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2013年4月28日 (日)

女性から見た漱石「こころ」の先生は?

NHKの2013年4月の「100分で名著」は、夏目漱石の「こころ」だった。その第4回(2013年4月24日放送)(再放送5/1、5/8はここ)では、講師の姜尚中さんに、作家の島田雅彦さんが特別ゲストとして加わって、「あなたは真面目ですか」というテーマで議論。この中で、作家の島田雅彦さんがこんな主旨の発言をしていた。曰く・・・

「漱石の先品の中で、「こころ」が一番嫌い。他にも良い作品があるのに、なぜ「こころ」だけがクローズアップされているのか? この作品は国語の教科書に載っているので大抵の人130428kokoro は避けて通れない。でも高校の授業では全部読まないで、「恋は罪ですよ」と言う部分だけ強調している。
特に女子学生は不信感を抱くのではないか? 結局先生の自殺の物語だが、奥さんにひとつも相談しないで亡くなっている。女性側から見ると(奥さんが)蚊帳の外に置かれて無視されていて、所々でバカにされている。女性はそんな先生の姿勢に憤るのではないか?」
「真面目の定義。死ぬまでにたった一度で良いから人を信用したい。と言っている。奥さんは蚊帳の外。“私”に言うことを奥さんに言えばよいのに、と思のだが、“私”が自分の過去を告白する唯一の相手に選ばれる。だからウラを勘繰りたくなる。奥さんでなく、年下の学生の“私”に告白するというのだから絶対にウラがあるはず。つまり先生が本当に好きだったのは、奥さんではなく“私”か、またはその前はKだったかも・・・。ただ、いきなり同性愛の方に突っ走るのではなく、現在でも10代の頃は女性は女性通し、男性は男性通しでつるむ・・・という事があるので、本格的な恋愛、異性愛に行くまでには、男子校、女子校のようにホモソーシャル(同性同士の強い連帯関係)の世界の中に暮らすことがある。・・・」

この議論をどう思う?? 実は自分はまさにこの論に同感なのである。
昔、当blogを始めた最初の頃、この「こころ」の先生についてこんな事を書いたことがあった。
「この小説の中に出て来ないので、先生と奥さんの関係が分からない。一番悩みを相談するべき奥さんが近くに居ながら、何の話もしていない。そして奥さんに何も語らず、一人黙って自殺してしまう。家族の自殺ほど残された人へのダメージが大きいのに、それでなくても天涯孤独の奥さんを、益々一人にしてしまう。先生がどれほどの財産を奥さんに残したかは知らないが、先生だけを頼りに生きている奥さんへの心のダメージは計り知れない。奥さんに対して、あまりに優しくない、無責任な生き方ではないか・・・」
ナンテいうことを書いたら、それはもう総スカン。「日本を代表する文豪に対して、何という浅い解釈か。アナタには漱石を読む資格は無い・・・」なんていう厳しいコメントを立て続けに頂いて、その語調に負けて、その記事を削除せざるを得なかった。
それ以来、文豪に対する批判はタブーと知って、自分の心の奥に葬ってきた。それが、何と小説のプロが同じようにコメントしているのを聞いて、拍手・・・。

「文豪の代表的な作品だから、全ては正しい。よってその作品への批判は、犯すべからざる事である」というのは正解か?
島田雅彦さんは、上の発言のような事があるので、こころは漱石の作品の中で一番キライ、と言っているが、自分は「それから」と同じように好きな作品。

この番組の中で島田雅彦さんは、その後の奥さんやその後の私を描いた第4章があっても良かった。と言っていた。
「先生の遺書を読んで、先生の遺志を私はどう受け止めたのか? 残された奥さんはどうなるのか? 書かれなかった4つめの章の展開を我々小説家は勘ぐる。完結していない、閉じていない小説なので、100年後の読者が別の解釈を引き出す猶予がある。悩み続けて解決がない小説・・・」
漱石に、こころの先生は、残された奥さんがその後どう生きて行くのか、について、どう考えていたのか、もし“あの世”で会ったら聞いてみようぜ・・・

130429ryourityuu <付録>「ボケて(bokete)」より

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コメント

そんなトラウマ体験がこのブログであったのですか! その頃読者だったら、以下のように書いて片割れさんを援護できたかも。

女子校で女性教師が「こころ」を扱ったら、「明治の男はゆるせない~!」の大合唱になります。

【エムズの片割れより】
そうですか。仲間が出来て心強いな・・・

投稿: Tamakist | 2013年4月29日 (月) 18:52

「恋は罪」そんな痛みの1つや2つ心に持っておられる方いらっしゃるのではないかと思います。確かに奥さんに打ち明けられない話ですが、打ち明けられない心もつらいですね。この奥さんはかなり利発な人ですから、きちんと生きてゆけるでしょうし、奥さんの財産も食べてゆくぐらいはあるようですから困る事はないと思います。私は漱石は鬱状態が長かったと思います。「すみれほどな小さき人に生まれたし」という漱石の俳句があります。立派な人、という肩書が重かったのではないかと思います。お札の中の写真がいい加減にしてくれと言っているような気がします。

