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2010年9月 3日 (金)

田中奈保美:著「枯れるように死にたい―「老衰死」ができないわけ」を読む

本の薦めは、ある意味“思想の押し付け”になるので、当サイトでも避けている。・・・が、それでも薦めたくなる本が、今日読み終えた田中奈保美著「枯れるように死にたい―「老衰死」ができないわけ」である。(今朝は、この本の終盤を読んでいて、二つも駅を乗り過ごしてしまった・・・・)
この本は、特養などで老衰によって死に逝く人たちの現状を、夫である特養の医師の目も合わせてレポートし、否が応でも医療によって管につながれ、苦しみに翻弄されている老人たちの哀しい実体に迫る。そして今後我々が、どう死と向かい合うのかについて、色々と考えさせてくれる良い本だと思う。

この本は、先に書いた「“看取り”と向き合う~石飛幸三医師の話」(ここ)という記事で、“風雅”さんから紹介頂いたもの(ここ)。
本の題を見るや、カミさんが読みたいと言うので、Amazonに早速注文。この8月20日発行で、まだ発行から2週間。
Image05001 本が着くや、カミさんが直ぐに読んでしまい、ぜひ自分にも読めという。それで通勤の途中で読んだ。なるほど・・・。(写真はクリックで拡大)
だいたい自分は本に付箋などは付けないのだが、読み始めてまもなく付箋を付け出した。つまり、気になった文言に付箋を付けてみたのだが、読み終えてそれを数えてみたら、何と27カ所・・・。つまりそれほどに「なるほど・・」が多かった本なのである。

気になった文言をメモしてみると・・・・
「病院死が約8割という今日、病院死をあたりまえと思っている私たちは、こうして施設のベッドでなすすべもなく死にゆく人を見守り続けるのに慣れていない。なにかせずにはいられなくなる。・・・・でも、見ていられないからといって、こちら側の都合を押しつけでいいものか。」(p61)
「娘は、「母親も亡くなり、たったひとりの親なのでできるかぎり長生きをさせたい。手を縛ってもかまわないから生かしておいてあげたい」と希望したという。」(p68)に
「・・・・「たったひとりの親だから。たとえ縛ってでも生かしておきたい」と言うけれど、だれのために生かしておきたいと考えているのだろう。父親のため?それとも娘である自分のため?」(p79)
「医師に対して、死にそうな人にできるかぎりのことをしてくれと頼むというのは、人工呼吸器をつけたり、心臓マッサージをしたり、人工栄養を与えるなど延命のための特別の医療をしてほしいと要求することを意味する」(p74)
「生命のレベルが落ちて死への旅立ちをしようとしている親を、無条件に医療を施して延命するのは本人にとって幸せなのだろうか。」(p75)
「“お母さんが食べられなくなっているのに、どうして病院に連れて行かないの”・・・いっしょに暮らしてきた家族と遠くに住む親戚の見解の相違。」(p86)
「寿命が尽きようとしていた高齢者が、ひとたび病院に送られるとどうなるか。ただちに「病気」が見つけ出されて、病人として治療され、「自然」には死ねなくなってしまうのが現状だ。」(p88)
「施設の利用者の食事風景を見ていると、食欲はつくづく生きる意欲のバロメーターだと思う。」(p91)
「医学教育で死は敗北以外のなにものでもない、とたたき込まれているこの若い医師に・・・」(p114)
「加療中の患者が病院を出るにあたっては、あくまでも他の医療機関に引き継ぎをすることにこだわる。もうひとつは、考え方の違うほかの親戚がいた場合を想定して。訴えられる可能性も念頭に入れ・・・その結果、
(エムズ注:医師である息子の、母親の退院の希望に対して、病院の)医師は「佐藤順」という個人の医師に紹介状を書くという形で妥協した。」(p125)
「医療技術の力で死を先のばしにできるようになった今、死は自然が決めることではなく、人間の判断が深くかかわるものになっている。」(p126)
「一般病院では指示を出している内科医の多くは、胃ろうを置いた高齢者のその後のたどる道を知らない。知る機会がまずない。それが問題なんだ」(p131)
「本人が生きているのに、(胃ろうを)はずせば殺人行為ですよ。」(p135)
「・・・胃ろうは延命ではなく救命であり、生命維持に不可欠。 なるほど、そういう考えもあるのか・・・」(p151)
「延命処置をしないで、『枯れて』亡くなっていった人の最期がいかにきれいかを初めて知りました。」(p154)
「フランスでは「人は食べられなくなったら、そこからは医師の手を離れ、牧師の出番となる」といういい方があるほどだ。」(p158)
「・・「生きていてくれるだけでいい」というヨウコさんの思いに応え、精一杯生き続けて娘を励まし、娘の人生を支える応援団長であり続けた。このことにおいても母親の延命された時間は十分に意味のあるものだったと、私には思えてならない。」(p172)
「高齢者のターミナルケアについての意識調査で、・・・90%以上が自分は延命処置を希望しないと答えている。・・・。しかし、「無駄な延命を望まない」と考えていても、本人の意思を表明するものがなければ、思いどおりにはいかない。・・・そんとき、意思表明を書いたもの、つまり「リビングウィル」があれば、日本では法的効力はないものの、大変有効になる。」(p198)
「患者の家族の立場で考えると、不必要な治療をいかにやめてもらうか、これも難しい問題だ。」(p217)
「何かをする医療よりも、何もしない医療のほうがはるかにむつかしい。」(p231)
「・・確かに人間、嚥下ができなくなったら、いっさいの医療をやっても意味がないことが、今は理解できる。」(233)
「フランスの医師が、「老人医療の基本は、自分が自力で食事を嚥下できなくなったら医師の仕事はその時点で終わり、あとは牧師の仕事です」と語った・・」(p233)
「・・死についても、家族や親しい友人ともっと語り合ってもいいのではないか。」(p238)

