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2011年5月10日 (火)

「震災にみる日本の技術観」

昨日の日経新聞の「経営の視点」というコラムに、なるほど・・と思った記事があった。曰く・・・

震災にみる日本の技術観~「最悪の想定」は背徳的か
ルイ・ヴィトンやカルティエなど首都圏にある外国高級ブランド店は、震災の直後に一斉に休業した。百貨店内の売り場も閉めた。
 他の小売店や飲食業が頑張って営業を続ける中で、照明を落とし、真っ暗になったブランド店の光景は、多くの日本人の目に無情と映ったのではないか。
 「フランス企業は真っ先に日本から逃げた」。そんな批判も出たが、危機への対応で多くの欧米企業の意思決定が、日本企業より素早かったのは事実だ。
 早さには理由がある。フォール駐日仏大使は、こう解説する。「慌てて会議を開いて決めたわけではない。手順は前から定められていた。それを忠実に実行しただけだ」
 制御不能になった原子炉への対応で、東京電力の右往左往が続く。「最悪の事態」を想定せず、ことが起きてから考えるから時間がかかり、失敗もする。ベント(排気)や廃炉の決断の遅れが、悔やまれる。
 たとえば、福島第1原子力発電所では、津波の高さを最大5.7メートルと想定していたという。現実には14メートル以上に襲われ、冷却装置が動かなくなった。
 では、なぜ東電は設計の際に5.7メートルで線を引いたのか。原子力部門の技術陣が「たとえ5メートルの大波が来ても大丈夫です」と説明したときに、「ならば10メートルならどうする?」と、専門家ではない客観的な立場から問い返すのが、経営トップの役目であるはずだ。
 監督官庁である経済産業省の幹部の弁明はこうだ。 「当事者が最悪の事態を想定すること自体が、背徳的とみなされる。そんな可能性まで頭に描いているのかと逆に糾弾されてしまう」
 トヨタ自動車のリコール問題にも共通の根があった。技術に自負がある技術部門が、社内で対米交渉部門への情報開示を渋り、米国との関係が決定的にこじれてしまった。情報漏洩を起こしたソニーも、保安技術への過信がなかったか。
 フォール仏大使によると仏原子力庁と政府傘下のアレバ社は、全仏各地の原発について、炉心溶融やテロ攻撃、核攻撃、放射性物質の大量放出など考えられる限りの「最悪の事態」を想定し、2005年から模擬実験を繰り返してきた。
 農業への影響の予測も徹底している。牛乳、小麦、ホウレンソウなどの品目ごとの安全基準。1日、1週問、1ヵ月、1年など時間経過に沿った対応策。出荷停止や廃棄、農家への補償など、原発からの距離に応じた行動計画が、あらかじめ練られているという。
 放射能汚染の可能性がある日本の農産物や製品の輸入について、検査方法や基準をいち早く打ち出したのは米国だった。9.11事件以来、テロに備えた対応策を作ってあったからだ。
マニュアルがあれば、あとは実行するだけ。対日支援で米仏の行動が早かったのは、意思決定の速度だけでなく、視野に入れている危機の範囲の広さにある。
 仏政府は原発危機の対応マニュアルを一般に公開していない。米国も輸入品の検査基準を、事前には明らかにしていない。だが起きてはならない「最悪の事態」を、悪魔の心で計算していた。日本が西欧から学びそこねた技術文明の一つの側面がここにある。(編集委員 太田泰彦)」(
2011/05/09付「日経新聞」p9より)

日本の「想定外・・」という文化と、欧米の“「最悪の事態」を悪魔の心で計算”する文化の違い・・・。
我々は、よく“日本的”という言葉を使う。「日本的」という世界は、まさに感覚の世界。いわゆる女性の“カン”の世界である。芸術の世界ではそれも良い。しかし、想定違いの津波のために、原発事故を含めてこれだけ甚大な被害が出るとすると、今までの文化を否定せざるを得ない。
前に東電の副社長が、個人的な意見と言いながらも、「想定外だった事も想定しておかなければいけなかった」と述懐していたが、それが正しい。

先に袋叩きにされた「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の話も笑ってしまう。“スピーディ”という名も、文部科学省のHPも、全てが空しい・・・・。HPに曰く・・・
SPEEDIとは
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI:スピーディ※)は、原子力発電所などから大量の放射性物質が放出されたり、そのおそれがあるという緊急事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被ばく線量など環境への影響を、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測するシステムです。
 このSPEEDIは、・・・緊急時に備えています。
 万一、原子力発電所などで事故が発生した場合、収集したデータおよび通報された放出源情報を基に、風速場、放射性物質の大気中濃度および被ばく線量などの予測計算を行います。これらの結果は、ネットワークを介して文部科学省、経済産業省、原子力安全委員会、関係道府県およびオフサイトセンターに迅速に提供され、防災対策を講じるための重要な情報として活用されます。」
ここ)より

日本は、“欧米のマニュアル通りに動く”という、言葉を換えれば、“最悪を想定してあらかじめ手を打っておく”というビジネスの根幹のマネジメントが出来ていなかったばかりか、このように100億円以上の国民の税金を使ったシステムも、まさに利用すべき“その時”に、「国民がパニックを起こす」という誰かの勝手な思い込みで、せっかくあったこれらの(多分、“早急に国民に知らせる”と書いてあるであろう)マニュアルをも踏みにじる・・・。
これらの動きは、まさに日本がその場しのぎの後進国だという立派な証。

自分は決して日本的なことを否定するつもりは無いが、それらは“場合によって”使い分けるべきだろう。そんな事も出来ない現在の日本の指導者・・・。
せめてこれら税金の無駄遣いを、国民に対して懺悔する意味でも、“いざ鎌倉”の時に誰がSPEEDIの公表を止めたのか・・・。上記のコラムの指摘を噛みしめつつ、それらの真実を明らかにすべきでは・・・?

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コメント

官僚の答弁には,ただ驚くのみ.
全国の皆様,岩手県下閉伊郡普代村における
15.5mの防潮堤が住宅・住民の生命を守った
驚愕的事実を語り継ごう.
NHKは特集を組むべきだ.何か,無視する気配を感じる.
今回の大震災は,原発を含めて極めて単純な結果だろう.過去のデータを意図的に無視した相変わらずの非科学性.15.5mの防潮堤で死亡者ゼロだったはず.

【エムズの片割れより】
平和な時にはバレなかったイロイロが、今回はバレてしまいましたね。国の仕組みも、危機管理体制も、そして政治家の一人ひとりの実力も・・・

投稿: のりへい | 2011年5月10日 (火) 23:48

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