「朝日新聞」の慰安婦報道~池上彰氏コラム掲載拒否のドタバタ劇
自分は中学・高校時代以来、50年間「朝日新聞」を読み続けている。そのベテラン読者(=自分)が、今回の朝日の慰安婦報道のドタバタ劇に辟易している。
慰安婦問題を取り上げた週刊新潮と文春の広告掲載拒否については前に書いた(ここ)。
昨夕、日経新聞のこんな記事を見て、ビックリ・・・。
「池上彰氏、朝日新聞に連載中止申し入れ
慰安婦記事の掲載断られ
ジャーナリストの池上彰氏が朝日新聞に連載しているコラムで、同紙による従軍慰安婦報道の検証記事を取り上げようとしたところ、掲載を断られていたことが3日、池上氏への取材で分かった。池上氏は連載の打ち切りを申し入れた。
コラムは「池上彰の新聞ななめ読み」。毎月1回、朝日を含む各紙の報道ぶりをテーマを絞って読み比べ、内容を論評している。池上氏によると、8月分として掲載予定だった原稿で、朝日が慰安婦報道を検証した特集(8月5、6両日掲載)に言及したところ、朝日側から「掲載できない」と通告されたという。
池上氏は「これまで、いつも自由に書かせてもらっていたが、今回に限って『掲載できない』と言われた。それでは信頼関係が崩れると考え、打ち切りを申し入れた」としている。
朝日新聞社広報部は「連載中止を正式に決めたわけではない。今後も池上氏と誠意をもって話し合う」とするコメントを出した。〔共同〕」(2014/09/03付「日経新聞」P37より)
そして今朝の朝日新聞の1面を見て、これまたビックリ。止めたはずの池上氏のコラムを、一転して載せたという・・・。その“お知らせ方法”が尋常ではない。曰く・・・
「池上さんコラム掲載します
朝日新聞が8月初めに掲載した過去の慰安婦報道に対する特集記事について、池上彰 さんがコラム「新聞ななめ読み」で取り上げました。本社はいったん、このコラムの掲載を見合わせましたが、適切ではありませんでした。池上さんと読者の皆様におわびして、掲載します。」(2014/09/04付「朝日新聞」p1より)
その経緯を日経(共同)はこう伝える。
「朝日新聞、池上彰氏のコラム一転掲載へ
ジャーナリストの池上彰氏が朝日新聞に連載しているコラムで、同紙による従軍慰安婦報道の検証記事を取り上げようとして掲載を断られたが、朝日新聞は3日夜、コラムを4日付朝刊に掲載すると発表した。掲載の断りは池上氏への取材で判明。池上氏は連載打ち切りを既に申し入れており、次回以降もコラムを続けるかどうかは白紙という。
コラムは「池上彰の新聞ななめ読み」。池上氏が毎月1回、テーマを絞って朝日を含む各紙の報道ぶりを読み比べ、内容を論評している。
朝日新聞社広報部は「池上さんと話し合いを続けておりましたが、4日付朝刊で掲載することになりました」としている。〔共同〕」(2014/09/04付「日経新聞」より)
そして今朝の朝日に載った池上さんの記事の内容は・・・
「(池上彰の新聞ななめ読み)慰安婦報道検証 訂正、遅きに失したのでは
過ちがあったなら、訂正するのは当然。でも、遅きに失したのではないか。過ちがあれば、率直に認めること。でも、潔くないのではないか。過ちを訂正するなら、謝罪もするべきではないか。
朝日新聞は、8月5日付と6日付朝刊で、「慰安婦問題を考える」と題し、自社の過去の慰安婦報道を検証しました。これを読んだ私の感想が、冒頭のものです。
6日付紙面で、現代史家の秦郁彦氏は、朝日の検証について、「遅ればせながら過去の報道ぶりについて自己検証したことをまず、評価したい」と書いています。これは、その通りですね。
しかし、今頃やっと、という思いが拭い切れません。今回の検証で「虚偽」と判断した人物の証言を掲載してから32年も経つからです。
*
今回、「虚偽」と判断したのは、吉田清治氏の証言。氏が自らの体験として、済州島で200人の若い朝鮮人女性を「狩り出した」などと証言したと朝日新聞大阪本社版朝刊が1982年9月2日に報じました。その後も朝日は吉田氏に関する記事を掲載しました。
これについて今回、「読者のみなさまへ」と題し、「吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした。済州島を再取材しましたが、証言を裏付ける話は得られませんでした」と書いています。裏付けできなければ取り消す。当然の判断です。
ところが、この証言に疑問が出たのは、22年前のことでした。92年、産経新聞が、吉田氏の証言に疑問を投げかける記事を掲載したからです。
こういう記事が出たら、裏付け取材をするのが記者のイロハ。朝日の社会部記者が「吉田氏に会い、裏付けのための関係者の紹介やデータ提供を要請したが拒まれたという」と検証記事は書きます。この時点で、証言の信憑(しんぴょう)性は大きく揺らいだはずです。朝日はなぜ証言が信用できなくなったと書かなかったのか。今回の特集では、その点の検証がありません。検証記事として不十分です。
検証記事は、「慰安婦」と「挺身隊(ていしんたい)」との混同についても書いています。「女子挺身隊」は、戦時下で女性を労働力として動員するためのもの。慰安婦とは別物です。91年の朝日新聞記事は、女子挺身隊と慰安婦を混同して報じたものだと認めました。
