規制はかかります。新制度はそれもなくなるので、深夜労働にも歯止めがかかりません。
 「残業代ゼロ」と言われていますが、問題の本質はお金ではありません。いくらでも長時間働かせて、労働者の時間を際限なく奪うことができ、割増賃金を払う必要もなく、労働者の時間を支配できることにあります。
 使用者には、労働者の命と健康を守る安全配慮義務があります。しかし、新制度では、150301zangyo1 労災の過労死認定基準である毎月80時間以上の時間外労働を命じても合法です。対象者が働きすぎで過労死しても、使用者の責任を問えないことになってしまいます。
 柔軟な働き方が必要だといいますが、すでに裁量労働制やフレックスタイム制などがあります。こうした働き方をしている人はすでに5割を超えています。グローバル化で企業活動が24時間行われているというなら、交代制にすればいいではないですか? 新制度が必要な理由になりません。
 実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払うことで、ダラダラ残業が減り、皆早く家に帰れるようになって、長時間労働がなくなる、というようなことはありえません。残業の一番の原因は、所定労働時間内では終わらない過大な業務命令やノルマです。長時間労働がなくなるかどうかは、業務量の多寡です。労働者が業務量を自分でコントロールできるかどうかで決まるのです。
 わざと所定時間内に仕事を終わらせないで、残業代を稼ごうとする不良労働者がいるなら、所定時間内で終わらせるように命じればよいだけです。規制を外す根拠になりません。今でも多くの企業が成果主義賃金制度を導入しています。それなのに、残業はなくならないし、長時間労働もなくなっていないではありませんか。
 年収1千万円以上の労働者であれば、長時間労働による過労死や過労自殺をしても仕方がないということにはなりません。
 新制度では本人の同意が必要とされています。しかし、成果主義賃金体系のもとで新制度の適用を断ったら、賃金は上がらないし、昇進もできなくなるでしょう。拒否できるわけありません。採用の際の労働条件となってしまえば、合意しなければ就職もできないことになります。合意だけでは駄目だから、憲法で労働者の権利が認められ、労働法で一律に規制するようになったのです。
 新制度は、日本で働く労働者の命と健康を脅かす危険なものであり、過労死を助長する“過労死推進法”です。
     *
 なつめいちろう 1961年生まれ。日本労働弁護団常任幹事。日本マクドナルド店長の「名ばかり管理職」訴訟で原告側代理人を務めた。

【○】制約ない働き方が成長に貢献 労働法学者・大内伸哉さん
 ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)を議論する時は、労働時間規制の全体像を考えなければいけません。
 現在の規制には長時間労働による健康障害という問題があり、強化すべきところがあります。一方、工場で働くようなブルーカラーを念頭につくられてきた規制がそぐわない労働者がいるという現実もあります。規制を強化した上で、規制にふさわしくない人は対象から外す発想が必要です。
150301zangyo2  法律は1日8時間、週40時間を超える労働を禁止していますが、労使協定を結べば実質的に制限がありません。また、残業した超過分には企業に割増賃金というペナルティーがかかりますが、割増賃金は労働者には報酬的な側面があり、長時間労働を促進する要因になります。
 大切なことは、割増賃金に頼らない規制に変えることです。これ以上働かせてはいけないという絶対的上限の導入や、休息を確実に取らせることなどが解決方法になると思います。
 しかし、指揮命令に忠実に従うのではなく、知的な創造力を生かして企業に貢献する人がいます。そういう人にとっては、労働時間規制はそもそも不要です。特に、割増賃金という形で報酬をもらうのではなく、よい成果を上げて基本給や賞与、さらには昇進という形の報酬が良いと考えている労働者にとっては、時間の制約は余計な規制です。こういう人がWEの対象になります。
 WEにふさわしい労働者に適用される限り、長時間労働をするかどうかは本人の判断に委ねられます。日本の経済成長にとって必要な創造的な働き方は、時間に拘束されない自由な働き方から生まれてくると思います。寸暇を惜しんで働いて、大きな成果を上げた人の長時間労働は問題とされてきたでしょうか?
 WEは、自分の仕事の遂行に裁量があることが絶対条件で、働き方の自律性がポイントなのです。きちんと限定すれば範囲はむやみに拡大しません。むしろ、日本経済の課題はWEが適用されるような労働者が少ないことではないでしょうか。
 企業も、WEを残業代の節約ができる制度だと考えてはいけません。本来の賃金でどうやって労働者に創造的な仕事をしてもらうか。インセンティブ(動機付け)を考えることが重要です。WEから何かがすぐに生まれるのではありません。賃金制度の創意工夫を労使に委ねるための制度なのです。
 実際にWEが適用されるのは、仕事の遂行に裁量が大きく、賃金が成果型の労働者です。裁量労働制と重なりますが、現在の制度は使い勝手が悪いので、「管理監督者」も含む統一的な適用除外の仕組みを考えるべきです。
 政府案は、年収のような働き方と無関係な条件で範囲を限定しようとしている点に問題があります。健康確保対策が中途半端に入っていることも問題です。WEにふさわしい自律的な働き方をする人は休息も自己判断でとるべきです。法は強制ではなく、本人の希望に応じて休息をとれるようにすべきでしょう。
 今の労働法は、労働者を弱者と位置づけ、保護するという発想が強すぎます。強くなれなかった労働者に対するセーフティーネットも大事ですが、労働者が労働市場で自分を売り込む力を高めるよう、自立を促す考え方も必要ではないでしょうか。
 (聞き手はいずれも編集委員・沢路毅彦)
     *
 おおうちしんや 1963年生まれ。神戸大学大学院法学研究科教授。著書に「労働時間制度改革」「解雇改革」(いずれも中央経済社)など。
 ◆キーワード
 <ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)> 一定の条件にあてはまるホワイトカラー労働者を、労働時間規制の対象から外すこと。「残業」という考え方がなくなり、法定労働時間より長く働いたり、深夜や休日に働いたりしても、割増賃金は支払われない。政府は、高い専門的知識があり、年収1075万円以上の人を想定した新制度をもうけるため、労働基準法の改正を目指している。」(2015/02/14付「朝日新聞」P37より)

