(集団的自衛権)憲法解釈変更、割れる社説~新聞各紙にみる論点
今朝の朝日新聞に、新聞各紙の集団的自衛権についての社説の分析が載っていた。これは、2度目である。前に同じく当サイトでも「新聞各紙の「集団的自衛権」の社説の比較」(ここ)という記事で取り上げており、その第2弾。もちろん各紙の論調は前回と同じ。
「(集団的自衛権)憲法解釈変更、割れる社説 新聞各紙にみる論点
国民の議論が深まらないまま、安倍内閣は1日、集団的自衛権が使えるように憲法解釈を変更する閣議決定をした。翌2日付新聞各紙の社説は賛否が割れた。海外での武力行使に道を開く閣議決定をどう見るか。各紙の論点を整理した。
■朝日・毎日・東京は批判 在京6紙
朝日新聞は、戦後日本が70年近くかけて築いてきた民主主義が踏みにじられたとして「憲法の基本原理の一つである平和主義の根幹を、一握りの政治家だけで曲げてしまっていいはずがない」と批判。大野博人論説主幹は「集団的自衛権にしろ集団安保にしろ、武力行使にともなう内外への責務や負担がどれほど重いか、目をそらしたままの決定は危うい」と話す。
毎日新聞は「歯止めは国民がかける」との見出しで、社説を1面に掲載。米国の要請に応じることで「国の存立」を全うすることに疑義を呈した。小松浩論説委員長は「目先の脅威が議論になりがちだが、過去の教訓を踏まえ、警鐘を鳴らすのがメディアの役割。『国の存立』を大義名分にして、過ちを繰り返してはならない」とのメッセージを込めたという。 読売新聞は「安倍首相が憲法解釈の変更に強い意欲を示し、最後まで揺るぎない姿勢を貫いたことが、困難な合意形成を実現させた」と歓迎した。新解釈は「解釈改憲」と本質的に異なるとし、「過度に抑制的だった従来の憲法解釈を、より適正化した」とした。
日本経済新聞も、台頭する中国などに対して、米国が「世界の警察」役を担いきれなくなった、として閣議決定を評価。ただ、「ここまで急ぐべきだったのか疑問」と指摘。「政権が交代するたびに路線が変わるようなことは、あってはならない」と釘を刺した。
産経新聞は「自民党がやり残してきた懸案を解決した。その意義は極めて大きい」と述べた。解釈の変更という手法については「国家が当然に保有している自衛権について、従来の解釈を曖昧(あいまい)にしてきたことが問題なのであり、それを正すのは当然」と主張した。
東京新聞は1日に1面に社説を掲載し、一内閣による解釈改憲を批判。2日は、政府が挙げた行使が必要な例について「自民、公明両党だけの『密室』協議では、こうした事例の現実性は結局、問われず、『海外での武力の行使』を認める『解釈改憲』の技法だけが話し合われた」とした。
■反対40紙、賛成3紙 地方・ブロック
ブロック紙や地方紙は、反対の声が多数を占めた。朝日新聞が2日付社説(論説)を調べたところ、賛成は北国新聞(石川)や富山新聞、福島民友の3紙、反対は北海道から沖縄まで40紙あった。多くは立憲主義の否定、平和主義の危機に警鐘を鳴らしている。
秋田魁(さきがけ)新報は、安倍政権を「戦後70年近くかけて一歩一歩進めてきた平和国家の歩みをわずか1カ月半、計13時間の与党協議で『戦争ができる国』へと強引に方向転換させた」。
徳島新聞は「戦争の恐ろしさを知っていた本県選出の三木武夫元首相や後藤田正晴元副総理が生きていたら、認めなかったのではないか」と訴えた。
安全保障や憲法を集中的に取り上げた社もある。信濃毎日新聞(長野)は3月から今月8日までに「安保をただす」と題した社説を計38回掲載。2日は「憲法は権力を縛るものなのに政権が思うまま解釈を変えられるのでは、意味がなくなる。今度の閣議決定は解釈改憲のあしき前例を作った」と述べた。
西日本新聞(福岡)は5、6月で計22本を掲載。1日は憲法9条の条文を載せ、解釈変更での閣議決定を「9条の骨抜き」と批判。2日は与党協議を「お粗末の一言」と断じた。井上裕之論説委員長は「平和友好条約を結ぶ中国をなぜ敵とみなすのか。外交努力をせず安保環境が危ないとあおるのはおかしい」と指摘する。
沖縄タイムスは「憲法クーデター」と批判。「沖縄の軍事要塞(ようさい)化が進むのは間違いない。沖縄が標的になり、再び戦争に巻き込まれることがないか、県民の不安は高まるばかりである」と書いた。
(今村優莉、斉藤佑介)
■社説の検証欠かせぬ 三浦元博・大妻女子大教授(ジャーナリズム論)の話
在京紙は賛否が真っ二つに割れた。2003年の自衛隊イラク派遣の際、政府方針を社説で支持/反対した社は今回と同じ構図だ。
