“移ろいやすい「民意」”~ドイツ総選挙の国民投票の是非
先日読んだドイツの総選挙に関する記事で、「移ろいやすい「民意」が悲劇につながった過去の経験」「民意の暴走」、そして『政治と「民意」との間で「ねじれ」』という言葉が印象に残った。曰く・・・
「(ドイツ総選挙2013)国民投票、われらも 最大野党、導入訴え
9月に行われるドイツの総選挙に向けて、市民団体や最大野党が国民投票の制度の導入を訴えている。きっかけは欧州の債務危機だ。ただ、移ろいやすい「民意」が悲劇につながった過去の経験から、最大与党は導入に否定的だ。
■ユーロ危機への対応不満
6月末、通行人でにぎわうベルリンのアレクサンダー広場に奇妙な物体が現れた。空気で膨らませた高さ約7メートルの「基本法」と書かれた赤い本の形の物体に「公正な国民表決」と書かれた青い矢印。周囲で若者たちが人々に署名を呼びかける。ドイツ基本法(憲法)に国民投票を導入しようと呼びかける市民グループだ。
「導入の機は熟した」と、広報担当のレギーネ・ラロッシュさんは力説した。「最大与党のキリスト教民主同盟(CDU)を除く政党は賛成している。人々は正しい情報を得られれば、正しい判断をする」
ドイツは全16州で住民投票制度がある一方、国レベルの国民投票制度がない。基本法は「国家権力は国民により選挙及び投票で(中略)行使される」と定めるが、具体的な規定はないままだ。
最大野党の社会民主党は9月の総選挙の公約に、基本法を改正し、国民投票の制度を導入すると明記した。100万人の署名で国民投票での決定を求めることができるなどの内容だ。
主導する同党のハンスペーター・バルテルス議員は「直接民主制の欠如は基本法に残った最後の不備だ。総選挙後の次期政権で超党派の合意を目指したい」と話す。
国民投票導入を巡る議論は長い。2002年には当時、政権与党だった社民党と緑の党が改正を目指したが、改憲に必要な3分の2の支持が得られずに失敗した。議論が再び盛り上がっているのは、ユーロ危機の影響だ。
ドイツではギリシャなど危機国の支援にあたって、政治と「民意」との間で「ねじれ」が生じてきた。連邦議会が12年2月にギリシャへの追加支援を承認した直後、公共放送ARDの世論調査で、56%が「議会が追加支援を認めたのは誤りだった」、64%が「ギリシャ追加支援は役に立たない」と答えた。
政府や議会は欧州連合(EU)や欧州中央銀行の意をくんで動き、自分たちの声を聞かない、と不満を持つ国民が増えている。
CDUの姉妹政党で、与党の一角をなすキリスト教社会同盟(CSU)からも、欧州政策に関する国民投票には賛成する声が出ている。
■ナチスの教訓、与党慎重
ドイツは戦後、基本法を59回改正しており、改正自体は珍しいことではない。連邦政府と州政府の権限調整など細かいものが多いが、中には、北大西洋条約機構(NATO)加盟に伴う再軍備など、重要な改正もあった。 しかし、国民投票の導入については議論が分かれ、最大与党のCDUは慎重な構えだ。背景には、ナチスの独裁を許したワイマール共和国時代の教訓がある。
第1次大戦で敗れたドイツは経済が破綻し、短命の政権が続いて社会が混乱した。ナチスは混乱と分裂の中で「強力なドイツ国家」を掲げ、既存政党への不満層や不況が生み出した失業者らの支持を得て台頭した。
首相になったヒトラーは、政権につくと対立政党を弾圧し、議会の承認なしに政府が立法権を行使できる全権委任法を成立させ、ワイマール憲法を無効化した。それでも政治と社会の混乱に嫌気がさしていた国民は、再軍備を進め、敗戦で失われた領土を回復する「強い指導者」を求めて独裁者ヒトラーを支持した。
当時「世界で最も民主的」とされたワイマール憲法下でナチスが独裁を確立した記憶から、戦後つくられた基本法では、大統領の直接選挙や国民投票などの直接民主主義的制度の要素は除かれた。「民意の暴走」に深い懐疑を抱いていたからだとされる。
総選挙に先立ち、社会民主党は6月の連邦議会に国民投票の導入を求める基本法改正案を提出した。これに対し、CDUのヘルムート・ブラント議員は審議で「政策は『はい』と『いいえ』だけで決められるものではない。我々議員は(国民に)不人気な決定もしなければならない」と反対の意向を明らかにした。(ベルリン=松井健)
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ドイツの総選挙が1カ月後の9月22日に行われる。最近の世論調査では、メルケル首相が率いるCDUが優勢だが、連立を組む自由民主党(FDP)は低迷しており、選挙後の政権の枠組みは不透明だ。
欧州とユーロの危機が続く中、経済大国のドイツは欧州の「覇者」、メルケル首相は「女王」と言われるほど存在感を増しており、その行方は欧州全体を左右する。原発・エネルギー政策や少子高齢化、歴史問題など、日本とも共通する課題に取り組むドイツの現状と選挙情勢を随時、報告する。 」(2013/08/22付「朝日新聞」P8より)
ドイツでは、「民意の暴走」に深い懐疑を抱いているという。背景にナチスの台頭を許した苦い経験がある、と言われると、その見方は重たい。
それに比べて日本は??
