「介護を成長産業に」の陰で
今朝の朝日新聞に有料老人ホームの記事があった。
「「介護を成長産業に」の陰で
■運営転々、サービス低下
「(運営方針は)『ワタミの介護』の設定にさせていただく。私どもでダメならば、撤退します」
神奈川県内の有料老人ホーム「ネクステージあざみ野(現レストヴィラあざみ野)」。施設の運営を従来の会社から引き継ぐことになった「ワタミの介護」が2007年5月、入居者の家族らを集めた会議で、清水邦晃社長が運営方針の変更を迫った。
「ツカツカと入ってきて椅子にも座らず、書類を机にドンと置いて。あれじゃ脅し」。当時90歳を超えていた母親を施設に入れていた女性(71)は振り返る。
この会議の半月ほど前、清水社長は工事関係者を引き連れて現れ、「施設を改装します」といきなり告げた。看護師の常駐をなくすなどの運営方針の変更も一方的に通告した。入居者の家族らが猛反発し、清水社長との話し合いは進まないまま。「撤退する」という発言が飛び出したのは3回目の会議だった。
「運営会社が変わるのはワタミで4社目。ワタミは大手だから『もう倒産はないよね』と期待していました。でもここまでひどいことになるとは」と元家族会の一人は言う。
04年の開設当初は、高級さに加え、医師が常駐することが「売り」だった。だが入居者が集まらず、半年後に米国の不動産ファンドに売られ、06年春には別の事業会社に売られた。その後4社目の名乗りを上げたのが居酒屋チェーン店から介護ビジネスへ参入したワタミだった。
最初の買収で米国の不動産ファンドが経営権を握ったときに、医師の常駐がなくなり看護師だけに。それでも不安だったのに、ワタミは看護師の常駐まで廃止するという。家族会は神奈川県に指導を要請し、何とかワタミに看護師の常駐を認めさせたが、その他は「ワタミ流」をのまざるを得なかった。
毎月の管理費に含まれていた光熱費と水道代計4200円が新たに取られることになった。一方、「コスト削減」でカラオケ機材や各部屋に引かれた有線放送は廃止された。
介護体制も、スタッフ1人に対して入居者2人の体制が2.5人に変わった。「責任をもって介護ができない」と、なじみのベテラン職員たちが辞めていった。そんな中、08年に母親が肺炎で亡くなった。
「母は胃ろうをしていたから、義歯を入れないことや体位の入れ替えは一定時間あけるように医師から指示され、施設側にもそれを求めていた」。ところが、介護の際に施設のスタッフの間で「連絡ミス」があったため、肺炎を起こしたと女性は訴える。「経験の浅い職員に入れ替わる一方、入居募集に力を入れたために入居者は増え、明らかに人手は足りていなかった」
ワタミ側は「ミス」を認めていない。だが、施設と入居者のトラブルを調べる神奈川県の国民健康保険団体連合会(国保連)は、ワタミ側への聞き取り調査で医師の指示が十分に伝わっていなかった「連絡ミス」があったと結論づけた。
「いつか問題が起きるのではと心配していたが、まさか自分の母親がそうなるなんて……」。女性は今でも悔しい思いが消えない。
ワタミ側に改めて見解を聞いたところ、朝日新聞に対して「人員不足や効率優先でサービスが低下している認識はない」(広報グループ)との回答を寄せた。
■一方的に退去迫られ
「介護を成長産業に」の陰で、入居者が苦しんでいる例はこれだけではない。
入居が長く、一時金の取り崩し(償却)が終わりかけ「もうからない客」になった「償却切れ老人」が、退去を迫られる例もある。
「もう入ってもらう部屋はない。受け入れは無理です」。受話器の向こうで施設長の乾いた声が響いた。父親(当時77)が入居していた50代の女性は一方的に通告され、途方に暮れた。
「日本ケアリンク」(東京)が運営する老人ホーム「せらび新横浜」に入っていた父親は昨年6月、外出先で転んで入院。四肢まひが残り、医師から要介護度が「1」から「5」になる見通しを知らされた。退院が決まり、施設に「戻ります」と連絡した際の、思いもよらぬ返事だった。
入居契約には施設側が退去要請できる条項もあるが、父は該当しなかった。
