痴漢冤罪~最高裁の逆転無罪判決に思う
実は、自分はおととい(09/4/14)の最高裁の痴漢事件の逆転無罪判決に拍手喝采しているのである。というのは、前にも当blog(ここ)でも書いたが、自分は日本の痴漢事件の摘発制度に疑問を持っていた。それに対し、今回の最高裁判決は少し応えてくれたように感じた。(・・と言うのは、前にカミさんが駅のホームで痴漢を摘発している女性の姿を目撃し、その自信満々の態度から“到底素人とは思えなかった”と言う。その経験から、痴漢事件に対して自分はかなり偏見を持っているのだ・・)
今朝の新聞各紙がこの判決をどのように捉えているか、全紙を読んでみた。社説とコラム天声人語の両方で扱っていたのは朝日だけ。毎日・産経は社説だけ、日経はコラムだけ、読売は両方とも取り上げていなかった。
その中で、朝日の「天声人語」が分かり易い。曰く・・
「ひとくくりに「痛勤電車」と恨まれても、イタさは各様だ。すし詰めともなれば、つり革や握り棒にすがるまでもない。青年の背が支えになり、おじさんの腹がクッションと化し、乗客はひとかたまりで揺れる。身を任せながら、昨今、手の位置だけは気をつけている▼痴漢の疑いで捕まり、一、二審で懲役1年10カ月の実刑判決を受けた防衛医大教授(63)に、最高裁が逆転無罪を言い渡した。痴漢事件では過去10年、30件以上の無罪判決が出たが、さすがに最高裁は初めてという▼教授は3年前の朝、通勤の満員電車で女子高校生に突然ネクタイをつかまれる。悲劇の始まりだ。下着に手を入れた容疑だった。しかし最高裁判決は、彼女がしつこい被害から逃れようとしていないなどと、不審の目を向けた▼狂言とは思いたくない。女子高校生の思い違いとすれば、冤罪により真犯人が笑い、善人の人生が暗転したことになる。卑劣な犯罪に泣いた被害者は無罪判決をどう消化するのだろう▼物証なし、目撃者なし、あるのは被害者の供述と容疑者の全面否認だけ。こんな「藪(やぶ)の中」で裁けるものかと思うが、検察の幹部は「泣いている人がいるのに、やらないわけにはいかない」と語る。慎重の上にも慎重に吟味するほかない▼「痴漢したでしょう」とにらまれ、一番うろたえるのは身に覚えのない場合だろう。涙声でとがめる少女を前にして、冷静に「両手のアリバイ」を立証する自信はない。女性の尊厳を踏みにじり、時に男性まで泣かせる鬼畜の病に、つける薬を知らない。(2009/4/16朝日新聞「天声人語」より)
この教授の場合も、事実を認めなかったためか、一,二審は1年10ヶ月の実刑判決だった。せっかく教授に昇格した直後だったのに、これまでの3年間は休職扱いになり、人生はメチャメチャ。
前に書いたが映画「それでもボクはやってない」にこのようなセリフがある。(ここ)
「この種の軽微な事件でも否認していれば留置場暮らしだ。裁判にでもなれば・・3ヶ月位出てこられない。・・認めれば罰金5万円の事件だ。そのうえ裁判に勝てる保証は何も無い。有罪率は99.9%。・・認めて示談にすれば、誰にも知られず明日かあさってにはここを出られる。・・今認めて示談にすれば、それでおしまいだ。・・・」
一番懸念されるのが、被害者が“100%間違っていない摘発”をしているか、だ。死刑判決と同じく、限りなく0に近いといっても、0でなければ、無関係な人の人生を自分の勝手な「勘違い」でメチャメチャにしてしまうことになる。そんな権利があるとは到底思えない。
だから、毎日新聞の社説にあるように「・・・痴漢は有罪無罪のどちらも立証が難しいやっかいな犯行で、付け入るように示談金目当ての虚偽申告も相次ぐ。疑われたくないと多くの男性がつり革や手すりを両手で握る“バンザイ通勤”を励行しているのが実情でもある。拘置を嫌って、無実なのに犯行を認めて罰金刑に応じる人も少なくない。・・・」という事になる。
何か知恵は無いものか・・・・。もし仮に「痴漢事件は一切示談を認めず、全て正式裁判とする」という法律が出来たら摘発が激減するかもね・・・・??
