「残業代ゼロ法案」に思う
今朝の朝日新聞の社説にこんな記事があった。
「(社説)働き方と賃金 長時間労働は許されぬ
年収が高いからといって、健康を損なうような長時間労働をさせていいはずがない。それが大原則だ。
働いた時間と関係なく賃金を決める制度の新設が決まった。新制度では、残業代という考え方がなくなる。政府の産業競争力会議で民間議員の経営者が提案し、厚生労働省も同意した。
対象は、最低でも年収1千万円以上で、職務内容がはっきりしている人。労使が参加する審議会で議論し、年内にも具体的な制度を決める。
今の法律では、上級の管理職をのぞくと、労働時間を厳格に把握することが企業に求められている。高い能力を持つホワイトカラーの働き方にそぐわない面があることは確かだ。
しかし、議論の過程には疑問が残る。会議に労働界の代表はおらず、民間議員の提案も目的や効果がはっきりしなかった。
最初の提案には二つのタイプがあった。導入が決まった「高収入型」と、見送られた「労働時間上限型」だ。
後者は、労使合意で労働時間の上限を決める方式。女性や高齢者、若者の活用がうたわれたが、一般労働者まで会社が一方的に上限や賃金を決めてしまう恐れがあった。後に対象は「幹部候補」に変わったものの、若者を使いつぶすブラック企業に乱用される不安がぬぐえなかった。見送りは当然だ。
では、「高収入型」には問題はないのだろうか。
新制度で、働く人の職務内容が明確化されるのは望ましい。ただ、「残業代をなくせば長時間労働がなくなる」という主張は根拠が薄い。企業側に仕事量を決める権限があるなら、長時間労働を余儀なくされる。
新制度の対象は、仕事量を決める裁量があり、会社と交渉する力がある労働者に限るべきだ。休日を強制的にとらせるといった規制も欠かせない。
いったん制度ができれば、なしくずしに対象が広がる心配も残る。年収1千万円超の勤労者は全体の4%未満とされるが、経団連会長が「全労働者の10%程度は適用を」と発言するなど、経済界には対象拡大の思惑がにじむ。簡単に変更できないよう、年収条件を法律で決めることも必要だろう。
今ある制度との整合性も考えてほしい。例えば、残業代がいらない管理職は「管理監督者」と呼ばれ、本来は経営者に近い立場の管理職に限られている。ところが、経営側に恣意(しい)的に使われる「名ばかり管理職」の問題が絶えない。廃止を検討していいのではないか。」(2014/06/13付「朝日新聞」社説より)
これよりも先、6月1日放送のNHKの「日曜討論」について、共産党のサイトには、こんな記事があった。
「「残業代ゼロ」法案 今でも不十分な規制外す
NHK番組 小池氏が撤廃を批判
日本共産党の小池晃副委員長・政策委員長は1日のNHK「日曜討論」で、安倍首相が導入の検討を指示した「残業代ゼロ」の労働時間規制撤廃について「今の法律があってもサービス残業がはびこり、労働時間規制はあってなきがごときなのに、この規制まで外してしまうものだ。断固反対だ」と主張しました。(小池氏発言)
労働基準法は「1日8時間、1週40時間」の労働時間の上限を定め、これを超えれば企業に残業代の支払いを義務付けています。安倍首相が指示した制度は、年収や職種などを限定して、労働時間ではなく「成果」で報酬を決めようというものです。
こうした動きについて小池氏は「労働時間に応じて賃金を支払うのが大原則であり、成果に応じた賃金となれば、成果を上げるまで残業代ゼロで働かされることになる」と批判しました。
自民党の高市早苗政調会長が、第1次安倍政権で導入を断念した「ホワイトカラー・エグゼンプション」との違いとして労働者本人の「希望」が条件だと述べたことに対し、小池氏は「会社から期待されて断れますか。そんなの何の歯止めにもならない」と指摘しました。
また、産業競争力会議で財界代表が「幹部候補生に限る」としていることについても、「いまブラック企業は、みんな入ったら幹部候補生といって死ぬまで働けといってやっている。まったく歯止めにならない」と強調。「いま国会の全会派一致で過労死防止法を通そうとしているときに、それとまったく逆行するようなことをやってしまうことになる」と批判しました。
自民党の高市氏が「残業代がゼロになるのではない。残業代が込みということ」と反論したのに対し、小池氏は「労働時間規制をなくすということは残業代という概念がなくなる。残業代がゼロになる」と述べました。高市氏がさらに「全部の労働者に適用されるわけではない」と弁明したのに対しても、小池氏は「そんな限定はまったく成り立たないという議論をしている」と語りました。」(2014/06/02付「赤旗」(ここ)より)
政府の労働のルール変更への動きが急で、心配・・・。朝日の社説にもあるように、そもそも政府の産業競争力会議に、労働界の代表がいないのもおかしい。民間議員のリストを見ると、大会社の会長や社長さんばかり。これでは企業側の論理だけで、現場の声が反映されないのは当然。それにしてもこの人選の方法は? まさか、恒例のお手盛り人選でもないだろうが・・・
上の日曜討論も少し見たが、高市政調会長の浮世離れの意見よりも、小池副委員長の意見の方が、よっぽど現場を知っている。
だいたい本人の希望が前提だとしても、各野党が指摘しているように、強者の会社に対して、「希望しません」と言える社員が何人いるのだろう・・・。組合が強い大企業はともかく、いとも簡単にクビにできる中小企業では、機能しないのは自明の理。
