「米国から見る安倍政権1年 米国在住の作家・冷泉彰彦さん」
“我々の国・日本”の「今」を勉強するのに、自分にとってタメになった記事を見付けた。長文だが、とっておきたい記事である。
先日の朝日新聞に、米国在住の日本人の安倍政権への見方が載っていた。
「(インタビュー)米国から見る安倍政権1年 米国在住の作家・冷泉彰彦さん
政権が発足して1年が過ぎ、靖国神社参拝や中韓両国に関する言動から、安倍晋三首相の目指すものへの懐疑と警戒が欧米でも強まっている。政権再交代から間もない昨年1月、この欄でインタビューした在米作家の冷泉彰彦さんに再び聞いた。首相の振る舞い、そして首相を支える日本の民意は、「米国の目」にどう映っているのか。
――昨年1月のインタビューで、安倍政権に対して米政権は「わかりにくさ」を感じていると指摘されていました。米国は現在の安倍政権をどう見ているのでしょうか。
「靖国参拝と国家主義的な言動に対する危機感が、日本では薄すぎます。ダボス会議の発言を報じた欧米メディアを見ると、安倍首相への印象がかなり悪化していることが分か る。ロイター通信の社長が自ら書いた記事では、中国政府高官の『安倍首相はトラブルメーカー』という発言が紹介されています。引用とはいえ、安倍首相こそが『面倒を起こす人』という含意が感じられます」
「CNNの単独インタビューでも安倍首相は『習近平政権だけではなく、過去20年、中国はずっと拡張主義だった』と答えた。これでは、中国と関係修復するつもりがあるのかと受け止められる。こんな報道が象徴しているように、安倍政権は一つのイメージにはまり込みつつある。それがどれほど日本の国益を損なうか、分かっているのでしょうか」
――国益を損なうほどですか。
「安倍首相は『(日本の)民主党政権が日米関係を悪くした』と言っていますが、逆です。米国にとって安倍首相への懸念は大きく言って3点あります。まず、日韓関係がこれほど険悪だと、米国の行動を制約する。北朝鮮情勢に対する情報交換や態勢作りで日韓が一枚岩になれないのは、米国にとって大きなリスクです。もし北朝鮮が明日にでも政権崩壊したら、どうするのかと」
「二つ目は、経済への波及です。先日、ニューヨーク・タイムズ紙の経済欄に『アジア経済の最大のリスクは日中関係だ』という記事が載りました。中国がくしゃみをすれば世界が肺炎になりかねない今、もし日中関係の悪化が何らかの形で中国経済の足を引っ張り、アジア発の世界的株安が起きたら、その原因は安倍首相だと言われかねない。国家主義イデオロギーを求心力に使いつつ、リベラル的な経済政策をするアベノミクスは、分かりにくいながらも評価されていました。しかし、中国との関係悪化が株安の引き金を引いたら、世界は許さないでしょう」
「三つ目は米中関係に対する悪影響です。この2大国の関係は一筋縄ではいかない繊細な代物です。米国は中国の様々なことが気に入らないし、価値観もまるで違うが、我慢している。貿易相手及び国債引き受け手として共存共栄を目指すしかないからです。なのに、安倍首相の無分別な言動が微妙な均衡を狂わせ、米国の国益を左右している。日本人が想像する以上に米国にとって中国は難しい存在です。その遠くて近い距離感を何とかしのいで中国と付き合っているのに、安倍政権は無頓着過ぎる。これでは逆に中国の改革を遅らせてしまう、とオバマ大統領は思っているでしょう」
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――中国の改革を遅らせる?
「そうです。米国は中国に硬軟合わせたメッセージを送り、国際的ルールにのっとるよう促しています。軍事的膨張を牽制(けんせい)し、より開かれた社会と政治体制に軟着陸させようというのが米国の国家意思です。しかし、パートナーである日本が、中国を刺激し、こともあろうに連合国、第2次大戦戦勝国側のレガシー(遺産)を利用させるような事態となっています」
――「遺産」とは何ですか。
「対日戦では多くの米国民の血が流れましたが、その結果、日本は民主化し、日米が共存共栄する平和な太平洋が実現した。ジョン・ダワー氏の言うように、日本は『敗北を抱きしめて』まともな国になったはずでした。ところが戦後70年近く経つ今、中国に『日本は戦後の国際秩序に反している』などと言わせる隙を作っている。米国が主導して作り上げた戦後の国際秩序だというのに、後から入ってきた中国の共産党政権が主役面して正義を名乗るなど、米国政府は許し難いはずです」
「ただ、米政府は、安倍首相自身が戦後の国際秩序に真剣に反抗しようとしているとは思っていないでしょう。A級戦犯が合祀(ごうし)されている神社に参拝するのは、そこまで考えた上でのことではなく、単に無思慮な行為だと理解していると思います」
――靖国参拝に「失望した」という米政府のコメントで、米大使館のフェイスブックが炎上しました。
「安倍首相は反米に傾く人たちに支持されていると見られかねないでしょうね。実際、ネット右翼的な人たちの間では中韓だけでなく、米国も気に入らないという雰囲気が生まれている。堂々と孤立の道を歩め、というような。安倍首相はそんな支持層に引きずられるところがあり、日米関係の資産を過去半世紀なかったような形で傷つけています」
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――なぜ、こんな雰囲気が出てきたのだと思いますか。
