「左遷?上等だ!」~「人生全体で黒字ならいい」
先日の朝日新聞の「耕論」に、「左遷?上等だ!」というタイトルの記事があった。この4月に転勤になったサラリーマンも、連休前には一段落するもの。
左遷されたサラリーマンを念頭に読んでみると、この一文、なかなか愉快だ・・・。この記事の3人の筆者のうちの一つを読んでみよう。
「(耕論)左遷?上等だ!
春の人事異動で悔しい思いをされた方々。サラリーマン同士、お気持ちはよく分かります。今はこの3人のお話に耳を傾けてはいただけませんか。心が少し軽くなるかもしれません。
■人生全体で黒字ならいい 太宰府天満宮宮司・西高辻信良さん
東風(こち)吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ
醍醐天皇のもと右大臣として国家に尽くしていたのに、左大臣に身に覚えのない罪を着せられ、この歌を残して太宰府に左遷された菅原道真公。私は直系の39代目にあたります。
神様としてまつられているくらいの人だから、自らの運命を受け入れて悟りの境地に至り、静かに生涯を閉じられたのだろうと思われがちですが、違います。菅公さんは左遷されてから亡くなるまでの2年間、悔やんで悔やんで悔やみ続けて、失意の中で亡くなられました。神とあがめられるようになったのは没後、京の都で日照りや落雷などさまざまな災厄が起こり、これは菅公さんのたたりに違いないと恐れられたためです。
人間は弱い。本意でない人事をされると、嘆いたり、人を恨んだり、それは仕方がないですよね。だけどもっと視野を広げ、時間軸を長くとって物事を考えましょうよ。
人生って51点にすることが大事なんじゃないですか。仕事だけではない。家族や友人との関係、趣味、様々なことをたし合わせて、死ぬときに51点とったなと思えれば勝ちです。左遷されたその瞬間はマイナス20点かもしれませんが、その後の人生でいくらでも黒字にできる。自分だけが不幸だとか、これで俺の人生終わりだとか、そんなことあるはずがないんですから。
それでもそんな思いにさいなまれてしまった時は、悠久の時をたたえた場所に身を置くことをおすすめします。私の自宅は築400年の茅葺(かやぶ)きで、夏は涼しく冬はもっと涼しいのですが、つらい時や悩み事を抱えた時は座敷に座り、お酒を飲みながら、かつて当家を訪れた坂本龍馬や西郷隆盛、高杉晋作らに思いをはせるんですよ。
彼らの多くはまだ20代の若者だったのに、「藩」を超え「国」という意識を持たなければ日本は欧米列強にやられてしまう、俺たちが何とかしなければと全国を駆け回っていた。ああ、彼らもここに座って、同じ屋根を見上げながら議論を交わしていたんだなあと思うと、「私」という意識が自然とほどけてきて、自分という存在は大きな歴史の中の「点」にすぎないということを自覚できます。
風景を変えないこと。太宰府天満宮を守っていく上でも一番大切にしているのはそのことです。駅伝の選手みたいなものですよ。先祖からたすきを渡され、自分の代で実現できなければ次の代に託す。それぐらいの構えでいいんじゃないですか。
人生を投げないことです。菅公さんだって左遷されていなければ、神様として信仰を集めることもなく、歴史に埋もれていたかもしれません。人生って、本当に不思議なものですよ。 (聞き手・高橋純子)
*にしたかつじのぶよし 53年生まれ。福岡県神社庁長。慶応大学を卒業後、国学院大学で神道を学ぶ。05年、曽祖父の代からの悲願だった九州国立博物館の建設を達成。」(2013/04/13付「朝日新聞」p17より)
さっきも書いたが、4月は異動のシーズン。自分など、とっくに縁が切れた言葉だが、相変わらず現役時代の夢を見ることを思うと、サラリーマンにとって、異動がいかに大きな事件かが分かる。
先の記事を読むと「醍醐天皇のもと右大臣として国家に尽くしていたのに、左大臣に身に覚えのない罪を着せられ、・・・」「菅公さんは左遷されてから亡くなるまでの2年間、悔やんで悔やんで悔やみ続けて、失意の中で亡くなられました。」とある。
失意は命を縮める。生きる気力を無くす。菅公さんも、もし左遷されなければ、ずっと長生きしていただろうに・・・。
しかし失意も色々な種類がある。とっくに還暦を過ぎた今の自分が振り返ると、会社における左遷の失意など、人生にとっては取るに足らぬこと。つまりそれは一時(いっとき)のことで、後から幾らでも取り返せるから・・・。それに引き替え、家族との死別など、取り返しが付かない失意は、なかなか取り戻せない。
問題は、管公さんのように生きる気力まで無くしてしまうかどうか。左遷もそこまで行ってしまうと、回復に時間が掛かるが、およそ左遷でダメになった例を自分は知らない。たぶん皆、その時は大騒ぎをしても、結局それを充電期間と捉えて、人生の糧を蓄える期間として受け入れているのだろう。
昔は、サラリーマン無責任時代とか言う言葉が流行った。窓際族は、(自分の時間が増えて)大いに結構・・・なんて・・・。今では時代が違うので、即刻「追い出し部屋」行きかも知れないけど・・・
「人間万事塞翁が馬」。妙にこの言葉が頭に浮びながら読んだ一文ではあった。お疲れさま・・・
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