「60歳からの主張」の川柳より
先日の朝日新聞「天声人語」が面白かった。シルバー世代の川柳である。曰く・・・
「73歳が詠むから許される句もある。<ときめきが動悸(どうき)にかわる古稀(こき)の恋>。全国老人福祉施設協議会の第6回「60歳からの主張」川柳部門には約2千句が寄せられた。入賞作と、最終選考に残ったものから紹介する。
<掛けてきた年金実は賭けていた>。社会へのまなざしは鋭い。<日本発武士道にない派遣斬(ぎ)り>。福祉政策は、老より幼に重きを置くかに見える。そこで<敗戦国興して老後報われず>
<カラオケで美声聴かせて入れ歯落ち><置き場所を思い出せない備忘録>と、老いを笑い飛ばす自虐の句も目立つ。<角が取れ丸くなるのは背中だけ><遼君のスイング真似(まね)て腰痛め>など、綾小路きみまろさんの名調子で聴いてみたい。
名刺抜きの付き合いに慣れるのもひと苦労で、<定年前の肩書き言うな居酒屋で>。しかし男というもの、いくつになっても妙なライバル意識が抜けない。<買った墓地嫌いな奴(やつ)の相向かい>
<新婚と思って老々介護する>。何十年も一緒にいれば、夫婦の仲は様々だ。<補聴器が老妻の愚痴ひろってる>。かと思えば<老妻とダジャレの応酬日々楽し>という関係も。皆が夢見る共白髪の日々にも、ふと我に返る時がある。<婆(ばあ)さんや茶柱立って何がある>
優秀賞は、冷めた視線で<喜寿祝い寿司(すし)に集まり我(わ)れ孤独>。ごちそう目当ての親族を、声ではなく字でチクリとやるのが老境。同様に<子や孫が無理はするなとこきつかう>。まあ、使う気にさせる体も素晴らしい。万事、前向きに考えたい。<物忘れ嘆くな頭のダイエット>」(2010/2/15付け朝日新聞「天声人語」より)
毎年恒例のサラリーマン川柳も面白いが、この全国老人福祉施設協議会(ここ)の第6回「60歳からの主張」川柳部門というのも、どうしてどうして、なかなか面白い・・・
しかしこれらの作品のウィットさには舌を巻く。これはまさに才能。とうてい自分では出来ない・・・。
このシルバー世代の川柳は、誰にでも近付いてくる“老い”を笑い飛ばしているのが楽しい。考えようによっては、がく然とするような体の老いも、視点を変えて前向きに捉えている。それが出来る人は、たぶん長生きするのだろう。
こんなウィットが好きで、自分も何とか一作でもサラリーマン川柳を作ろうかと意気込んだことがあった。でも所詮“才能”が必要・・・。結局一つも出来なかった。
人間、それぞれに与えられた天分は異なる。自分はこれらの川柳を、作る側ではなく、人の作品を“楽しめる才能がある”と思って、なるほど・・と頷くことにでもしよう・・・。
| 0
コメント