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2014年4月26日 (土)

「防衛省の隠蔽」~内部告発を考える

今朝の朝日新聞の社説に、こんな記事があった。
防衛省の隠蔽―良心はどこへいった
 都合の悪い文書は組織をあげて隠す。それを内部告発する者は徹底攻撃する。そんな防衛省の姿が浮かび上がった。
 海上自衛隊の男性隊員の自殺をめぐり、先輩のいじめを示す証拠を同省が隠蔽(いんぺい)していたと、東京高裁が認定した。
 そんな証拠があることは、裁判を担った海自の3等海佐が暴露し明らかになった。それがなかったら、いじめを放置した組織の責任は闇に葬られていた。
 人命を守るべき組織でありながら、命が失われた重みを顧みずにひたすら自らの防衛に腐心したのである。
 猛省するほかあるまい。誰が隠蔽を指示し、その事実を誰が知っていたのか。早急に徹底調査し、公表すべきだ。
 隠されたのは、男性が所属した護衛艦の乗組員たちにいじめの有無を聞いたアンケートや、事情にくわしい乗組員に聞き取ったメモだ。
 遺族は情報公開法に基づいて開示を請求したが、海自は存在しないとして応じなかった。
 情報をもつ側が「ない」と突っぱねれば、情報公開は成り立たない。そんな実態がある中で年内に特定秘密保護法が施行される。当局に不都合な情報はいっそう闇にとどまるだろう。暗然たる気持ちになる。
 救いといえば、3佐の良心が、それを許さなかったことだ。控訴審で証拠の存在を明らかにしたことは、組織人としての立場を賭した、勇気ある行いだった。
 しかし、控訴審で国側はその発言を「信用できない」と批判した。実際には、少なからぬ関係者が隠蔽を知っていたはずだが、その3佐以外、誰も真実を語ろうとしなかった。
 同省は3佐の懲戒処分も検討したという。言語道断の対応というほかない。処分が必要なのは告発者ではなく、情報隠しをした側である。告発した3佐を不当に扱うことはしないと約束すべきだ。
 男性の自殺からすでに10年がたっている。アンケートが早く明らかになっていれば、裁判は長引かなかったし、その教訓は自衛隊内のいじめ防止などに生かせたかもしれない。
 ふつうの裁判に勝敗はつきものだが、国が当事者の場合、勝てばいいというものではないはずだ。真実に近づく証拠を裁判で示すことが、公益の側に立つ政府の責任ではないか。
 どんな公的組織であれ、その組織自体よりも大切に守るべき社会の正義というものがある。防衛省はその当たり前の原則を肝に銘じるべきだ。」
(2014/04/26付「朝日新聞」社説より)

この問題を、告発者の“その後”について考えてみたい。自衛隊の組織の一員である3佐が、組織の命令に背いて自分のいる組織を告発した。自衛隊からすると、内容は別にして、命令に背いた3佐は、飛んでもないヤツ・・・。
Wikiの「たちかぜ自衛官いじめ自殺事件」によると、「2013年6月、海自は東京高裁に意見陳述した三佐に対して、調査の関連書類を自宅に保管していた事を規律違反だとして懲戒処分手続きの開始を通告していたが、2014年4月25日、小野寺防衛相は海自が遺族側に内部告発した三佐の懲戒処分を検討している問題について「基本的に公益通報にあたると思っている。通報者に不利な取り扱いをすることはあってはならない」と否定的な見解を明らかにした。防衛省は処分を見送るとみられる。」とある。現に処分は見送られたようだ。
でも、もしここまでニュースで世間に知られなかったら、この3佐は完全に組織につぶされていたはず・・・。
同様に思い出すのが、2010年11月の「尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件」である。これは、尖閣諸島で中国漁船が海上保安庁の船に衝突してきた事件で、そのときの映像が、現職の海上保安官によってYouTubeに公開され、国民が事実を知った事件である。
Wikiには、この告発者の実名が記されており、“その後”について、「2010年12月17日に辞職届を提出。12月22日、海上保安庁により停職12か月の懲戒処分。同時に辞職届が受理され同日付で海上保安官を辞職した。在任中、長官表彰3回、本部長表彰4回受彰。同12月22日、警視庁により国家公務員法(守秘義務)違反容疑で書類送検された。一色は動画投稿について、「政治的主張や私利私欲に基づくものではない」と述べ、後悔はしていないことを強調した。」とある。どちらも情報漏洩の罪を問われている。
当時43歳だった人が、退職を覚悟して、まさに自分の人生を賭けて行った行動だったわけだ。

もっと有名なのが、アメリカのエドワード・スノーデン容疑者。ドイツのメルケル首相の携帯電話の盗聴など、アメリカ国家安全保障局(NSA)による個人情報収集の手口を告発して米国から追われ、今はロシアに滞在中。命が危ないと思っていたが、ノーベル平和賞に推薦されるなど、もはや世界がその命を見守っている。

内部告発者は、自分の“その後”をどう考えて告発しているのだろう。上の記事の自衛隊の3佐が、今後、自衛隊内でどのような処遇になるのかは分からないが、少なくても、その組織を敵に回した、という点で、安穏で終わるとは考えられない。少なくても、ほとぼりが冷めた時点で、それなりの処遇(左遷等)を受けるのだろう。だから告発者はその組織を辞める覚悟で告発するしかない・・・。

これらは不当労働行為についても、同じようだ。労働者が会社から不当な処遇を受けて裁判になったとき、例え裁判で会社に勝ったとしても、いわゆるサラリーマンとして、“その後”がハッピーになるのかどうか・・・。元大組織の一員だった自分の目から見ると、やはり会社で“居場所”は与えられないと思う・・・。

なぜか・・・。世間の正義と、組織の正義に乖離があるということ・・・。これはテレビの警察モノのドラマと同じで、組織の権威を守ることが何よりも大切。幾らそれが、世間の価値観と違っていても、組織を守ることを優先して全てが動く・・・。それがイヤなら、自らその組織を辞めるしかない・・・。
自分も40数年サラリーマンをやっているが、会社では運良くそのような事例を見聞きすることは無かった。でも、もし上の例のような場に自分が遭遇したら、自分は社会正義のために告発出来るだろうか? いや、自分は保身のために、そして自分の“その後”のために、見て見ぬ振りをするのだろうと思う。
こんなニュースを聞く度に、告発者の“その後”を心配してしまう小心者の自分である。

●メモ:カウント~570万

140426otegara <付録>「ボケて(bokete)」より

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コメント

組織対個人の問題ではなく 会社組織の中に民主主義はあるか?と考えてみたい。いまの議会制民主主義の最大の問題だと考えます。いわゆる会社の塀の中には民主主義はあるのか?と。わたしは零細企業の経験しかないので決断の選択を迫られるような場面はありませんでしたが多くの企業おおくのサラリーマンのみなさんはどうでしたか?聞いてみたいところです。
 いまの民主主義の制度を全部否定はしませんが小選挙区制をはじめいまの民主主義制度の疑問点は少なくありません。

【エムズの片割れより】
会社に限らず、組織の中に民主主義は無い。が自分の結論。もちろん建前的にはあるが、「長いものには巻かれろ」「出る杭は打たれる」。それが日本の社会・・・

投稿: todo | 2014年4月28日 (月) 22:07

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