そして「成果に対して賃金を払う」という。いったい“成果”って何だ? どんな公正な尺度で測る?? 営業職などでは「売上額」のような数字での尺度があるかも知れない。しかしそんな目標も、上司によって伸縮自在。達成すれば「成果(ノルマ)が低かった」と次は大幅に上げられるだけ・・・。つまり公正・適正な成果など有り得ない。
昔、目標管理制度というのがあった。今でも実施している会社もあるのではないか・・・。自分はこれが大キライだった。
目標管理とは、期首にその期の達成目標を決め、半期毎に上司がフォロー。達成すれば、人事考課や賞与査定が良くなり、未達成なら悪くなる。くせ者は、その目標をどこに置くか・・・。期末に○(丸)を貰いたい担当者は低い目標を掲げる。目標は全員でバラバラであり、上司とせめぎ合いがあるのはまだ良い方・・・。
しかし日本の企業は、上司が部下の評価をキチンと出来るほど優秀とは限らない。たまたまそのときの立場が上司であり、部下・・・。
上司は、部下よりも有能、という前提に立った目標管理制度で評価する部下の“成果”。自分はそんな形にこだわった評価を信じていなかった。
では何を信じているかって? “感(カン)”さ・・・。余計な尺度など不要。人間が相手との日常の付き合いから生まれる評価はバカに出来ない。それも、何人もの感による評価の方が、長い目で見ればよっぽど正確・・・
話は飛ぶが、かつては大会社も「(勤務管理無しで)管理職は24時間勤務」という時代があった。それが自分が卒業する頃、パソコンのログオン・オフによる出退勤管理が可能になって、管理職でも、勤務時間管理が始まった。そして、残業代は払われないものの、残業時間の割増分だけは払われるようになったという。
もしこれが自分の時代に始まっていたら・・・と思うと残念至極・・・。
おっと話がそれた・・・。
労働者の現場とかけ離れて次々と決まっていく、“改革”。国民が望んだ「決める政治」とは、こんな恣意的なものだったのだろうか??
最近、テレビのニュースが苦痛になってきた。同じ顔ばかり映すので・・・。
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コメント
すごく単純なお話と理解しています。
会社は「成果」が出るまでどこまでも働かせる。という話。365日24時間死ぬまで働け。という話だと受け取っています。誰が得をして誰が過労死するかはっきりしています。
【エムズの片割れより】
そうなんです。実に単純な話が、どうしてこう、どんどん進んでしまうのでしょう??
投稿: todo | 2014年6月14日 (土) 20:48
安倍は「戦後レジーム」の破壊を公言しています。憲法の破壊と憲法体制の破壊を進めています。経済の民主化の破壊。---これは旧財閥が早々と再編され戦時経済体制をむしろ積極的に活用することで「解決」.農地改革ーー制度については農村、農民の利用価値がなくなった今農地法の改悪。農協制度の「改革」に乗り出しました。教育制度の民主化への攻撃は教育委員会の「改革」の段階まで来ています。
そして労働基本法など労働3法への攻撃の一環として21世紀日本の労働者を時間外労働概念を亡くして19世紀イギリスの労働者の境遇まで落とし込めるということをやろうとしています。。
問題は安倍の各個撃破に対してそれぞれがバラバラにしか対応できていないことです。自分への攻撃には憤ってもほかの攻撃には「理解」さえ示します。攻撃してくる安倍は一人です。このことをよくよく見抜き反撃したいものです。
私的安保法制懇の答申を受けメデイアを総動員した記者会見の5月15日は安倍の父親の命日だそうです。あの感情的情緒的の言説のわけを知って私も感情的になりそうです。
【エムズの片割れより】
首相の暴走には、首相経験者などが懸念を表明したり、自民党岐阜県連が慎重な議論を求める意見書を議決したり、もうメチャクチャですが、首相の動機は何なのでしょう?「歴史に自分の名を残したい」だけなのでしょうか・・・
あまりに日本をメチャクチャにすると、後が大変。
何よりも、「後」の顔が浮かばないのが、今の日本の悲劇ですね。
投稿: todo | 2014年6月15日 (日) 21:11
本当にtodoさんのおっしゃる通りだと私も思います。
投稿: Tamakist | 2014年6月17日 (火) 09:55
「戦後レジーム」からの脱却と聞いて意味がすぐ分かる国民がどのくらい居るのでしょうか。私も分かりませんでした。レジーム,仕方がないのでネットで調べました。こうしてわからないままに国家の体制が変わってしまっていいものでしょうか。労働組合も動かない、学生も動かない。国民の意識が停滞しているわけではなく、成す術がない現状を歯がゆく思っている人は沢山いると思います。国会中継をテレビで見ていると、質問する議員のいらないおべっかが気にかかります。もっと鋭く分かりやすく政府に質問できる議員はいないのでしょうか。優秀な国会議員がいないのでしょうか。嘆かわしいことです。
【エムズの片割れより】
実な自分も同じく「レジーム」をNetで調べてしまいました。
「相手に分かる言葉で説明」はビジネスの基本です。それを、相手が理解出来ない言葉でごまかすのは自信のない証拠?
でもあの自信満々の顔は・・・
投稿: 白萩 | 2014年6月17日 (火) 12:09