【エムズの片割れより】
確かに神経衰弱や、胃が悪かったとも・・・。家庭での漱石はどうな生活だったのか・・・。漱石の映画「夏目家の食卓」を見てみようかな・・・

投稿: 白萩 | 2013年5月 1日 (水) 21:04

自分も初めてこの小説を読んだ時、中学生ながら奥さんが一人にされてかわいそうと思ってました。女性じゃなくても多くの人がそう考えると思います。今じゃネットでこのことを指摘している人は実際多いですし当然の意見でしょう

>何という浅い解釈か。アナタには漱石を読む資格は無い

信じられない。この意見なんて浅はかどころか日本語不自由な方なのでは。文豪なら賛同しか許さないのでしょうね(笑)昔はこういうことを平気で言う馬鹿が多かったんですね・・・

【エムズの片割れより】
心強い(?)コメントを頂きまして・・・
漱石の頃は、女性の人権もなにも無かったのかも・・・ね。

投稿: 秋鍋 | 2014年4月13日 (日) 22:50

『先生』は、『K』から、お嬢さんが好きだと告白を受けた.
『先生』は、『K』が、お嬢さんを好きなことを知りながら、抜け駆けして母親にお嬢さんと結婚したいと申し出た.

では、『K』は、どうなのか?
一緒に暮していたのであるから、『K』は『先生』がお嬢さんを好きなのは、当然知っていたはず.『K』も『先生』も、高潔、聡明な人間として描かれるのであるから、当然『K』は知っていたと考えるべきであり、『K』は『先生』がお嬢さんを好きなことを知りながら、『先生』に対して、お嬢さんが好きだと告白したといえる.

「自分は愚かな人間なので、お嬢さんを好きになってしまった」、『K』は『先生』に、このように告白したはず.
『自分は愚かな人間である』とは、『君は愚かな人間ではなく、高潔な人間である』という意味合いを併せ持った言い方であり、『自分は愚かな人間なので、お嬢さんを好きになった』とは、『君は愚かではなく、高潔な人間なので、お嬢さんを好きではないはず』と、『先生』に受け取らせ、『K』は『先生』から、お嬢さんを奪い取ったと言える.

『K』も『先生』も、自分が高潔であると自負する人間、あるいは、互いに相手を高潔な人間と認めあう人間であったのだが.
『先生』が、『K』は自分がお嬢さんを好きなことを知りながら、自分に対して告白を行った卑怯な人間であったと、気がつけば自殺することは無かったはず.
『K』も、『先生』も、二人共卑怯な人間であった.人間なんて皆、所詮はそんな程度、愚かなものなのに、自分は高潔な人間である、あるいは高潔な人間でありたいと思い込んでいた.それがために、二人共自殺してしまい、そして、二人共お嬢さんを幸せにすることは無かった.
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当時は北海道は徴兵制の対象外で、漱石は室蘭に本籍地を移して、徴兵を逃れていました.
戦争は嫌い、当然、殉死などという事は馬鹿げたことであり、死によって誰も幸せになりはしないのも、漱石にとって分りきったことであったはず.
当時の大学生は、エリート中のエリートであった.自分は学業を究めた高潔な人間だと、うぬぼれている者達に読ませるために書かれた作品であろうと思います.

【エムズの片割れより】
rumichanさんの“深読み”には感服しました。
理論的に考えると、そんな風になるのですね。なるほど・・・
しかし「高潔」だとお嬢さんを好きになってはいけなくて、「愚か」だと好きになって良い・・・。
何とも凡人の自分とは、住む世界が違う・・・
自分は愚かで良いので、肩を怒らせずに自由に振る舞いたいな・・・
そして「当時は北海道は徴兵制の対象外」というのは初めて知りました。
そうだったんですか・・・
内容の濃いコメントをありがとうございました。

投稿: rumichan | 2015年4月 7日 (火) 23:21

漱石が徴兵逃れに北海道へ籍を移住させたのは、兵隊は農民や商人がなるもので、武士は兵隊にはならないというプライドがあったためと漱石の本に書いてありました。(実際の本心はわかりません)漱石にもかなりのエリート意識があったように思われます。
親友の想い人を奪った事ぐらいで自殺してしまうなんてと考える私は凡人なのでしょうか。昔のエリートなんて面倒なものだったのですね。最も私が漱石の小説を深読みしていないせいかもしれません。

【エムズの片割れより】
漱石の戸籍の話は、知らなかったので、Netで色々勉強してしまいました。
それはそれとして、昔のエリートは今とは比べられないほど、プライドが高かったのでしょうか。でもそんな事で自殺していたのでは、自分など、命が幾つあっても足りませんでした。

投稿: 白萩 | 2015年4月 8日 (水) 17:06

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