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2013年6月 3日 (月)

「親族の関係壊す生活保護法案」

先日の朝日新聞の「声」の欄に、こんな記事があった。

「(声)親族の関係壊す生活保護法案
    無職(神奈川県茅ケ崎市 69)
 閣議決定された生活保護法改正案では、扶養義務者が扶養の義務を果たしていないときは、あらかじめ扶養義務者に省令で定める事項を書面で通知しなければならないとある。文面通りなら、親子兄弟に限らず、家庭裁判所の審判を得れば、おじ、おば、甥(おい)姪(めい)らの親族に対し扶養義務を果たすよう求められる。もし十分に扶養していないと認められれば、改正案29条に基づき、親族に書面調査が行われる。その範囲は年金や金融機関などの資産状況だけでなく、勤務先の雇用主にまで及ぶ。
 ほとんど交流のなかった親族が生活保護を申請した時、突然、自分の勤務先に書面調査が入る可能性がある。法案では調査を受ける指定機関などには回答義務があり、「君は扶養義務を果たしていないのかね」と上司に言われかねない。
 今でも、親族には扶養義務の簡単な照会が行われるが、高額所得者や有資産者を除き、扶養の強制はない。しかし改正法案が通れば、この書面調査で、もともと疎遠だった親族との関係が破綻(はたん)し、大きな禍根を残す恐れがある。高額所得の一部の芸能人だけでなく、我々庶民にとっても看過できない問題だ。」(
2013/05/29付「朝日新聞」p14より)

この指摘を「生活保護法等改正案」についての、ある資料(ここ)で確認してみよう。

「(1)生活保護法の改正
○調査先への回答義務
観点:現行法29条には回答義務が明記されておらず、本人同意書を求められることがあ
るなど権限に限界があり、実施機関の調査権限の強化が必要

(内容)
・報告を求められた者への回答義務の設定(明文化することにより、本人同意書も不要。
個人情報保護法とも抵触せず、個人情報保護を理由に回答を拒否できない)
・正当な理由なく回答を拒否する者への過料を科す
・資産及び収入の状況のみならず、必要な事項に関する調査権を設定

(調査の嘱託及び報告の請求)
第29条保護の実施機関及び福祉事務所長は、保護の決定又は実施のために必要があるときは、要保護者又はその扶養義務者の資産及び収入の状況等必要な事項につき、官公署に調査を嘱託し、又は銀行、信託会社、要保護者若しくはその扶養義務者の雇主その他の関係人に、報告を求めることができる。
2 前項の報告を求められた者は、正当な事由がある場合を除き、速やかに回答しなければならない。」

改めて、「扶養義務者」を確認してみよう。

【民法 第877条】
130603fuyougimu1 直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は,特別の事情があるときは,前項に規定する場合のほか,3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その審判を取り消すことができる。

そして、「三省堂 大辞林」によると、
【直系血族】世代が上下に直線的に連なる血縁者。自己の祖父母・父母・子・孫など。民法上、扶養義務・相続・近親婚の禁止などについて規定がある。

なるほど・・・。この投書の通りだ。

普通の我々の生活で、扶養を“義務だから”と捉えている人はほとんどいないのではないか? 赤ちゃんに母親がミルクを与えるとき、誰が「義務だから」と思うだろう? 扶養は、“自然な愛情”という感情から生まれるもの。
それが“法による義務”に変わったとき、それは苦痛に変わる。そして、当事者の人間関係は、破綻に突き進む・・・

我々の普通の生活では、3等親だから付き合う、という概念もない。幾ら親戚であっても、人と人との付き合いは、それぞれが長い歴史による関係によって決まっていくもの。決して法で付き合いを強制されるものではない。
それが今度は、誰かが生活保護を申請すると、全く知らない(付き合ったことがない)人の扶養を、国が求めてくる可能性もあるらしい。

もし自分が生活保護を申請すると、親戚のあの人にも、この人にも、「あなたは財産があるのだから扶養しなさい」という通知が行く可能性があるとすると、果たしてそれを覚悟してでも申請するか?? 恥をさらして・・・!?
そして、その通知を受け取った人が、自分たちの生活でフーフー言っているにもかかわらず、「分かりました。扶養します」と、どれだけの人が言うか? 多分、皆無では? つまり効果は無いだろうと思う。すると、この法改定の真の目的は、申請者を減らすこと、なのだろう。
つまり、この法改正で、餓死者が激増するだろう。その責任は??

ニュースで聞くと、安倍首相が第5回アフリカ開発会議で、「治安悪化が深刻なサハラ砂漠南部のサヘル地域に対し、今後5年間に保健分野などの人道支援や失業対策で総額1000億円を援助」すると演説したそうだ。

何も、援助するなとは言わない。しかし、こんな非人間的な手段で、生活保護費を倹約し、その倹約したお金がそこに回っていると想像すると(お金には名前がないので)、やりきれない思いがする。
いったいこの日本という国は、どうしちゃったのだろう。
ああ、弱者に厳しい日本はどこに行く・・・!?

130603neko <付録>「ボケて(bokete)」より

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