北京の「APECブルー(青空)」~いざ鎌倉!
先日の朝日新聞にこんな記事があった。
「(風 北京から)中国式APEC~「おもてなし」にも国家の利益
「ケンカしても勝てないから、合わせるしかないけど、ひどいヤツらだ。撃ち殺された方がいいくらいだよ」
レストランの女性経営者は私たち客の前で、まくし立てた。ヤツらとは、地元政府の役人たちのことである。
北京の中心部から高速道路を飛ばして北東に約1時間。川をせき止めて造った人工湖、雁棲湖の近くにある店のなかでのことだ。
女性経営者の怒りは、この湖畔で今月11日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が開かれることについてだった。
理由はこうだ。
レストランは今春までは、建築材料の販売店だった。しかし、地元政府が突然、営業を認めないと言ってきたという。この場所では、見た目の美しい飲食店か商店以外はダメだというのだ。
なぜかというと、「APECさ」。何とも、めちゃくちゃな話である。
言われてみれば、郊外の閑散とした街なのに、通りには真新しい飲食店と商店だけがずらりと軒を並べている。看板はみな、当局の指示で赤や緑の原色の統一形式だ。
――レストランばかりではもうかりませんよね。
「関係ないよ。(地元政府は)外国人が来たときにきれいに見えれば、それでいいんだよ。まったく」。女性経営者は悔しそうに言った。
会議には、安倍晋三首相やオバマ米大統領ら各国首脳たちがやってくる。ホスト役である習近平(シーチンピン)国家主席のメンツをかけて国際的なイメージをよくしようと、中国当局はびっくりするような措置を次々と打ち出している。
首脳たちに「青い空」を見てもらうため、400キロ離れた街でも自動車の交通が半減され、北京では火葬場の一部業務や結婚届の受理も止まった。動員されたボランティアは100万人に上る。
市民の不満よりも、「国家の利益」とされるものがどこまでも優先される全体主義国家のすごさである。「君のためではない青空」との意味を込めた「APECブルー」という新語も生まれた。
2001年10月に上海で開かれたAPECを取材したときのことを思い出す。
中国の経済規模がまだ、日本の半分にも満たない時期である。中国にとって、大規模な多国間首脳会議のホストは初めてだった。世界貿易機関(WTO)の加盟を目前に控え、世界経済の枠組みに大きく踏み込もうとする高揚感のようなものが、肩に力の入った演出を通じて伝わってきたのを覚えている。
首脳宣言を、当時の江沢民国家主席が唐突に英語で読み上げたのもそうだったし、大量の花火が上海の中心を流れる黄浦江を昼間のように明るく照らしたのもそうだった。
あれから13年。中国は世界第2の経済大国となり、国際的な影響力も格段に増した。その自信が、今度は別の意味で力の入った中国式の「地主之誼=おもてなし」(王毅外相)となっているのか。
10日の夜も、各国首脳の到着を歓迎して、北京の空に盛大な花火が打ち上げられる。この期間中、大気汚染を抑えるため、市民たちはまきを使った暖房に火を入れることさえ禁止されているのに……。
きらびやかな発展の演出と、一党支配の矛盾に揺れる足元。その深刻なギャップを抱えた北京で、中国外交の舞台の幕が上がる。(中国総局長 古谷浩一)」(2014/11/09付「朝日新聞」p9より)
さすが中国。先の北京オリンピックをみても、まあそうだろうな・・・と思う。
話は変わるが、昨日、カミさんに誘われて、映画「グレース・オブ・モナコ」を見てきた。人気 絶頂でハリウッドの女優からモナコ公妃になったグレース・ケリーの物語。この映画のラストが、フランスのド・ゴール大統領から、植民地にされそうになったモナコが、起死回生で打ったグレースの大芝居(赤十字の会議での大演説)の場面。
まさに国を救えるかどうかの「いざ鎌倉」である。
思い起こせば、誰にでも人生で「いざ鎌倉」の場面は色々とある。ここぞ一番、という大舞台。受験などもそれに入るのかも知れない。そして、結婚の申し込みや、住宅の抽選など、その瞬間の可否がその後の人生に大きく影響を与える・・・
今回の北京APECも、中国にとっては「いざ鎌倉」なのだろう。
一方、現役リタイアの自分にとっては、もうそんな場面は来ないような気がする。
先の映画を見て、そんな緊張感溢れる場面と縁が無い自分を、少々寂しくも感じるこの頃である・・・。
【広辞苑】より
「いざ鎌倉」(謡曲「鉢木」による) さあ、鎌倉幕府に大事が起ってはせ参ずべき場合だ、の意。転じて、大事の起った場合。
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