« 未来に注文つけないヤンキース田中 | トップページ | 「素っ裸」と「真っ裸」~スピーチの思い出 »

2014年4月13日 (日)

「がんと向き合う」~心の痛みに対する精神腫瘍科

昨日の日経新聞に、なぜか心に残る記事があった。
がんと向き合う 大西秀樹さんに聞く
    痛み越え、いのち輝く 生の意味、思索重ね
<がんの痛みは多様で、互いに影響しあっている>
 「痛み」ほど人々が恐れ、嫌うものはない。死に際に苦痛だけは取り除いてほしい、と誰もが願う。20年以上にわたって、心と体の痛みに苛(さいな)まれるがん患者に寄り添ってきた精神科医の大西秀樹さんに「痛みとは何か」を聞いた。
 「がん患者が抱える痛みには肉体的痛み、精神的痛み、社会的痛み、魂の痛みがあり、それぞれ影響し合っています」
 「体の痛みの激烈さは『万力で挟まれて360度回転したよう』と表現されることもあります。欧米では『がん性疼(とう)痛を取り除かないのは医師の罪』といわれ、医療用麻薬を使った疼痛緩和が普及していますが、日本では麻薬に対する偏見から立ち遅れてきました」
 「体の痛みは、けがや臓器の異常による知覚神経への刺激が脳に伝わって自覚されます。危険から身を守るアラーム(警報)といってもいいでしょう」
 医療者に気づかれにくいのが心の痛み、と大西さんは話す。
 「医療の進歩で治癒率が上がったとはいえ、国内で毎年30万人の命を奪い死亡原因の1位を続けるがんに、死を連想してしまう人が多いのは事実です。ショックも大きく、『告知されて頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった』と多くの患者は話します。ショックから心を守るための仕組みなのでしょう」
 「ただ、人の心には、辛い経験をしても、その衝撃的な出来事に対して適応していく力が備わっており、通常なら2週間ほどで回復します。しかし、がん患者の2~4割に気分の落ち込みや食欲不振、不眠、倦怠(けんたい)感など、うつや適応障害の症状が現れます。闘病意欲を失ってがんが進行してしまう患者も少なくありません。がんの身体症状の悪化と医師に誤解されて、治療の変更や中止につながることもあります」
 「精神科の医師である精神腫瘍医が関わる理由はそこにあります。心をケアするだけでなく、診断や治療の質を高める意味でも求められているのです。以前は、がんの痛みを我慢し続けたり、心の辛さを誰にも理解されないまま亡くなったりする患者がいました。痛みを取り除く緩和医療は治療の手段がなくなった末期になってから受けるもの、と考えられていたからです。しかし、2007年策定されたがん対策推進基本計画は、緩和医療を治療の初期段階から受けるものとし、痛みを医療者に伝えず我慢するのは、過去のものになりつつあります」
 「会社でバリバリ働いたり、主婦として一家の暮らしを支えたりしていた人が、がんと診断された瞬間、仕事や社会生活から切り離され、『がん患者』として生きていかなければならなくなります。孤独感や疎外感のほか、自分の地位や役割がなくなってしまうのではとの不安が募り、離職や経済的な不安も頭をよぎります。こうした苦悩が『社会的痛み』です。家庭の支え手から支えられる立場になることがストレスとなって、心のバランスを失う人もいます」
<体は衰えても、心は成長できる>
 「一方、自分がこの世から消えて無くなるのではないか、という恐怖や、人から援助されるだけの存在になるのではないか、生きている意味があるのだろうかと苦悩するのが、人間の尊厳にかかわる『魂の痛み』です。しかし、そのような状況でも人生の意味や存在意義を問い、思索を通じて人間的に成長する患者を数多く見てきました」
 「たとえば、数年前、院内の内科医から紹介されて私の外来に来た50代の主婦。大腸がんが他臓器に転移して厳しい状況でした。初診時に『今の治療がだめだったらもう治療法はないと言われました。母にさえ知らせずにきました』と涙ぐみます。患者がグループで病気や人生について話し合う『集団精神療法』に参加してもらい、メンバーと交流すると、徐々に明るさを取り戻しました。4カ月目には『いつか必ず死ぬ日が来る。でも、この病気のおかげで成長できた』と発言。7カ月目には『体がどんどん悪くなるのは、自分では止められない。でも、心はコントロールできる。がんが心に転移しないようにしたい。この会に参加できて本当によかった』と吹っ切れたような表情で話しました」
 「衝撃的な出来事や深い苦悩を乗り越えて人間的に成長することを『心的外傷後成長(PTG)』といいます。この女性は集団精神療法の仲間との交流を通じて人生や家族についての思索を重ね、『がんになったことは不運だけれど、不幸じゃない』という境地に至ったのです」
 「家族を思いやり、仲間に感謝して、次のような言葉を残します。『この病気で強くなることができた。仲間に出会い、私の周りにあった幸せに気づくこともできた。できなかったことばかりを考えない。やりたかったことがあるし、今、できることもある。この病気に感謝することがある。悔しいけどね』。
この言葉を聞いて、身震いしました。人はここまで強く、やさしくなれるのか。体は衰えても心は成長できる。いのちを輝かせて人生を締めくくる人への敬意が、患者の心に向き合う今の私を支えています」(編集委員 木村彰)