このグラフをみて、オヤッと思ったことがある。日本は長時間労働の国だとばかり思っていたが、何と米国よりも労働時間が少ないのだ。
まあそれはそれとして、この二つの論を読んでみても、やはり自分は反対派だな…
自分も“ベテランサラリーマン”だったが、「成果」というのがくせ者。変幻自在なのである。本人が充分な成果を挙げたと思っても、上司は「まだまだ…」。成果が営業売上のように、数字で捉えられるのであれば、はっきりする。しかし、それ以外は、何をもってその人の「充分な成果」と言えるのかが難しい。もしその年に「充分な成果」を挙げたとしても、次の年には、それ以上の目標を与えられるのは普通。会社は、幾らでも「充分な成果を挙げていない」状態にする事が出来る。
これは目標管理制度についても同じ。何を目標にするのか…。それを正しく運用するには、上司の高度のスキルが必要であり、これも現実は成果をあげるのは難しい。
残業代が労働者の給料を補填する現実はその通り。ダラダラ仕事で残業代を稼ぐ人もいるだろう。しかし、それをさせないのが、上司の仕事。

建前的には、残業は予定以上の仕事が入ったときに行うもので、原理的に発生するのは人件費だけになるため、本来は会社は残業が増えれば増えるほど儲かるのが仕組みのはず。
しかし、中小企業では、残業代は仕事の有る無しには関係無く、「固定費の増」という捉え方から、年度初めに部門毎の残業費の上限を予算化、配分しているのが現状。その結果、労働者は仕事が幾ら増えても、残業代は頭打ち。そして仕事には顧客があることから、代休を取る前提で残業時間を会社に貸す。その結果、休んでも「有給休暇」は使わずに「代休」の連続になり、結果「有給休暇制度」は、誰も取れない有名無実の制度になりかねない。

どんな会社も法は守る。しかし、何らかの法が制定されるや、それに対して知恵を絞って“有効活用”することは必定。そしていったん制度がスタートすれば、時間と共に適用範囲が拡大解釈されていくことも必定。
このような「高級な制度」は、超大企業のように上司も部下も超優秀な会社ならともかく、普通の会社では到底運用はムリだと思うのだが…。
大企業に優しく、中小企業の労働者には厳しい、相変わらずの安倍政権ではある。

●メモ:カウント~700万

150301pressure <付録>「ボケて(bokete)」より

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コメント


 戦後レジームの破壊に 己の政治生命をかける安倍。憲法改悪がその根幹ですが 教育改革、土地制度改革、と並んで戦後改革の大事なものが労働三法を軸とした労働政策の改革でした。安倍が壊したい「戦後レジーム」。
 脈絡もなく「日教組はどうした?」と思わず総理大臣席からヤジってしまうほど ただただ戦後改革が憎くてならないようです。
 労働法制の改悪は戦前回帰の安倍オオカミが新自由主義という「おばあさん」仮面をつけて労働者に襲いかかろうという場面に見えます。
 企業献金と産業界の政治的影響力。今の日本の「民主主義」は法人民主主義だと思います。選挙制度とか問題はたくさんありますが そもそも本当に国民1人1票ずつが保証された民主主義でしょうか?法人――企業は選挙権こそありませんが会社―業界―地域―マスコミを通して 圧倒的な影響力をおよぼしています。
 対してかって労働組合に集まって労働条件だけでなく 政治的要求も訴えてきた組合は今みる影もありません。企業――法人のやりたい放題です。
 WEなどというものは労働者の仲間意識を壊し一人一人をさらにバラバラにするものです。

投稿: todo | 2015年3月 1日 (日) 21:09

何事も大きな変革を行うときは、範囲を区切って試行することが大切。
 先ずは公務員を対象に3年間試行してみたら? ますます公務員は仕事をやらなくなるだろうな。

投稿: I am not Abe | 2015年3月 2日 (月) 14:38

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