「市場がグローバル化し、国際化していることの副作用という面は否めないと思います。言語、文化、価値観などで国際化に伴う軋轢(あつれき)が日本社会に押し寄せており、適応する努力が求められている。その反発として、国内にとどまる方が安心だという感情が生まれ、同時に、第2次大戦で悪者となった過去をひっくり返して、国際化への不適応を帳消しにしようとする精神的な作用が出てきたのでしょう。安倍首相自身はそんな自己省察はしていないでしょうが、似たような心性を持った人から支持され、吸い寄せられてしまう」
「さらに戦後日本の文化的、思想的エスタブリッシュメントだったリベラル系の人々への反発という感情もあるでしょう。知性とされてきた側を引きずり落としたい衝動、反知性主義とも言える。この日本的な左右対立は、米国の『大きな政府と小さな政府』や『宗教右派とリベラル』の対立よりも、なぜか先鋭的になっている。社会的な意味合いは小さいにもかかわらず、個人的な、心理的な経験として対立が激化しているのがやっかいなところです」
「人口減や一部の産業の国際競争力の低下からくる閉塞(へいそく)感に対し、イデオロギーのゲームでうっぷんを解消しているとも言えます。例えば、過剰な反原発感情もそうでしょう。大切な問題ではありますが、必要以上に大きく語られ、人口減少や産業競争力低下といった日本の根源的問題が避けられている。リベラル側から社会全体の行き詰まりを解消する処方箋(せん)を出せていないのも確かです。議論が粗雑になった責任の一端は、(日本の)民主党にあります」
――右が靖国、左が反原発に向かうならば、真ん中は?
「中間的な層が実は多数派ですが、この真ん中はいわゆるノンポリなんです。価値判断など面倒なことにかかわりたくないという巨大な空白があるんですね。是々非々で判断する中間層というのが日本にはない。ふわっとしたノンポリという立場があり、それが巨大なのです」
「日本の教育には決定的に欠けていることがあります。社会、政治問題について『自分の意見を持つことの重要さ』を教えないということです。自分の中に核になる考え、抽象的な原理原則を持ち、それに基づいて政策への賛否を決めるという当たり前のことを、公教育で一切教えていない。大きな問題です」
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――政治への根本的な無関心が、今の状況を生んでいるのですか。
「具体的な政策が、自分の境遇にダイレクトに跳ね返ってくる感覚が薄いのも確かです。税負担感と、大きな政府、小さな政府といった政策の選択肢が関連づけられていない。財政難でも歳出を絞らない国の赤字体質と、有権者のお上任せ体質の双方が関係するのでしょう。先への不安感だけはみんな持っているが、それぞれの政治への関心は分断されている。ばらばらになった個人は精神的に不安定になり、国家に依拠し、政治参加に刹那(せつな)的な楽しみを見いだすだけになってしまう」
――このままでは日本はどうなるのでしょうか。
「そう簡単に、日米同盟は崩壊しないでしょう。安倍首相の一連の言動によって日米関係が決定的に悪くなることはない。ですが、衰退と孤立化を早めることにはつながります。日本は突然破綻(はたん)するのではなく、時間をかけて衰退するだろう、と知人の金融関係者が言っていました。崩壊前に逃げられると思っているから、まだ日本に投資する人がいる、というのです」
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れいぜいあきひこ 米国在住の作家・ジャーナリスト 59年生まれ。米コロンビア大学院修了。渡米して約20年、ニュージャージー州プリンストンから日本と米国の今を観察している。
<取材を終えて>
日本を離れているから見えるものがある。祖国への愛着と同時に、外部から観察する冷徹な目を併せ持つことで、国内では見えにくい、見たくないものが浮かぶ。それを冷泉さんは巧みに言葉に乗せる。安倍政権に対する海外の視線は冷え込み始めている。冷泉さんが語る仮借ない現状認識に、反論できないのが切ない。(ニューヨーク支局長・真鍋弘樹)」(2014/02/21付「朝日新聞」p17より)
昔、現役の時に、(英語が話せないために)海外出張から逃げていたが、とうとう逃げられなくなって、米東海岸に出張したことがあるが、そのときに、外から見た日本を強く意識した。
上の記事も同じだ。海外に身を置いてみると、なぜか日本が客観的に見ることが出来るのだ。
そんな気持ちで上の記事を読んだ。そして、前にも書いたように(ここ)、
「日本の教育には決定的に欠けていることがあります。社会、政治問題について『自分の意見を持つことの重要さ』を教えないということです。自分の中に核になる考え、抽象的な原理原則を持ち、それに基づいて政策への賛否を決めるという当たり前のことを、公教育で一切教えていない。大きな問題です」
という指摘が自分にとっては目から鱗・・・
そして、「靖国参拝と国家主義的な言動に対する危機感が、日本では薄すぎます。」という指摘は国内でも多くの人が感じていること・・・
国内外のマスコミは大きく反応しているが、肝心の国民世論の反応はいまひとつ・・・。
もう日本はダメかも知れない・・・
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