日経の「私の履歴書~米沢富美子」~何とパワフルな…
今月(2012年6月)の日経新聞の「私の履歴書」は慶応大学名誉教授の米沢富美子氏。自分は知らなかったが、米沢さんは日本物理学会長を女性で初めて務めた理論物理学者だという。まさにキャリアウーマンの走り・・・?
毎月読み流している「私の履歴書」だが、今月は今までに無く熱心に読んでいる。
何故かというと、最初から最後まで氏の成功体験の連続。つまり、まるで“自慢話(!?)”のようなのである。それもアッケラカンとしていて、イヤミのない話・・・。だから素直に「すごいな~」と思う。
あえて挫折のことを書いていないのかも知れないが、これほど自分の意志通り(?)に生きられる人生とは・・・
一例として2012年6月17日の記事を読んでみよう。
「私の履歴書 米沢富美子
1967年、二女を妊娠中に「不規則系の新理論」を発表した。この理論はすぐに世界的に認められ、私の出世作となる。
前回述べたように、新理論のきっかけは夫の一言だった。育児と妊娠の同時進行で仕事が停滞していたとき、夫は過酷な言葉で私に活を入れた。それで私は発奮してフル回転に切り替え、修士論文以来続けてきた「不規則系」の研究に取り組んだのだ。
しかし最終段階まであと一歩のところで、なかなか視野が開けない。1日4時間睡眠で机に向かっていたある日、新しいアイデアが突然ひらめいた。「これだっ!」。雷に打たれたような衝撃に、体の震えが止まらない。
興奮の第一波が過ぎると、次にこれを論文に書くことが今回はとりわけ難しいと気づいた。数学的にかなり複雑な内容だ。自分の頭で理解することと、それを人に分かってもらうことには、大きな隔たりがある。
大学院時代の指導教授、松原武生先生の口癖を思い出した。全ての精力と時間を3等分して「テーマ探し」「実際の研究」「論文書き」に配分せよという教えである。2番目の「実際の研究」が全てだと思い込む傾向があるが、本当は、最も適切なテーマを掘り出す1番目と、成果を確実に発表する3番目も同じくらい重要だとたたき込まれた。
フル回転モードを持続して論文を仕上げた。この理論は「コヒーレント・ポテンシャル近似」、頭文字をとって「CPA」と名づけられ、広い分野で標準的な近似として用いられるようになる。
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私はこの複素数を数学的な解析から導いた。この理論に到達したとき「こんなことを思いつく人は、世界中に誰もいないだろう」と考えたが、実は米国の物理学者P・リースがほとんど同時に似た内容の論文を発表した。私は後にリースと会い、お互い「他人に頭の中をのぞかれたような気がした」と語り合い、盛り上がることになる。
私やリースの論文と同時期に、米国とカナダの科学者が「物理的考察」から独立にこの複素数を求めた。奇しくもわれわれ4人は28歳と29歳だった。
ノーベル物理学賞受賞者のP・アンダーソンはこの理論を「静かだが過激な革命」と評した。
夫の激励がなければ、この仕事はできなかった。なんとも「手荒い激励」ではあったが、私は心から感謝している。(慶応大学名誉教授)」(2012/06/17付「日経新聞」「私の履歴書」より)
氏については、この記事に出てくること以外は知らないが、ここに書かれてきた経歴だけ でも、実にパワフルな生き方。修士1年の時に結婚し、夫がロンドンに単身赴任すると、自ら英国の大学に売り込んで1年間の留学。そして復帰した京大博士課程在学中に長女を出産。そしてその後も、夫の東京やニューヨークへの転勤の時も、後を追ってその地の大学に・・・
すごいのは、学者としての生活だけでなく、妻として、そして3人の子供の母親として、すべてを両立させていること。学者と母親/妻の両立こそ、結婚時の夫との合意事項だったとはいえ、普通の人には到底出来ない。
子どものとき、IQ175だという米沢さん。書かれているまさに順風満帆の人生は、人並み外れた努力から生まれていることは疑いがないが、それにしても“血統はやはりあるな・・・”と、この履歴書を読みながら思うのである。
広い世の中で、努力次第でこんな人生も送れる・・・、と知ると、何か元気が出て来ない??
