「旅立ちのBGM」
何とも、うら寂しいタイトルである。
先日の日経新聞にこんなコラムがあった。
「旅立ちのBGM 湊かなえ
実家にかえった時のこと。近所の葬祭会館では出棺の際に、故人が生前好きだった曲を流してくれることを聞きました。
エンディングノートが流行っているように、こういうことは早めに決めておいた方がいいだろうと、妹と2人で、両親を見送る際の曲について話し合いました。ちなみに、両親はともに元気で、今年もおいしいみかんを送ってくれたばかりです。
姉妹の意見は割とすぐに一致し、父はカラオケでよく歌っていた北島三郎さんの「風雪ながれ旅」、母は寝る前によく聞いていた加藤登紀子さんの「百万本のバラ」がいいだろうということになりました。
そこに両親がやってきました。姉妹で話し合った結果は伝えず、出棺の時の曲は何がよいかと訊(たず)ねると、2人とも、私たちが想像していなかった曲名を挙げました。若かりし時に胸をときめかせた映画のテーマ曲、両親との思い出の歌。父は生まれた時から父親ではなく、母は生まれた時から母親ではなかったのだという、当たり前のことに気付かされました。
それでは、自分は何がいいだろうと考えます。今、私が死んでも葬儀は別の葬祭会館で行われ、曲を指定することはできないかもしれませんが、それは物事を考えるとっかかりであって、自分のこれまでの人生を音楽という面から振り返ることに意味があるのではないかと思います。いや、単純におもしろそうです。
まずは、自著の映像化作品主題歌メドレーなどよいのではないかと思います。良い曲ばかりを作っていただいたので、人生の終わりをドラマのエンディングのように華やかに迎えることができそうです。しかし、それでは湊かなえ(ペンネームです)の葬式です。最期の瞬間まで湊かなえとして生きるのならそれでもいいのですが、自分の人生にはまだまだ第3ラウンド、第4ラウンドがあるような気がするのです。
それでは、人生における思い出の曲。歌謡曲なら、大切な仲間たちと肩を組んで何度も歌った、中島みゆきさんの「時代」がいいなと思います。洋楽なら、トンガで過ごした2年間、毎日のようにラジオから流れていた、アバの「ダンシング・クイーン」がまず一番に思い浮かぶのですが、葬儀に参列してくれた人たちから、何でこの曲なんだろう? と疑問を持たれ、そんなことを考えているうちに車が出てしまった、という状態になりかねません。
そういえば、結婚式の披露宴の和装での入場曲は、旦那さんの趣味で、ドラマ「鬼平犯科帳」のテーマソングでした。新郎新婦が金屏風の前まで小走りで向かいました。改めて、死ぬ時は1人なのだなと感じます。
最後は、ミュージカルナンバーから。一番好きな曲を選ぶのは難しいのですが、「自分は去っていくが、大切な皆さんにはまた明日がくる。どうかお元気で!」という意味を込めて、「屋根の上のバイオリン弾き」の「サンライズ・サンセット」がいいのではないかと思います。しかも、それが私の王子様的存在である、バイオリン2人とピアノ1人のインストゥルメンタル・ユニット「TSUKEMEN」の演奏なら、最高の旅立ちになる予感がします。
すぐには決まりませんが、曲など何でもいいので、大切な人たちに笑顔で見送られるような人生を送れるといいなと思います。(作家)」(2014/11/25付「日経新聞」夕刊p7より)
子どもの頃、同じようなことを考えたことがあった。自分の葬式に流す音楽・・・。
クラシックの聴き始めだった高校時代だったか、挙げた曲は、ベートーベンの英雄交響曲の第2楽章の葬送行進曲、ショパンのピアノソナタの葬送行進曲、そしてマーラーの交響曲「巨人」の葬送行進曲。ついでに、ワーグナーのニーベルングの指輪の葬送行進曲やモーツァルトのレクイエムも候補か・・・
それから半世紀。そんな気はどこかに吹き飛んだ。
もし自分の葬式にベートーベンやモーツァルトが流れたら、それは「やらせ」で鼻につく。あまりに自分がエラそうで辟易する。ゴメンだな・・・
今それを考えるとどうなるのだろう。自分の好きな歌? 自分の宝の歌は布施明の「摩周湖の夜」だけど、何かそぐわない。そもそも歌詞がある歌は、何かを主張しており、それが自分の主張と合うのか疑問。しかも「死人に口無し」の死んだ後のこと・・・。あ~めんどうくさい。
すると静かなイージーリスニング?? まあそんなところが無難か・・・
40年前の自分たちの結婚式。ステレオ好きの友人と一緒に、音楽は全部自前で行った。新郎新婦入場ではワーグナーの「婚礼の合唱」、ケーキ入刀では、メンデルスゾーンの「結婚行進曲」。
まあそれほど異質でなく、若気の至りで楽しかったが、葬式となるとそうはいかぬ。
そもそも葬式そのものに対して、年を経る毎に意味を感じなくなってきている自分は、僧侶のよく分からない読経よりも、自分の知っている経典を、CDからのBGMとして流す方が合うような気がする。般若心経、観音経、阿弥陀経などなど・・・。
まあ死んじゃってからだと、何も言えないので、上の記事の湊かなえさんのように、自分の旅立ちを気にする場合は、我々シルバー族はそろそろそれを考えておく時期なのかも知れない・・・ね。
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コメント
私も何回かお葬式用のCDを作りました。白い花の咲くころなどのラジオ歌謡を入れたのですが、今はシューベルトのセレナーデにしようと思っています。ソプラノの綺麗な声で日本語の歌詞がいいですね。あの世で素敵な恋ができますように・・・
夫の友人の話ですが、お尻の手術をする時音楽を掛ける病院で、何を掛けるのか看護師さんが聞いたそうです。歌など全く興味がない人で思いついたのが「おらは死んじまっただ」だったので、それを頼んだら手術中ずっと「おらは死んじまっただ」が流れていたそうです。部分麻酔なので本人も聴いていたそうです。メスを持つお医者さんの手が笑いで横へそれなくて良かったです。ユーモアにしてはちょっときついですね。
【エムズの片割れより】
ホホホ・・・
そう言えば、昔カミさんが足の手術をしたとき、やはりCDを持っていたが、音が小さく、医者の話し声が大きかったので、あまり効果がなかったとか・・・
投稿: 白萩 | 2014年12月 4日 (木) 21:05
以前にもコメントに書かせていただきましたが(くどい!)、弔問客を迎える曲は「ツィゴイネルワイゼン」、火葬場に私が向かう折には、井上陽水の「チエちゃん」を。
エムズさんのご紹介記事を読んで、「氷の世界 special edition」を購入しました。
明日上京した折に、長男夫婦に頼んでおこうと思います。
後は遺影の準備ですかね。
【エムズの片割れより】
ウチのお袋は、あらかじめ息子達3人に遺影を渡していました。しかし亡くなった時、どこにしまったか、3人とも遺影が出て来ません。それで、結局、その遺影は使われませんでした。どこかにあるとは思うのですが・・・
投稿: アンディーのママ | 2014年12月12日 (金) 18:52