「皇太子さまの会見発言 憲法への言及、なぜ伝えぬ」
昨日の朝日新聞の「池上彰の新聞ななめ読み」は、先の皇太子の記者会見についての話である。
「(池上彰の新聞ななめ読み)皇太子さまの会見発言 憲法への言及、なぜ伝えぬ
記者会見に出席し、同じ話を聞いたはずの記者たちなのに、書く記事は、新聞社によって内容が異なる。こんなことは、しばしばあります。記事を読み比べると、記者のセンスや力量、それに各新聞社の論調まで見えてくることがあります。
2月23日は皇太子さまの誕生日。それに向けて20日に東宮御所で記者会見が開かれ、その内容が、新聞各社の23日付朝刊に掲載されました。
朝日新聞を読んでみましょう。戦後70年を迎えたことについて皇太子さまは、「戦争の記憶が薄れようとしている」との認識を示して、「謙虚に過去を振り返るとともに、戦争を体験した世代から、悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切」と指摘されたそうです。
また、今年1年を「平和の尊さを心に刻み、平和への思いを新たにする機会になればと思っています」と話されたそうです。
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同じ記者会見を毎日新聞の記事で読んでみましょう。こちらは戦後70年を迎えたことについて、「我が国は戦争の惨禍を経て、戦後、日本国憲法を基礎として築き上げられ、平和と繁栄を享受しています」と述べられたそうです。
皇太子さまは、戦後日本の平和と繁栄が、日本国憲法を基礎としていると明言されたのですね。以前ですと、別に気にならない発言ですが、いまの内閣は、憲法解釈を変更したり、憲法それ自体を変えようとしたりしています。そのことを考えますと、この時点で敢(あ)えて憲法に言及されたことは、意味を持ちます。
いまの憲法は大事なものですと語っているからです。天皇をはじめ皇族方は政治的発言ができませんが、これは政治的な発言にならないでしょうか。
ところが、憲法第99条に、以下の文章があります。
「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と。
皇太子さまは、憲法のこの条文を守って発言されているに過ぎないのですね。
でも、憲法擁護義務を守りつつ、「憲法は大事」と伝えようとしているのではないか、とも受け取れます。それを考えると、宮内庁と相談しながらのギリギリのコメントだったのではないかという推測が可能です。
こんな大事な発言を記事に書かない朝日新聞の判断は、果たしてどんなものなのでしょうか。もちろんデジタル版には会見の詳報が出ていますから、そちらを読めばいいのでしょうが、本紙にも掲載してほしい談話です。
他の新聞はどうか。読売新聞にも日本経済新聞にも産経新聞にも、この部分の発言は出ていません。毎日新聞の記者のニュース判断が光ります。
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こうなると、他の発言部分も気になります。朝日新聞が書いている「謙虚に過去を振り返る」という部分です。このところ、日本の戦争の歴史の評価をめぐって、「謙虚」ではない発言が飛び交っていることを意識されての発言なのだな、ということが推測できるからです。皇太子さまの、この言外に含みを持たせた発言を、他紙は報じているのか。
毎日新聞と日経新聞は報じていますが、読売新聞にはありません。産経新聞は、本記の中にはなく、横の「ご会見要旨」の中に出ています。
日経新聞は、「謙虚に過去を振り返る」の発言の前に、「戦後生まれの皇太子さまは天皇、皇后両陛下から折に触れて、原爆や戦争の痛ましさについて話を聞かれてきたという」と書いています。天皇ご一家が、戦争の悲惨さと平和の大切さを語り続けてこられていることがよくわかる文章です。朝日新聞の記事では、こうした点に触れていません。記者やデスクの問題意識の希薄さが気になります。」(2015/02/27付「朝日新聞」より)
自分は格別皇室について意見を持っているわけではないが、こんな記事を読み、日本の将来のことを最も良く考え、憂えているのは、“交替のない”天皇や皇太子ではないかと思うようになった。
我々庶民は、日本の将来について、幾ら考えても憂えても、それほど影響力がある訳ではない。しかし皇室は違う。先の戦争を経て、日本の平和を願うのは、皇室の最大の願いではないかと思うからである。そんな視点で、この記事を読むと意味深い。
各新聞のスタンスはさておき、この記事に取り上げられた、皇太子の記者会見での回答を改めて読んでみよう。
<皇太子殿下お誕生日に際し(平成27年)~皇太子殿下の記者会見>
会見年月日:平成27年2月20日
問2 今年は戦後70年の節目の年です。戦争と平和への殿下のお考えをお聞かせください。先の大戦や戦没者慰霊については天皇,皇后両陛下からどのようにお聞きになり,愛子さまにはどう伝えられていますでしょうか。
皇太子殿下
先の大戦において日本を含む世界の各国で多くの尊い人命が失われ,多くの方々が苦しい,また,大変悲しい思いをされたことを大変痛ましく思います。広島や長崎での原爆投下,東京を始め各都市での爆撃,沖縄における地上戦などで多くの方々が亡くなりました。亡くなられた方々のことを決して忘れず,多くの犠牲の上に今日の日本が築かれてきたことを心に刻み,戦争の惨禍を再び繰り返すことのないよう過去の歴史に対する認識を深め,平和を愛する心を育んでいくことが大切ではないかと思います。そしてより良い日本をつくる努力を続け,それを次の世代に引き継いでいくことが重要であると感じています。