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コメント
私も日経を購読しているので、米沢さんの「私の履歴書」を読みました。(切り抜いておいて、8月にはいってから全体を一気に読みました。)エムズの片割れさんとは違って、2003年4-5月にNHKの教育テレビの人間講座米沢冨美子「真理への旅人たち」を見ていたので、物理学には門外漢の私ですが、米沢さんは私には決してはじめて知る名前ではありません。(この講座は後で岩波新書「人物で語る物理入門」(上、下2冊)にまとめられ、これも読みました。)この講座にも、湯川秀樹、朝永振一郎が登場し、米沢さんとの私的交流にも触れられていますが、米沢さんがIQ175の天才少女だったことを含めて米沢さんの半生を読むのははじめてです。米沢さんは自分の人生を「幸運の一語に尽きる」と謙虚に?要約していますが、才能はもちろんですが、これを読むとバイタリティと努力の人だという印象です。「女性には不向きの?」自然科学(自然科学の王様物理学)の分野で世界的業績を残すかたわら、何回ものがん手術を生き延び、3人の娘を立派に育てた人生は、とても「幸運の一語に尽きる」どころではありません。私が多少知っている経済学の分野でも、米沢さんとほぼ同時期にアン・クリューガーという女性の経済学者が「アメリカ経済学会の会長」に選出されていますが、この人ももしかしたら、米沢さんと同じように、バイタリティと努力の人だったのかもしれない、と米沢さんの「履歴書」を読んだあとでは、推測してしまいます。
【エムズの片割れより】
確かに、幸運だけではありませんよね。こんな人の話を聞くと、人間の無限の可能性を感じます。その可能性を我々はどこまで開拓しているのか・・・
投稿: KeiichiKoda | 2012年8月 5日 (日) 09:01
撮りためたビデオを整理していたら、上で言及したNHK人間講座「真理への旅人たち」のビデオが出てきましたので、もう一度見ていたら、米沢さんは、第1回のアインシュタインついての話の中で、アインシュタインが最初の妻ミレヴァと離婚する時、慰謝料(と子供の養育費)としてまだもらっていないノーベル物理学賞の賞金を全額支払うという条件で離婚にこぎつけた、という逸話を紹介し、「一体どこの世界にまだもらっていないノーベル賞の賞金を離婚の条件を提示する夫がいるでしょうか」とコメントしていました。米沢さんは物理学の分野の人なので、実は、もうひとりそういう人が他分野にいたことを御存じなかったのでしょう!シカゴ大学の経済学者ロバート・ルカス(Robert Luacas, Jr.)という経済学者は1995年のノーベル経済学賞の受賞者で、現在も現役のシカゴ大学の教授ですが、彼も前妻と離婚するとき、離婚の条件としてまだもらっていないノーベル経済学賞の賞金をもらったら全額支払うことを離婚の条件として提示し、離婚しています。ルカスはアインシュタインの上記の話を知っていたのにちがいありません!
【エムズの片割れより】
そうなんですか・・・。
投稿: KeiichiKoda | 2013年6月16日 (日) 15:36
米沢冨美子さんといえば、今流行の言葉でいうと「リケジョ」の元祖的存在ですが、リケジョといえば、理研の小保方晴子さん。先週土曜日(3/15/2014)の朝刊のトップ占めたのは私の読んでいる日経を含めてほとんどの新聞で、「STAP細胞」への疑問の問題だったのではないでしょうか?
このニュースを新聞やTVで読んだり、見たりしていると、数年前に読んだ衝撃的な本、村松秀「論文捏造」(中公新書ラクレ)を思い出さずにはおられません。アメリカのベル研究所のヤン・ヘンドリック・シェーンという研究者が超伝導をめぐって2000年から2003年にかけてデータを捏造して成果をたくさんの論文に発表し、ノーベル賞確実とまでいわれた、物理学界を揺るがした大事件です。著者の村松氏はNHKがこの事件を「史上空前の論文捏造」(2004年(60分版)と2006年(90分版))のBSドキュメンタリーとして放送したときのディレクターで、この本はこのときの取材をもとにして書き下ろした本です。この放送は、数々の国際賞を受賞した番組ですが、エムズの片割れさんはこの番組をごらんになったことがおありでしょうか?残念ながら私は放送されたとき見逃してしまいましたが、ずっと後になって上記の本は読み、驚愕しました。本を読んで以来、NHKには何度かこの番組の再放送をお願いするメールを送っているのですが、実現していません。STAP細胞の事件が起きてしまっては、まだ「捏造」と決まったわけでもないのにあまりにもタイムリーよすぎて、NHKもこの番組を直ちに再放送する勇気はないでしょうね(?)
