「あなたを思う時間」
だいぶん前の話だが、朝日新聞「ひととき」の欄に、こんな記事が載っていた。
「(ひととき)あなたを思う時間
夫と駅で待ち合わせをした。約束時間になろうとするとき、携帯メールが届いた。――いま電車の中、15分ほど遅れる
それならとカバンからミステリー本を取り出そうとして、70代の男友達が語ったことを思い出した。
若いころ、ガールフレンドとデートの約束をした。だが、予定外の仕事が入り、連絡のすべもない。2時間遅れで待ち合わせ場所に行くと、彼女は待っていてくれた。
私が心を動かされたのは、その話の続き。2時間の間、彼女は彼のことだけを考えていたという。なにか事故にあったのだろうか、事件か、などと。彼もまた、彼女のことだけを考えていた。あの人が帰ってしまうはずがない、必ず待っていてくれる。その女性こそ、後の奥様である。
今は、待ち合わせでも、これこれで何分遅れますと携帯で送信すれば安心だし、待たせる側にも心配をかけないですむ。しかし、相手に思いをはせるという、奥ゆかしくも大切な行為はなくなってしまったのではないだろうか。私自身、メールを読んだ後は夫のことなど少しも思わず、ミステリーに夢中になっていたはずである。(東京都三鷹市 主婦 63歳)」(2013/06/14付「朝日新聞」p29より)
このところ、めっきり減ったのが、待ち合わせでのトラブル。携帯が、場所と時間との壁を取り去ったので、会えるのが当然。遅れても、連絡できるのでトラブらない。迷子になっても連絡が付くので大丈夫・・・。
それに引き替え、携帯の無かった時代の待ち合わせは色々あった。
代表的な話は、「君の名は」の春樹と真知子・・・、と言っては歳がバレるが、もうこんなドラマは有り得ない。それに、ラブレターという言葉も死語。でも何とも風情が無くなったもの・・・。メールでラブレターを貰っても、「ヤダ」と返信すればそれっきり。何ともつまらない時代になったものだ。
しかし上の記事の、絶対的信頼感は何とも頼もしい。これがもし現代だったら・・・。携帯の連絡も無しに、2時間も遅れたら、それこそ事件。せっかくのラブラブの仲も破滅? 夫婦なら大げんか?
ユビキタス(いつでも、どこでも、だれでも)の時代は、風情が失われ、決して良いことずくめではないのである。
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