NHK「物理学者・戸塚洋二 がんを見つめる」を見て
NHKのヒューマンドキュメンタリー「物理学者・戸塚洋二 がんを見つめる」(2009/7/26アンコール放送)を見た。(題から言って、本当は(怖くて)見たくなかったのだが・・・)
やはり内容は重く、そのリアリティは、到底聞き流すような内容ではなかった。
1998年、スーパーカミオカンデでニュートリノに質量があることを発見した戸塚洋二氏。小柴昌俊博士に続きノーベル賞を受賞すると言われながら、自ら立ち上げたT2K(Tokai To Kamioka)プロジェクトの開始を見ることなく2008年7月10日に亡くなった。享年66。その戸塚氏が残したblogなどをもとに、ガンとの闘いの日々をたどる・・・。
戸塚氏に大腸ガンが見つかったのが2000年。そして2006年に職場を離れ、自宅療養に専念せざるを得なくなる。そして2007年8月に、今まで採った膨大な病状データを元に、自分の病状・心の推移を科学者の目で見て、(主に友人に病状を知らせるために)blogに記すようになる・・・。blogのタイトルは「A Few More Months(あと数ヶ月の日々を)」(ここ)。そこには、病院からコピーを手に入れたCT画像を自ら分析し、抗がん剤の効き方などをグラフ化した結果が載っている。
国立がんセンターの主治医はそのblogを見て、緻密で正確な分析に驚いたという。そして言う。「冷静に見れば見るほど確実にガンが大きくなっている。ガンが大きくなる事によって死の恐怖が近付いてくる。普通の患者の気持ちであれば耐えられなくなる。そんな状況での驚くべき精神力が信じられない。超人ですよ・・・・」
戸塚さんの目標はただ一つ。(2009年4月の)T2K実験の開始を見届けること。しかし・・・
死への怖ろしさを書いた「期限を切られた人生の中で何を糧に生きればよいのか」という2008年2月10日の記事(これ)など、辛くてとても正視できない・・・・。「個体の死が恐ろしいのは、生物学的な生存本能があるからである、といくら割り切っても、死が恐ろしいことに変わりがありません。」という氏の言葉には、返す言葉が見つからない・・・。
そして仏教を教える花園大学の佐々木閑教授との対談ではこのような会話がテープに残されている・・・。
「死期が近づくとあらゆることが知りたくなって・・・。別世界には人みたいな人はいるんですか?」
(佐々木教授)「最終的な状態は何も無くなった状態」
「死ぬときにすごく恐ろしいのはそれなんです。「無」というのは想像できないんで、科学者として最後の観察をしたい。死ぬ間際に別世界があるのかどうか、観察できるわけですよ。でも残念ながらそれを伝えることができない・・。だから科学にはならないんですよ・・・」
そして、あらゆるものを科学の目で見つめ理解しようとしてきた戸塚さんに、脳への転移から幻想が現れる・・・・。そして6月27日、書斎のある2階に上がれなくなる・・。自分の力で2階へ上がることに意義があるとしていたのに・・・。そして最後の入院・・・
奥さんが「分析している姿は自分には見せなかった。しかし、その結果を話すために自分を呼ぶ声で、症状の良し悪しは分かった。病状の分析は死の恐怖を打ち消すためにやっていたのかも・・」という趣旨の話をされていた。(ハイビジョン特集版)
死が刻々と近付いてくる状況での氏の(blogでの)一言ひとことの言葉は、なんとも重い。普通の人の「一般論」とは違うので・・・。
このような状況に自分が陥ったとき、何を思うか・・・・。死の恐怖に慄(おのの)いてどうするか・・・。それは到底想像できない。(←否、想像したくない・・・)
この超人のblogがいつまで公開されているか分からないが、そのうち必ず来る「そのとき」に、じっくりと読みたいと思う。(今は、あまりに重くて読めない・・・・)
戸塚洋二氏のblogは(これ)
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