【エムズの片割れより】
この番組は残念ながら見ていません。
捏造は、前に古代遺跡発掘でもありました。佐村河内守氏の話といい、マスコミの騒ぎ方が異様で、それに踊っている自分も問題ですが、最近の話題そのものが信じられなくなって寂しい限りです。
投稿: KeiichiKoda | 2014年3月17日 (月) 07:56
上の2014/3/17の私のコメントへの追記です。昨日(2014/6/4)の日本テレビの番組「世界仰天ニュース―"捏造科学者SP"天才か、嘘つきか?若き研究者の論文発表3年間騙された理由」というのが放送されていましたが、ご覧になられたでしょうか?上記の、物理学学界を震撼させたというベル研究所のヤン・ヘンドリック・シェーンの「論文捏造事件」を関係者からのインタビューと再現ビデオによって「再現」させた番組で、内容は村松秀「論文捏造」で明らかにされた事実と同じでした。上のコメントを書いてから、STAP細胞疑惑はますます深まり、本日の朝刊には最後まで抵抗していた小保方さんも2つの論文の取り下げに同意したという報道がありました。この番組を観ていた人は気づいたと思いますが、小保方さんのSTAP細胞事件とシェーンの事件とは、実験結果が再現できない、実験記録に不備がある、同一の図あるいは画像が二つの異なった論文に使われている、あるいは有名な研究者との共同論文のかたちをとっている等々の点で、酷似しているのです。今月号(6月号)の文芸春秋(6月号)の、九州大学の中山敬一氏の特別寄稿「小保方捏造を生んだ科学界の病理」も、九州大学の中山敬一教授が小保方事件とシェーンの事件との類似性を指摘しています。
【エムズの片割れより】
さっそくタイムシフトVTRで、その番組を見ました。まさに、そっくりですね。
文藝春秋も読みました。
小保方問題も、それに費やされたエネルギーと、失われた信用は大変なもの。それをアメリカのように再発防止の徹底に活かして欲しいものです。
投稿: KodaKeiichi | 2014年6月 5日 (木) 18:23
上で言及した(2014/3/17のコメントを参照ください)ヤン・ヘンドリック・シェーンの、物理学界を揺るがした大事件を描いたNHKドキュメンタリー「史上空前の論文捏造」(2004年と2006年に放送)が、本日(2015/8/6)の深夜(0:45-2:20AM)NHKBSプレミアムで名作選として再放送されます。STAP細胞事件については大宅賞を得た須田桃子「捏造の科学者」(2014/12)等で詳細が明らかになりましたが、須田氏もこの本の最後のほうで、STAP細胞事件とシェーン事件の、驚くほどの類似性を指摘しています。私は、NHKにこの番組の再放送の依頼を、STAP細胞事件が起きる以前から何度も送っていたのですが、やっと実現の運びとなって嬉しいのですが、この番組の再放送を望む人たちが、きっと(私だけでなく)たくさんいたにちがいありません。
投稿: KeiichiKoda | 2015年8月 6日 (木) 08:46
感銘致しました。聞き逃しサービスで今朝2日分を聞きました。
家事を手伝わない夫に不平をこぼす事さえ時間の無駄との潔さは感動感動。
投稿: りんご | 2019年3月26日 (火) 17:13
米沢富美子さんの「あの人に会いたい」を見て偉大な生涯を送った女性のことを初めて知りました。
2021.1.16(土)5.40~6.00NHK総合
2021.1.22(金)13.50~ NHK教育
投稿: かうかう | 2021年1月17日 (日) 21:10