「9条の国、誇り高き痩せ我慢」
先日の朝日新聞にこんな論が載っていた。
「9条の国、誇り高き痩せ我慢 森達也
アメリカでは銃の誤射や乱射事件が起きるたびに、銃規制についての議論が高まるが、結局は尻すぼみとなってまた事件が起きる。
昨年12月にコネティカット州の小学校で児童ら26人が殺害されたとき、全米ライフル協会(NRA)の副会長は記者会見で、「銃を所持した悪人の行為を止められるのは、銃を持った善人だけだ」と述べて銃規制に反対し、アメリカ全土では銃の売り上げが急増したという。
アメリカの銃社会をテーマとしたドキュメンタリー映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』でマイケル・ムーアは、黒人や先住民族を加虐してきた建国の歴史があるからこそ、アメリカ市民は銃を手放せないのだと主張した。報復が怖いからだ。つまり銃を手もとに置く人は勇敢なのではない。臆病なのだ。
こうしてアメリカの正義が発動し、正当防衛の概念が拡大する。丸腰の高校生を射殺した自警団男性の正当防衛が認められて、無罪評決になったことは記憶に新しい。
NRAの主張に同意する日本人は少ないだろう。頭の回路がどうかしていると思う人もいるはずだ。でも実のところこの思想と論理は、世界のスタンダードでもある。
核兵器や軍隊の存在理由だ。
我が国の軍隊は、他国に侵略する意図などない。でも悪い国が軍隊を持っている。だから攻められたときのために、国家は軍隊を常備しなくてはならない。つまり抑止力。理屈はNRAとまったく変わらない。
こうして誤射や過剰防衛が起き、それをきっかけに戦争が始まる。人類はそんな歴史を繰り返している。
しかし第2次世界大戦後にこの国は、新しい憲法で武力放棄を宣言した。その憲法が公布される前の衆院本会議で共産党の野坂参三議員が、「侵略の戦争は正しくないが自国を守るための戦争は正しいのでは?」との趣旨で質問し、これに対して吉田茂首相は、「正当防衛や国家の防衛権による戦争を認めるということが結局は戦争を誘発する」との趣旨で答弁した。記録ではこのとき議事堂では、与野党を超えた議員の大きな拍手が響いたという。
もちろん日本の背後には、世界最強の軍隊と大きな核の傘を持つアメリカがいた。だから不安や恐怖を押し殺して痩せ我慢ができた。極論すれば憲法9条の1項は、すべての国に共通する理念でもある。でも現行憲法には、軍事力と交戦権を放棄することを宣言した2項がある。アメリカに軍事的に庇護(ひご)される国は数多いが、ここまでラディカルな宣言をした国はない。
その後に冷戦の時代が幕を開ける。ご近所はすべて銃を持っている。でも暴力に対して暴力の抑止は成り立たない。自衛の意識が戦争を起こすのだ。だから我が家は銃を持たないと決めた。アメリカからは何度も改正を要求されながらも、結果として日本は9条を60余年間にわたって守り抜いた。いろいろ妥協もしたけれど直接的な戦争には一度も参加せず、国民総生産(GNP)世界第2位を達成した。
改憲派は平和ボケなどと嘲笑するけれど、9条は抑止論にとらわれた世界への、とてもラディカルな提言となっている。スペインのグランカナリア島には、9条の碑が設置されている。戦争地域ではよく、「日本は9条の国だ」と話しかけられる。世界に対して日本は、身をもって稀有(けう)な実例を示し続けている。
この街から銃が消える日はまだ遠い。でもこの精神だけは手放さない。誰もが銃を持たない社会。その実現のために、我が家は街で最初に銃を捨てる宣言をした。怖いけれど高望みを維持し続けてきた。
自衛隊を軍隊にして誇りを取り戻そうと言う人がいる。意味がわからない。他の国と同じで何が誇らしいのだろう。不安と闘いながら世界に理念を示し続けたこの国に生まれたことを僕は何よりも誇りに思う。
(もり・たつや 56年生まれ。映画監督・作家。明治大特任教授。近著に『虚実亭日乗』)」(2013/07/25付「朝日新聞」p15より)
当方、特段のイデオロギーを持っている訳ではないが、毎回言うように、単純に“日本は、戦争だけはしてはいけない”と思っているだけ。
そんな視点で上の論を読むと、そうだろうな・・・と思う。
先日の新聞の投書欄に、周辺国からの脅威に対抗して(戦力増強という)拳を振り上げても、相手はその動きに呼応して、今以上に戦力を強めるので、結局いたちごっこ・・・という趣旨の意見があった。
これもそうだろうな・・・と思う。これって、イソップの「北風と太陽」の話と同じ??
