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2013年9月25日 (水)

「異議あり、新国立競技場計画」

今朝の朝日新聞の「天声人語」。
「そのイチョウ並木は数々のテレビドラマのロケ地になってきた。見覚えのある方も多いだろう。東京・神宮外苑の絵画館に向かって真っすぐ伸びる通りである。都会の景色として指折りといえる▼並木から見れば絵画館の左奥に、国立競技場はある。7年後の東京五輪に向けて建て替えられ、8万人が入れる巨大施設となる。「『いちばん』をつくろう」。日本人が誇りに思えるような新競技場をめざすという▼五輪が来ることの意義は深いとしても、そこまでの大きな建物が必要なのだろうか。今の計画に世界的な建築家が疑問を投げかけている。幕張メッセなどの作品で知られる槇文彦(まきふみひこ)さん(85)だ。きのうの本紙文化面で思いを語った▼緑が豊かで歴史的な遺産でもある外苑の敷地は限られており、ふさわしくない。コストも高い。「五輪のためなら、どんなにお金をかけてもいいと錯覚している」。この問題をより多くの人に知ってほしい、というのがそのメッセージだ▼槇さんの問いは新競技場の是非を超えて重い。日本建築家協会の機関誌に寄せた一文で、欧州での経験を紹介している。ある街で音楽ホールを建てようとしたところ、コンペの最優秀案が市民投票で却下された。別の街では行政が修復を渋った劇場を市民の声が救った例もある▼日本は果たしてそのような成熟した市民社会だろうか、と槇さん。これを機に、今からでも説明と議論の活発な循環を生み出したい。そうなれば五輪の意義はより大きくなるはずだ。」(2013/09/25付「朝日新聞」「天声人語」より)

上で指摘された昨日の記事は、自分も気になっていた。曰く・・・
異議あり、新国立競技場計画 建築家・槇文彦さん
 東京・神宮外苑の国立競技場の建て替え案は巨大すぎる、変更すべきだ――建築家で東京大教授も務めた槇文彦さん(85)が、そう唱えている。未来的な新競技場のデザイン案は、五輪招致活動でもたびたび登場したが、景観や安全性の観点から疑問を呈している。
 国立競技場(東京都新宿区)の建て替え案は、日本スポーツ振興センター主催の基本構想国際デザイン競技の結果、昨年11月にイラク出身のザハ・ハディド氏の案が選ばれ、同氏がデザイン監修をすることが決まった。総工費1300億円が見込まれている。
 槇さんが最も問題視しているのは、8万人収容、延べ床面積29万平方メートルといった、デザイン競技の募集要項の条件そのものだ。
 五輪開催が決まり、槇さんは要望書を関係各所に提出する方針。また問題提起を受けて、10月11日には、建築家の伊東豊雄さんや隈研吾さんらが発起人となり、「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」と題したシンポジウムを、東京・神宮前の建築家会館で開く。
 設計競技などで選ばれた案が経費や構造上の理由で変更されることはそれほど珍しくない。同センターは「建て替えには多くの意見を頂戴している。『国立競技場将来構想有識者会議』において様々な角度から議論、検討いただいた上で、完成に向けて準備を進める」(広報室)と回答、設計を変更する可能性もしない可能性もあるとしている。(編集委員・大西若人)
景観・安全 巨大施設の五輪後は
 前回招致の時のような臨海部なら構わないが、神宮外苑は、緑豊かで歴史的文脈の濃密な風致地区です。そこに、あのような巨大な建物を造ろうという計画自体が基本的に間違っています。限られた敷地に、延べ床面積29万平方メートルという、東京ドームの2倍半、五輪史上最大級の競技場を、なぜ建てようとするのか。
 上空から見た完成予想案が知られているが、実際にあの角度で見ることはほとんどない。地上からは、8万人の観客席を支える巨大な壁を見上げることになるだろう。安全上の懸念もある。周囲に十分な広場がとれないのに、8万もの人を集めて大丈夫か。大会終了後は交通規制で対応することもできないでしょう。
 人件費やエネルギー消費も考えるべきです。五輪後、仮に運営が行き詰まれば、つけは税金の形で人々に回ってくるでしょう。五輪のためなら、どんなに大きくても、どんなにお金をかけてもいいと錯覚しているとしか思えません。
 今の完成予想案が五輪を象徴すると思われているようだが、もともと競技場は、建物としての魅力を持たせるのが難しい。世界的に傑作は少ないのです。
 あそこに造るのなら、例えば5万人規模にして3万人の仮設席を加えるなどで対応すればいいでしょう。
 私の考えを受けて、有志がシンポジウムを予定しています。五輪という目標に向かう意義が大きいからこそ、この問題が市民に広く知られる必要があります。(談)
     ◇
 まき・ふみひこ 東京大や米ハーバード大で学ぶ。プリツカー賞など受賞多数。作品に、代官山ヒルサイドテラス、幕張メッセ、神宮外苑地区の東京体育館など。 」(
2013/09/24付「朝日新聞」p33より)

