「インド式九九」と、日本の「到達度テスト」
先日の朝日新聞に、インドの教育事情についてのこんな記事があった。
「(日曜に想う)身捨つるほどの理系はありや
特別編集委員・山中季広
〈ダメだ、やっぱり自分には理系の才がない〉
そう悟ったのは高1の1学期。数学の抜き打ち試験で37点をくらった。
三十何年もたって点数をウジウジと引きずるところが情けないが、あの日を境に私の人生が文系へと急旋回したのだからまあしかたないか。
語るも悔しい数学の思い出を、先週初めて訪れたインドで開陳してまわる羽目になった。会う人会う人みな学校時代の数学の点数を濃く引きずっている。「日本で数学が37点でした」と水を向けると、たちまち胸を開き、数学へのうらみを語り出すのだった。
女児3人の母ジャクジートさん(32)の場合、「ほかの学科はいい。数学だけがんばれ」と言われて育った。「インドでは文系科目が得意でもダメ。進学も就職も数学しだい。数学は恐怖科目と呼んでいました」。娘たちには早めに九九を教え込むという。
旅行会社で働く男性ハルミットさん(24)も「恨み骨髄」だった。「最難関のインド工科大を卒業して米マイクロソフトに採用されるのが最高の勝ち組。小3から高1まで数学塾に通ったけれど、私にはかなわぬ夢でした」
インドの数学嫌いを訪ねてまわる旅ではなかった。そもそもの狙いは九九の取材だった。90以上の段まで覚えるという例のインド式九九である。インドの学生が欧米のIT業界から引く手あまたなのは、英語が話せて計算が速いからだと思い込んでいた。
予測はあっさり外れた。
あちこちの学校にあたっても、90以上の段まで覚えさせる実践校が見つからない。「19の段まで教える」という学校を訪ねたが、授業で生徒が詠唱したのは10の段までだった。
聞いてみると、高齢者世代はたしかに40の段まで唱えたという。しかも4分の3×2とか9分の1×10という分数まで暗唱した。ところが、いま働き盛りの世代は20の段まで。分数の暗唱は廃止された。いまの高校生の大半は10の段までの九九しか覚えない。
もうひとつ予想外だったことがある。数学に強いはずのインドが、国際的な学力比較では、世界最下位級という判定を受けていたのだ。日本でもおなじみの経済協力開発機構(OECD)主催のPISA調査である。
インドは2009年の調査に試験参加し、しかも2州のみの挑戦だった。参加74カ国・地域中、2州は数学部門で72位と73位とされた(日本は9位)。科学部門でも72位と74位だった(日本は5位)。インド政府は顔色を失い、以後はPISA参加をやめてしまう。
世界に聞こえた理系大国のこれが実情なのだろうか。就学率や識字率の低さなど教育格差は依然きびしい。それを別にしても、インド式教育が何か壁にぶつかっているのは明らかだった。
学校だけでなく、塾や学生寮、家庭の居間まで訪ねてようやく見えてきたものがある。子どもの浴びるプレッシャーの深刻さだ。数学は投げ出すな、文系より理系だ、工学部を狙え、エンジニアになれ。親や教師が力をこめるほど、幸せや成功の幅が狭くなる。
インドでは高1と高3の学年末に統一試験が課される。その点数が人生を左右してしまう。インパクトたるや日本のセンター試験の比ではない。私の滞在中、たまたま高3の結果が発表されたが、直後から自殺者が続出した。ある男子は「ツケは命で支払う」と遺書を残して列車に飛び込んだ。娘の成績を悲嘆し農薬を飲んだ母親もいた。
英誌エコノミストの予測によると、2050年時点のG7(7大経済国)に日本の姿はない。インドこそ米国や中国を追う大国になる。
古来、哲学や数学の花を咲かせてきた知恵の国インドである。世界中の学生が理系か文系か思い詰めることのないよう、理・文を超えた何か第3の学問体系を創造できないものか。できれば、数学嫌いも数学好きもひとしく魅了する知的な大国であってほしい。」(2013/06/09付「朝日新聞」p2より)
まず、インド式九九というものがあることを初めて知った。我々が小学校の時に覚えたの は、9×9までの、“9の段”の九九らしい。それをインドでは、20×20、または99×99の段まで覚えたのだという。
計算は、9×9までの九九で充分だった。逆に、それを覚えなければ計算できなかった。それをなぜ10の段以上を覚える必要があるのか、良く分からない。確かに覚えておけば便利だろうが、覚えるのが大変だろう。そして、もし間違って覚えたら・・・。(写真はクリックで拡大)
インドは、英語圏ということもあり、ITでは進んでいると思っていた。ソフトの製造も、昔の中国から、今ではインドが最先端の製造工場だと思っていた。しかし、その実、色々な事情があるらしい。
「進学も就職も数学しだい」だというインド。日本はどうか?今の時代は知らないが、昔は、数学が出来るかどうかで理系、文系が分かれたもの。つまり、数学が出来る人は理系、出来ない人は文系だった。英語など、その他の科目は理系だから・・・といって許してはくれなかった。
しかし、インドでは数学が全てとは・・・。
そして「インドでは高1と高3の学年末に統一試験が課される。その点数が人生を左右してしまう。」という。韓国が昔の科挙の流れで、試験地獄が深刻、と思っていたが、インドはその上を行っているらしい。日本のセンター試験は、それほどの力はない。