このように、食べられなくなった老人たちが、家族と、そして病院とどう関わりながら死んでいっているのかを、色々な例を挙げてその実体をレポートしている。そこには、胃ろうをしてでも、ただ生かし続けることだけに懸命な病院や医師の姿勢や、幾ら本人や家族が自然死を望んでも、それが許されない日本の現状がある。
我々の親が、そして我々自身がそうなったとき、どうすべきかについて、元気な今だからこそ、考えておくテーマなのかも知れないと、強く思った。

これからこの本がどれだけ読まれるかは知らないが、たぶん長く残るエポック的な本になると思う。

(付録)
この本にも載っていた日本尊厳死協会の尊厳死の宣言書(ここ)を改めて見た。この本によると、法的効果は別として、自筆のこのような書類があると、イザと言うときに、自然死について医師も聞く耳を持ってくれるらしい・・・。
自分も直ぐにこれを印刷して、署名しておいた。自分と同じく「とりあえず」という方は(ここ)をクリックして印刷して署名しておいたらどうだろう・・・

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コメント

エムズの片割れ様
記事ありがとうございます。
著書のエピローグにある、
人生に死はつきものだし、人間の生は死によって裏打ちされているものである。
自分の「生」について、こんな生活をしたい、
こんな仕事について、こんな人になりたいと夢をかたるように、
死についても、家族や友人とももっと語りあってもいいのではないか

病院・施設等で、様々な局面に携わってきた者としては、
本当にそう思います。
「どんな最期(死)を迎えたいか」は、
老人の問題としてだけではなく、自分自身の事として、
もっと向き合っておかなければならないのではないか!と。

【エムズの片割れより】
この度は良い本を紹介頂きました。
本当にそうですね。
まだ元気なうちに「その時」の対処を家族で話し合って置くべきですね。ウチは早速夫婦で、宣言書にサインして、書類箱に入れました。本にあったように、法的効力は別として、“正気の時”の本人の意志です。

投稿: 風雅 | 2010年9月 4日 (土) 12:47

風雅様、エムズの片割れ様、ありがとうございました。尊厳死の宣誓書、作成しました。友達にも紹介してみます。その友達は遺言書も作ってあり、葬儀あるいは非葬儀についての要望も残る人たちに残そうとしております。ぼくも相談に乗ってもらっています。

【エムズの片割れより】
何か最近、「元気なうちに・・」という言葉が頭をよぎります。“思いついた時”が“良い時”なのかも・・・

投稿: 三山sanzan | 2010年9月 5日 (日) 18:07

初めまして。
私も読んで、検索したらほかにも読後感を書いている人が居て、読まさせて頂きました。
付箋などつけないで、なんとなく読みですが。
参考にはなりましたが、「。。。たぶん長く残るエポック的な本になると思う。」程は思いませんでした。
それほど読まれるような表題なのでしょうか?

【エムズの片割れより】
当然、人によって価値観も違いますし・・・。それでもウチは参考になった・・ということで良いのでは?
受け止め方は千差万別。目くじらを立てるほどの事ではありませんよね。

投稿: Syuchan | 2010年9月 6日 (月) 17:29

検索でたどり着きました。

これから年老いて行く人のは必読の本ですよね。
私のブログにも書きました。

トラッククバックが出来ないのでコメントをさせていただきました。

【エムズの片割れより】
コメントありがとうございます。
自然死も、家庭に往診してくれる医師を探す事が必須の条件とか・・・。現実の問題として、そこが壁になりそうですね。
ともあれ、この本で色々と考え、そして家族で話すキッカケを頂きました。

投稿: いちよう | 2010年9月 6日 (月) 18:02

エムズの片割れさま

「志村建世氏のブログ」に9月27日の記事として、
この本の著者の田中奈保美氏のコメントが記載されております。
ぜひ、お読みになってみてください。

投稿: 風雅 | 2010年9月27日 (月) 11:10

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