自分はFM放送を、KENWOODの発売当時30万円したという高級FMチューナーL-02Tで聞いているが、それに代わり得る最新式のFPGAフルデジタルFMチューナーを入手したので、今日はその紹介である。
当サイトに何度か書いているが、自分はL-02Tにぞっこん惚れている。送信所がスカイツリーに移ってから、マルチパスも無くなり、安心して聞いているのだが、心配ごとが2つある。一つは、このL-02Tがいつまで動いてくれるかという、寿命の心配。もう一つが、持っているセットが、どの程度の性能が出ているのか(新品に比べ、どの位劣化しているのか)、という疑問。一応、KENWOODのサービスマンからは、このL-02Tは状態が良い方、とのお墨付きは貰っているのだが・・・
代わる高級FMチューナーとしては、アキュフェーズしか無いが、シンセサイザーへの不安と価格の点で、到底買えない・・・
しかし、何とかバックアップのセットを持っていたい・・。その希望に応えてくれたFMチューナーが手に入ったのである。
先日、ふと「ひろくんのHP」を見ていたら「FPGA FM Stereo Tuner」(ここ)という記事があった。読んでみると、2万数千円で、高音質のデジタル処理のFMチューナーが手に入るという。
入手の方法は、設計者の林輝彦氏のHP(ここ)に詳しいが、このFMチューナーは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)というゲートアレイにプログラムを書き込み、デジタル的に復調するというもの。よってラジオというより基板ユニットであって、一般市販品ではない。
具体的には、CQ出版社の「ディジタル・デザイン・テクノロジ(DDT)誌、創刊号(2009年4月10日発売)」を手に入れて、付録の基板を設計者の林氏に送って、プログラムを入れて頂き、林氏が分けてくれるキットを手に入れて組み立てる。もし組立が無理な場合は、林氏に何とか完成品をお願いする。
この雑誌は、まだCQ出版に在庫があるので手に入る(2012年7月現在)(ここ)。またAmazonでも買える(送料込み2980円)。もしこの雑誌が手に入らなくなったら、1万数千円の別メーカーのユニットを買う必要があるらしい。
手に入ったFMチューナーは、約10センチ四方の基板に、ANT入力と、デジタル(光)とアナ
ログ(RCA)の出力、及び電源入力(DC5V)しかない。5VのACアダプタは別途購入(秋月電子通商のGF12-US0520だと@600円)。
受信出来る局は、82.5MHz中心でお願いした自分のセットでは、ディップスイッチによる切換で「TOKYO-FM(80.0MHz)」「J-WAVE(81.3MHz)」「NHK東京FM(82.5MHz)」「NHK水戸FM(83.2MHz)」の4局。
技術的なことは林氏のHPを読んで頂くとして、一番ユニークなのは、高周波のFM信号をRFのままデジタル化し、それをフルデジタルで復調していること。一応RCAのアナログ信号も出ているが、やはりデジタル信号のまま、自分のステレオセットにつないで使いたい。
自分の興味は、技術的なことより、出てくる音がどうか・・・だけ。その自分なりに勝手に評価した結果を下記する。この評価方法は、自分の独善であるのでご容赦を・・。基本スタンスは、「自分の好きなL-02Tとどう違うか?」という観点。
<測定方法>
このフルデジタルFMチューナーから、デジタルのまま光ケーブルで、愛用のSONYのPCMオーディオレコーダー(NAC-HD1)につないで録音。L-02Tからはアナログで。それらをNAC-HD1で256bpsのMP3に変換して、フリーソフトで分析。無音部分の抽出は「mp3DirectCut」、レベルの測定は「MP3Gain」、スペクトル解析は「Audacity」。
基準レベルは、NHKの保守時に放送されている1KHzのトーン信号(-18dBFS?)を0dBとして、それに比べて-1.8dBの時報の最後のポーン(880Hz)を目安に比較。
なお、電波の状況(=S/N)は、時々刻々と変化するため、比較データの採取は短時間で集中的に採る事が必要。なおこのデータはNHK東京FM(82.5MHz)受信時です。
<<S/N>>
このフルデジタル機は、とにかくノイズが少ないのが特徴(S/N=90dB!)。普通のチューナーでは、ノイズ量は、電波の強さとチューナーの感度に左右されるため、強いアンテナ入力に苦労する。それなのに、このフルデジタル機は、それなりの電波が得られれば、ノイズは皆無・・・!
