« 松井秀喜のニューヨーク伝説 | トップページ | 金子由香利の「スカーフ」 »

2009年11月 7日 (土)

映画「沈まぬ太陽」を観る

映画「沈まぬ太陽」を観た。山崎豊子の作品は、今テレビでも「不毛地帯」が放送されており、またJAL再建問題がニュース番組をにぎわしている時でもあり、タイミングとして良いのか悪いのか・・・
結論として、この映画は、会社で不遇を嘆いている人、自分の居場所が見つからないと思っている人などに見て欲しい映画だと思った。

3時間22分の大作。途中で10分の休憩が入る。昔、「ベン・ハー」を観た時に途中休憩が入り、ビックリしたのものだが、日本映画としては珍しい。
この映画は、前に小説を読んでいたこともあり、必ず見たいとは思っていたものの、相棒のカミさんが絶対に見ないという。こんな暗い話を見る気はしないという。確かに、あえて暗い話に首を突っ込むのも、気が重いのは確かだが・・・。その“説得工作”が暗礁に乗り上げたため、仕方なく今日一人で見てきた。
S60 う~ん。観終わって・・・、確かに楽しい映画でも、それほど涙を誘う映画でもない。でも我々リタイアサが近いベテランサラリーマンにとっては、実に良く分かる映画。
「人事は好き嫌い」という“当たり前の事”が中心に描かれているし、政界との癒着、家族関係や墜落事故の被害者との付き合い等々、我々会社人間は、ついこの映画の色々な場面に自分を置いて比較しながら見てしまう。
だから、3時間半という大作でも、時間的に長いという感じは全くない。でも終わってみると、最初のアフリカの場面など、左遷されていた時のシーンが少し丁寧過ぎるかな、という感じはした。

しかしまさに(小説というフィクションの)“事実”に基づく物語であるだけに重たい。それが真実(本当の事実)とどう違うかなどは問題ではない。モデルとなった“事実”と小説との関係は、(ここ)に詳しいようだが、それを詮索するつもりも無い。
自分が捉えたこの映画(小説)の一番のテーマは、「自分の信念と家族・・」かな? 組合委員長だった自分の信念を貫くために、結果として家族に犠牲を強いることになる主人公の恩地の人生。逆に組合副委員長だった行天の、会社方針に迎合して出世する人生。その二つを対比して物語は進む。配役としては大ベテランが勢揃い。でも少し難を言うと、映画では、渡辺謙が一徹な雰囲気のはまり役だったのに比べ、自分は三浦友和がどうも“根っからの善人”というイメージがあるため、少し違和感があった。でも三浦も重鎮になってきた・・。
自分が印象に残った場面は・・・。娘が結婚するとき、婿さんの両親が挨拶に来たが、婿さんの父親が「お父さん(恩地)は東大法学部ですって?」と言う。それまで「アカの娘はもらえない」と言っていたのに・・。経歴で人を判断するのを恩地が怒って、婿さんの両親を残して家の外に飛び出す・・。それを追い掛けた妻(鈴木京香)がいなす場面・・・。「純子は、あのお父さんと結婚するわけではないし、大丈夫・・」と・・。実に余裕のある妻の言い方が実に印象的だった。(予告編(ここ)にも少し出てくるが・・) 家族の、そして夫婦の絆が良く表現されていたと思う。そして手をつないで挨拶の席にもどる二人・・・。

そしてラストシーン。真っ赤な太陽を背にして、二度目のアフリカ駐在での恩地の言葉が、このドラマのテーマを語っている。アフリカの大地の生の営み、そして夕日の真っ赤な太陽・・・・。如何に自分たちの周りのことが“些細なこと”か・・・。

このシーンを見ながら、仏教でいう「空」という言葉を思い出した。
自分のような「シルバー割引」で観る人は、この映画に出てくる事件は全て体験済みで驚くに値しないが、今まさに現役でその渦の中に居る人は、意外と客観的に自分の置かれている立場が観察できない。よって、そのような人にこの映画を見てもらえると、全ては些細なこと・・、というヒントが得られるかもしれない。
全ては「空」である。自分にとって大事件でも、悠久の時の流れに自分を置くと、全てはどんなに些細なことか・・・・。
(しかし今の社会は、主人公のような信念を持った人は少ない。全てが小粒になった。歴代首相をみても、一流会社の経営者をみてもそうだ。そう思えるのも、自分がシルバーになったからかも知れない・・・)

|

« 松井秀喜のニューヨーク伝説 | トップページ | 金子由香利の「スカーフ」 »

コメント

私も封切り日の夜映画館にひとりで行きました。
あの5冊の本を果たして映画にまとめられるのか?と思って出かけましたが、雰囲気出ていましたね。

私の場合は会社に受け入れられない主人公をすぐ自分に置きかえて観ていました(笑)。ただ恩地元(小倉寛太郎)に比べれば自分の会社人生の何と軽いことよってとこでしょうか。

山崎豊子の日航の取材ひとつにしろ、かなり困難を極めたようですが、知り合いに小倉寛太郎氏も知っている日航に勤めた人がいますが、非常に事実に近いようですね。

そうたくさんの本を読んではおりませんが、このモデルと「官僚たちの夏」の風越信吾 こと佐橋滋氏からは、本の上からではありますがスケールの大きい人間像をイメージしてしまいます。

投稿: 小父さん | 2009年11月 7日 (土) 23:57

小父さん

そのようで・・・。
かなり事実に近いだけに、今の映画でも色々と物議を醸しているとか・・・。
でもドラマになるだけの「普通ではないこと」があったという事で、今に至っているのでしょうね。逆に、一般企業だったらドラマにならなかったかも・・

投稿: エムズの片割れ | 2009年11月 8日 (日) 22:05

昭和60年8月12日は、TVで、小林正樹監督の「東京裁判」の放映があり、テレビを見ながらビデオ録画をしていましたが、途中から日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落したとのテロップが流れ始め、映画放映が終る頃には、ほとんどの犠牲者の名前がテロップで出ました(今もそのビデオは持っています)

山崎豊子さんは小生もファンで、第2次大戦3部作「不毛地帯」「二つの祖国」「大地の子」は、特に好きな小説です。

映画「沈まぬ太陽」につきましては、小生も「リュウちゃんの懐メロ人生」のブログで書きましたので、御覧になって見て頂ければ幸いです。

オバマ大統領が広島行きを希望しているとのニュースが伝わっていますが、クリント・イーストウッド監督で、「二つの祖国」、映画化できないものですかね?

投稿: リュウちゃん6796 | 2010年1月23日 (土) 09:30

赤の娘はもらえないと言ってた方と、学歴云々の方は別の方だと思っていました。

投稿: | 2011年5月 2日 (月) 17:00

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 松井秀喜のニューヨーク伝説 | トップページ | 金子由香利の「スカーフ」 »