これについて「読者のみなさまへ」というコーナーでは「当時は、慰安婦問題に関する研究が進んでおらず、記者が参考にした資料などにも慰安婦と挺身隊の混同がみられたことから、誤用しました」と書いています。
ところが、検証記事の本文では「朝日新聞は93年以降、両者を混同しないよう努めてきた」とも書いています。ということは、93年時点で混同に気づいていたということです。その時点で、どうして訂正を出さなかったのか。それについての検証もありません。
*
今回の検証特集では、他紙の報道についても触れ、吉田氏の証言は他紙も報じた、挺身隊と慰安婦の混同は他紙もしていたと書いています。問題は朝日の報道の過ちです。他社を引き合いに出すのは潔くありません。
今回の検証は、自社の報道の過ちを認め、読者に報告しているのに、謝罪の言葉がありません。せっかく勇気を奮って訂正したのでしょうに、お詫(わ)びがなければ、試みは台無しです。
朝日の記事が間違っていたからといって、「慰安婦」と呼ばれた女性たちがいたことは事実です。これを今後も報道することは大事なことです。
でも、新聞記者は、事実の前で謙虚になるべきです。過ちは潔く認め、謝罪する。これは国と国との関係であっても、新聞記者のモラルとしても、同じことではないでしょうか。
◆池上さんと読者の皆様へ 今回のコラムは当初、朝日新聞社として掲載を見合わせましたが、その後の社内での検討や池上さんとのやり取りの結果、掲載することが適切だと判断しました。池上さんや読者の皆様にご迷惑をおかけしたことをおわびします。
◆池上さんのコメント 私はいま、「過ちては改むるに憚(はばか)ることなかれ」という言葉を思い出しています。今回の掲載見合わせについて、朝日新聞が判断の誤りを認め、改めて掲載したいとの申し入れを受けました。過ちを認め、謝罪する。このコラムで私が主張したことを、今回に関しては朝日新聞が実行されたと考え、掲載を認めることにしました。」(2014/09/04付「朝日新聞」p19より)
そして、先週は広告を拒否した週刊文春と新潮の広告は、今週は載っていた。
しかし、それぞれに「●」で文字が伏せ字になっている部分がある。
新潮では「「日中友好の碑」を「対立の碑」に変質させて懲りない「売国ご注進」」の「売国」の文字が、そして「「吉田調書」“誤報“で朝日はもはや生き残れない」の「誤報」の文字が伏せ字になっていた。
文春の広告では、 「美人秘書と中国不正出張していた 若宮啓文元前主筆」の「不正」の文字が伏せ字になっていた。(下記の写真は、<朝日><日経><朝日>の順)
それにしても、今回、広告記事でも、自社(朝日)に都合の悪い文字は伏せ字にする権限が新聞社にあることを初めて知った。まさに新聞には“意志”があるようだ・・・。
しかしこんな小細工を、朝日の読者はどう見るのか・・・
改めて文春と新潮の、掲載拒否をされた先週号の記事を読んでみた。(今週号は買う気もしないが・・・)
そして上の事実に関して自分も色々と書いてみたのだが、少し感情的になってしまうので、結局削除して、ここには挙げないことにした。
しかし、ひと言、これだけは言いたい。
今回のことで、もし日本のリベラルの灯に逆風が吹くとすれば、それこそが朝日新聞の最大の罪になるのでは・・・。このままでは「朝日新聞の記事は大本営発表か・・・」と揶揄されてしまうかも・・・。
残念でならない。
(関連記事)
従軍慰安婦記事 誤報の“朝日新聞問題”
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コメント
以前にも書きましたが「朝日新聞」について私は30年以上の購読をを8年前にやめました。理由は権力にすり寄る姿勢とその権威主義に我慢が出来なくなったからです。
ですから今回の訂正問題にも「今頃になって」とは感じますが「やっぱりなあ」としかいいようがありません。
ですからエムズさんのようにリベラルの危機ではなく「朝日新聞」がリベラルであると思い込んでいることの危機を思います。
もちろん「朝日」も「NHK]も現場で報道人の良心従って日々必死に頑張っている人々がいることも事実でしょう。そんな人を本当に応援したいものです。
朝日がリベラルでなければどうしたら?
記事の中身と報道姿勢で判断しましょう。朝日の権威主義と上から目線の醜悪さばかりが目についた今回の騒動でした。
勿論慰安婦問題も南京虐殺日本軍の加害責任が少しでも免れるということはありません。
【エムズの片割れより】
どんな報道にも、鵜呑みにしない眼力が必要ですね。それには日頃の勉強が必要・・・。
朝日ではないとすると、何を読もうか・・・
投稿: todo | 2014年9月 5日 (金) 08:18
私も父の代から半世紀以上、家庭で朝日新聞を購入しています。
でも止めようかな? 朝日新聞が本当に反省しているのか読者に伝わって来ない。
【エムズの片割れより】
そうなんですよね。謝るようで、何も謝っていない。何のための特別記事だったのか・・・。
投稿: ken | 2014年9月 7日 (日) 12:09