両陛下には,これまで様々な機会に,戦争によって亡くなられた人々を慰霊し,平和を祈念されており,今年は,戦後70年に当たり,4月にパラオ国をご訪問になります。戦後60年にはサイパン島をご訪問になりましたが,お心を込めて慰霊されるお姿に心を打たれました。また,両陛下には,今年戦後70年を迎えることから,昨年には広島,長崎,沖縄で戦没者を慰霊なさいました。私は,子供の頃から,沖縄慰霊の日,広島や長崎への原爆投下の日,そして,終戦記念日には両陛下とご一緒に黙祷(とう)をしており,その折に,原爆や戦争の痛ましさについてのお話を伺ってきました。また,毎年,沖縄の豆記者や本土から沖縄に派遣される豆記者の人たちと会う際に,沖縄の文化と共に,沖縄での地上戦の激しさについても伺ったことを記憶しています。
私自身もこれまで広島,長崎,沖縄を訪れ,多くの方々の苦難を心に刻んでまいりました。また,平成19年にモンゴルを訪問した際に,モンゴルで抑留中に亡くなられた方々の慰霊碑にお参りをし,シベリア抑留の辛苦に思いをはせました。
私自身,戦後生まれであり,戦争を体験しておりませんが,戦争の記憶が薄れようとしている今日,謙虚に過去を振り返るとともに,戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に,悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切であると考えています。両陛下からは,愛子も先の大戦について直接お話を聞かせていただいておりますし,私も両陛下から伺ったことや自分自身が知っていることについて愛子に話をしております。
我が国は,戦争の惨禍を経て,戦後,日本国憲法を基礎として築き上げられ,平和と繁栄を享受しています。戦後70年を迎える本年が,日本の発展の礎を築いた人々の労苦に深く思いを致し,平和の尊さを心に刻み,平和への思いを新たにする機会になればと思っています。」(ここより)
天皇はどう言っているのか・・・。2ヶ月前の、天皇誕生日の記者会見で、同じような質問に答えている。
<天皇陛下お誕生日に際し(平成26年)~天皇陛下の記者会見>
会見年月日:平成26年12月19日
問1 ・・・・また,来年は戦後70年という節目の年を迎え,両陛下のパラオご訪問が検討されています。改めて先の戦争や平和に対するお考えをお聞かせください。
天皇陛下
・・・先の戦争では300万を超す多くの人が亡くなりました。その人々の死を無にすることがないよう,常により良い日本をつくる努力を続けることが,残された私どもに課された義務であり,後に来る時代への責任であると思います。そして,これからの日本のつつがない発展を求めていくときに,日本が世界の中で安定した平和で健全な国として,近隣諸国はもとより,できるだけ多くの世界の国々と共に支え合って歩んでいけるよう,切に願っています。」(ここより)
まったく同じ質問に対して、質量とも、皇太子が一歩踏み出して発言していることが分かる。
まるで政府が作ったような当たり障りのない天皇の発言に対し、将来の“自分の時代”として、より将来を考えているであろう今回の皇太子の発言は、ギリギリの自分の意見の発露なのかも知れない。
夕食後、NHK「歴史秘話ヒストリア~天皇のそばにいた男 鈴木貫太郎 太平洋戦争最後の首相」(2015/02/25放送ここ)を見た。昭和天皇が鈴木首相と共に、陸軍500万人を抑え、終戦に至った道を描いている。
何度も見ている御前会議の御聖断ではあるが、今更ながら上の皇太子の発言も、昭和天皇が経験した戦争への反省の歴史を踏まえての発言のように思える。
しかし、「憲法改定を行った初めての総理大臣」という歴史に残る名誉欲のために、そして自身の野望のために、選挙で勝ったことを根拠に軍国主義に突っ走る安倍内閣・・・。
そして幾ら対抗馬が居ないとしても、結果としてそれを選んだ最も責任ある国民。
各新聞の、原文からの“チョイスの思惑”については、既に論ずるに値しないが、今回の“朝日の論調を気にしない”であろう「池上彰の新聞ななめ読み」で、(自分の勝手な深読みとしても、)皇太子の良識ある歴史観を垣間見ることが出来、皇太子が日本の将来(=現状の日本の危うさ)を憂えていることがよく分かった。
(安倍首相は、幾ら皇太子が諫(いさ)めても、聞く耳を持たないであろうが・・・)
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コメント
朝日新聞をある大学の図書館で「朝日歌壇」をみるために 時々手にとります。そして2月24日の朝刊一面の「自衛隊法改正案」の記事の見出しをみて驚きました。・・・[制服組 背広組 対等に」「防衛省「文官統制」見直し法案・・・・・・となっていました。これでは
さきの大戦に於ける軍部の暴走とそれを止めることのできなかったことへの痛切な反省にたって築きあげられてきた{文民統制」がネジ曲げられようとしていることに対する危機感がまったく伝わってきません。むしろ・・・「対等?・・・いいじゃん・・・と受け止められかねません。どう考えても どこかへの言い訳、逃げ道ですね。
もちろん記事の本文では改正案の問題点は描かれていますが現場の記事を書く記者とチェックをし見出しをつける その上の者との距離を感じさせる記事でした。
朝日、NHKなどの内部で圧力や自主規制にめげない良心的な人々が苦労していることは
信じていますし何らかの形で応援してゆきたいものです。が…ダメな記事には「イエローカード・レッドカード」を出しましょう。
投稿: todo | 2015年3月 1日 (日) 00:15