そして、今朝の日経新聞の「大機小機」にはこんな記事が・・・。
公共事業と東京五輪
 公共事業というと無駄遣いと言われ、支出削減ばかりが強調される。実際、無駄なものも多い。では、支出を減らせばよいかと言えば、そうでもない。その分の生産力が活用されなければ無駄なままだ。やめるだけでは何もできないが、何かを作ればそれが残る。きちんとした物を作れば、ぜいたくに見えても後で役立つことは多い。
 世界で最も美しい建造物といえば、インドのタージ・マハルと、ドイツのノイシュバンシュタイン城を挙げる人が多い。東洋と西洋を代表するこの2つの建造物は、背景が驚くほど似ている。
 タージ・マハルは、ムガル朝皇帝のシャー・ジャハンが王妃のために作った白亜の大理石の霊廟(れいびょう)だ。あまりに浪費したために、息子のアウラングゼーブにより幽閉された。
 ノイシュバンシュタイン城はバイエルン王ルートヴィヒ2世が作った城だ。彼も財政負担などを理由に幽閉された。いずれも自分の趣味のためだけに贅(ぜい)を尽くしたもので、無駄遣いの極致ともいえる。
 では、後世の人々の目にはどう映っているか。偉大な皇帝は誰かとインドで聞けばシャー・ジャハン、バイエルンで聞けばルートヴィヒ2世、という答えが返ってくる。実際、タージ・マハルもノイシュバンシュタイン城も世界中を感動させ、毎年インド、ドイツに巨大な観光収入をもたらしている。
 一方で倹約を旨とし彼らを放逐幽閉した次の皇帝は何を残したか。例えばムガルの次期皇帝アウラングゼーブは質素なイスラム寺院を残すのみで、後世の人々は見向きもしない。ルートヴィヒ2世を継いだ摂政ルイトポルトも何かを残したとは言いがたい。
 生産力が低かった当時はこれらの事業に生産力が使われ、民生品の生産が減り国民の負担になっていたかもしれない。そのため事業の是非を判断するには、この負担と後世の人々への恩恵とを比べる必要があるだろう。
 一方、現代の日本では物が売れず人も生産力も余っている。ここでさらに倹約し生産力を余らせても得るものはない。景気にもマイナスだ。折しも東京は2020年夏季五輪の開催決定に沸く。この機会に国内外の来訪者はもちろん、後世の人々も喜ぶ質の高い施設をつくるべきではないか。(魔笛)」(
2013/09/25付「日経新聞」「大機小機」より)

色々な視点がある・・・。しかし、今回の国立競技場計画について、「上空から見た完成予想130925kyougijyou 案が知られているが、実際にあの角度で見ることはほとんどない。地上からは、8万人の観客席を支える巨大な壁を見上げることになるだろう。」という指摘が面白い。
その点では、タージ・マハルやノイシュバンシュタイン城とは根本的に違う。近代的なデザインで作っても、タージ・マハルやノイシュバンシュタイン城のように、そのデザインを楽しめるチャンスは無いのである。

改めて現在の国立競技場を眺めてみると「オリンピックの前哨戦とも言える1958年(昭和33)の第8回アジア大会の際に建設されたものであり、このアジア大会の成功により、東京オリンピックが決定した。オリンピック開催に際して、拡張工事により、アジア大会時の5万2千席から7万5千席に収容人数が増設された。本来は10万席を目標にしていたが、立見席を入れてこれが精一杯の増設だった。」(ここより)
そして現在の収容人員は、54,224名とのこと。つまり今回の8万人規模の計画は、いわゆる“流れ”なのだろう。
デザインと言えば、現在の国立競技場や武道館は、当時その前衛的なデザインに、皆ビックリしたもの。でも慣れてしまえば何とやら・・・
今回の槇氏の指摘は、デザインではなく、規模を言っている。前の東京五輪と同じく、3万人の仮設席で良いのではと・・・

五輪関係者が“歴史に残る建物”を目指しているとしたら、それは規模ではないのである。規模に価値があるのなら、誰でもお金で幾らでも建てることが出来る。しかし名建築はそれとは違う。周囲の環境にマッチした、歴史の荒波にも耐えて評価される建物・・・。それは何か・・・

これから行け行けドンドン、何でもありの五輪建設祭が始まる。福島の原発被災者の事も念頭に、オトナの議論で進むと良いのだが・・・。要は“ホドホド”なのであろう。

130925oisii <付録>「ボケて(bokete)」より

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