こんな記事もあった。
「(朝日・東大谷口研究室共同調査)改憲・集団的自衛権行使、有権者の「賛成」減少 安倍政権がめざす憲法改正や集団的自衛権の行使容認に対し、政権発足時に比べて有権者の賛成度が下がっている。朝日新聞社と東京大学・谷口将紀研究室の共同調査でわかった。賛成派は依然多いが、積極姿勢をとる政権や参院選当選議員とは対照的に、有権者の理解は広がっていない。 調査は、昨年末の衆院選後に回答した有権者1890人が対象。意識の変化を探るため、先月の参院選後に調査票を送り1540人(81%)から回答を得た。
改憲に「賛成」「どちらかと言えば賛成」と答えた賛成派は44%。「反対」「どちらかと言えば反対」と答えた反対派(24%)を上回ったが、衆院選時(51%)から7ポイント下がった。参院選比例区で自民に投票した人に限っても、賛成派は58%で、参院議員全体の賛成派(75%)とは大きな開きがある。
さらに、改憲の発議要件を衆参の3分の2から過半数に緩和する96条改正では賛成派はより少なくなり、31%にとどまった。議員の賛成派は52%だった。
また、集団的自衛権の行使容認の賛成派は39%で、衆院選時の45%から6ポイント下がった。安倍晋三首相は参院選の大勝後、議論を加速させる方針を示し、行使容認に前向きな小松一郎駐仏大使を内閣法制局長官に起用。しかし、有権者にはこうした政権の姿勢と温度差があることがうかがえる。
原発再稼働は反対派が6ポイント増の43%にのぼり、28%の当選議員とは15ポイントの開きがあった。(広島敦史)」(2013/08/25付「朝日新聞」p1より)
これも“政治と「民意」との間で「ねじれ」”??
言うまでもなく、日本は国会議員という代表者を選挙で選び、その代表者が政治を代行する“代理制民主主義”なのだが、上の記事のような有権者の「賛成」と、その代理者である国会議員の“賛成”に大きな乖離があるとすると、それはどう捉えたら良いのか?
ドイツのように、民意はアテにならないので、プロの政治家が独自に考える方が良いのか?
しかし、“代理制民主主義”といって自分たちの代表を国会に送っても、所詮既成政党の歯車に組み込まれ、政党の方針に従って1票を投じる投票マシンになっていないか?
かと言って、ドイツのナチスや、マスコミに先導されたとは言え、戦前の日本国民の戦争への高揚を考えると、国民投票に代表される“民意”も、あまり自信は無い。もちろん日本のプロの政治家も、まったく尊敬出来ない・・・。
この人に任せれば、きっと立派にやってくれる・・・。という政治家も居ないし、“民意”も怖い。とすると、我々はどうしたら良いのか・・・
まずは、ナチスの反省が70年経ってドイツでどう変化しているのか、9月22日のドイツの総選挙の結果をちょっと覗いてみよう・・・
その変化によっては、日本も危ないかも・・・。戦争の反省が日本でも風化しているかも知れないので・・・。クワバラクワバラ・・・。
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