「父のような入居者はなるべく追い出して、新しい入居者を入れたかったのだと思う」。いまも女性はそう疑っている。入居時に納めた一時金1440万円は、すでに3年半が過ぎて償却が進み、約300万円を残すだけだった。「あと1年半、つまり入居して5年がたてば、家賃は入らなくなる。施設にとっては『資産価値』がなくなったんでしょう」
通常、施設は入居者から「前払い家賃」として一時金を預かる。それをおおむね5年かけて償却し、家賃収入として懐に入れる。だからそれ以上、入居が続くと、収入は月々の利用料しかなくなる。
女性が施設側に抗議し、別の施設を探していた昨年10月、父親は肺炎をこじらせて亡くなった。日本ケアリンクは取材に対し「弁護士を通じて協議中でコメントできない」とした。
この問題を調べた神奈川県国保連も「施設側が介護サービス提供を拒否できる正当な理由はない」と断じた。介護トラブルを扱う法律事務所「おかげさま」代表の外岡潤弁護士は「入所の際の契約書に、医療行為はできないとする条項を入れて、それを大義名分にして追い出しを迫る実態もある。契約時に細かく確認することが必要だ」と話す。(横枕嘉泰、松田史朗)」(2013/10/07付「朝日新聞」p4より)
将来日本の“ほぼ唯一(?)”の成長産業の「介護事業」。そこにはやはり陰の部分が多くあるようだ。
今日の朝日新聞の記事は3つの例が載っていたが、上はそのうちの2つ。
ワタミの話は、施設の買収に伴う変更。買収側からすれば、チェーンとしてワタミ標準にしたいのだろう。しかし契約者は、「医師の常駐」のような条件に惹かれて入居している。それなのに、経営側の問題で転売され、入居者の条件が変わっていく。これは仕方がないのだろうか? しかしそれでは入居者にとって契約の意味が無くなってしまう。利用料金もどんどん上がり、人生のお金の計画も崩れてしまう。
次の退去の例も、ひどい話だ。この例だと、入居金1440万円が3年半後に300万円になるということは、それまでの間、月に27万円を払っていたことになる。これとは別に払う死ぬまで続く利用料金のなかに、当然毎月の家賃も入っているだろうに・・・。
それに、入院中でも利用料を払っている限りは、追い出されることなど無いはずだが、それは利用者の見方であって、施設側は色々な理屈で“賞味期限切れ”と追い出しにかかるとは・・・。そこが毎日の生活の場だけに、何とも言いようがない。
2年ほど前に「有料老人ホームを探した話」(ここ)という記事を書いた。
その時に自分が選んだのは、「入居金ゼロ」の施設だった。入居金ゼロであれば、取り返しがつく。つまり、初度費が無いので、その施設がいやだったら直ぐに出れば良い。それで失うものはない。元の家に戻ったとしても、現状復帰しただけなのだ。何よりも、「入居金を払ってしまったから・・・」と我慢する必要がないのが一番。
最近、朝日新聞のワタミに対する風当たりが強い。何かあるのかも知れない。自分も当時ワタミは、何か“食事が良いような感じ”がして検討対象であった。それが、だいぶん経ってからも「その後どうですか?」とフォローの電話が来る。別な所に入っているのが分かっているのに・・・。入居者集めに苦労しているのかも知れない。
ともあれ、老人ホーム探しは、良く勉強して探さないと、後で痛い目に遭う。まあ、探すチャンスが無い方がラッキーではあるのだが・・・
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コメント
こんにちは
老人施設は数年後の切実な課題ですのでとても関心があります。
民間施設は営利ですから様々な問題があるようですね、終の棲家として安住できる場所があれば良いのですが、見つかるかどうか不安です。
折に触れ関連記事を紹介してください。
【エムズの片割れより】
とにかく、入居一時金にはご注意を! いったん払ってしまうと戻れなくなります。特養が無理な場合は、自分的には一時金ゼロの施設を薦めますが・・・。
投稿: 空 | 2013年10月 8日 (火) 17:06