ともあれ、今後3年間も選挙が無いとすると、日本に独裁者が出ないことを“祈る”しかない。
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コメント
9条の国、誇り高きやせ我慢という主張に賛成です。私は、エムズの片割れさんと同じくどんな理由があっても、日本は戦争をしてはいけないと考える者です。尖閣諸島、竹島問題のような領土問題等で、弱腰を見せない日本にするために、数を誇る自民党は、アメリカとの同盟という名の下に、集団的安全保障を認め、9条を改正し国防軍を世界に派遣できるようにするようです。敢えて言います。これ位の問題で世界に誇れる9条を改正し、日本を軍隊を持つ普通の国に変えようとしてはいけません。理想といわれようが、9条を守り、政府から国民に至るまで話し合い外交・国際協調に徹し、領土問題でいえば、解決ができなければ、痛み分け、共同管理という方法まで行っても良いと考えますが、皆さんどう考えますか。9条を守り、アメリカとは違った方法で世界平和を主導する日本こそ、誇らしい生き方と考えます。
【エムズの片割れより】
さっき(2013/08/02)、こんなニュースが流れました。
「法制局長官に小松大使 集団的自衛権の解釈見直し派
安倍晋三首相は2日、内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、後任に小松一郎フランス大使を充てる方針を固めた。8日にも閣議を開き、正式に決める。首相は集団的自衛権を巡る憲法解釈の見直し議論を進めており、小松氏は見直しに前向きとされる。法制局長官は内閣法制次長が昇任するのが慣例で、異例の人事となる。」
“国民が選んだ”政権が、いよいよ本領を発揮して、活動を始めました!!
日本もナチスと同じような、独裁政権になるのでしょうか・・・
投稿: カウカウ | 2013年7月31日 (水) 22:34
カウカウさんの仰る通りです。戦争に負けると60年経っても戦勝国の軍隊に居座られ、分捕られた領土は返してもらえません。挙句に敵国が攻めてくるぞ脅されて高額な兵器を買わされます。物資のない日本には戦争をしても勝ち目がない事は明白です。戦争を避ける努力が大切です。その努力をしないで、軍拡をしてもまた第二次大戦のたどった道を辿るだけです。人間は愚かですねぇ。戦争が好きな一部の人間に先導されて懲りもせずまた騙されてひどい目に合わされるのでしょうか。怖い事です。
【エムズの片割れより】
自分は勘違いしていました。今の自民党の右傾化は、岸元首相の流れを汲む、安倍首相が先頭を切っているとばかり・・・。
しかし昨日(2013/07/29)の、麻生副総理の「ワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気がつかない間に変わった。あの手口を学んだらどうか。」という“ナチスを見習え!”発言で、そう単純な話ではないと・・・
投稿: 白萩 | 2013年8月 1日 (木) 15:39
橋本氏が「国語力があれば麻生氏が言ったことは理解できるだろう」と弁護していましたね。大半の国民は「国語力のない副総理では困る」と思っているのですが、詭弁を弄して言い訳する政治家ばかりになってしまって呆れてしまいます。麻生氏の祖父の吉田茂には似ていないお孫さんが出来てしまって、あの世で苦笑しているのではないでしょうか。安部総理の後ろには強硬な軍事国家を作ろうとしている人たちがいるのでしょうか。ナチスを手本にとは世界中から総スカンされても仕方がない発言でしたね。
【エムズの片割れより】
「失言」を広辞苑で引いてみたら、「 言ってはいけないことを、不注意で言ってしまうこと。言いあやまり。過言。「―が多い」 」とありました。
今まで失言の意味を、「自分の意志とは別の意味に捉えられてしまうような言い方をしてしまった!」と思っていましたが、なるほど「ついうっかり言ってはいけない本音を言ってしまった」ことが“失言”の意味なのですね。
だから、周囲から非難されると直ぐに、“失言でした”で終わるのか・・・。この意味は「言ってはいけない本音を言ってしまったので、言ったこと自体を無かったことにします・・・」
便利なので、これから皆で「失言」という言葉をおおいに使いましょう!
投稿: 白萩 | 2013年8月 2日 (金) 23:16