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2012年7月23日 (月)

「酒気帯び運転 厳罰化でこぼれ落ちたもの」

先日の朝日新聞「ザ・コラム」に、「酒気帯び運転 厳罰化でこぼれ落ちたもの」という記事があり、考えさせられた。曰く・・・

酒気帯び運転 厳罰化でこぼれ落ちたもの
            山中季広 社会部長
 労働法に詳しい弁護士から「日本で今もっとも気の毒な先生が信州にいます」と聞いた。軽い酒気帯びで懲戒免職とされた女性教諭が、復職を求めて提訴し、嘆願署名が4万人を超えたというのだ。
 長野県内の中学で17年あまり英語を教えてきた坪井香陽さん(42)。免職に至る経緯を当人に尋ねた。
 3年前の金曜の夜、自宅そばの居酒屋で焼酎の水割りを5、6杯飲んだ。妹の大病を思いわずらった時期で、幼なじみが「飲んで元気を」と誘ってくれた。車なら数分で行ける店だったが、行きも帰りも20分ほど歩いた。
 午前0時前に帰宅し、すぐ眠りについた。翌朝6時半に目覚めて、財布がないことに気付く。カード類以外に現金も1万7千円は入っていたはず。慌ててカード会社に電話して紛失届を済ませ、車で捜しに出た。昨夜の道を行き来したが見つからない。遺失物届を出そうと交番に寄った。
 財布の中身などを説明中、警官から予期せぬ言葉を浴びた。「お酒のにおいがしますね」。その場で呼気検査を求められた。応じると意外にもアルコール分0.3ミリグラムが検出された。「目の前が真っ暗になりました。朝もすっきり目覚め、二日酔いの症状は全然ありませんでしたから」
 校長に伝えると、すぐ自宅謹慎を命じられた。県教委から懲戒免職を告げられたのは3カ月後。退職金も支給されなかった。生活のため学習塾で教え始めたが、人生の急転がいまだ素直にのみこめない。
 「たしかに自分は愚かなことをしました。でも普通に生きている誰にでも起こりうることじゃないでしょうか。職を奪われるほどのことなのでしょうか。私と同じ目に遭った先生が全国に何人もいると知り、提訴に踏み切りました」

 この件をどう見るか。飲んだ翌朝早くに運転したのは、うかつと言えばうかつだっただろう。二日酔いを見逃さなかった警官も、職務熱心とほめるべきなのかもしれない。だが、はたしてこれは教諭を即座に失職させるほどの重罪なのだろうか。
 調べてみると、免職とされた教諭が教委を訴えた例は想像以上に多かった。うち秋田や横浜、佐賀、熊本などの例では教委側が敗訴している。それらの判決を地裁分と高裁分で計8件通読して気付いたのは、教委がどこもよく似た自縄自縛に陥っていたことである。
 きっかけは2006年夏、福岡市職員が起こした飲酒事故だった。焼酎やブランデーを飲んで追突し、前の車を海中に転落させた。犠牲になったのは1歳から4歳の幼児3人。飲酒運転根絶を求める声が高まった。各地の教委が「酒気帯びは即免職」とするルールを相次いで採り入れた。従来は「免職または停職」という選択ができたのに、よほどの事情がないと停職処分は採ることができなくなった。
 もうひとり、酒気帯びで免職になった先生に会った。神奈川県座間市に住む元県立高校教諭(62)。この人のケースも考えさせられる。
 飲んだのは4年前、同僚との忘年会だった。帰り道、小田急線駅前の駐輪場からバイクを押して自宅へ向け歩き出した。乗れば飲酒運転になるとわかっていたが、バイクは押すと重い。あたりは朝晩見慣れた住宅街で、次の角を曲がれば自宅もすぐだ。ふと気がゆるんでエンジンをかけ、座席にまたがった。50メートルほど行ったところで後ろから声がした。「停止して下さい」。警官だった。
 定年まで残り2年と3カ月だった。悩んだ末に提訴した。一審は「教員生活33年の実績を考慮せず、一律に免職としたのは重すぎる」。二審も「県教委の処分はあまりに機械的」と判示し、勝訴が確定した。

 日本の飲酒ルールはこのところ、とても厳しくなった。福岡の事故の悲惨さを思えば、進んで当然の厳罰化である。民間も例外ではなく、私の勤める新聞社でも若手記者が解雇されている。当時社内に賛否の意見があったことを思い、今月初め当人に取材をお願いしたが、残念ながら応じてもらえなかった。
 さて今回、職種ごとの懲戒基準を比べてみると、目立って厳しかったのが公立学校の教諭だった。警官や医師、国家公務員では、酒気帯びでも、事故さえ起こしていなければ停職で済まされる余地が大きい。
 何であれ、にわかに正義が高く掲げられると、大勢が厳格化の方向になだれを打って打ちすぎて、現場が自縄自縛に陥ることがこの国にはままある。「生徒の範たる教育公務員ゆえ高い飲酒倫理を」という理念はわかるが、一律に免職とするのはやはり硬直しすぎだろう。
 同じ酒気帯びでも、招いた結果に応じて責任を問うすべはないものか。初犯かどうか、事故を伴ったか、物損か人身か、当夜の酒か前夜の酒か、教員としての勤務実績はどうか。個別の事情ごとに処分を選ぶ仕組みがあれば、教委側の敗訴がこれほど続くこともなかったはずである。 」(2012/07/22付「朝日新聞」p8より)

