映画「終の信託」を見る
今日封切りになった映画「終の信託」(ここ)を見て来た。終わった後、カミさんの第一声は「良い勉強になりました。えん罪の作られ方が・・・。直ぐに弁護士を呼ばなければ・・・。そして常にICレコーダーを用意しておかなければ・・・」。確かにそんな所か・・・
「それでもボクはやってない」(ここ)と同じ周防正行監督だということで、見る気になった。確かに同じような視点・・・。でも、まず2時間半は長かった。この映画の紹介をみると、“ラブストーリー”とある。自分のこの映画に対する勝手な期待が「リビングウィル(生前遺書⇒尊厳死)」と「えん罪」だったためか、ラブストーリーという視点では印象が薄かった。つまりあまり二人のラブは感じなかった。
まず初めのメインテーマは尊厳死。生前、主治医の草刈民代に、末期のぜん息患者の役所広司が、“その時は尊厳死を・・”と頼むのだが、エビデンスも無く、主治医がただ一人で実行するのは、例え10年前が舞台とはいえ、少々乱暴・・。しかし、ぜん息の発作の役所広司は圧巻。役所広司が、(あまり世には知られていないが)ホンモノのぜん息持ちなので、それを内々知った周防監督が役所を見込んだのでは・・・なんていうバカな妄想をしてしまうほど・・・
そして、検察での取り調べの場面が、この映画の神髄。呼び出し状によって、主治医が検察庁を訪問する場面からこの映画はスタートするが、検察での時間推移が作品全体を貫く背骨になっている。午後3時の指定で呼び出されて、2時半前に行くが、待合室で2時間も待たされる。それも検察のテクニックだという。
そして延々と続く大沢たかお扮する検察官との戦い。それはまさに検察の“見立て”に誘導する権力との戦い。そして、その誘導に素人は嵌って行く。
自分はまだ経験がないが、検察での事情聴取はたぶんこれに近いのだろう。先の遠隔操作ウイルス事件でも、関係のない人が上申書まで書いて自白し、有罪になっているが、その取り調べの現場を覗いた感じ・・・。
でも色々と不自然さも感じた映画だった。原作があるため、周防監督もその枠に囚われたのだとは思うが、先に書いたように、二人のラブストーリーもそんな感じはしなかったし、不倫の場面もかえってこの映画の品を落とす。役所広司が亡くなる場面でも、主治医の取り乱し方は不自然だし、検察官が何も見ずに、何月何日に何をした・・と指摘していく場面も違和感・・・
とは言っても、ラスト数十分の検察の取り調べ場面だけでも、この映画を見る価値はある。この映画では、さすがに主治医が検察官に医学上のことで反論を展開し、見る方もついそれを応援してしまうが、冷徹な検察官は、ただ違法を認めさせることのみに誘導し、そして主治医は破れる・・・
最後の字幕で、“裁判のその後”の展開に、ちょっと“救い”はあるものの、主治医は結局、医者人生を棒に振ることに・・・(実は役者の名前を覚えるのが苦手な自分は、草刈民代という名は、NHKのドラマ「眠れる森の熟女」で最近知った…)
前に書いたイタリアの地震予知の誤安全宣言事件(ここ)ではないが、(イソップの)狼少年の方が確かに楽・・。つまり、何事も“触らぬ神に祟りなし”・・・
この映画、無理にラブストーリーに拘らず、尊厳死とえん罪に的を絞って、展開を早くすれば、もっと中身の濃い映画になったように思う。それにしても「それでもボクはやってない」は心に残った映画だったな~~。
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