話は変わるが、先日朝日新聞に「痴漢疑惑で取調べを受けた23歳が自殺」という記事が載っていた。(09/4/5)(詳細はここ)
「(前日徹夜して疲れていたから)・・・午後11時35分ごろ、茅ヶ崎―平塚間で仕事の資料を読みながら寝入ってしまった。平塚駅の直前で隣の女子高生が怒ってきた。寄りかかって手が太ももに触れてしまっていた。駅員室に連れて行かれ、警察署に連行された」「3時間以上、事情聴取を受け、・・決めつけられて怒鳴られるから、だんだん気持ちがなえてきた」とつぶやいて自室に戻った。30分後、くたびれたスーツのまま部屋から出てくる。「眠れないから会社に行く。仕事する」といい残し、家族が止めるのを振り切って出て行った。 長男は翌日の午後、遺体で見つかった。家を出てわずか15分ほど後に近くのマンションから身を投げていた。
女子高生は当時の状況をこう話している。「座っていたら男が身を寄せてきて、スカートの下の短パンの中に手が入ってきた。男のイヤホンを取ったら、へらへら笑っているだけだったのでけりを入れた」・・・・
この手の事件は聞けば聞くだけ、何とも言葉が無い・・・・。
(女子高生などが居るはずが無い)夜中の11時半。とうてい満員電車などではないなので、寝ている人が寄り掛かってきても、逃げることは出来たはず。それを女子高生は“けり”を入れて警察に突き出し、自殺に追い込む・・・。まさに女子高生と警察の共犯ではないのか?新聞の通り、親の心中は察して余りある。(ここ)
ともあれ、何とかこの手の事件に巻き込まれないために、自分は満員電車は避け、若い女性には近付かないことにはしている。
・・が、もし女性に摘発されたらどうするって? 当然、していなくても“認めて”、今の相場だという5万円を払ってオシマイにするのさ・・・・。(トホホ・・)
(関係記事)
映画「それでもボクはやってない」を観て
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コメント
こんにちは^^
私の記事を引用されていたようなので...ありがとうございます(笑)
自分も、その天声人語読みました。
冤罪自殺の記事を読んだ後でしたので、また深く考えさせられました…。
とても難しい問題であると言えるといえば言えるでしょうが、やはり警察・検察・司法(そして、軽薄な女子高生も含め)に対する指摘はあってしかるべきだと思います。
それにしても、この事件の知名度が極めて低い。
というか、ネット上にほぼ無いのもヘンな話です…。
少しでもこの事件、また、他の様々な事件に触れて、それらについて考えてくれる人達が増えてくれることを願いたいです...。
投稿: Juutirinen | 2009年4月18日 (土) 00:31
Juutirinen さん
コメントありがとうございます。
先日弁護士さんに聞いたのですが、本当にこの手の事件は、どんどん進んで行ってしまうそうです。その風潮に、この判決が警鐘を鳴らしてくれたと思いました。
これから少しでも警察・検察が慎重になる事を、そして「事実の通り言ったら、反省していないと“実刑”になる・・」という、本人の声を聞かない風潮が変ることを期待したいものです。
投稿: エムズの片割れ | 2009年4月18日 (土) 22:51
私もこの判決が出てほっとしています。何時自分が犯人にされるかわからないのですから。先日も乗客を痴漢に仕立て上げようとした男女二人が捕まった事件がありましたが、悪意あるいは間違った証言によって、犯人にされた人が何人もいるに違いありません。被害者には気の毒ですが、疑わしきは罰せずの原則は貫いてほしいものです。
投稿: かえるのうた | 2009年4月27日 (月) 15:47
かえるのうた さん
本当に、警察・司法をアテに出来ず「必殺仕置人」しか頼れないとしたら、哀しいですよね。「思い込み」の恐ろしさ・・・
投稿: エムズの片割れ | 2009年5月 1日 (金) 23:09