この議論をどう読むか・・・。ルールはルールだから、血も涙もなく、問答無用で・・・。
殺人事件でも許される“情状酌量”は、教育の現場では一切必要ないのか・・・。

長い人生、一瞬“魔が差す”という事は有り得る。「魔が差す」を広辞苑で引くとこうある。
「魔が差す=悪魔が心に入りこんだように、ふとふだんでは考えられないような悪念を起す。」

これは誰もが経験する。しかし人によって、そしてケースによって大きく違って来るのは、“運が悪かった”か、“運が良かったか”・・・
そもそもスピード違反もそうだし、この酒気帯び運転も・・・。それが世の実態・・・。

しかしここまで人生を左右する事態となると、運が悪かった、だけで終える事は出来ない。そこにはやはり人間的な情状酌量のチャンスが与えられるべきだろう。

もう30年以上前の話だが、ある都市銀行で、3回遅刻したら地下室行き、つまり一線から外される、という銀行のルールがあると聞いた。長い人生、3回の遅刻で人生の落伍者になってしまう・・・。銀行はそんな所か・・とビックリしたもの。
それが今、教育現場にまで適用されているらしい。
何事も、厳罰で締め付けるのは、たやすい。子供を叱る時も同じ。厳罰を持って叱れば、叱る方は楽・・・。でもそれは教育ではない。
“人間を作る”教育現場で、“人間を壊す”ルールが鎮座している。何ともお手軽な手法で・・・。
大津市のいじめ事件に対する教育委員会のお手軽な対応も、同じ穴の狢(むじな)に見えるこの頃である。

(追)なお、自分の場合は、車通勤を30年間続けたが、飲んだ時は必ず車を置いて帰った。それは、飲酒運転でのリスクと、車で帰った時のメリットの差を判断すれば自ずと結論は出る。しかし、次の日の朝、となると、酒が抜けていたかどうかは自信がない。
でも思い返すに、飲んだ時はカミさんが必ず迎えに来てくれた。それで自分は、飲酒運転をしなくて済んだのかも知れない。その時々、車を置いて帰れないような色々な事情も有り得る。でも、カミさんとうまく付き合えれば、夜迎えに来て貰って、次の日の朝、送ってもらえれば、飲酒運転の必要性そのものが無くなる。飲酒運転の必要性を無くす・・・。これが秘訣かもね・・・

*上の話と関係無いが、今日会社からの帰り道、歩道橋の階段を降りながら、空を見たら、1段踏み外して転けた・・・。“運良く”捻挫までは行かなかったが、運が良かったのか、悪かったのか、なかなか判断は難しい・・・。(←特に老人は、階段を降りる時は、“絶対に”下を見て降りましょう!)

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コメント

いつも拝見させていただいております。なんだか、今日は、寝つきが悪くこんな時間になってしまいました。新聞をあまり見ないので、要領よくまとまっているこのブログは、ためになります。これからも、頑張ってください。

【エムズの片割れより】
過分なお言葉を頂戴しました~~。

投稿: となりのみよちゃん | 2012年7月24日 (火) 02:35

「日本で今もっとも気の毒な先生が信州にいます」と・・・信州にはもっとも気の毒な先生がもう一人います。
http://monoomoi2.web.fc2.com/
長野県の懲戒指針では、酒気帯び運転をした場合は、原則免職とする。(飲酒後相当の時間経過後に運転した場合等は停職(3月以上))と有るが、県教委は、処分事由に「教育への信頼を著しく失墜させた」事を挙げているが、教育委員会の懲戒処分一覧には22.11.18酒気帯び運転で検挙された。と有るが22.8不起訴処分になった事は記載がない。

 また、気の毒なのは税金を納める市民県民です。二日酔いが原因で二人の先生合計5年以上教壇を離れています。
 裁判に負け、給与保障や裁判費用・職場復帰による重複費用・不起訴処分や処分保留のまま7ヶ月間に及びも隔離する等、慰謝料請求が有っても当然の状況もあり、すでに給与諸費用だけでも、推定5千万の税金の無駄遣いが発生したと思われます。
 坪井先生の長野地裁の判決は、8月頃、岩原先生の人事委員会の裁決11月頃らしい。
 いじめ問題で教育委員会へ批判があるが、いじめは生徒間だけでは無いようですね。

【エムズの片割れより】
自分は、息子が大きいので知りませんでしたが、教師へのイジメがこれほどあるとは・・・
画一的に処分するのは、“その方が楽なのでは?”とつい思ってしまいます。
マスコミを含めて、その実態を世に問う必要があるかも・・・・・。

投稿: ピーマン | 2012年7月24日 (火) 12:57

公務員といえど名ばかり。
すぐ首切られるのが公立の教職員。
悪いことしていなくても、失職させられる。教員免許更新講習を合格しても失職者続出。

【エムズの片割れより】
企業のリストラの話は良く知っていますが、教職員の首切りとは、どんな仕組みなのでしょう・・・?
企業では、よほどの不祥事でも、懲戒免職を認めて貰うのは大変。つまり辞めさせるのは至難のわざ・・・。教職員の世界は??