各紙には、社説の検証もしてほしい。米国のニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストはイラク戦争当時、突き進む米政権を後押しした。だが、「大量破壊兵器」がフィクションだとわかると、検証して間違いを正し、読者への説明責任を果たした。
集団的自衛権をめぐる議論で、自分たちの主義主張が歴史の批判に耐えうるのか。言論機関としての自覚を持ち、現実に即して常に見直す検証は欠かせない。
閣議決定後の安倍首相の会見は、現実にはあり得ない例示で観念的な説明だったが、新聞は現実に即し、社説や論説記事もファクト(事実)から出発して論を説いてほしい。」(2014/07/09付「朝日新聞」p3より)
在京6紙は案の定、東京、朝日、毎日が反対、産経、読売、日経が賛成の論調・・・。
しかし地方紙では、賛成3紙に対し、反対40紙とは圧倒的。地方議会でも6月28日現在、157の議会が反対決議をしたというが、賛成決議をしたという話は聞かない。
言うまでもなく、マスコミは、世論に大きな影響力がある。もちろん読む側にも責任はあるが、法人としてのマスコミは規模が違う。しかし、日本のマスコミは、上の三浦教授が指摘するような「歴史の批判に対しての検証」をなかなかしない。
世論調査の結果が、各紙で正反対になることも良く話題になるが、このような各紙の社説の分析を、賛成派の産経や読売の記事でも読んでみたいもの・・・。客観的な「社説」の分析報道で、表現がどう変わるか、を確認する意味で・・・。
改めて、マスコミのスタンスをよく認識して読む必要性を感じた。
話は変わるが、同じく今日の朝日新聞の夕刊に、平和を願う詩が、Netで拡散中だという記事があった。この詩を読んで、何を感じるか・・・
「明日戦争がはじまる」
宮尾節子まいにち
満員車に乗って
人を人とも
思わなくなったインターネットの
掲示板のカキコミで
心を心とも
思わなくなった虐待死や
自殺のひんぱつに
命を命と
思わなくなったじゅんび
は
ばっちりだ戦争を戦争と
思わなくなるために
いよいよ
明日戦争がはじまる
(2014/07/09付「朝日新聞」夕刊p15より)
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新聞各紙の「集団的自衛権」の社説の比較
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コメント
いろいろな意見を比較検討することの大切さを見せつけられる事実ですね。
付録もおもしろいですが、そんな政治家を選んだ方々もご一緒にと言いたくなります。
【エムズの片割れより】
ホントウに「選んだ方もご一緒に!」と言いたいですね。
投稿: 通行人 | 2014年7月10日 (木) 08:20
水曜日はある大学の聴講生をやっています。
その大学の図書館で朝日のこの記事を読みました。地方紙で3紙安倍の応援社説をのせる北國新聞の金沢で土曜と日曜2日間の集中講義を受けてきました。
「「GHQと占領政策と戦後民主化」というタイトルにひかれて2泊3日で出かけたのですが。
中身はひどいものでした。GHQの民主化が冷戦の余波を受けて後退していった問題とかそもそも戦後民主化が内包していた2面性の問題が語られるものと思っていましたが。
30代半ばの講師のお話は旧体制がGHQの改革攻勢に対していかに巧みに抵抗したとえば「靖国」を残すことに成功したかというお話でした。いまの若手の「歴史学者」の1部でしょうがかれらの語り口を確認する以上の意味のない「講義」でした。受講生は大半が60代、70代の分別も常識もあるはずの人達でしたが特に疑問の声や反発の感じられなかったのがなんとも残念です。 受講生の一人の休憩中の発言・・・・・「中国国籍になんかなりたくないから・・・・(集団的自衛権は必要・・・・私の38歳の息子は徴兵制があれば自分は戦争に行くといっている・・・・)と話すのを聴きました。私の対応は・・・・・・。
解釈改憲に理解を示す土地柄と何より地域のオピニオンリーダーとしての新聞の特に社説の影響力に考えさせられたことでした。
【エムズの片割れより】
それはそれはお疲れさまでした。講義もタイトルからは見えませんね・・・。
社説をどの位の読者が読むかは知りませんが、投書で自紙の主張に近い物ばかり載せるなど、世論の誘導にマスコミが大きく影響していることは否定できません。
特に地方では、地元地方紙が強いので、読者は選択肢がないだけに怖いですね。
投稿: todo | 2014年7月11日 (金) 21:23