一方、先日「文部科学省は5日、大学入試センター試験を5年後をメドに廃止し、高校在学 中に複数回受けられる全国統一試験「到達度テスト」(仮称)を創設して大学入試に活用する検討を始めた。」というニュースが流れた。
「1979年に始まった共通1次試験以降、1回の共通テストが合否を左右していた大学入試が抜本的に変わることになる。」という。
これは良いことかも知れない。
人生は一つではない。色々な人生の生き方があるはず。よって、一度の試験で人生が決まってしまうという乱暴な選別制度は極力避け、数回のチャレンジで、自分の真の実力が評価される制度は、良いかも知れない。
人生は挽回が出来るもの。そういう社会が良いと思うのだが、どうだろう・・・。
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コメント
おお数学!私の高校の頃は解析でした。分数式あたりでわからなくなって、解析放棄。「30点以下は追試だぞ」と先生に言われるとぎりぎり35点を取る。その5点の楽しさ。追試の人たちに手を振り「皆さんお先に」と帰る心地よさ。100点なんていらない。楽しくない。最も私は小学校の算数すら解っていない。マイナスとマイナスを掛けるとなぜプラスになるのか。分数の掛け算の答えが減って、割り算の答えが増えるのか。私の頭が悪いのか、先生の教え方が悪かったのか。微分、積分も教科書にはあったけれど全く覚えていない。よく高校の解析の単位が取れたと今でも不思議で仕方がないのです。先生のお情けだったのでしょうね。でも数学が出来たら楽しいだろうと今でも思ってはいます。
【エムズの片割れより】
ハハハハ・・・・
まるでウチのカミさんの話を聞いているみたい・・・。
ウチのカミさんはもっと極端で、足し算以外は認めない・・・。分数の計算などどの世界の話??数学の時間は、体が受け付けないため、いつもトイレに行っていたとか・・・
それでも、料理を作り、5歳も年上の亭主をアゴで使い・・・。
結局、家庭生活では、数学は必須では無いことを自分は悟りました。(料理の味付けはカンだけで本当にOK?)
それに引き替え、自分は数学で大学に合格できたのに・・・。たかが数学、されど数学・・・
投稿: 白萩 | 2013年6月11日 (火) 23:01
高校時代、東工大・矢野健太郎先生の著書に感動、同大で数学を学ぼう、と企てた事があります。しかし受験数学と大学数学とは大いに異なる事が判明し医学部へ変更。神経学専門医ですが、数学者の脳は特別である、と信じております。元々数学は哲学の流れですので、並みの頭脳では太刀打ち出来ませんね。文系で数学受験をした人は、そうでない人と比し年収が多いとの調査がありますが、社会に出ても数学的思考は有用と言う事でしょうね。
【エムズの片割れより】
数学者の頭の中は、NHKテレビでも番組がありましたが、狂気と紙一重・・・
自分も数学は好きでしたが、高校までの数学と大学時代の数学とのあまりの違いに、討ち死にしました。
言うまでもなく、ビジネスの世界で数学的思考は必須。もちろん経営の数字もありますが、幾何学の証明のように、ビジネスもプロセスを追って行くことに代わりはありません。自分も現役時代、そんな数学的センスに救われたような気がします。
投稿: メメント・モリ | 2013年6月16日 (日) 14:01
数学ね~全く駄目です、自信を持って言えます他の教科は割りと良かったのですが数学だけは追試のレギュラーメンバーでした。卒業出来たのはきっとお情けでしょう、こんなのが落第するよりは追い出した方が良いと学校側は思ったかも。大学進学は数学の試験の無い所を探し回りやっと合格。今は人間暦もうじき70年、足し算引き算、時々割り算これだけで終わりそうです。ただ子供達には数学が解れば人生はもっと楽しいよ・きっと、と育てたのですが果たして結果はいかに・・・まあ今度は孫にですかね。
【エムズの片割れより】
ハハハ・・・。
自分の天敵は、語学と世界史。世界史は入試で避けられたが、語学だけは大学まで呪われて・・・。自分も同じです。英語さえしゃべれたら、どんなにか世界が広がったか・・・。息子にその意は伝わらなかったので、期待は今度生まれてくる孫・・・にですかね。こっちも同じです。
投稿: 名前?忘れた | 2013年6月16日 (日) 22:02
私も、インドは貧しいけれど、学校教育の質、とくに数学の教育のレベルは世界的に高いと思い込んでいたので、最近アマルティア・セン(インド人の経済学者、1998年のノーベル経済学賞受賞者、ハーバード大学教授)がNYタイムズへ寄稿した「インドはどうして中国の後塵を拝しているのか?」(Why India Trails China?)というコラム記事の中で、「インドの7歳以上の国民の、男性は5人に1人、女性は3人に1人は文盲、小学校の4年生以上の子供の半分は20割る5の計算が出来ない」と書いているのを読んで驚きました。インドの一部の、有名校の教育を別とすれば、インドの小学校の数学の教育レベルが高いという話は「神話」なのかもしれませんね!
【エムズの片割れより】
人口が多いので、教育も行き届かないのでしょうか・・・?
投稿: KeiichiKoda | 2013年6月26日 (水) 13:57