投稿: 公務員 | 2012年7月24日 (火) 20:42

清酒1合飲むとアルコールが抜けるのに3時間かかると聞いたことがあります。3合飲めば9時間かかるわけです。一晩眠ればアルコールが抜けるわけでは無いことぐらい、教職者なら考えてもいいのにと、飲めない私は思うわけです。夫が酒飲みなので酒飲みの安易な言い訳にはうんざりしています。自分は教職者だから、酒酔い運転は首につながる、あんたは首にならない会社に勤めているから運転してくれと10年も夫を利用した先生もいます。厳罰が嫌ならどんなことがあろうとも酒を飲むのを控えればいいのです。酒飲みはもっと自分に厳しくなるべきです。酒飲みの言い訳にはうんざりしています。事故がなければいいではないかは少々虫が良すぎると思います。

投稿: 白萩 | 2012年7月24日 (火) 23:54

 白萩さん、痛たっです!(笑) 当然意見は色々と有るでしょうね。
 しかし、(自覚のない二日酔いで)事故がなければいいではないかは少々虫が良すぎると思います。←最高裁が懲戒免職は過酷と判断しているので、虫が良すぎると思いません。
 最近は、アルコールチェッカーを持っていることが普通かも知れません。しかし、悪用すれば、0.15未満で有れば酒気帯び運転になりませんから、0.15未満で有れば検挙されません。
 http://www.web-pbi.com/drunk/
によれば、「3合飲めば9時間かかるわけです。一晩眠れば・・」ではなく、飲み始めから6時間を過ぎれば、検挙されれる0.15未満になるようです。正確に勉強しましょう!
 体重や消化能力の個人差が大きいようで単純計算出来ないようですが、酒飲みは正しい知識を持つべきであり、今はアルコールチェッカーも保有するべきですね。
 白萩さんは、酒飲みが嫌いなようですが、酒の販売を許し税収を上げ飲まない人の為にも貢献している本国です。
 タバコも酒も習慣性が有り、簡単には止められません。
 10年も夫を利用した先生のお話は、論外です。

【エムズの片割れより】
う~ん・・・・。
アルコールチェッカーが市販されているのですか・・・

投稿: ピーマン | 2012年7月25日 (水) 14:14

こんなニュースが・・(^^♪
http://www.sanyo.oni.co.jp/news_s/news/d/2012070108050591/

投稿: なち | 2012年8月 3日 (金) 08:34

ぴーまんさんが仰る通り私は酒飲みが嫌いです。酒飲みが酒を飲まない人にかけた迷惑は税収を上回るかも知れませんよ。見えない迷惑は大きいのです。我が家も表彰状を税務署から頂きたいぐらい貢献しています。でも酒飲みから掛けられた迷惑は持っていく行き場がありません。恨みは深いのです。正しい知識などもう用はないほど酒飲みを恨んでいます。悪しからず・・・ごめんなさいね。

投稿: 白萩 | 2012年8月 4日 (土) 01:09

拝見させて頂きました。懲戒免が停職になってから1年以上になりますね。
当時署名した身ではありますが、懲戒免は厳しいとはいえ、やはり教員として飲酒管理はしっかりしなければ駄目だと思いましたね。これを教訓に次は無いと思って2度と同じ過ちは犯さないようにして欲しいですね。

署名の決め手になったのは検出されたアルコール量が検挙される基準に達しておらず、不起訴だったという点ですね。
そして正直に学校に報告したという点も評価しましたね。
もしこれらの点を考慮せず、厳罰を認めてしまったら、今度は学校に報告しない愚かな教員が増えてしまうのでは無いかと考えました。
「岩原先生のような不起訴だったのに報告する正直者は馬鹿を見る」と嘲笑い、「不起訴だったら黙っていれば大丈夫」と認識した者が増えたらそれこそ交通事故が多発してしまうのでは無いかと考え、署名に至りました。
勿論これは私個人の考えですし、本当にこれで正しかったかどうかは分かりません。

ただ、3ヶ月も自宅謹慎させた上、飲酒運転とはいえ、不起訴だったという点を考慮せず、何もかも厳罰だと処分を下した教育委員会の判断には不愉快に感じました。正当な裁きに思えず、他人の人生を弄んでるとしか思えなかったからです。

【エムズの片割れより】
交通事故など、自分の一瞬の油断でその後の人生を変えてしまう事があります。
もし可能なら、そのようなリスクとは、なるべく接点を持たない方が良いのでしょうね。
お酒は、人的交流に必要だという話もありますが、自分は不整脈の予防に断酒を始めて半月になりますが、意外と苦ではありません。酒を飲むために働いている、と言う同僚もいますが、自分の場合は違うようです。

投稿: nanasi | 2014年5月 1日 (木) 19:23

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