「原子力もガラパゴス 安全規制を世界標準に」
先日の日経新聞「中外時評」に「原子力もガラパゴス 安全規制を世界標準に」という記事があった。曰く・・・
「原子力もガラパゴス 安全規制を世界標準に
論説委員 滝順一
「ガラパゴス化している印象がある」。1月に開いた政府の原子力委員会の会合でこんな意見が出た。
ガラパゴス島の生き物のように、世界の潮流から孤立して特殊な進化を遂げているのは、日本の原子力発電所の安全規制だ。古くからの規制の仕組みを技術進歩などに合わせて抜本的に見直すことを怠り、トラブルのたびに新たな検査を付け加え、世界でもまれな非効率な規制を生んだ。
それで安全性が高まったのかと尋ねると、専門家は首をかしげる。むしろ国民へのリスクが増した恐れすらある。政府や産業界は国をあげて原発輸出に入れあげるが、世界標準からかけ離れた島のおきてしか知らないでグローバル市場で勝てるのか。この責任は電力会社と、政府の規制当局の両方にある。
国内約50基の原発の平均稼働率は64%。約90%の米国や韓国から水をあけられている。米韓だけではない。世界全体の原発の稼働率は1990年代以降、毎年ほぼ1%ずつ向上した。維持管理の工夫で、この間ほとんど原発の新規立地がないにもかかわらず、総発電量に占める原子力の割合を増した。
日本は90年代半ばに稼働率が80%台半ばまで上がったが、その後は低落した。定期検査にかかる日数が、米国は約38日なのに対し日本は約140日と長い。燃料交換や検査を終えて、次の停止までの運転継続期間の平均が米国19カ月に対し、日本13カ月。停止の頻度が高く、いったん止めたらなかなか動かない。それが日本の原発だ。
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電力会社は低い稼働率に甘んじても経営は揺るがず、規制当局は場当たり的に検査を増やせば「原発は安全」と国民が納得すると思い込む。ともに現状維持コストの大きさを気にかけない。原発停止で温暖化ガス排出削減目標が達成できず電力業界は排出枠を海外から買った。この「国富の流出」を京都議定書が悪いと責任転嫁する。
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昨秋、室蘭にある日本製鋼所の工場を見学する機会があった。中国や米国などに出荷される原子炉圧力容器の部品が所狭しと並び、巨大な鋼塊の鍛造工程を原子力検査官らしきフランス人が熱心に見入っていたのが印象的だった。
マラッカ海峡がアジアへの石油輸送のチョークポイントだとされるのと同じ意味で、室蘭は世界の原発建設のペースを左右する場所だといえる。ハードウエアとしての日本の原発技術は世界に誇っていいものに違いない。しかし制度は違う。
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原発を輸出したいから国内規制を改めろと言いたいのではない。十重二十重の検査で、原発をうまく動かす技術の進歩を押さえつけることは、経済的でもなければ安全を生むことにもつながらない。改善を望む当事者の意欲を生かし、その結果を科学的に厳密にチェックする仕組みがいい。日本が島国を脱して、国際的な安全規制の標準づくりに協力するなら、世界の原子力安全への貢献にもなる。」(2011/02/13付「日経新聞」p8より)
日本の原子力行政。ここに垣間見える姿勢は「保身」??
監督庁は、事件や事故がある度に検査項目を増やし、それで自己の保身を図る。電力会社は、原価+適正利潤を電気料として回収する・・。どうも当事者が傷つかない仕組みになっているように見える・・・。
ちょっと計算してみた。原発の一覧(ここ)によると、現在稼働中50基の合計出力は4373.7万kw、平均出力は87.5万kw。よって、稼働率が64%とすると4373.7万kw×64%=2799万kwしか発電していない。それが90%の稼働率になると、4373.7万kw×90%=3936万kw。つまりその差は、1137万kw。それを最新鋭の1基135万kwで割ると、この稼働率の差は最新鋭原発約8.4基に相当する。
つまり日本の原発は、米国や韓国に比べて8.4基分が寝ている状態。しれが目を覚ませば、無料で原発8.4基が手に入る、という事になる・・・?
ところで原発1基は、幾らぐらいするのだろう?(ここ)によると1基4000億円とある。
(ここ)を見ても、どうも1基3000~4000億円らしい。すると8.4基で単純計算すると2.9兆円!(ムバラク大統領の蓄財5兆円には及ばないけど・・・)
ある大メーカーの規定の話。その会社では、ある部門がISOの審査を受ける度に規定が増え続け、守るべき規定が分厚いキングファイル数冊・・・。ISOの審査官が、開口一番「そんなに規定があって、本当に守れるんですか?」。それに対する「もちろん守っています」という返事の、何と空虚な事か・・・
これも保身。だれもが現場が守れていない事を知りながら、何かの事件が発生すると、“誰か”が「現場が守るべき規定を守っていなかったから」と言い訳をするための仕組み・・・
それを同じ構図・・・。
何か大事な事が忘れ去られている・・。色々な事態(エネルギー問題等)に対し、当事者(行政及び電力会社)が自分のこととして捉えず、棚の上から他人事で見ている。自ら改善すれば、地球規模での温暖化対策にも、国民の電力料金削減にもつながるのに、何の努力もしていない。
日本のエネルギー行政・温暖化対策で、いま一番やらなければいけない事は、「官民挙げた原発の米韓並みへの稼働率向上施策」のような気がするが、どうだろう・・・。
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