 おおにし・ひでき 兵庫県生まれ。横浜市立大学医学部卒。横浜市立大学精神科講師、神奈川県立がんセンター精神科部長などを経て、2006年埼玉医科大学精神腫瘍科教授、07年同大学国際医療センター精神腫瘍科教授。専門は精神腫瘍学、死生学。主な著書に「がん患者の心を救う」など。

日本初の「遺族外来」 医療に厚みと深み
 がん患者の心をケアする精神腫瘍学(サイコオンコロジー)は、1970年代に欧米で始まり、日本では80年代半ばに学会ができた。その頃からがん告知が進み、患者の精神的衝撃に対処する必要に迫られたという背景がある。
 大西さんは、こうした変化を1990年代初めの米国留学を通じて肌で感じ、帰国後の95年から精神腫瘍医としての活動を本格的に始める。患者ばかりでなく、家族や遺族にも精神的苦痛を抱える人が多いことから、2006年に日本で初めて「遺族外来」を開設した。
 「家族は“第二の患者”。多くの家族が傷つき、苦しんでいる」と大西さん。外科、放射線科、腫瘍内科などの治療医と力を合わせて、がん医療に厚みと深みを加えている。

」(2014/04/12付「日経新聞」夕刊p5より)

精神腫瘍科というのがあるのだ・・・。知らなかった・・・。
ガン告知が一般的になってきて、『告知されて頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった』となるが、「通常なら2週間ほどで回復します。しかし、がん患者の2~4割に気分の落ち込みや食欲不振、不眠、倦怠(けんたい)感など、うつや適応障害の症状が現れます。」だって・・・。
ほぼ全員が鬱状態になると思っていたが、人間結構強い。でも自分は確実に“心のバランスを失う”この2~4割に入るな・・・。自分がこのような記事が気になるのも、それへの備えかも知れない・・・。

先日、NHKラジオの宗教の時間「“残される人”に寄り添う(チャプレン兼カウンセラー…沼野尚美)」(20/14/03/23放送)を聞いた。この中で、頭から離れないエピソードがあった。沼野さんの30年に亘るホスピスでの心のケアにあたってきた体験談である。

<“残される人”に寄り添う(チャプレン兼カウンセラー…沼野尚美)より>

ガン告知された患者にとって、唯一の見方は家族。特に夫婦は唯一無二の存在。しかし家族と言えども、それまでのあり方によっては、決して味方ではない・・・。

上の例は、死に行く70代の夫に対して、妻は30年前の事に「謝って欲しい」と詰め寄る。
そしてもう一つの例は、50代の夫の「生まれ変わっても自分と一緒になってくれるか?」との問いに対して、妻は「あなたとは今回限りにしたい」と言う・・・。

つまり、人間関係は努力が必要だとうことだ。実は自分も、はなはだ自信がない。よってなるべく“確認”するようにしている。
良いチャンスは、カミさんが探し物をするとき・・・。例えば、さっきは最近時間を掛けて作っているある手芸の作品が無くなった。前は、それが車のキーだったり、メガネだったり、コンタクトであったり・・・。大切なモノが無くなったとき、女はどうしてこう闇雲に探すのだろう。手当たり次第に、探し回る。その点、男はロジカルに考える。いつ無くなった?どこで無くなった??それらを聞いていると、だいたい見付けることが出来る。
その時がチャンス! 「結婚して良かったか?」と聞くと、カミさんは「ウン!良かった」と答える。(もちろんその時だけだが・・・)
何度もそれを繰り返していると、自分が死ぬときも、看病して貰えそうな気がしてくるのだが、さてどうだろう・・・。
いつか必ず来る病気による「心の痛み」。それがどんな状況下であっても、何とか二人で乗り越えたいと思うのだが・・・

|

« 未来に注文つけないヤンキース田中 | トップページ | 「素っ裸」と「真っ裸」~スピーチの思い出 »

コメント

聞きたい返事が、快い笑顔とともに返ってくるタイミングを見定めて、訊くのですね。さすがあ~!

たしかに、無くし物を見つけてくれた人、手を貸して見つけさせてくれた人は最高にイイ人です。
(前回はノートパソコンと気づかず間抜けなことを申ました。恥じております。)

【エムズの片割れより】
いやいやノートPCと書かなかった自分のミスでして・・・。

投稿: Tamakist | 2014年4月14日 (月) 13:25

お友達に癌の方がおられます。どのように心のケアができるのか。知りたくて読んでいました。テープのカウンセラー沼野尚美さんのを聞いていたら、まさしく私のことのようで、ドキドキしています。ごめんなさい。

【エムズの片割れより】
ガンの友人との話は、言葉を選びますよね。傷つけないために・・・

投稿: 紅いサボテン | 2014年4月16日 (水) 11:59

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 未来に注文つけないヤンキース田中 | トップページ | 「素っ裸」と「真っ裸」~スピーチの思い出 »