「お金の人間学」~元プロ野球投手・真木将樹さんの話
先日の朝日新聞にこんな記事があった。
「(リレーおぴにおん)お金の人間学:5 夢破れて知る稼ぐ厳しさ 真木将樹さん
近鉄にドラフト1位で入団してまもないころでした。コーチと散歩していると、「100円のボールペンが売れたら、利益はいくらだろう」と、世間でお金を稼ぐ厳しさを教えてくれました。「野球でメシが食えることは本当に幸せなことなんだよ」。その時はこの言葉を理解していませんでした。
契約金1億円。年俸1300万円。出来高払いで5千万円。左腕投手の21歳の私に球団が示した条件です。「5段階評価の5をもらった」という感覚でした。1年目は6勝。契約更改で年俸は2200万円にアップしました。将来への危機感はなく、「右肩上がりに行くだろう」と信じていました。
3年目に入ると、大きな故障もないのに、周囲から「一体、どうした」と心配されるほど球速や球威が目に見えて落ちました。「まるで別人じゃないか!」と悩む毎日。様々なフォームを試したが、調子は上向かなかった。
プロは根性や意欲だけで続けられる世界ではありません。結果が出なければクビです。家族を養わないといけないのに、戦力外通告される恐怖が襲ってきました。巨人にトレードされても結果は出ない。周囲の視線も気になり、大好きだった野球が苦痛になった。「辞めた方が逆に解放される」と考えるほど追いつめられました。
引退後、商品企画会社を立ち上げました。最初の2年は利益が出ず、預貯金を取り崩す生活でした。数年前、プロ野球出身で私立高校野球部の監督をしている先輩から依頼を受け、ユニホーム用の洗剤の商品化を企画しました。商品が口コミで広がって、何とか家族と暮らしていける収入は得られるようになりました。
ヤンキースに移籍した田中将大投手の7年総額約160億円の契約は、世間に夢を与えました。本当に素晴らしい。一方で、第二の人生で苦労している元プロ野球選手たちのことも忘れて欲しくない。チャンスをくれたプロ野球界には感謝していますが、夢に破れた選手が社会を生き抜くための支援にもっと力を注ぐべきだと思います。
自分のやれることをやろう、と会社のホームページに元選手たちのインタビューを掲載しています。タイトルは「夢のつづき」。ほとんどが苦労してお金を稼ぎ、懸命に生きています。
華やかな世界の舞台裏には厳しい現実があることを、未来の選手や子供を選手にしようと願う親に知って欲しいのです。プロ野球を志す若者たちに私のような苦労をして欲しくない。(聞き手・古屋聡一)
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まきまさき 元プロ野球投手 76年生まれ。98年法政大から近鉄入団。01年に巨人に移籍し翌年退団。カナダ独立リーグを経て04年引退。06年「アルク有限会社」設立」(2014/03/25付「朝日新聞」p15より)
長い人生とお金。この関係は、どう理解したら良いのだろう?
華々しいプロ野球の世界。21歳の若者に「契約金1億円。年俸1300万円。出来高払いで5千万円。」という人生のスタート。そのお金を当人がどうしたかは知らない。しかし、この記事を読む限り、「その後」を意識していたとも思えない。
先日、TVで「戦力外通告」におびえる野球選手の番組を見た。家族を抱え、結果を出せない選手の苦悩・・・。野球以外の世界を知らないので、クビになったときの恐怖感は大変なもの・・・
しかし、プロ選手の寿命は短い・・・
フト昔書いた記事を思い出した。もう7年も前の記事だ(ここ)。そこに新聞記事の引用でこうある。
「・・・ドラフト制度が始まった65年から03年までを調査した『日本プロ野球のドラフト制度に関する研究』によると、高卒、大卒、社会人出身のうち、1軍の試合経験なしに引退する選手の4分の3が高卒だ。投手の場合、1軍経験なしに引退するのは高卒は37.3%と、大卒の15.9%に比べて高い。執筆者の一人、日体大スポーツ局の黒田次郎は『近年、高卒の平均在籍年数は4年に満たない。大学卒業前の若さでお払い箱になる計算だ』と指摘する。・・・」
旬の時期が短いプロ選手とサラリーマンは違う。でも、サラリーマンでも、旬の時期はあるもの。思い出すと、自分も「今が人生でピークだろう」とカミさんに言ったことがある。現役時代の最後の頃だ。
しかし人生のピークのとき、自分たちの将来のために、入ってきたお金を貯めておいたか、というと、そんな事を考える余裕も無かった。子どもの教育費などにお金がどんどん出ていった。誰でも同じ経験をするが、でも何とか日々は回った。
今思うと、これほどラッキーなことはない。回ったということは、必要な出費に見合った収入があったということ。これは有り難かった。
上のような若いプロ選手については、経験豊かな親がコントロールするしかない。しかし中堅になって親から独立した人たちは、自己責任以外はない。
必要以上のお金は要らないが、それ以下の収入では、家庭が壊れる。
こんな記事を読みながら、自分の人生を「お金」という切り口で眺めてみて、まだまだ自分たちはラッキーな世代だったな、と振り返るこの頃である。
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