逆に弱点は、あまり電波が強いと、かえって赤ランプが点いてダメ。ちょうど良い入力レベルが必要なため、電波が強い所では、アッテネータ(ATT)が必要。
そうして調べた所、我が家の電波環境では、S/Nの測定は「測定限界以下(少なくても68dB以上)」という結果に・・・
つまり、色々な状態を変えてデータを取ったが、ノイズレベルは全て「24.2dB」。つまりこのSONYの録音機が持っている残留ノイズ=測定限界なのである。言い換えれば、このチューナーの性能が良すぎて、自分の環境では、幾らこのデジタル機が90dBのS/Nを持っていたとしても、測れない・・・。それほどこのチューナーはノイズが少ない。
林氏の測定によると、自分のセットは60dBμV入力でSN比70dBが取れたというが、下記は今回自分が採ったデータの一例である。(写真はクリックで拡大)
●アンテナ入力89.4dBμVに10dBのATTを付けたとき(79.4dBμV)。
・L-02T S/N:65.1dB(ノイズレベル28.3dB、時報91.6dB、1KHzとの差1.8dB)
・フルデジタルFMチューナー
光デジタル出力 S/N:66.4dB“以上”(ノイズレベル24.2dB、時報88.8dB、1KHzとの差1.8dB)
(過入力時=10dB ATT無しの時) S/N:58.4dB(ノイズレベル32.2dB、時報88.8dB、1KHzとの差1.8dB)⇒入力オーバーの赤ランプ点灯状態ではNG。
アナログ出力 S/N:68.4dB“以上”(ノイズレベル24.2dB、時報90.8dB、1KHzとの差1.8dB)
●アンテナ入力77.4dBμVに10dBのATTを付けたとき(67.4dBμV)。
・L-02T S/N:63.8dB(ノイズレベル29.6dB、時報91.6dB、1KHzとの差1.8dB)
・フルデジタルFMチューナー
光デジタル出力 S/N:63.3dB(ノイズレベル27.3dB、時報88.8dB、1KHzとの差1.8dB)
<<周波数特性>>
放送局側が、CDの音楽をそのまま送信しているとすると、FMで受信した時の音楽の周波数スペクトルは、CDと同じになるのが理想・・・と仮定。
サンプルとして、山口百恵の「横須賀ストーリー」で「Audacity」による周波数スペクトラムで比べた。(それぞれの写真をダブルクリックして拡大表示し、Alt+Tabで切り替えてみると分かり易い)
(CD) (フルデジタルFM) (L-02T)


*FM放送の局間ノイズをホワイトノイズと見立てたときの、スペクトル
(フルデジタルFM) (L-02T Σ出力) (L-02T 固定出力)
⇒1KHzに対して16KHzは、フルデジタルは△14dB、L-02TのΣ出力は△16dB、同じく固定出力は△19dB。⇒FPGAの周波数特性が優秀な証拠!?
<<音質>>
これは人による好みの問題なので、幾つか音源サンプルを作って、設計者の林氏の協力
も頂いて、L-02Tとの比較テスト(ブラインドテスト)を実施してみた。結果は、10名の評価者において、7名がフルデジタル機の方が良い音、と判定し、3名はL-02Tの方が良いとした。
また、延べ判定項目=90(判定項目8×10名+「横須賀ストーリー」×10名)のうち、58%の項目について、デジタル機が良いとされた。
もちろん音質は人ぞれぞれの好みの問題だが、今回のアンケートでは、このフルデジタル機は、天下の(?)L-02Tと遜色のない音質・・・という評価になった。
(蛇足だが、自分の好みで言うと、KENWOODのL-02Tの音質は、“WOOD”的(和風?)。一方、FPGAは“STEEL”的(洋風?)に聞こえる・・・。自分は、以前の東京タワーの電波のマルチパスのトラウマからか、特に女性アナの“サシスセソ”の摩擦音が気になる。よってどちらかと言うと“WOOD”的な音の方が好き。 ←実は、そうは言ったものの、聞けば聞くほど自分の耳が信用できなくなる・・・・。幾ら好みとはいえ、どっちが良い音か・・・?? FPGAはそんな音・・・。まあ比較そのものが意味無いな・・・)
*このアンケートの音源を(ここ)に置きます。良かったら同じブライングテストをしてみて下さい。
ともあれ、3万円弱で、超高S/N(ステレオ時:90dB)、超フラットな周波数特性(~16kKHz ±0.1dB)、低歪率(1KHz : 0.002%)、高セパレーション(1KHz:70dB)のFMチューナーが出現した。(もっとも初期設計は2009年4月だが・・)
もちろんデジタル処理なので、アナログ特有の不安定さは一切ない。歪みや周波数特性、セパレーションなどはプログラムによる設計で決まるので、アンテナ入力AMP以外の調整は不要で、所期の性能が得られる。それに復調においても、部品の劣化などによる特性の変化はない。つまりこれ以上に性能的に安定したFMチューナーはないのである。
欠点は、自分のようなNHK FMしか聞かないリスナーにとってはどうでも良いことだが、受信出来る帯域が1.5MHz程度ほどしかない。自分のセットの場合、上記の4局がプリセットで受信出来るが、周波数が遠い局を一緒にプリセットする事は今のところ出来ないようだ。ある意味、受信局限定のFMチューナーだ。(受信場所によって、林氏が必要な周波数に合わせてくれる・・・。たぶん)
よってこのチューナーは、ノイズで困っている人などには、打って付けであろう。
また今後も益々、このフルデジタルFMチューナーに、設計者の林氏によって“生命の息吹”が吹き込まれて行くのだろうと思う。つまり技術的な観点ではなく、今後は“芸術的”な観点で・・・・
FMを良い音で楽しみたい方は、ぜひ一度このチューナーを試してみたら如何でしょう。
(2013/04/19追)
時報の最後の“ポーン”の部分(880Hzの単音)だけを、「mp3DirectCut」で切り出して、「Audacity」のスペクトラム解析で比較してみた。
(NHK FM・スカイツリー)
L-02T /FPGAデジタルFMチューナー
(10素子FM ANT) /(10素子FM ANT)(5素子FM ANT)
~FPGAチューナーは、非常にピュアな再生音が得られることが分かる。
加えて、FMアンテナで、5素子に比べ10素子は、指向性が鋭い分、マルチパスの無いキレイな電波が受信出来ることが分かる。
<関連サイト>
1)設計者・林輝彦氏による「FPGA (Field Programmable Gate Array) によるデジタル方式 FMステレオ・チューナ」
2)ディジタル・デザイン・テクノロジ(DDT)誌、創刊号(2009年4月10日発売)の全文
3)設計者・林輝彦氏による「セミナー資料」
4)ひろくんのHPの「FPGA FM Stereo Tuner」
5)トランジスタ技術 2009年12月号「ディジタルFMチューナ向けアナログ・フロントエンドの製作」
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